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第一部
第二十二話 ピストルの使い方(6)
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「え……考えたことすらありませんでした……まさかリュシアンが……」
ジュスティーヌは戸惑いを隠せない様子だった。
「まあ、男同士なら明け透けにものを話すものと相場が決まっていますからね」
とルナが知った口で言った。
「追わなくていいのか」
ズデンカはイライラしながら訊いた。
「いいんじゃないの? 彼らは立派な大人だし。いずれ頭を冷やしたら、帰ってくるさ」
「だが片方は拳銃を持ってるぞ」
「まさか使うことはないよ」
ルナは笑った。
「使い方を心得ていないやつならそうもいかない」
ズデンカは呟いた。
「ふむ。どう言う意味?」
ルナは興味津々だった。
「ともかく、あたしは行く」
ズデンカは歩き出した。
「勝手にすればー」
ルナは暢気に応じた。
さて、小屋を出て歩き出すとズデンカは即座に左右を見回した。
どうも近くにはいないようだ。
ズデンカはため息吐いた。
小走りに進めば、二キロ三キロと歩ける。普段はルナがいるからこんな速度では進めないだけで、やろうと思えば可能なのだ。
途中何度か銃声が聞こえた。ギイが連射しているのだろう。
山じゅうに鬱蒼たる白樺の森が広がっている。真昼過ぎなのに光も差さない中をズデンカは動いた。
急斜面を駆け下りて、また駆け上る。
やがて、木の間隠れにリュシアンの頭が見えた。深刻そうな顔つきで上を見て歩いている。
細い道でさらに暗い奥へと通じていた。
「おい」
ズデンカが跳躍していきなり目の前に着地するとリュシアンは驚いた。
「どっ、どうされましたか!」
「この山も深い森があるな。早く戻らないと迷うぞ」
「はっ、はい」
ズデンカは反対側の道へ向かい、リュシアンを誘導した。
――ったく。なんでこんなことやらんといけないんだよ。山小屋なんか寄るんじゃなかったな。
ズデンカはうんざりした。
「ギイはどこだ」
「わかりません。顔も会わせませんでした」
道はだんだん広くなった。
木々も途切れてきてあたりも徐々に明るくなる。
「まったく。手を患わせんなよな。こんな妙なところまで入り込みやがって」
「は、恥ずかしくて……」
リュシアンは頭を下げて、もじもじとした。
「情けない。そんな様子だと、ジュスティーヌも他に取られるぜ?」
ズデンカには珍しく、からかいたい気分が湧き上がっていた。
――相当疲れたんだろう。
「そ、それは……」
リュシアンは泣きそうな声になっていた。
「あたしがそう言っただけだ。一喜一憂するな。馬鹿らしい」
「はい」
と向こうからなんとそのジュスティーヌが歩いてくるではないか。
「ジュスティーヌ!」
リュシアンは飛び出していった。
「リュシアン」
顔を見合わせてみれば、二人とも恥ずかしそうだった。
両人赤くなってそっぽを向く。
「おーい!」
ルナが追いかけるようにのろのろ歩いてきていた。
「家にいるんじゃなかったのか?」
ズデンカは鼻で笑った。
「いや、銃声が聞こえて来たんで、気になってね。……ほんとは先にジュスティーヌさんが出ていったんで、わたしだけ独りぼっちなんて寂しくなったから、ってのは内緒だよ」
とルナは堂々と言った。
「まあいい。ギイの奴を探すか」
ズデンカは独りで動き出した。
と、ここで。
血の臭いがした。
嗅覚の鈍いズデンカが唯一、遠くからでも知覚出来る臭いだ。
――こりゃ何かあったな。
思わず駈け出す。
遠からず臭いの元は見つかった。
藪の中に屍体が横たわっていたのだ。
手で掻き分けて顔を確認してみれば、ギイで間違いなかった。頭は打ち抜かれている。
拳銃で撃たれたのだ。
ところが。
肝心要のピストルは、ギイの手から消えていた。
ジュスティーヌは戸惑いを隠せない様子だった。
「まあ、男同士なら明け透けにものを話すものと相場が決まっていますからね」
とルナが知った口で言った。
「追わなくていいのか」
ズデンカはイライラしながら訊いた。
「いいんじゃないの? 彼らは立派な大人だし。いずれ頭を冷やしたら、帰ってくるさ」
「だが片方は拳銃を持ってるぞ」
「まさか使うことはないよ」
ルナは笑った。
「使い方を心得ていないやつならそうもいかない」
ズデンカは呟いた。
「ふむ。どう言う意味?」
ルナは興味津々だった。
「ともかく、あたしは行く」
ズデンカは歩き出した。
「勝手にすればー」
ルナは暢気に応じた。
さて、小屋を出て歩き出すとズデンカは即座に左右を見回した。
どうも近くにはいないようだ。
ズデンカはため息吐いた。
小走りに進めば、二キロ三キロと歩ける。普段はルナがいるからこんな速度では進めないだけで、やろうと思えば可能なのだ。
途中何度か銃声が聞こえた。ギイが連射しているのだろう。
山じゅうに鬱蒼たる白樺の森が広がっている。真昼過ぎなのに光も差さない中をズデンカは動いた。
急斜面を駆け下りて、また駆け上る。
やがて、木の間隠れにリュシアンの頭が見えた。深刻そうな顔つきで上を見て歩いている。
細い道でさらに暗い奥へと通じていた。
「おい」
ズデンカが跳躍していきなり目の前に着地するとリュシアンは驚いた。
「どっ、どうされましたか!」
「この山も深い森があるな。早く戻らないと迷うぞ」
「はっ、はい」
ズデンカは反対側の道へ向かい、リュシアンを誘導した。
――ったく。なんでこんなことやらんといけないんだよ。山小屋なんか寄るんじゃなかったな。
ズデンカはうんざりした。
「ギイはどこだ」
「わかりません。顔も会わせませんでした」
道はだんだん広くなった。
木々も途切れてきてあたりも徐々に明るくなる。
「まったく。手を患わせんなよな。こんな妙なところまで入り込みやがって」
「は、恥ずかしくて……」
リュシアンは頭を下げて、もじもじとした。
「情けない。そんな様子だと、ジュスティーヌも他に取られるぜ?」
ズデンカには珍しく、からかいたい気分が湧き上がっていた。
――相当疲れたんだろう。
「そ、それは……」
リュシアンは泣きそうな声になっていた。
「あたしがそう言っただけだ。一喜一憂するな。馬鹿らしい」
「はい」
と向こうからなんとそのジュスティーヌが歩いてくるではないか。
「ジュスティーヌ!」
リュシアンは飛び出していった。
「リュシアン」
顔を見合わせてみれば、二人とも恥ずかしそうだった。
両人赤くなってそっぽを向く。
「おーい!」
ルナが追いかけるようにのろのろ歩いてきていた。
「家にいるんじゃなかったのか?」
ズデンカは鼻で笑った。
「いや、銃声が聞こえて来たんで、気になってね。……ほんとは先にジュスティーヌさんが出ていったんで、わたしだけ独りぼっちなんて寂しくなったから、ってのは内緒だよ」
とルナは堂々と言った。
「まあいい。ギイの奴を探すか」
ズデンカは独りで動き出した。
と、ここで。
血の臭いがした。
嗅覚の鈍いズデンカが唯一、遠くからでも知覚出来る臭いだ。
――こりゃ何かあったな。
思わず駈け出す。
遠からず臭いの元は見つかった。
藪の中に屍体が横たわっていたのだ。
手で掻き分けて顔を確認してみれば、ギイで間違いなかった。頭は打ち抜かれている。
拳銃で撃たれたのだ。
ところが。
肝心要のピストルは、ギイの手から消えていた。
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