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第一部
第二十六話 挾み撃ち(1)
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中立国ラミュ北部――
幾組もの武装を固めた騎兵に前後を囲まれながら、天蓋付き馬車は進んでいった。
行列には更に歩兵や銃隊まで従えられているのだから、備えは万全だ。
「ふむ」
綺譚収集者《アンソロジスト》ルナ・ペルッツは足を組んでいた。
普段乗っている幌付き馬車より空間が広いためだが、ルナの行儀が生来あまり良くないのにも起因しているだろう、と隣に座るメイド兼従者兼馭者の吸血鬼《ヴルダラク》ズデンカは考えた。
だが、それよりもなによりも気になるのは。
――こいつら、だ。
ズデンカは前を睨んだ。
オルランド国陸軍軍医総監アデーレ・シュニッツラーが静かに坐っている。
サーカス『月の隊商』に所属していたが、とある理由によって旅を一緒にすることになったナイフ投げ、カミーユ・ボレルがその横でそわそわしながら周りを見回していた。
「みんな喋らないの?」
きょとんとした顔になってルナが言った。沈黙が続いていることが嫌になったようだ。
「話題がないだろ」
なお目の前に二人を睨みながら、ズデンカは断言した。
「お前がつまらないからだ、メイド」
アデーレは冷たく言った。
「はぁ?」
ズデンカは身を乗り出した。
「まあまあ二人ともー」
ルナがほんわかとなだめる。
「お前が原因だろ」
ズデンカは勢いよくルナに振り返った。
「そうかな? まあ、命を狙われているからね。わたしは」
ルナはとぼけつつも強調する。
「そ、そりゃそうだが」
ズデンカもそう答えられてしまえば言い返せない。
確かに間違いはないのだ。ルナは、旧スワスティカの残党に狙われ続けている。
ラミュの首都デュレンマットにて襲撃を受け、居酒屋『霰弾亭』まで逃げ延びたところにアデーレが救援としてやってきて助け出してくれたのだ。
――このまま無事にラミュを抜けられればいいのだが。
約束ではラミュの東方に位置するネルダ共和国の国境付近までということになっていた。
中立国のラミュなら許可を取れば移動は出来るが、政治体制の違いもあり、オルランド公国とあまり仲が良くないネルダに軍が入ることは戦闘行為と見なされる恐れがあるからだ。
――そこまで行ったら流石の旧スワスティカの連中も追ってこねえだろう。
悲観視も出来る状況だが、ズデンカは何とか活路を見出そうとした。
ラミュは山脈の多い地域でもあり、移動は困難を極めたが。
まだまだ日数は掛かりそうだ。
「まずありがとう。アデーレがいなければ、ずっと部屋になんき……」
ルナのお喋りな口をズデンカは押さえた。
「うぷー!」
ルナはうごめいた。
「メイド、ルナに気安く触るな」
アデーレはズデンカを撲りたそうな様子を見せていたが、周囲の手前もあり必死に押さえているようだった。
――そう言えば、こいつも何か力を持ってるのだろうか。
ズデンカは考えた。
女で、しかもシエラフィータ族が一国の軍医総監まで成り上がるのは至難の業だ。
終戦直後にいろいろあったのだろうが、その時期ズデンカはオルランドにいなかったため詳しくは知らないのだ。
――どんな力を持っていようが、邪魔してくるならあたしが押し拉ぐだけだがな。
ズデンカは拳を固めた。
「ペルッツさま、ズデンカさま」
突然、カミーユが片手を震わせながらあげて質問した。
幾組もの武装を固めた騎兵に前後を囲まれながら、天蓋付き馬車は進んでいった。
行列には更に歩兵や銃隊まで従えられているのだから、備えは万全だ。
「ふむ」
綺譚収集者《アンソロジスト》ルナ・ペルッツは足を組んでいた。
普段乗っている幌付き馬車より空間が広いためだが、ルナの行儀が生来あまり良くないのにも起因しているだろう、と隣に座るメイド兼従者兼馭者の吸血鬼《ヴルダラク》ズデンカは考えた。
だが、それよりもなによりも気になるのは。
――こいつら、だ。
ズデンカは前を睨んだ。
オルランド国陸軍軍医総監アデーレ・シュニッツラーが静かに坐っている。
サーカス『月の隊商』に所属していたが、とある理由によって旅を一緒にすることになったナイフ投げ、カミーユ・ボレルがその横でそわそわしながら周りを見回していた。
「みんな喋らないの?」
きょとんとした顔になってルナが言った。沈黙が続いていることが嫌になったようだ。
「話題がないだろ」
なお目の前に二人を睨みながら、ズデンカは断言した。
「お前がつまらないからだ、メイド」
アデーレは冷たく言った。
「はぁ?」
ズデンカは身を乗り出した。
「まあまあ二人ともー」
ルナがほんわかとなだめる。
「お前が原因だろ」
ズデンカは勢いよくルナに振り返った。
「そうかな? まあ、命を狙われているからね。わたしは」
ルナはとぼけつつも強調する。
「そ、そりゃそうだが」
ズデンカもそう答えられてしまえば言い返せない。
確かに間違いはないのだ。ルナは、旧スワスティカの残党に狙われ続けている。
ラミュの首都デュレンマットにて襲撃を受け、居酒屋『霰弾亭』まで逃げ延びたところにアデーレが救援としてやってきて助け出してくれたのだ。
――このまま無事にラミュを抜けられればいいのだが。
約束ではラミュの東方に位置するネルダ共和国の国境付近までということになっていた。
中立国のラミュなら許可を取れば移動は出来るが、政治体制の違いもあり、オルランド公国とあまり仲が良くないネルダに軍が入ることは戦闘行為と見なされる恐れがあるからだ。
――そこまで行ったら流石の旧スワスティカの連中も追ってこねえだろう。
悲観視も出来る状況だが、ズデンカは何とか活路を見出そうとした。
ラミュは山脈の多い地域でもあり、移動は困難を極めたが。
まだまだ日数は掛かりそうだ。
「まずありがとう。アデーレがいなければ、ずっと部屋になんき……」
ルナのお喋りな口をズデンカは押さえた。
「うぷー!」
ルナはうごめいた。
「メイド、ルナに気安く触るな」
アデーレはズデンカを撲りたそうな様子を見せていたが、周囲の手前もあり必死に押さえているようだった。
――そう言えば、こいつも何か力を持ってるのだろうか。
ズデンカは考えた。
女で、しかもシエラフィータ族が一国の軍医総監まで成り上がるのは至難の業だ。
終戦直後にいろいろあったのだろうが、その時期ズデンカはオルランドにいなかったため詳しくは知らないのだ。
――どんな力を持っていようが、邪魔してくるならあたしが押し拉ぐだけだがな。
ズデンカは拳を固めた。
「ペルッツさま、ズデンカさま」
突然、カミーユが片手を震わせながらあげて質問した。
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