226 / 526
第一部
第二十二話 ピストルの使い方(7)
しおりを挟む
「おやおや、これは面白いことになった」
顎先へ手をやりながらルナがズデンカの傍に立っていた。
「人の不幸を面白がるな」
ズデンカは一応注意した。もちろん、ギイの死など悲しんではいなかったが。
「自殺したんだろうか?」
ルナが屍体を検分していた。
ギイはうつぶせに、目を大きく剥きだして、口を開けて草を掻き込んで死んでいた。
「アホか。自殺するタマかよ。殺されたに違げえねえ」
ズデンカは断言した。
「君にしたらやけに言い張るね」
こんな時、決め付けるのはルナと相場が決まっている。
「自分で死ぬとしたら動機とか見当たらないだろうがよ!」
ズデンカは少し恥ずかしくなった。
「でも、殺されたとすると犯人がいる……容疑者は」
ルナはキョロキョロ左右を見回す。
「わかってるだろ」
「ああ。もちろん」
にっこりとした笑みが返ってきた。
そして、ルナは笑顔を浮かべたまま、不安そうに控えるジュスティーヌとリュシアンへ寄っていった。
――元気になって良かった。
その後ろ姿を見てズデンカはこっそり思った。
「さてさて、ギイさんは亡くなられてしまいました。となれば、犯人はあなたがた二人のうち、どちらかじゃないかって疑いも出てくる」
ルナは両手を広げた。
「でも、私たちは!」
二人は怯えきっているばかりだった。
「木の棒か何かでギイさんを襲い、その後、射殺すれば簡単に殺せるでしょうね」
ルナはあっけらかんと説明する。
二人は顔を見合わせた。
「どちらかじゃなくてもいい。共謀したって可能性もあります。もともと殺すつもりでギイさんをサーカス見物の旅に連れていったとか」
ルナは楽しそうに語った。
「そんなことしてませんよ!」
リュシアンは怒鳴った。
「でも、ギイさんは殺された。それは事実でしょう」
ルナが詰め寄る。
「でも、やったのは僕らじゃない。別の誰かです!」
「『僕ら』? ジュスティーヌさんがやってないって、断言出来るんですかー?」
ルナは意地悪く言った。
「もっ、もちろんです。僕はジュスティーヌを信じます!」
「わっ、私もです。リュシアンは絶対ギイさんを殺していません」
「よろしい」
ルナはパイプを取り出して煙草を詰め、火を付けた。
「では別の可能性を考えましょう。つまるところはこうです。誰か第三者が、ギイさんのピストルを奪い、そのまま射殺したと」
「誰だ?」
ズデンカが近付いて来た。
「それがわかったら、もう事件は解決してるよ」
ルナは煙を吹かした。
「お前の『幻解』でなんとかならんか」
「だってそれは殺した当人がこの場所にいなけりゃ無理なんだよ」
ルナは残念そうに言った。
「もっとも。この二人が嘘を吐いているというなら、話は別だけど」
冷たく見据えるルナに、リュシアンとジュスティーヌは身を竦ませていた。
「くそっ!」
ズデンカは叫んであたりを探し回った。
「ふわぁー! 探しても無駄だと思うよー」
ルナは欠伸をしながら言った。
それは半分は正しく、半分は間違っていた。
ズデンカは三時間近く暮れていく森を探し回った。
しかし、何も見つからなかった。
だが、諦めかけたその時、
銃声が一つ。
「やはり、いたか!」
――真犯人が。
ズデンカは緑陰を駆けた。
生ける者の感覚を、その鼓動を聞き取ろうと、全身全霊を籠めて耳を澄ませながら。
だが、続いた銃声はなかった。
森じゅうに人のものならぬ吼え声が轟く。ズデンカは身構えた。
顎先へ手をやりながらルナがズデンカの傍に立っていた。
「人の不幸を面白がるな」
ズデンカは一応注意した。もちろん、ギイの死など悲しんではいなかったが。
「自殺したんだろうか?」
ルナが屍体を検分していた。
ギイはうつぶせに、目を大きく剥きだして、口を開けて草を掻き込んで死んでいた。
「アホか。自殺するタマかよ。殺されたに違げえねえ」
ズデンカは断言した。
「君にしたらやけに言い張るね」
こんな時、決め付けるのはルナと相場が決まっている。
「自分で死ぬとしたら動機とか見当たらないだろうがよ!」
ズデンカは少し恥ずかしくなった。
「でも、殺されたとすると犯人がいる……容疑者は」
ルナはキョロキョロ左右を見回す。
「わかってるだろ」
「ああ。もちろん」
にっこりとした笑みが返ってきた。
そして、ルナは笑顔を浮かべたまま、不安そうに控えるジュスティーヌとリュシアンへ寄っていった。
――元気になって良かった。
その後ろ姿を見てズデンカはこっそり思った。
「さてさて、ギイさんは亡くなられてしまいました。となれば、犯人はあなたがた二人のうち、どちらかじゃないかって疑いも出てくる」
ルナは両手を広げた。
「でも、私たちは!」
二人は怯えきっているばかりだった。
「木の棒か何かでギイさんを襲い、その後、射殺すれば簡単に殺せるでしょうね」
ルナはあっけらかんと説明する。
二人は顔を見合わせた。
「どちらかじゃなくてもいい。共謀したって可能性もあります。もともと殺すつもりでギイさんをサーカス見物の旅に連れていったとか」
ルナは楽しそうに語った。
「そんなことしてませんよ!」
リュシアンは怒鳴った。
「でも、ギイさんは殺された。それは事実でしょう」
ルナが詰め寄る。
「でも、やったのは僕らじゃない。別の誰かです!」
「『僕ら』? ジュスティーヌさんがやってないって、断言出来るんですかー?」
ルナは意地悪く言った。
「もっ、もちろんです。僕はジュスティーヌを信じます!」
「わっ、私もです。リュシアンは絶対ギイさんを殺していません」
「よろしい」
ルナはパイプを取り出して煙草を詰め、火を付けた。
「では別の可能性を考えましょう。つまるところはこうです。誰か第三者が、ギイさんのピストルを奪い、そのまま射殺したと」
「誰だ?」
ズデンカが近付いて来た。
「それがわかったら、もう事件は解決してるよ」
ルナは煙を吹かした。
「お前の『幻解』でなんとかならんか」
「だってそれは殺した当人がこの場所にいなけりゃ無理なんだよ」
ルナは残念そうに言った。
「もっとも。この二人が嘘を吐いているというなら、話は別だけど」
冷たく見据えるルナに、リュシアンとジュスティーヌは身を竦ませていた。
「くそっ!」
ズデンカは叫んであたりを探し回った。
「ふわぁー! 探しても無駄だと思うよー」
ルナは欠伸をしながら言った。
それは半分は正しく、半分は間違っていた。
ズデンカは三時間近く暮れていく森を探し回った。
しかし、何も見つからなかった。
だが、諦めかけたその時、
銃声が一つ。
「やはり、いたか!」
――真犯人が。
ズデンカは緑陰を駆けた。
生ける者の感覚を、その鼓動を聞き取ろうと、全身全霊を籠めて耳を澄ませながら。
だが、続いた銃声はなかった。
森じゅうに人のものならぬ吼え声が轟く。ズデンカは身構えた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。



とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる