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第一部
第十四話 影と光(8)
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「いや、推測だってだけだ。犯人の目星はついてる」
「教えろ」
ズデンカは身を乗り出すルキウスを手で制止した。
「まあ待て。あたしは最初犯人は皇帝じゃないかと思ってたんだ。何しろ権力があるんだからな。人を動かせる」
「当然だ。私を殺すのは皇帝以外にありえない」
少年は冷たく言った。
「いや、セウェルスってこともありえるとあたしは考えた。牢獄から出され、お前の死後にやつは出世したようだからな」
「嘘だ。誰からそんな話を聞いた?」
「スキピオってやつの日記からの情報だ。知らないか?」
「お調子者の嘘吐きだ。あいつは信ずるに足りない」
ルキウスの顔が歪んだ。
「ほとんど手掛かりがないあたしにとっちゃ参考になったよ」
「所詮お前なぞに見付ける出すことは出来なかったのだな」
「まあ勝手に言っててくれ。で、続いて犯人だと考えたのが衛兵アウレリウス。お前、こいつと喧嘩したろ?」
「ああ。やつが気に食わないことを言ってきたからだ」
「皇帝に仕えていたやつの日記だと、お前から罵倒していたことになってたぞ」
「笑止。常日頃よりアウレリウスは私を馬鹿にしていた」
「槍投げで勝負した相手だ。お前を殺すことも出来るだろう」
「ふん」
ルキウスは腕を組んで鼻を鳴らした。
――小憎たらしいな、こいつ。わざわざ説明してやってるのに。
とは思いつつズデンカは話を続けた。
「誰もがお前を殺す動機はあるし、ありえる話だ。それぐらいお前は憎まれていた。皇帝の慰み者になっていたのは気の毒だが、喧嘩を売りまくったのがまずかったな」
「私を殺したのは誰だ」
「はあ~!」
ズデンカは額を押さえた。
「全員だよ。お前はどう考えても不要だと判断されたのだろう。皇帝がセウェルスと共謀し、アウレリウスが実行した」
「ありえん、兄は何度も私を庇ったのだ!」
ルキウスは声を荒げた。
「じゃあ、宮廷で何度も皇帝と話してたのはなぜなんだよ」
「知らん。それに兄は廷臣だ……そう言うこともあろう」
ルキウスの顔が曇り始めた。
「お前の兄は政治家だ。弟に対して良い顔をするのは慣れているだろう」
そうは言っても、これ以上は話しても言い合いが続くだけだとズデンカは思った。どれだけ証拠を突き付けてもルキウスは納得しないだろう。兄を信じ切っているのだ。
ルキウスが過去に囚われる幽霊である以上、根本的に考えを変えるのは難しいのかも知れない。
「私はどうやって殺されたのだ?」
ルキウスも同じように思ったのだろうか、話を変えてきた。
「最初あたしは闘技場内から座席を踏み台にして槍を投げたと思った。だが、本を読むと物見櫓から槍を投げたものにも思えた。結局、答えはどっちでもいいんだよ。現代でそれを確かめることは無理だ。連中はお前を殺せさえすれば、どこから槍を投げてもよかったんだな」
「ふん、推測か」
「ああ、それは先に言っといたろ。お前がそれが受け入れるか、受け入れないかは自由だけどな」
ルキウスは黙った。
「さらにその推測に推測を重ねさせてもらう。歴史学者は唾棄するだろうが、あたしは単に自分の楽しみで調べただけだからな」
「何が言いたい」
「これだよ」
ズデンカは麻袋を地面に下ろし、中からあるものを取り出した。
「鏡……?」
ルキウスは眼を見張った。
「お前がいた時代からあっただろ?」
ズデンカは鏡を相手の前へ差し出した。
「教えろ」
ズデンカは身を乗り出すルキウスを手で制止した。
「まあ待て。あたしは最初犯人は皇帝じゃないかと思ってたんだ。何しろ権力があるんだからな。人を動かせる」
「当然だ。私を殺すのは皇帝以外にありえない」
少年は冷たく言った。
「いや、セウェルスってこともありえるとあたしは考えた。牢獄から出され、お前の死後にやつは出世したようだからな」
「嘘だ。誰からそんな話を聞いた?」
「スキピオってやつの日記からの情報だ。知らないか?」
「お調子者の嘘吐きだ。あいつは信ずるに足りない」
ルキウスの顔が歪んだ。
「ほとんど手掛かりがないあたしにとっちゃ参考になったよ」
「所詮お前なぞに見付ける出すことは出来なかったのだな」
「まあ勝手に言っててくれ。で、続いて犯人だと考えたのが衛兵アウレリウス。お前、こいつと喧嘩したろ?」
「ああ。やつが気に食わないことを言ってきたからだ」
「皇帝に仕えていたやつの日記だと、お前から罵倒していたことになってたぞ」
「笑止。常日頃よりアウレリウスは私を馬鹿にしていた」
「槍投げで勝負した相手だ。お前を殺すことも出来るだろう」
「ふん」
ルキウスは腕を組んで鼻を鳴らした。
――小憎たらしいな、こいつ。わざわざ説明してやってるのに。
とは思いつつズデンカは話を続けた。
「誰もがお前を殺す動機はあるし、ありえる話だ。それぐらいお前は憎まれていた。皇帝の慰み者になっていたのは気の毒だが、喧嘩を売りまくったのがまずかったな」
「私を殺したのは誰だ」
「はあ~!」
ズデンカは額を押さえた。
「全員だよ。お前はどう考えても不要だと判断されたのだろう。皇帝がセウェルスと共謀し、アウレリウスが実行した」
「ありえん、兄は何度も私を庇ったのだ!」
ルキウスは声を荒げた。
「じゃあ、宮廷で何度も皇帝と話してたのはなぜなんだよ」
「知らん。それに兄は廷臣だ……そう言うこともあろう」
ルキウスの顔が曇り始めた。
「お前の兄は政治家だ。弟に対して良い顔をするのは慣れているだろう」
そうは言っても、これ以上は話しても言い合いが続くだけだとズデンカは思った。どれだけ証拠を突き付けてもルキウスは納得しないだろう。兄を信じ切っているのだ。
ルキウスが過去に囚われる幽霊である以上、根本的に考えを変えるのは難しいのかも知れない。
「私はどうやって殺されたのだ?」
ルキウスも同じように思ったのだろうか、話を変えてきた。
「最初あたしは闘技場内から座席を踏み台にして槍を投げたと思った。だが、本を読むと物見櫓から槍を投げたものにも思えた。結局、答えはどっちでもいいんだよ。現代でそれを確かめることは無理だ。連中はお前を殺せさえすれば、どこから槍を投げてもよかったんだな」
「ふん、推測か」
「ああ、それは先に言っといたろ。お前がそれが受け入れるか、受け入れないかは自由だけどな」
ルキウスは黙った。
「さらにその推測に推測を重ねさせてもらう。歴史学者は唾棄するだろうが、あたしは単に自分の楽しみで調べただけだからな」
「何が言いたい」
「これだよ」
ズデンカは麻袋を地面に下ろし、中からあるものを取り出した。
「鏡……?」
ルキウスは眼を見張った。
「お前がいた時代からあっただろ?」
ズデンカは鏡を相手の前へ差し出した。
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