222 / 526
第一部
第二十二話 ピストルの使い方(3)
しおりを挟む
「あ! そう言えばペルッツさまのお名前と同じですね」
ジュスティーヌも笑い返した。
「由来がトゥールーズ語なので。素晴らしい名前を付けてくれた両親に感謝! ですよ」
ズデンカは目を瞑った。ルナが収容所で両親を自分の手で葬ったと語っていたことを思い出したからだ。
「トゥールーズより外でやってることが多くて、なかなかお目にかかれないんですよ! 色んな珍しい動物もいるとかで」
「それはわたしも見てみたいですね。実は動物好きなんですよ! 珍しいのを一匹連れ歩いてるほどで!」
この持って回った皮肉《サーカスム》にズデンカはかなり傷付いた。
確かにズデンカは人ではないが、動物扱いされると流石に堪える。まあ、この程度ではビクともしないと信じてくれているからかもしれないが。
「僕らも夏に大学卒業なので、せめて思い出作りにとラミュへ旅行することになりまして」
控えめにリュシアンが口を挟んだ。
「素晴らしい! 戦争をしていた頃じゃあ考えられない」
「はい。子供の頃は戦争戦争続きで、明日も知れないような暮らしを送っていましたから。今こんなに平和なのが信じられないぐらいですよ!」
「平和は良いですよ。だからわたしはこんなに旅が出来る」
ルナは横たわりながら不器用にパイプに煙草を詰めた。ポロポロこぼれ落ちるのをズデンカは額に手で押さえながら見守った。
「俺は別に行きたくなかったんだが。狩猟のチャンスがありそうだからな。こいつを試せる」
と恐る恐るズデンカの方を伺いながら言うギイ。
「そう言えば皆さんはなんでこの山小屋まで?」
ルナが訊いた。
――やっとかよ。
碌でもない世間話より、ズデンカはこっちの方が知りたかった。
「たぶんあなた方と同じ理由です。リュシアンの身体はあんまり丈夫じゃなくて。息切れしてしまいまして」
「今はもう大分落ち着きましたけどね」
リュシアンはすかさず口を挟んだ。
「それは奇遇。これも何かのご縁でしょうね! ……さて、お腹が空きましたね」
「食い物なんか尽きちまったよ。これで、狩ってくるしかねえさ」
ギイは決してルナに対して向けないよう注意を払いながら、ピストルを抜き、見せびらかした。
「じゃあ、お願いします。兎のシチュー食べたいな!」
ルナは眼を輝かせ始めた。
――お前がやれ。
ズデンカはつまらなそうに棒立ちになりながら、心の中で思った。さっき馬鹿にされたことの意趣返しだった。
ギイは偉そうに立ち上がって小屋の外に出ていった。
「すみません。乱暴な奴で。大学でもことある毎に喧嘩を起こしているんですよ。僕らが旅行の話をしてたらいきなり割り込んできて連れていけって言ったんです」
リュシアンが謝った。幾分かは愚痴も入っていそうではあったが。
「いえいえ、威勢の良い人がいた方が旅は楽しい。わたしたちも何日か前までもう一人連れがいたんですけどね。とても愉快な人で」
自称反救世主大蟻喰のことを言っているのだろう。
――いないで良かったぜ。
ズデンカは安心していた。人間の肉が好物の大蟻喰がいたら、学生たちは食われてしまうだろう。
「さあ、料理の準備を始めますかね!」
ルナが元気よく起き上がった。大分落ち着いてきたようだ。
「お前はまだいい。あたしがする」
ズデンカはルナの前に立ち塞がった。
さっき心の中で思ったのとは、まるで裏腹の行動だ。
ジュスティーヌも笑い返した。
「由来がトゥールーズ語なので。素晴らしい名前を付けてくれた両親に感謝! ですよ」
ズデンカは目を瞑った。ルナが収容所で両親を自分の手で葬ったと語っていたことを思い出したからだ。
「トゥールーズより外でやってることが多くて、なかなかお目にかかれないんですよ! 色んな珍しい動物もいるとかで」
「それはわたしも見てみたいですね。実は動物好きなんですよ! 珍しいのを一匹連れ歩いてるほどで!」
この持って回った皮肉《サーカスム》にズデンカはかなり傷付いた。
確かにズデンカは人ではないが、動物扱いされると流石に堪える。まあ、この程度ではビクともしないと信じてくれているからかもしれないが。
「僕らも夏に大学卒業なので、せめて思い出作りにとラミュへ旅行することになりまして」
控えめにリュシアンが口を挟んだ。
「素晴らしい! 戦争をしていた頃じゃあ考えられない」
「はい。子供の頃は戦争戦争続きで、明日も知れないような暮らしを送っていましたから。今こんなに平和なのが信じられないぐらいですよ!」
「平和は良いですよ。だからわたしはこんなに旅が出来る」
ルナは横たわりながら不器用にパイプに煙草を詰めた。ポロポロこぼれ落ちるのをズデンカは額に手で押さえながら見守った。
「俺は別に行きたくなかったんだが。狩猟のチャンスがありそうだからな。こいつを試せる」
と恐る恐るズデンカの方を伺いながら言うギイ。
「そう言えば皆さんはなんでこの山小屋まで?」
ルナが訊いた。
――やっとかよ。
碌でもない世間話より、ズデンカはこっちの方が知りたかった。
「たぶんあなた方と同じ理由です。リュシアンの身体はあんまり丈夫じゃなくて。息切れしてしまいまして」
「今はもう大分落ち着きましたけどね」
リュシアンはすかさず口を挟んだ。
「それは奇遇。これも何かのご縁でしょうね! ……さて、お腹が空きましたね」
「食い物なんか尽きちまったよ。これで、狩ってくるしかねえさ」
ギイは決してルナに対して向けないよう注意を払いながら、ピストルを抜き、見せびらかした。
「じゃあ、お願いします。兎のシチュー食べたいな!」
ルナは眼を輝かせ始めた。
――お前がやれ。
ズデンカはつまらなそうに棒立ちになりながら、心の中で思った。さっき馬鹿にされたことの意趣返しだった。
ギイは偉そうに立ち上がって小屋の外に出ていった。
「すみません。乱暴な奴で。大学でもことある毎に喧嘩を起こしているんですよ。僕らが旅行の話をしてたらいきなり割り込んできて連れていけって言ったんです」
リュシアンが謝った。幾分かは愚痴も入っていそうではあったが。
「いえいえ、威勢の良い人がいた方が旅は楽しい。わたしたちも何日か前までもう一人連れがいたんですけどね。とても愉快な人で」
自称反救世主大蟻喰のことを言っているのだろう。
――いないで良かったぜ。
ズデンカは安心していた。人間の肉が好物の大蟻喰がいたら、学生たちは食われてしまうだろう。
「さあ、料理の準備を始めますかね!」
ルナが元気よく起き上がった。大分落ち着いてきたようだ。
「お前はまだいい。あたしがする」
ズデンカはルナの前に立ち塞がった。
さっき心の中で思ったのとは、まるで裏腹の行動だ。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷
くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。
怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。
最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。
その要因は手に持つ箱。
ゲーム、Anotherfantasia
体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。
「このゲームがなんぼのもんよ!!!」
怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。
「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」
ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。
それは、翠の想像を上回った。
「これが………ゲーム………?」
現実離れした世界観。
でも、確かに感じるのは現実だった。
初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。
楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。
【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】
翠は、柔らかく笑うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる