224 / 526
第一部
第二十二話 ピストルの使い方(5)
しおりを挟む
小屋に据え置きの牛乳はなかったが、近くの川で汲んできた水と萎びた野菜で兎肉スープが完成した。
「うん、美味しいですよ!」
ズデンカは例によって食べることが出来ないのだが、ジュスティーヌの味見によって判断したのだ。
くだんの丸椅子に置くと、皆で囲んで食べ始める。もちろんズデンカは加わらなかったが。
「ズデンカさんは食べないんですか?」
ジュスティーヌが訊いた。
「ああ、腹も空いてないし兎が体質に合わないからな」
と、苦手な嘘を吐く。
「おいひいいー!」
ルナは凄い勢いでがつがつ兎肉を頬張っていた。
「喉に詰めるぞ」
ズデンカは注意した。これまでの経験上の判断だ。今は飲み水すらないのだ。川の水に火を通さないで飲むのは危ないと判断したからだった。
「うっぷ!」
予感的中。
ズデンカは駆け寄ってルナの背中をポンポン叩いた。
「ざまあねえな」
ギイは嘲笑った。
ズデンカはそれを睨んだ。
途端にギイは身を竦ませるが、
「まあまあ!」
肉をスープで無理に嚥下したルナは言った。
口元をハンカチで隠している。
――どうやら火傷したらしい。
ルナは猫舌だ。
「ギイさんのお陰でわれわれは昼ご飯にありつけているわけですからね」
「だろ?」
ギイは胸を張った。
ズデンカは正直腹が立ったが我慢した。
「昼飯を食い終わったらこいつで狩りを再開だ。このあたりは誰の土地でもなさそうだから撃ち放題だな!」
ギイはホルスターのピストルを撫で擦った。
「待て。もういい加減僕も調子が戻ってきたし、そろそろお暇しよう」
さっきまで黙り込んでいたリュシアンがやっと思いきったように言った。
「あ? 俺の狩りの邪魔をするってのかぁ、リュシアン?」
ギイは勢いよく立ち上がり、リュシアンの後ろまで走り寄ってその肩を乱暴に掴んだ。
「お前さぁ、ジュスティーヌにホの字だろ?」
「なっ、なにをぉ」
リュシアンは顔を真っ赤にして、ギイを見上げた。
「ホの字ってなんだ?」
ズデンカは訊いた。どうも隠語には疎い。いちいち覚えてやる必要性を感じないのだ。
「リュシアンさんはジュスティーヌさんが好きだってことさ」
そういうことには詳しいルナはあっさりと解説した。
「えっ、そうなの!」
今度驚いたのはジュスティーヌだ。
「ちっ、ちっ」
それを見て更に顔が赤くなったリュシアンは食事もほっぽり出して山小屋の外へと飛び出して行ってしまった。
「あっ、身体大丈夫なの!」
追って走り出そうとするジュスティーヌの前にギイは立ち塞がった。
「まあ、馬鹿は置いといてさ。二人でまあ楽しく、ゆっくりしていこうじゃねえか」
ジュスティーヌは顔を背けた。
「なんだよ。あんな弱っちいやつ、同出も良いだろうがよ」
ジュスティーヌの身体を引き寄せるギイ。
「止めてください!」
「おい、何しやがる」
ズデンカは強い力で二人の間に割り込んだ。
「何だ? てめえのお連れさんじゃないんだから関係ないだろうが」
ギイは不満そうに言った。
「問題はお前にあるだろ。さあ、ジュスティーヌに謝れ」
「はあ?」
ギイは怒った。
「何で俺が?」
「失礼なことをしたのはお前だろ? さもないと……」
「クソッ。知らねえよ!」
そう叫んでギイは外へ飛び出していった。
「ありがとうございます」
ジュスティーヌはお辞儀をした。
「いいってことよ。いつもああなのか」
ズデンカは訊いた。
「はい。大学では人目があるのであそこまで迫られたことは今日が初めてですが……」
「そう言えば、ジュスティーヌさんはリュシアンさんが好きなんですか?」
それまで黙って食べていたルナがいきなり会話に参入した。
「うん、美味しいですよ!」
ズデンカは例によって食べることが出来ないのだが、ジュスティーヌの味見によって判断したのだ。
くだんの丸椅子に置くと、皆で囲んで食べ始める。もちろんズデンカは加わらなかったが。
「ズデンカさんは食べないんですか?」
ジュスティーヌが訊いた。
「ああ、腹も空いてないし兎が体質に合わないからな」
と、苦手な嘘を吐く。
「おいひいいー!」
ルナは凄い勢いでがつがつ兎肉を頬張っていた。
「喉に詰めるぞ」
ズデンカは注意した。これまでの経験上の判断だ。今は飲み水すらないのだ。川の水に火を通さないで飲むのは危ないと判断したからだった。
「うっぷ!」
予感的中。
ズデンカは駆け寄ってルナの背中をポンポン叩いた。
「ざまあねえな」
ギイは嘲笑った。
ズデンカはそれを睨んだ。
途端にギイは身を竦ませるが、
「まあまあ!」
肉をスープで無理に嚥下したルナは言った。
口元をハンカチで隠している。
――どうやら火傷したらしい。
ルナは猫舌だ。
「ギイさんのお陰でわれわれは昼ご飯にありつけているわけですからね」
「だろ?」
ギイは胸を張った。
ズデンカは正直腹が立ったが我慢した。
「昼飯を食い終わったらこいつで狩りを再開だ。このあたりは誰の土地でもなさそうだから撃ち放題だな!」
ギイはホルスターのピストルを撫で擦った。
「待て。もういい加減僕も調子が戻ってきたし、そろそろお暇しよう」
さっきまで黙り込んでいたリュシアンがやっと思いきったように言った。
「あ? 俺の狩りの邪魔をするってのかぁ、リュシアン?」
ギイは勢いよく立ち上がり、リュシアンの後ろまで走り寄ってその肩を乱暴に掴んだ。
「お前さぁ、ジュスティーヌにホの字だろ?」
「なっ、なにをぉ」
リュシアンは顔を真っ赤にして、ギイを見上げた。
「ホの字ってなんだ?」
ズデンカは訊いた。どうも隠語には疎い。いちいち覚えてやる必要性を感じないのだ。
「リュシアンさんはジュスティーヌさんが好きだってことさ」
そういうことには詳しいルナはあっさりと解説した。
「えっ、そうなの!」
今度驚いたのはジュスティーヌだ。
「ちっ、ちっ」
それを見て更に顔が赤くなったリュシアンは食事もほっぽり出して山小屋の外へと飛び出して行ってしまった。
「あっ、身体大丈夫なの!」
追って走り出そうとするジュスティーヌの前にギイは立ち塞がった。
「まあ、馬鹿は置いといてさ。二人でまあ楽しく、ゆっくりしていこうじゃねえか」
ジュスティーヌは顔を背けた。
「なんだよ。あんな弱っちいやつ、同出も良いだろうがよ」
ジュスティーヌの身体を引き寄せるギイ。
「止めてください!」
「おい、何しやがる」
ズデンカは強い力で二人の間に割り込んだ。
「何だ? てめえのお連れさんじゃないんだから関係ないだろうが」
ギイは不満そうに言った。
「問題はお前にあるだろ。さあ、ジュスティーヌに謝れ」
「はあ?」
ギイは怒った。
「何で俺が?」
「失礼なことをしたのはお前だろ? さもないと……」
「クソッ。知らねえよ!」
そう叫んでギイは外へ飛び出していった。
「ありがとうございます」
ジュスティーヌはお辞儀をした。
「いいってことよ。いつもああなのか」
ズデンカは訊いた。
「はい。大学では人目があるのであそこまで迫られたことは今日が初めてですが……」
「そう言えば、ジュスティーヌさんはリュシアンさんが好きなんですか?」
それまで黙って食べていたルナがいきなり会話に参入した。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。



とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる