271 / 526
第一部
第二十六話 挾み撃ち(4)
しおりを挟む
反射的に、ズデンカは目を瞑った。
少女のようで恥ずかしかったが、それは防衛本能とでも呼べるものだったのかもしれない。
――吸血鬼に本能があるのか。
仲間を呼べば良かったと、後悔を感じ始めていた。
――舐めていた。あたしだけで何とかなると思っていた。
しかし、ルツィドールの刃はズデンカを突き通さなかったのだ。
喉元を押さえていた手が離されるのがわかった。
続く激しい尾を引く叫びで眼を開ける。
ルツィドールの手の甲にナイフが突き刺さっていた。しかも、既にズデンカからかなり距離を取った場所に移動していた。
「躱したはずなのにぃ! なぜぇ!」
ルツィドールは大声を上げながらさらに後退する。
その足にまたナイフが突き刺さった。
「イツッ!」
ルツィードールはナイフを無理に引き抜いて放り投げ、樹幹に身を潜めた。
その隙にズデンカは反対方向を見た。
ルナと、その横にカミーユがいた。
言いつけを無視して追ってきたのだろう。
「お前たち!」
その声に心からの安堵が含まれていることに気付いて、ズデンカは恥ずかしくなった。
急いで二人の元に駆け寄り、体勢を整える。
「何かあったの?」
ルナは訊いてきた。だが、あまり心配していそうな様子はない。
「大したことはねえよ。それより今のナイフはカミーユか?」
「はっ、はい!」
カミーユは頭を掻いた。
そこにまたルツィドールが襲いかかってくる。
即座にカミーユはナイフを投げた。どこから取りだしたのか、ズデンカも捉えきれないほどの早業で。
ルツィドールはそれを避けた。
しかし。
ナイフは鋭く弧を描き、追尾した。
ルツィドールが後方に下がってもナイフはしつこく迫っていく。
とうとう喉元まで迫った時、聖剣を勢いよく振り、それを弾き落されるまでナイフは動きを止めなかった。
「なんなんだよこいつ! ナイフを操れるのか!」
ルツィドールは叫んだ。
「助かった。お前がいなけりゃあたしは……」
ズデンカは頭を下げた。傷口はまだ繋がっていない。細切れにされていたら、もうルナとは旅を出来なくなっていたに違いない。
「ず、ズデンカさま! やめてください。思わず勝手に身体が動いちゃってて!」
「いや。あたしが悪い。さっき、お前を馬鹿にしたのもすまなかった」
そう謝りながら、ズデンカは片眼でルツィドールの動きを追った。
――油断したらルナが狙われる。
聖剣を手に、こちらへ近付いて来ていた。
「ズデンカ! 貴様! 絶対に殺す!」
顔を赤くし、額に青筋を立てていた。激怒しているようだ。
――もともと怒りっぽい性格なのだろうな。
ズデンカは分析した。
その前に再び立ち、身構えた。
「死ね死ね、死ねよおおおおお!」
ルツィドールは激しい斬撃を繰り出してくる。ズデンカは必死で避けた。
相手が感情的になっているのもあってか、躱すのは難しくなかった。
ズデンカでやっと尾いていけるほど、ルツィドールの動きは速い。
そんな的を狙って正確にナイフを投げた、カミーユの腕前に改めて舌を巻いた。
「おーい! 敵襲だ!」
と、後方で声が上がった。
「後ろからも敵がやってきた」
兵士たちだ。慌ただしく駆けずり回って情報を伝達し合っている。
「やれやれ」
ルナは暢気そうに言った。パイプまで取り出しそうな勢いだ。
何時になくズデンカはその声に腹が立った。
少女のようで恥ずかしかったが、それは防衛本能とでも呼べるものだったのかもしれない。
――吸血鬼に本能があるのか。
仲間を呼べば良かったと、後悔を感じ始めていた。
――舐めていた。あたしだけで何とかなると思っていた。
しかし、ルツィドールの刃はズデンカを突き通さなかったのだ。
喉元を押さえていた手が離されるのがわかった。
続く激しい尾を引く叫びで眼を開ける。
ルツィドールの手の甲にナイフが突き刺さっていた。しかも、既にズデンカからかなり距離を取った場所に移動していた。
「躱したはずなのにぃ! なぜぇ!」
ルツィドールは大声を上げながらさらに後退する。
その足にまたナイフが突き刺さった。
「イツッ!」
ルツィードールはナイフを無理に引き抜いて放り投げ、樹幹に身を潜めた。
その隙にズデンカは反対方向を見た。
ルナと、その横にカミーユがいた。
言いつけを無視して追ってきたのだろう。
「お前たち!」
その声に心からの安堵が含まれていることに気付いて、ズデンカは恥ずかしくなった。
急いで二人の元に駆け寄り、体勢を整える。
「何かあったの?」
ルナは訊いてきた。だが、あまり心配していそうな様子はない。
「大したことはねえよ。それより今のナイフはカミーユか?」
「はっ、はい!」
カミーユは頭を掻いた。
そこにまたルツィドールが襲いかかってくる。
即座にカミーユはナイフを投げた。どこから取りだしたのか、ズデンカも捉えきれないほどの早業で。
ルツィドールはそれを避けた。
しかし。
ナイフは鋭く弧を描き、追尾した。
ルツィドールが後方に下がってもナイフはしつこく迫っていく。
とうとう喉元まで迫った時、聖剣を勢いよく振り、それを弾き落されるまでナイフは動きを止めなかった。
「なんなんだよこいつ! ナイフを操れるのか!」
ルツィドールは叫んだ。
「助かった。お前がいなけりゃあたしは……」
ズデンカは頭を下げた。傷口はまだ繋がっていない。細切れにされていたら、もうルナとは旅を出来なくなっていたに違いない。
「ず、ズデンカさま! やめてください。思わず勝手に身体が動いちゃってて!」
「いや。あたしが悪い。さっき、お前を馬鹿にしたのもすまなかった」
そう謝りながら、ズデンカは片眼でルツィドールの動きを追った。
――油断したらルナが狙われる。
聖剣を手に、こちらへ近付いて来ていた。
「ズデンカ! 貴様! 絶対に殺す!」
顔を赤くし、額に青筋を立てていた。激怒しているようだ。
――もともと怒りっぽい性格なのだろうな。
ズデンカは分析した。
その前に再び立ち、身構えた。
「死ね死ね、死ねよおおおおお!」
ルツィドールは激しい斬撃を繰り出してくる。ズデンカは必死で避けた。
相手が感情的になっているのもあってか、躱すのは難しくなかった。
ズデンカでやっと尾いていけるほど、ルツィドールの動きは速い。
そんな的を狙って正確にナイフを投げた、カミーユの腕前に改めて舌を巻いた。
「おーい! 敵襲だ!」
と、後方で声が上がった。
「後ろからも敵がやってきた」
兵士たちだ。慌ただしく駆けずり回って情報を伝達し合っている。
「やれやれ」
ルナは暢気そうに言った。パイプまで取り出しそうな勢いだ。
何時になくズデンカはその声に腹が立った。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる