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第一部
第十五話 光と影(7)
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「やるしかない」
ルナは心にあるものを念じた。
途端に物凄い爆音が響いた。続いて炎の燃える音が収まった。
さっきまでの狂躁が驚くばかりに森閑とした。
「どうした?」
ズデンカは聞いた。
「確認用の鎧窓を作るね!」
ルナは急いで言った通りにした。
炎で焼かれようが、斬られようが動じないズデンカは勢いよく窓を開けて外を見た。
地面が黒く焼け焦げ、扉もまた同様だった。彎曲して歪な形になりながらよく耐えたものだ。窓から冷気が抜けて外へ広がっていく。
「ブレヒトはどうした?」
すると猟銃を片腕ごと吹っ飛ばされたブレヒトが地面に仰向きに倒れ伏しているさまが明らかになった。
「ルナ、何をやったんだ?」
ズデンカは聞いた。
「わたしも銃を作ってみたのさ。見よう見真似だけどね」
ルナは平静を装いつつ答えた。
ズデンカは首を伸ばした。確かに鉄の門から突き出るようにして巨大な砲塔が聳え、ブレヒトに向けられていた。
ブレヒトが何かしてこないように前方だけ固めながら、左右の鉄の門が解除された。
「さあ、逃げろよ」
ズデンカは気を効かせたのか、ルナとカルメンを後方の森の中へ追いやった。
ルナは言われた通りにした。冬なのに苔まで湿っていて震える体には堪えたが。
そうしている間にズデンカが鉄の門越しにブレヒトに話し掛けている声が聞こえた。
「まったくざまあねえぜ。お前の自慢の銃もこれで撃てねえだろうな」
ブレヒトの声が聞こえた。
「ふふふ、まあ見ていなさい。絶対にあなた方を追い詰めますから。世界の果てであろうともね」
腕を吹き飛ばされたわりには、余裕のある声だった。うっすらと唇の先に笑みまで浮かんでいたほどだ。
「ハウザーと言い、バッソンピエールと言い、お前らはイかれてる」
そう吐き捨ててズデンカは鎧窓を閉め、森に入ってルナたちと合流した。
「帰ろうぜ」
とは言え、またカルメンに乗せていって貰うわけにはいかない。
「カルメン、大丈夫?」
「大丈夫だよぉ」
元気そうに振る舞っているとは言え、肩を激しく動かし、呼吸は荒かった。
ルナ本人も温度の急激な変化に動悸を覚えていたが、それは気にならず、カルメンを思って不安になった。
――そうだ。わたしはズデンカに甘えていたんだ。ズデンカは何があっても絶対に死なないから。もう死んでるから。でも、カルメンはそうじゃない。争いに巻き込まれたら、まず殺されてしまう。
今まで気ままに振る舞い過ぎていた分、相手に気を使わなければならない立場になったら戸惑いが押さえられない。
「お前ら、無理すんなよ」
先に歩きかけたズデンカが後ろを振り向いて言った。
「休めるところを探さなくちゃいけない」
ふと思い浮かんだのが、カルメンの家だ。
――でも、あの洞窟。
登るのにさんざん苦労したことを思い出した。
――一番近いんだし仕方ないか。
「家に案内して! わたしは方向音痴だから」
「わかったぁよ」
そう言って歩き出すその足はとぼとぼとしている。ルナは心配そうに見やりながら並んで移動した。
ルナは心にあるものを念じた。
途端に物凄い爆音が響いた。続いて炎の燃える音が収まった。
さっきまでの狂躁が驚くばかりに森閑とした。
「どうした?」
ズデンカは聞いた。
「確認用の鎧窓を作るね!」
ルナは急いで言った通りにした。
炎で焼かれようが、斬られようが動じないズデンカは勢いよく窓を開けて外を見た。
地面が黒く焼け焦げ、扉もまた同様だった。彎曲して歪な形になりながらよく耐えたものだ。窓から冷気が抜けて外へ広がっていく。
「ブレヒトはどうした?」
すると猟銃を片腕ごと吹っ飛ばされたブレヒトが地面に仰向きに倒れ伏しているさまが明らかになった。
「ルナ、何をやったんだ?」
ズデンカは聞いた。
「わたしも銃を作ってみたのさ。見よう見真似だけどね」
ルナは平静を装いつつ答えた。
ズデンカは首を伸ばした。確かに鉄の門から突き出るようにして巨大な砲塔が聳え、ブレヒトに向けられていた。
ブレヒトが何かしてこないように前方だけ固めながら、左右の鉄の門が解除された。
「さあ、逃げろよ」
ズデンカは気を効かせたのか、ルナとカルメンを後方の森の中へ追いやった。
ルナは言われた通りにした。冬なのに苔まで湿っていて震える体には堪えたが。
そうしている間にズデンカが鉄の門越しにブレヒトに話し掛けている声が聞こえた。
「まったくざまあねえぜ。お前の自慢の銃もこれで撃てねえだろうな」
ブレヒトの声が聞こえた。
「ふふふ、まあ見ていなさい。絶対にあなた方を追い詰めますから。世界の果てであろうともね」
腕を吹き飛ばされたわりには、余裕のある声だった。うっすらと唇の先に笑みまで浮かんでいたほどだ。
「ハウザーと言い、バッソンピエールと言い、お前らはイかれてる」
そう吐き捨ててズデンカは鎧窓を閉め、森に入ってルナたちと合流した。
「帰ろうぜ」
とは言え、またカルメンに乗せていって貰うわけにはいかない。
「カルメン、大丈夫?」
「大丈夫だよぉ」
元気そうに振る舞っているとは言え、肩を激しく動かし、呼吸は荒かった。
ルナ本人も温度の急激な変化に動悸を覚えていたが、それは気にならず、カルメンを思って不安になった。
――そうだ。わたしはズデンカに甘えていたんだ。ズデンカは何があっても絶対に死なないから。もう死んでるから。でも、カルメンはそうじゃない。争いに巻き込まれたら、まず殺されてしまう。
今まで気ままに振る舞い過ぎていた分、相手に気を使わなければならない立場になったら戸惑いが押さえられない。
「お前ら、無理すんなよ」
先に歩きかけたズデンカが後ろを振り向いて言った。
「休めるところを探さなくちゃいけない」
ふと思い浮かんだのが、カルメンの家だ。
――でも、あの洞窟。
登るのにさんざん苦労したことを思い出した。
――一番近いんだし仕方ないか。
「家に案内して! わたしは方向音痴だから」
「わかったぁよ」
そう言って歩き出すその足はとぼとぼとしている。ルナは心配そうに見やりながら並んで移動した。
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