196 / 526
第一部
第十九話 墓を愛した少年(6)
しおりを挟む
はい。俺は兄ヴィットーリオとあまり仲が良くありません。
だから、あいつの前では話したくないんですよ。
普段から会話を交わすことも少ないです。家の中でも気まずい時間を過ごしています。
学校にいる時が幸せに感じられるぐらいです。
なぜか、ですか?
特別な理由はありません。
昔はそうでもなかったんですけどね。
兄は堅物です。面白くない。いつも俺を子供扱いしてきます。もう十三なのに、あれこれ指図してくるんです。
腹が立ってなりませんよ。
こんな街など住んでいたくないって俺はいつも兄に言っています。
実際それは本心からです。早く成人して手に職をつけて、こんな街からは抜け出してしまいたい。
ここにいても何も起こりっこないのに、ヴィットーリオは出ていこうとはしません。大人であればすぐに荷物をまとめて出ていけるはずのに。
野心もなければ、生活を変えようとする努力すらしない。
情けない人間です。
こういう大人になってしまってはいけないと思っています。
兄と暮らし続けるのは苦痛です。本来ならすぐにでも街を出たいと思っていたんですが。
そうもいかないことが起こりまして。
これは、あなた方がお望みの話と関わりますよ。
俺がこの墓地に足を運ぶようになったのは去年の夏からです。
最初は特に理由はなかったんです。ふと足が向いたというか、自然にでした。
友達はあまり、いませんから、遊ぼうと自分から言えません。独りで時間を過ごせる場所を求めていたんでしょう。
墓碑を読んだりして時間を潰していましたが、読みとれない物も多く、あまり興味が持てませんでした。
鳥《ウッチェロ》の鳴く声が聞こえました。
どこで鳴いているのか、気になって探し始めました。
御影石の墓――つまり今目の前にあるこの墓に止まって鳥は鳴いていました。
燕でした。夏に空を飛んでいるのはたまに見かけますが、人前に姿を見せない鳥ですが、時を止められたように翼を安め、垂直に立っていました。
俺は不思議と心惹かれ、燕を撫でようとしました。
すると魔術が解けたように燕は羽ばたいて視界から消えてしまいました。
「……」
勢い俺は墓石を見つめることになりました。
何か心の中ではっと閃いたものはありました。でも、それは何だかよくわかりませんでした。
何か書かれているようですが、汚れてしまっていてよくわかりません。
俺は家に引き返しました。雑巾を取りに行ったのです。石を何度も何度も拭いて綺麗にするために。
汚れを落とすと次第に、
フランチェスカ
の文字が見えます。
続いて、現れた文字を読みました。そして、そこに刻み込まれた没年を。
百年も前の人でした。
ぼんやりしたまま石を眺めながら、その時は家に帰りました。
しかし、夜になって夢を見たのです。
俺はあの墓地に独りで立っていました。
すると、俺よりすこし上ぐらいの、白いドレスを着た女がふんわりと羽毛のように近付いて来たのです。燕の羽毛のように。
帽子も真っ白で、潮風で鍔が揺れ動いています。
女を見た途端、俺の心臓は高鳴っていました。
フランチェスカだ。
そう思ったのです。
だから、あいつの前では話したくないんですよ。
普段から会話を交わすことも少ないです。家の中でも気まずい時間を過ごしています。
学校にいる時が幸せに感じられるぐらいです。
なぜか、ですか?
特別な理由はありません。
昔はそうでもなかったんですけどね。
兄は堅物です。面白くない。いつも俺を子供扱いしてきます。もう十三なのに、あれこれ指図してくるんです。
腹が立ってなりませんよ。
こんな街など住んでいたくないって俺はいつも兄に言っています。
実際それは本心からです。早く成人して手に職をつけて、こんな街からは抜け出してしまいたい。
ここにいても何も起こりっこないのに、ヴィットーリオは出ていこうとはしません。大人であればすぐに荷物をまとめて出ていけるはずのに。
野心もなければ、生活を変えようとする努力すらしない。
情けない人間です。
こういう大人になってしまってはいけないと思っています。
兄と暮らし続けるのは苦痛です。本来ならすぐにでも街を出たいと思っていたんですが。
そうもいかないことが起こりまして。
これは、あなた方がお望みの話と関わりますよ。
俺がこの墓地に足を運ぶようになったのは去年の夏からです。
最初は特に理由はなかったんです。ふと足が向いたというか、自然にでした。
友達はあまり、いませんから、遊ぼうと自分から言えません。独りで時間を過ごせる場所を求めていたんでしょう。
墓碑を読んだりして時間を潰していましたが、読みとれない物も多く、あまり興味が持てませんでした。
鳥《ウッチェロ》の鳴く声が聞こえました。
どこで鳴いているのか、気になって探し始めました。
御影石の墓――つまり今目の前にあるこの墓に止まって鳥は鳴いていました。
燕でした。夏に空を飛んでいるのはたまに見かけますが、人前に姿を見せない鳥ですが、時を止められたように翼を安め、垂直に立っていました。
俺は不思議と心惹かれ、燕を撫でようとしました。
すると魔術が解けたように燕は羽ばたいて視界から消えてしまいました。
「……」
勢い俺は墓石を見つめることになりました。
何か心の中ではっと閃いたものはありました。でも、それは何だかよくわかりませんでした。
何か書かれているようですが、汚れてしまっていてよくわかりません。
俺は家に引き返しました。雑巾を取りに行ったのです。石を何度も何度も拭いて綺麗にするために。
汚れを落とすと次第に、
フランチェスカ
の文字が見えます。
続いて、現れた文字を読みました。そして、そこに刻み込まれた没年を。
百年も前の人でした。
ぼんやりしたまま石を眺めながら、その時は家に帰りました。
しかし、夜になって夢を見たのです。
俺はあの墓地に独りで立っていました。
すると、俺よりすこし上ぐらいの、白いドレスを着た女がふんわりと羽毛のように近付いて来たのです。燕の羽毛のように。
帽子も真っ白で、潮風で鍔が揺れ動いています。
女を見た途端、俺の心臓は高鳴っていました。
フランチェスカだ。
そう思ったのです。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話
天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。
その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。
ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。
10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。
*本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています
*配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします
*主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。
*主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる