365 / 526
第一部
第三十五話 シャボン玉の世界で (3)
しおりを挟む
「めんどくさいなあ、結局ぼくが一番こき使われるんですからねぇ」
オドラデクはノロノロと歩き出した。
「ここで活躍しなけりゃいつどこでするんだ」
「はいはい、まぁフランツさんがぼくを完全に頼り切るようになってくれてうれしいですよ」
オドラデクは歩きながら胸を張った。
「さっさと行くぞ」
フランツは後はもう喋らずに歩いた。ファキイルは全く無言でついてくる。
興味深いことに、カルメンものそりのそりと歩いてくるではないか。
「お前は別に来なくていいぞ」
フランツは無造作に言った。
もう少し丁寧に言うべきだったかと後悔したが。
「いんやぁ、あたしも暇だからついてくよぉ。ルナさんの友達だもぉん」
カルメンは気にしていないようだった。
「そんなにルナが好きなのか」
「すぐに意気投合! だったよぉ!」
相変わらず間延びした調子で、カルメンは言った。
「そうか。まあルナは誰とでも仲良くなれるやつだからな」
「あんたははそうじゃないのぉ?」
「俺にはフランツって名があるぞ……仲良くなる相手は絞ってる方だ」
「フランツさんねぇー。覚えたぁよ!」
相変わらずカルメンは陽気だ。
「あらあら。単に口べたで、コミュニケーション能力が低い言い訳しちゃってぇ」
オドラデクが揶揄《からか》った。
「黙っとけ!」
フランツは思わず怒鳴っていた。
「そんなことで怒るとか、自分から証拠出してるようなもんですよ!」
「うるさい」
小声で言った。さすがに面映ゆくなってきた。
図星だからだ。
フランツはあまり交友の範囲を広げようと考える人間ではない。
オドラデクはさほど長くはない付き合いでそういう気質を見抜いていたのだ。
「さっさと行くぞ」
フランツはまた繰り返していた。
パピーニは大きい街ではないとは言え、隅から隅まで歩くのは気が引ける。
そろそろ酒場が混雑し始める時刻のため、そこを目指して歩き始めた。
どこの街でも酒店ばかりへいくのを正直フランツは好まなかった結局情報が一番集まる場所なのだから仕方ない。
「カルメンは差別されたりしないのか。獣人はどこでも忌まれるだろ」
「ううんとぉ。やっぱりいろいろ言われはするかなぁ。でもぉ、慣れたぁよ。それにあたりはこれが弾けるからぁ。袖に隠れて弾いてるとお金が貰えるしぃ」
と背嚢をごそごそと掻きわけて弦楽器を取り出した。
「何だそれは」
「ギタルラだよぉ!」
カルメンは弦をさっと鳴らした。その音色は、ここにはない暖かく晴れたある日に戦《そよ》ぐ木の葉を思い出させた。
「いいですねぇ!」
オドラデクは聞き痴れていた。
一瞬、感動してしまったフランツはすぐにまた歩みを進めた。
酒場に入るとオドラデクはすぐ主人に話を切り出す。
「ええ、凄い大暴れようでしたよ。巨大な鳥のかたちをした戦車みたいなものが、砲撃で大聖堂の一部が破壊しましてね。今急いで修復工事が行われているところです」
その言葉でフランツは、街の中央部に位置する巨大な建物の周りに板や梯子が組まれて、布も掛けられていたことを思い出した。
「へえ、そりゃ凄い、この目で見てみたかったですねぇ」
オドラデクは感心したようだった。
「地震かと思うぐらい大地が揺れたからなあ。うちでも年代物のワインの瓶が落ちたりして大変でした」
主人は辛そうに言った。
「ルナ・ペルッツも来てたよなぁ」
下卑た声が聞こえた。
酔っ払いだ。
オドラデクはノロノロと歩き出した。
「ここで活躍しなけりゃいつどこでするんだ」
「はいはい、まぁフランツさんがぼくを完全に頼り切るようになってくれてうれしいですよ」
オドラデクは歩きながら胸を張った。
「さっさと行くぞ」
フランツは後はもう喋らずに歩いた。ファキイルは全く無言でついてくる。
興味深いことに、カルメンものそりのそりと歩いてくるではないか。
「お前は別に来なくていいぞ」
フランツは無造作に言った。
もう少し丁寧に言うべきだったかと後悔したが。
「いんやぁ、あたしも暇だからついてくよぉ。ルナさんの友達だもぉん」
カルメンは気にしていないようだった。
「そんなにルナが好きなのか」
「すぐに意気投合! だったよぉ!」
相変わらず間延びした調子で、カルメンは言った。
「そうか。まあルナは誰とでも仲良くなれるやつだからな」
「あんたははそうじゃないのぉ?」
「俺にはフランツって名があるぞ……仲良くなる相手は絞ってる方だ」
「フランツさんねぇー。覚えたぁよ!」
相変わらずカルメンは陽気だ。
「あらあら。単に口べたで、コミュニケーション能力が低い言い訳しちゃってぇ」
オドラデクが揶揄《からか》った。
「黙っとけ!」
フランツは思わず怒鳴っていた。
「そんなことで怒るとか、自分から証拠出してるようなもんですよ!」
「うるさい」
小声で言った。さすがに面映ゆくなってきた。
図星だからだ。
フランツはあまり交友の範囲を広げようと考える人間ではない。
オドラデクはさほど長くはない付き合いでそういう気質を見抜いていたのだ。
「さっさと行くぞ」
フランツはまた繰り返していた。
パピーニは大きい街ではないとは言え、隅から隅まで歩くのは気が引ける。
そろそろ酒場が混雑し始める時刻のため、そこを目指して歩き始めた。
どこの街でも酒店ばかりへいくのを正直フランツは好まなかった結局情報が一番集まる場所なのだから仕方ない。
「カルメンは差別されたりしないのか。獣人はどこでも忌まれるだろ」
「ううんとぉ。やっぱりいろいろ言われはするかなぁ。でもぉ、慣れたぁよ。それにあたりはこれが弾けるからぁ。袖に隠れて弾いてるとお金が貰えるしぃ」
と背嚢をごそごそと掻きわけて弦楽器を取り出した。
「何だそれは」
「ギタルラだよぉ!」
カルメンは弦をさっと鳴らした。その音色は、ここにはない暖かく晴れたある日に戦《そよ》ぐ木の葉を思い出させた。
「いいですねぇ!」
オドラデクは聞き痴れていた。
一瞬、感動してしまったフランツはすぐにまた歩みを進めた。
酒場に入るとオドラデクはすぐ主人に話を切り出す。
「ええ、凄い大暴れようでしたよ。巨大な鳥のかたちをした戦車みたいなものが、砲撃で大聖堂の一部が破壊しましてね。今急いで修復工事が行われているところです」
その言葉でフランツは、街の中央部に位置する巨大な建物の周りに板や梯子が組まれて、布も掛けられていたことを思い出した。
「へえ、そりゃ凄い、この目で見てみたかったですねぇ」
オドラデクは感心したようだった。
「地震かと思うぐらい大地が揺れたからなあ。うちでも年代物のワインの瓶が落ちたりして大変でした」
主人は辛そうに言った。
「ルナ・ペルッツも来てたよなぁ」
下卑た声が聞こえた。
酔っ払いだ。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
エイの葬式
脱水カルボナーラ
現代文学
ある賞に投稿して落選したものです。どこにも行き場がないのはかわいそうなので、こちらで公開させていただきます。拙いですが、読んでくださったら嬉しいです。
※本作品はカクヨム様、小説家になろう様でも公開させていただいています。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
【3部完結】ダンジョンアポカリプス!~ルールが書き変った現代世界を僕のガチャスキルで最強パーティーギルド無双する~
すちて
ファンタジー
謎のダンジョン、真実クエスト、カウントダウン、これは、夢であるが、ただの夢ではない。――それは世界のルールが書き変わる、最初のダンジョン。
無自覚ド善人高校生、真瀬敬命が眠りにつくと、気がつけばそこはダンジョンだった。得たスキルは『ガチャ』!
クラスメイトの穏やか美少女、有坂琴音と何故か共にいた見知らぬ男性2人とパーティーを組み、悪意の見え隠れする不穏な謎のダンジョンをガチャスキルを使って善人パーティーで無双攻略をしていくが……
1部夢現《ムゲン》ダンジョン編、2部アポカリプスサウンド編、完結済。現代ダンジョンによるアポカリプスが本格的に始まるのは2部からになります。毎日12時頃更新中。楽しんで頂ければ幸いです。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜
九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます!
って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。
ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。
転移初日からゴブリンの群れが襲来する。
和也はどうやって生き残るのだろうか。
妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。
だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。
しかも新たな婚約者は妹のロゼ。
誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。
だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。
それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。
主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。
婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。
この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。
これに追加して書いていきます。
新しい作品では
①主人公の感情が薄い
②視点変更で読みずらい
というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。
見比べて見るのも面白いかも知れません。
ご迷惑をお掛けいたしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる