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第一部
第十五話 光と影(6)
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「焼灼《ヴァーブレヌング》!」
――さっきの火柱を放った技だ! この膜じゃきっと持たない!
ルナは咄嗟に鉄の門を想像した。
火の玉はやがて大きな炎のかたまりとなり、ブレヒトの掌からルナたちへ向けて一気に噴出した。
すると巨大な鉄の扉が突如現れ出で、ブレヒトとルナたちの間を隔てた。
鉄の門は物凄い音を立てながら、左右から円状に押し寄せてきて、ルナたちの四方を防いだ。
「素晴らしい、実に素晴らしいですよ! ルナ・ペルッツ!」
手を叩く音が門の外側で聞こえた。
「貴女のどのような幻想でも現実化させる能力、ぜひ我々の手に入れたいものです! われわれでは一つや二つが精一杯。このように炎を扱えはしますが」
激しい発砲の音がした。それとともに鉄の門が激しく揺れた。
「見せることが出来ぬのが残念ですが、このように炎の玉すら発射することが出来る。しかし例えば水を逆巻きにしたり、大地を両断する力は私にはない。森羅万象を操る力が私は欲しい」
ブレヒトの声が聞こえる。
「へっ、だからどうした。お前はここまでは攻めて来れないだろうがよ!」
ズデンカは勢いよく罵った。
「あっ、あれぇ!」
カルメンが頭上を指さした。
炎の熱い球体が円形に囲んだ鉄の扉の頭上からルナたちへ落ちこようとしていたのだ。
「大変だ!」
ルナも急いで鉄で出来た天蓋を想像し、すぐさまそれは実体化した。
「ほら見ろどうだ。手出しが出来ねえだろうがよ!」
ズデンカはざまあないぜとばかりに叫んだ。
だが自然とルナたちは鉄の檻の中に閉じ込められるかたちになっていた。
「鉄は熱くなる」
ブレヒトはぽつりと言った。
激しい劫火の音が門の外から響いてきた。
「しまった! あいつ、中からわたしたちを茹で殺す気だ」
ルナは気付いて叫んだ。
「殺しはしませんよ。ただちょっと苦しい思いはするかも知れませんけどね!」
炎が鉄の門を焼く音がする。絶える間もなかった。鉄の板が激しく熱され、湯気があがるほどだった。
円形の空間に閉じこもった三人は、出来るだけ中央部に身を寄せ合った。
「クソッ、やつが繰り出せる炎は無限かよ。あたし一人だけなら何とかなるが……」
カルメンもルナも熱気を浴びてぐったりしていた。
――暑い。
ルナがカルメンをぐっと抱きしめた。
――ズデンカは死なない。わたしは生かされる。ブレヒトにとって不要なのはカルメンだ。すぐに殺すだろう。絶対に死なせちゃいけない!
ルナはこの円形の空間のみを満た涼しさを想像した。
とたんに涼しくなった。地面に氷が貼っていた。周りはひんやりとして、カルメンも目を開いた。
「何とか切り抜けたか?」
ズデンカは言った。
「ふふふ、外まで冷気が吹雪いてくるほどですよ。まったくどこまでも抵抗してくださいますね。しかし、このままずっといたらどうなります。あなたたちは凍死します。氷を消したら、ただちに炎が押し寄せる。何度繰り返してもよろしいですが、はたして身体が持つでしょうか? 鉄の門を消して降参しない限り、あなたたちは死にますよ」
ブレヒトは元猟師と言うには慇懃過ぎるほど丁寧な口調で言った。
「何とかしなきゃ、何とかしなきゃ……」
ルナは頭を抱えた。
――わたしが、何かしないとこのままじゃあ……カルメン。
カルメンの心臓がどれだけ強くても暑くなり寒くなりを繰り返していたら弱っていくのは確実だ。
――さっきの火柱を放った技だ! この膜じゃきっと持たない!
ルナは咄嗟に鉄の門を想像した。
火の玉はやがて大きな炎のかたまりとなり、ブレヒトの掌からルナたちへ向けて一気に噴出した。
すると巨大な鉄の扉が突如現れ出で、ブレヒトとルナたちの間を隔てた。
鉄の門は物凄い音を立てながら、左右から円状に押し寄せてきて、ルナたちの四方を防いだ。
「素晴らしい、実に素晴らしいですよ! ルナ・ペルッツ!」
手を叩く音が門の外側で聞こえた。
「貴女のどのような幻想でも現実化させる能力、ぜひ我々の手に入れたいものです! われわれでは一つや二つが精一杯。このように炎を扱えはしますが」
激しい発砲の音がした。それとともに鉄の門が激しく揺れた。
「見せることが出来ぬのが残念ですが、このように炎の玉すら発射することが出来る。しかし例えば水を逆巻きにしたり、大地を両断する力は私にはない。森羅万象を操る力が私は欲しい」
ブレヒトの声が聞こえる。
「へっ、だからどうした。お前はここまでは攻めて来れないだろうがよ!」
ズデンカは勢いよく罵った。
「あっ、あれぇ!」
カルメンが頭上を指さした。
炎の熱い球体が円形に囲んだ鉄の扉の頭上からルナたちへ落ちこようとしていたのだ。
「大変だ!」
ルナも急いで鉄で出来た天蓋を想像し、すぐさまそれは実体化した。
「ほら見ろどうだ。手出しが出来ねえだろうがよ!」
ズデンカはざまあないぜとばかりに叫んだ。
だが自然とルナたちは鉄の檻の中に閉じ込められるかたちになっていた。
「鉄は熱くなる」
ブレヒトはぽつりと言った。
激しい劫火の音が門の外から響いてきた。
「しまった! あいつ、中からわたしたちを茹で殺す気だ」
ルナは気付いて叫んだ。
「殺しはしませんよ。ただちょっと苦しい思いはするかも知れませんけどね!」
炎が鉄の門を焼く音がする。絶える間もなかった。鉄の板が激しく熱され、湯気があがるほどだった。
円形の空間に閉じこもった三人は、出来るだけ中央部に身を寄せ合った。
「クソッ、やつが繰り出せる炎は無限かよ。あたし一人だけなら何とかなるが……」
カルメンもルナも熱気を浴びてぐったりしていた。
――暑い。
ルナがカルメンをぐっと抱きしめた。
――ズデンカは死なない。わたしは生かされる。ブレヒトにとって不要なのはカルメンだ。すぐに殺すだろう。絶対に死なせちゃいけない!
ルナはこの円形の空間のみを満た涼しさを想像した。
とたんに涼しくなった。地面に氷が貼っていた。周りはひんやりとして、カルメンも目を開いた。
「何とか切り抜けたか?」
ズデンカは言った。
「ふふふ、外まで冷気が吹雪いてくるほどですよ。まったくどこまでも抵抗してくださいますね。しかし、このままずっといたらどうなります。あなたたちは凍死します。氷を消したら、ただちに炎が押し寄せる。何度繰り返してもよろしいですが、はたして身体が持つでしょうか? 鉄の門を消して降参しない限り、あなたたちは死にますよ」
ブレヒトは元猟師と言うには慇懃過ぎるほど丁寧な口調で言った。
「何とかしなきゃ、何とかしなきゃ……」
ルナは頭を抱えた。
――わたしが、何かしないとこのままじゃあ……カルメン。
カルメンの心臓がどれだけ強くても暑くなり寒くなりを繰り返していたら弱っていくのは確実だ。
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