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第一部
第十四話 影と光(4)
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ルナは手付きが不器用なので、ズデンカはいつも手伝ってやっており、こう言うことには慣れていた。
古代の歴代皇帝についての記録は思ったよりたくさんあった。ただよく引き比べてみると、大概は幾つかの一次文献を出典としており、全部似たような内容であることが分かった。
――ケッ、調査を怠りやがって。
先人に毒突きながらも、一次文献を読み込んでいくズデンカ。
当時の言葉で書かれていたが辞書を引き引き読み進めていく。
――まあ、読めるな。
列伝のようでさまざまな名前と略歴が並んでいた。その中にセウェルスの名前があった。と言っても何人も同じ名前の者がおり、誰があの少年の兄だか判別が付かない。
だがその中で気になる記述を見付けた。
「カドモス帝の寵愛を受く」だ。
――あいつの兄は皇帝から嫌われていたようだ。なら違うか。
だが誤伝と言うことも考えられる。そもそもカドモス帝も同じ名前が多く存在するのだ。
だが、その脚注として小さく、
「弟ルキウスは穏謀《おんぼう》の嫌疑によりて猟中殺さる。又曰《またいわく》、兄の讒訴によるものなりと」
とある。この文献が成立したのが帝国が滅びて百年ちょっと後らしいので、どこまで正確かは分からない。
少年が「弟ルキウス」なのだろうか。
「穏謀」と言うことはルキウスは皇帝に対して反逆の意志を持っていたということになる。
それに、「猟中」では少年の言う闘技場での死とかなり話が違う。
また「讒訴」と言うことは早い話、セウェルスがルキウスを皇帝に密告したのだろうか。
だが、あの少年は兄の関与を否定していた。命の危険を冒して、弟を辱めた帝を批判した兄だ。それに牢獄の中にいるのに、そこから弟を殺すことは難しいではないか。
どちらにしても「又曰」だから噂話の域を出ない。
「うーむ、わからん!」
静かに本を読んでいる周りが振り返るぐらい大声を上げて頭を抱えてしまい、ズデンカは焦った。
当時の墓はもうほとんど残されていないという。あの少年のものもそう簡単に見つけ出すことは出来ないだろう。
だが幸い断片的にカドモス帝に仕えた詩人スキピオが日記を残しており、書籍になっているものから、気になる記述を探り始めた。
「六月三日 セウェルスの元へ行く。不在
(中略)
六月十五日 セウェルスの元へ向かう。ルキウスと会う。秋期の猟の相談」
確かに名前を見出すことが出来た。だがどうでもいい政治や豆知識などの情報も多く、欠落分もあり、ズデンカは歯がゆい思いをするばかりだった。
「十月十五日、闘技場に行く。セウェルスの件誠に気の毒。□□□。ルキウス□□□」
――大事なとこで文字が欠けてやがる!
また、叫んでしまいそうになったズデンカだった。
どちらにせよ何か闘技場で起こったらしい。目を皿のようにして読み進めた。
「十月二十日 ルキウス死す。闘技場に於いて□□□」
――よっしゃあ!
見つけ出した時、ズデンカは思わず跳ね踊りたくなった。
辛うじて押さえたが。
何が起こったのかは分からないが、ルキウスは間違いなく闘技場で死んだのだ。セウェルスとスキピオはその後も何度も猟に出ている。このあたりから誤伝したのだろう。
少なくともルキウスの死後もセウェルスは存命し、しかも牢獄からは出されたことが明らかになった。
――ここからすぐに浮かんでくる推測がある。
ルキウスの死によってセウェルスは無罪放免になったと言うことだ。
なら、やはりルキウスを殺したのはセウェルスなのだろうか。ズデンカは考えを進めた。
古代の歴代皇帝についての記録は思ったよりたくさんあった。ただよく引き比べてみると、大概は幾つかの一次文献を出典としており、全部似たような内容であることが分かった。
――ケッ、調査を怠りやがって。
先人に毒突きながらも、一次文献を読み込んでいくズデンカ。
当時の言葉で書かれていたが辞書を引き引き読み進めていく。
――まあ、読めるな。
列伝のようでさまざまな名前と略歴が並んでいた。その中にセウェルスの名前があった。と言っても何人も同じ名前の者がおり、誰があの少年の兄だか判別が付かない。
だがその中で気になる記述を見付けた。
「カドモス帝の寵愛を受く」だ。
――あいつの兄は皇帝から嫌われていたようだ。なら違うか。
だが誤伝と言うことも考えられる。そもそもカドモス帝も同じ名前が多く存在するのだ。
だが、その脚注として小さく、
「弟ルキウスは穏謀《おんぼう》の嫌疑によりて猟中殺さる。又曰《またいわく》、兄の讒訴によるものなりと」
とある。この文献が成立したのが帝国が滅びて百年ちょっと後らしいので、どこまで正確かは分からない。
少年が「弟ルキウス」なのだろうか。
「穏謀」と言うことはルキウスは皇帝に対して反逆の意志を持っていたということになる。
それに、「猟中」では少年の言う闘技場での死とかなり話が違う。
また「讒訴」と言うことは早い話、セウェルスがルキウスを皇帝に密告したのだろうか。
だが、あの少年は兄の関与を否定していた。命の危険を冒して、弟を辱めた帝を批判した兄だ。それに牢獄の中にいるのに、そこから弟を殺すことは難しいではないか。
どちらにしても「又曰」だから噂話の域を出ない。
「うーむ、わからん!」
静かに本を読んでいる周りが振り返るぐらい大声を上げて頭を抱えてしまい、ズデンカは焦った。
当時の墓はもうほとんど残されていないという。あの少年のものもそう簡単に見つけ出すことは出来ないだろう。
だが幸い断片的にカドモス帝に仕えた詩人スキピオが日記を残しており、書籍になっているものから、気になる記述を探り始めた。
「六月三日 セウェルスの元へ行く。不在
(中略)
六月十五日 セウェルスの元へ向かう。ルキウスと会う。秋期の猟の相談」
確かに名前を見出すことが出来た。だがどうでもいい政治や豆知識などの情報も多く、欠落分もあり、ズデンカは歯がゆい思いをするばかりだった。
「十月十五日、闘技場に行く。セウェルスの件誠に気の毒。□□□。ルキウス□□□」
――大事なとこで文字が欠けてやがる!
また、叫んでしまいそうになったズデンカだった。
どちらにせよ何か闘技場で起こったらしい。目を皿のようにして読み進めた。
「十月二十日 ルキウス死す。闘技場に於いて□□□」
――よっしゃあ!
見つけ出した時、ズデンカは思わず跳ね踊りたくなった。
辛うじて押さえたが。
何が起こったのかは分からないが、ルキウスは間違いなく闘技場で死んだのだ。セウェルスとスキピオはその後も何度も猟に出ている。このあたりから誤伝したのだろう。
少なくともルキウスの死後もセウェルスは存命し、しかも牢獄からは出されたことが明らかになった。
――ここからすぐに浮かんでくる推測がある。
ルキウスの死によってセウェルスは無罪放免になったと言うことだ。
なら、やはりルキウスを殺したのはセウェルスなのだろうか。ズデンカは考えを進めた。
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