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第一部
第二十六話 挾み撃ち(5)
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カミーユは身構えもせず続けざまにナイフを放っていく。
一見普通の服を着ているかのように思えたが、カミーユは服の袖やスカートの下に内側に多く凶器を仕込んでいるらしい。
その指の閃きの巧みなこと。
まるで蝶のように身体のあちこちを軽々と飛び回り、ナイフを取り出すのだ。
「くそお!」
ルツィドールは避けながらも身体のあちこちに傷を受け、血を滴らせながら後退していく。
それに合わせて、ズデンカもルナとカミーユの元へ戻った。
「わたしたちは挾み撃ちにされたってわけだね」
ルナが呟いた。
「ああ、そうだな」
ズデンカは怒りを抑えて応じた。口げんかしていられる時間はない。
――何をこいつは平然と振る舞ってるんだ。
「どっ、どうすればいいんでしょうか?」
カミーユがおどおどと質問してくる。
「援護を頼む。ナイフを投げ続けてくれ」
「はっ、はい!」
――こいつぐらい実力があれば自分で考えて動くことが出来るだろうにな。
なぜだか今はバルトルシャイティスが、カミーユに旅をさせたかったか理由がわかる気がした。
――成長して欲しいんだろうな。
今のままだとカミーユは実力に気付けないままに終わってしまうだろう。
それより広い世界を旅させて、色々なものを知った方が成長に繋がる。
――生き残れれば、だがな。
ズデンカすら危険を覚えたぐらいだ。成長するより先に死ぬ可能性の方が高いかも知れない。
――守り切るなんて、とてもできねえぞ。
だが。
――こいつはあたしを助けてくれた。なら、あたしもこいつを助けなきゃならない。
感謝の念と迷惑だと感じる気持ちが交じり合っていた。
だがじきにそれは畏敬に変わった。
カミーユはナイフを投げるときは思い惑いがないのだ。
激しくカーブを描いてブーメランのように手許に返ってくるナイフを素手で受け止めたときにはズデンカも驚いた。
実際、あのルツィドールが、前に進むことが出来ずに後ろへ下がる一方なのだ。
ズデンカの創《キズ》もようやく塞がってきた。
もともと斬られても差し障りのない部位ではあったが、何となく収まりが悪かった。
――こんなに掛かっちまうとは情けない。 ズデンカは再び、ルツィドールを追いかけた。
「絶対に殺してやる」
再び聖剣を振り回そうとした手に、ナイフが突き刺さった。
思わず剣が取り落とされる。
「今だ!」
ズデンカは勢いよくそれを蹴り上げた。剣は木々の中を吹き飛んでいく。
聖剣の力によってか足が二つに裂けたが、ズデンカは一安心した。
「さあ、小細工はもう通じねえぞ? どうすする?」
ズデンカは迫った。
内心ニヤニヤ笑いが止まらなかった。
――いや、もう顔に出てるか。
「覚えてろ!」
小説の中の悪漢のようなセリフを放って、ルツィドールは藪の中へ飛び込んで消えた。
「これで前方は何とかなった。残るは後方だな」
「いや、まだ追撃が来ないとも限らないよ?」
ルナは穏やかに言った。
――なんなんだよ。こいつ。
ズデンカは存在しないはらわたが煮えくりかえった。
さっき、久しぶりに恐怖の感情を覚えるほど追い詰められたのに、ルナの相変わらず暢気で、状況を察してくれないニブチンさに我慢がならなくなっていた。
「どうしたのー?」
ルナは不思議そうにズデンカを見詰めてくる。
「なんでもねえよ」
なんでもないことはなかった。全身が怒りで震えるかのようだったが、ギリギリで押さえた。
「後方へ行くぞ」
まだ納得出来ないルナの手を引っ掴んで先へ歩き出した。
一見普通の服を着ているかのように思えたが、カミーユは服の袖やスカートの下に内側に多く凶器を仕込んでいるらしい。
その指の閃きの巧みなこと。
まるで蝶のように身体のあちこちを軽々と飛び回り、ナイフを取り出すのだ。
「くそお!」
ルツィドールは避けながらも身体のあちこちに傷を受け、血を滴らせながら後退していく。
それに合わせて、ズデンカもルナとカミーユの元へ戻った。
「わたしたちは挾み撃ちにされたってわけだね」
ルナが呟いた。
「ああ、そうだな」
ズデンカは怒りを抑えて応じた。口げんかしていられる時間はない。
――何をこいつは平然と振る舞ってるんだ。
「どっ、どうすればいいんでしょうか?」
カミーユがおどおどと質問してくる。
「援護を頼む。ナイフを投げ続けてくれ」
「はっ、はい!」
――こいつぐらい実力があれば自分で考えて動くことが出来るだろうにな。
なぜだか今はバルトルシャイティスが、カミーユに旅をさせたかったか理由がわかる気がした。
――成長して欲しいんだろうな。
今のままだとカミーユは実力に気付けないままに終わってしまうだろう。
それより広い世界を旅させて、色々なものを知った方が成長に繋がる。
――生き残れれば、だがな。
ズデンカすら危険を覚えたぐらいだ。成長するより先に死ぬ可能性の方が高いかも知れない。
――守り切るなんて、とてもできねえぞ。
だが。
――こいつはあたしを助けてくれた。なら、あたしもこいつを助けなきゃならない。
感謝の念と迷惑だと感じる気持ちが交じり合っていた。
だがじきにそれは畏敬に変わった。
カミーユはナイフを投げるときは思い惑いがないのだ。
激しくカーブを描いてブーメランのように手許に返ってくるナイフを素手で受け止めたときにはズデンカも驚いた。
実際、あのルツィドールが、前に進むことが出来ずに後ろへ下がる一方なのだ。
ズデンカの創《キズ》もようやく塞がってきた。
もともと斬られても差し障りのない部位ではあったが、何となく収まりが悪かった。
――こんなに掛かっちまうとは情けない。 ズデンカは再び、ルツィドールを追いかけた。
「絶対に殺してやる」
再び聖剣を振り回そうとした手に、ナイフが突き刺さった。
思わず剣が取り落とされる。
「今だ!」
ズデンカは勢いよくそれを蹴り上げた。剣は木々の中を吹き飛んでいく。
聖剣の力によってか足が二つに裂けたが、ズデンカは一安心した。
「さあ、小細工はもう通じねえぞ? どうすする?」
ズデンカは迫った。
内心ニヤニヤ笑いが止まらなかった。
――いや、もう顔に出てるか。
「覚えてろ!」
小説の中の悪漢のようなセリフを放って、ルツィドールは藪の中へ飛び込んで消えた。
「これで前方は何とかなった。残るは後方だな」
「いや、まだ追撃が来ないとも限らないよ?」
ルナは穏やかに言った。
――なんなんだよ。こいつ。
ズデンカは存在しないはらわたが煮えくりかえった。
さっき、久しぶりに恐怖の感情を覚えるほど追い詰められたのに、ルナの相変わらず暢気で、状況を察してくれないニブチンさに我慢がならなくなっていた。
「どうしたのー?」
ルナは不思議そうにズデンカを見詰めてくる。
「なんでもねえよ」
なんでもないことはなかった。全身が怒りで震えるかのようだったが、ギリギリで押さえた。
「後方へ行くぞ」
まだ納得出来ないルナの手を引っ掴んで先へ歩き出した。
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