上 下
194 / 526
第一部

第十九話 墓を愛した少年(4)

しおりを挟む
「ふわぁふぁふぁ、眠いよぉ!」

 ルナは続けてあくびをした。前夜遅くまで酒盛りで夜更かししていて、五時起きにヴィットーリオの宅まで来たからだ。

 藁葺き屋根で、漆喰の壁には罅が入っているぐらい古い家だった。

「だから寝とけって言っただろ」

 ズデンカは鼻で笑った。もちろんルナを無理に叩き起こした張本人なのだったが。

「寝たりなぁい!」

「約束だろうがよ」

「もう約束はなしだよぉ!」

 ルナは目をしょぼしょさせながら、声を荒げた。

「馬鹿言え」

 ズデンカはヴィットーリオの家をノックした。

「はい」

 ヴィットーリオは扉を狭く開けた。もう暫く前から起きて準備をしているように見受けられた。

――ルナとはえらい違いだ。

 ズデンカは思った。

「ロドリゴはまだ眠っています。今のうちに早く」

 ヴィットーリオは宅の外に出て、しっかり鍵を閉めた。

「ふぁふぁ」

 あくびを連発しまくっているルナを後ろに引きずりながら、ズデンカはヴィットーリオと歩いた。

「すまん。こんな状態で連れてきて」

 ズデンカは頭を下げた。

 誰に対しても同じ態度で接すると依怙地に決めているズデンカも、謝るときは謝らなければならないと思っているのだ。

「いえいえ、少し早く指定しすぎましたね。でも、弟が起きてる間だとダメなんです。暗くてもいけませんし」

「単にルナが甘えてるだけだ」

「二人はお仲がよろしいですね」

「それ、旅先でよく言われる」

「その通りだからでしょう」

 ヴィットーリオは率直に言った。

 元々ヴィットーリオの家は市街の中心からそれほど離れていない。だから共同墓地の入り口にある赤茶色に錆びた鉄柵が見えてくるまで、それほど時間は掛からなかった。

「ここか」

 ズデンカは鉄柵を見上げた。

「人に聞いたところ、朝四時から開いているようです」

 中へと入りながら、ヴィットーリオが説明した。

「そんな時間に来るやついるのか?」

「まあ普通はいないでしょうね。実際今見渡しても誰もいません」

 墓地の中を見渡すと、他には人がいそうにもなかった。

「陰気くさいな、さっさと探すぞ」

 ズデンカは足を進める。

「ふわぁ、ふわぁ、ふわわわっ」

 ズデンカに引っ張られながら、次々とあくびを放つルナ。

「いい加減に目を覚ましやがれ!」

 ズデンカはその頬に容赦なく平手打ちを浴びせた。

「ぶへっ……なっ、何するんだよ」

 ルナは思わず叫んだ。

「墓が近いぞ」

「あ、そうだったね!」

 まだ目を擦り続けてはいたが、ルナは自分から歩き始めた。

「こちらです」

 何度か下調べをしていたのか、ヴィットーリオはすぐに案内した。

 御影石の墓は想像したより、もっと小さかった。

 港街のため強い潮風が絶えず吹き付けるせいか、石はかなり劣化していた。

「なるほど、確かにフランチェスカの名前がある」

 ルナはモノクルを付けたり外したりしながら、墓石を確かめた。

「専門家じゃないですけど、たぶん百年前のものですね」

 ルナは適当だった。

「何かわからないでしょうか?」

 ヴィットーリオが聞いた。

「うーん。わたしの幻解《ちから》じゃあ、霊を呼び出すことは無理ですからね。でも、ロドリゴさんがいれば話は別だ」

「えっ?」

 ヴィットーリオは驚いたようだった。

「墓石は確認することが出来たので、今度はロドリゴさんと一緒に来ましょう! ……ふぁあ!」

 またまた大あくび。

「はあ……」
 ヴィットーリオは不安げだった。

「わたしはまた一休みさせて貰いますよ。ふぁあ……むにゃむにゃあ」

 ズデンカの肩により掛かって居眠りし始めるルナだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。 生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。 全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。 ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。 時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。 ゆるふわ設定の短編です。 完結済みなので予約投稿しています。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

処理中です...