月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚

浦出卓郎

文字の大きさ
上 下
151 / 526
第一部

第十五話 光と影(7)

しおりを挟む
「やるしかない」

 ルナは心にあるものを念じた。

 途端に物凄い爆音が響いた。続いて炎の燃える音が収まった。

 さっきまでの狂躁が驚くばかりに森閑とした。

「どうした?」

 ズデンカは聞いた。

「確認用の鎧窓を作るね!」

 ルナは急いで言った通りにした。

 炎で焼かれようが、斬られようが動じないズデンカは勢いよく窓を開けて外を見た。

 地面が黒く焼け焦げ、扉もまた同様だった。彎曲して歪な形になりながらよく耐えたものだ。窓から冷気が抜けて外へ広がっていく。

「ブレヒトはどうした?」

 すると猟銃を片腕ごと吹っ飛ばされたブレヒトが地面に仰向きに倒れ伏しているさまが明らかになった。

「ルナ、何をやったんだ?」

 ズデンカは聞いた。

「わたしも銃を作ってみたのさ。見よう見真似だけどね」

 ルナは平静を装いつつ答えた。

 ズデンカは首を伸ばした。確かに鉄の門から突き出るようにして巨大な砲塔が聳え、ブレヒトに向けられていた。

 ブレヒトが何かしてこないように前方だけ固めながら、左右の鉄の門が解除された。

「さあ、逃げろよ」

 ズデンカは気を効かせたのか、ルナとカルメンを後方の森の中へ追いやった。

 ルナは言われた通りにした。冬なのに苔まで湿っていて震える体には堪えたが。

 そうしている間にズデンカが鉄の門越しにブレヒトに話し掛けている声が聞こえた。

「まったくざまあねえぜ。お前の自慢の銃もこれで撃てねえだろうな」

 ブレヒトの声が聞こえた。

「ふふふ、まあ見ていなさい。絶対にあなた方を追い詰めますから。世界の果てであろうともね」

 腕を吹き飛ばされたわりには、余裕のある声だった。うっすらと唇の先に笑みまで浮かんでいたほどだ。

「ハウザーと言い、バッソンピエールと言い、お前らはイかれてる」

 そう吐き捨ててズデンカは鎧窓を閉め、森に入ってルナたちと合流した。

「帰ろうぜ」

 とは言え、またカルメンに乗せていって貰うわけにはいかない。

「カルメン、大丈夫?」

「大丈夫だよぉ」

 元気そうに振る舞っているとは言え、肩を激しく動かし、呼吸は荒かった。

 ルナ本人も温度の急激な変化に動悸を覚えていたが、それは気にならず、カルメンを思って不安になった。

――そうだ。わたしはズデンカに甘えていたんだ。ズデンカは何があっても絶対に死なないから。もう死んでるから。でも、カルメンはそうじゃない。争いに巻き込まれたら、まず殺されてしまう。

 今まで気ままに振る舞い過ぎていた分、相手に気を使わなければならない立場になったら戸惑いが押さえられない。

「お前ら、無理すんなよ」

 先に歩きかけたズデンカが後ろを振り向いて言った。

「休めるところを探さなくちゃいけない」

 ふと思い浮かんだのが、カルメンの家だ。

――でも、あの洞窟。

 登るのにさんざん苦労したことを思い出した。

――一番近いんだし仕方ないか。

「家に案内して! わたしは方向音痴だから」

「わかったぁよ」

 そう言って歩き出すその足はとぼとぼとしている。ルナは心配そうに見やりながら並んで移動した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...