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第一部
第十六話 不在の騎士(18)
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フランツは悔しい思いをした。
「でもまあ、テュルリュパンぐらい身勝手な男っていませんよねえ」
「身勝手だな」
「おおっ、ここでも気が合うかあ。もう友達じゃね? フランツくん!」
オドラデクはケラケラ笑った。
「お前と友達などになった覚えはない」
「また本心にもないことをぉ! ……ぼくからすればテュルリュパンにとって、ビビッシェって単なる言い訳にしか過ぎなかったと思うんですよ」
と話の途中で即座に神妙な顔に早変わりしてオドラデクは言った。
「どういうことだ?」
フランツは怪訝に思った。
「自分が血塗られ行為をやっているって罪悪感を押さえるために作り出した理由ってことですよ」
「罪悪感はあったんだな」
「弱い人間なんですよ、結局、だから女に縋り付く」
オドラデクは馬鹿にした。女の姿で。
「騎士だとか言ってたな」
「妄想ですよ。女に仕えるふりをして、実際は支配したいだけでしょう? 粋がってるんです」
いつになく辛辣だった。
「だが……いや、無事殺したから言えるのだが、わからなくもない感情ではある」
フランツは口ごもった。
「おほほほほほほほっ、お坊ちゃんなんですねえ。フランツさんも案外!」
オドラデクは掌で唇を隠した。
「怒るぞ」
「戻るまでまだまだ掛かりそうですねえ」
思ったよりスイスイと自動車は夜の道を進んでいった。
ホセの運転は至極安全だ。
「行きも大変だったんだ。帰りもそうだろう」
と言ってフランツは星座の本をまた取り出した。
「あ。また読み出した。貸してくださいよぉ」
オドラデクはフランツから本をひったくった。
「車が揺れるぞ」
オドラデクに取られたこと自体は許容しつつ、フランツは注意した。
オドラデクは前はつまらなそうにしてたのに、熱心に星座の本を貪り読んで答えを返さなかった。
「随分ご執心だな」
フランツはからかった。
「だって実際に星座を見ちゃうと、そりゃ、興味も出てくるってもんじゃないですかぁ!」
「じゃあ星の下で見たらよかったのに」
「戦闘がおっぱじまったんで十分見てる余裕なかったんですよ。でも、ぼく記憶力は自信があるんです。見た風景を頭の中にちゃんと焼き付けてられるんですからね。それとこの本を照らし合わせることだって可能なんだ」
「良かったな」
オドラデクは子供のように本を貪り読んでいた。フランツはそんなに読書を楽しむ気分を自分は長いこと失っていたように感じた。
「他に持ってくるんだった」
「買えばいいでしょ。この町にだって本屋はある」
「俺は語学が得意ではない」
フランツは母国語で書かれた本しか読めない。他の言語も単語ぐらいは幾つか理解出来るが自在に話せたりしない。ぺらぺら喋れるルナ・ペルッツの頭の中がどうなっているのか不思議で仕方がなかった。
「勉強すれば良いんです」
オドラデクがどれだけ多言語を話せるのか、正直想像の埒外のことだった。
「俺は戦うしか出来ないからな」
「なら本なんて持ってこなくて良いでしょう」
上手く返された。
フランツはたじたじとなる。
「まあいいや! 本も良いとこまで読めたし、ぼくがお喋りに付き合ってあげましょう!」
「いらん」
断りながら、フランツは嬉しそうだった。
ホセの無表情な顔を照らす、ヘッドライトだけが白く広がっていった。
「でもまあ、テュルリュパンぐらい身勝手な男っていませんよねえ」
「身勝手だな」
「おおっ、ここでも気が合うかあ。もう友達じゃね? フランツくん!」
オドラデクはケラケラ笑った。
「お前と友達などになった覚えはない」
「また本心にもないことをぉ! ……ぼくからすればテュルリュパンにとって、ビビッシェって単なる言い訳にしか過ぎなかったと思うんですよ」
と話の途中で即座に神妙な顔に早変わりしてオドラデクは言った。
「どういうことだ?」
フランツは怪訝に思った。
「自分が血塗られ行為をやっているって罪悪感を押さえるために作り出した理由ってことですよ」
「罪悪感はあったんだな」
「弱い人間なんですよ、結局、だから女に縋り付く」
オドラデクは馬鹿にした。女の姿で。
「騎士だとか言ってたな」
「妄想ですよ。女に仕えるふりをして、実際は支配したいだけでしょう? 粋がってるんです」
いつになく辛辣だった。
「だが……いや、無事殺したから言えるのだが、わからなくもない感情ではある」
フランツは口ごもった。
「おほほほほほほほっ、お坊ちゃんなんですねえ。フランツさんも案外!」
オドラデクは掌で唇を隠した。
「怒るぞ」
「戻るまでまだまだ掛かりそうですねえ」
思ったよりスイスイと自動車は夜の道を進んでいった。
ホセの運転は至極安全だ。
「行きも大変だったんだ。帰りもそうだろう」
と言ってフランツは星座の本をまた取り出した。
「あ。また読み出した。貸してくださいよぉ」
オドラデクはフランツから本をひったくった。
「車が揺れるぞ」
オドラデクに取られたこと自体は許容しつつ、フランツは注意した。
オドラデクは前はつまらなそうにしてたのに、熱心に星座の本を貪り読んで答えを返さなかった。
「随分ご執心だな」
フランツはからかった。
「だって実際に星座を見ちゃうと、そりゃ、興味も出てくるってもんじゃないですかぁ!」
「じゃあ星の下で見たらよかったのに」
「戦闘がおっぱじまったんで十分見てる余裕なかったんですよ。でも、ぼく記憶力は自信があるんです。見た風景を頭の中にちゃんと焼き付けてられるんですからね。それとこの本を照らし合わせることだって可能なんだ」
「良かったな」
オドラデクは子供のように本を貪り読んでいた。フランツはそんなに読書を楽しむ気分を自分は長いこと失っていたように感じた。
「他に持ってくるんだった」
「買えばいいでしょ。この町にだって本屋はある」
「俺は語学が得意ではない」
フランツは母国語で書かれた本しか読めない。他の言語も単語ぐらいは幾つか理解出来るが自在に話せたりしない。ぺらぺら喋れるルナ・ペルッツの頭の中がどうなっているのか不思議で仕方がなかった。
「勉強すれば良いんです」
オドラデクがどれだけ多言語を話せるのか、正直想像の埒外のことだった。
「俺は戦うしか出来ないからな」
「なら本なんて持ってこなくて良いでしょう」
上手く返された。
フランツはたじたじとなる。
「まあいいや! 本も良いとこまで読めたし、ぼくがお喋りに付き合ってあげましょう!」
「いらん」
断りながら、フランツは嬉しそうだった。
ホセの無表情な顔を照らす、ヘッドライトだけが白く広がっていった。
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