上 下
114 / 526
第一部

第十一話 詐欺師の楽園(16)

しおりを挟む
 目が覚めると、実験室の寝台の上にいた。

 わたしは隣を見た。

 すると、いるはずの存在がいなかった。繋げられた半身が消えていたんだ。

 脇腹には皮膚が抉れた痕が――君も見たことがあるだろうけど、今も残る痕が出来ていた。

「ビビッシェ!」

 わたしはまず声を上げていた。毛布をはねのける。

 すると駆け寄ってきた誰かに強く抱きしめられた。

 ステラだった。

「ビビッシェ! ビビッシェはどこへいったの?」

「気にするな! 気にするな!」

 ステラは怒鳴っていた。

 わたしを気にして言ってくれていたんだって、今ならわかるよ。

 ふふふ、照れなくていい。

 わたしは次第に気を失う前に起こったことを思い出していった。

 震えが止まらなくなった。目の前にハウザーがまた現れたらと思うと怖くて仕方がない。

 ステラに話を聞くと、わたしは手術を受けてから十日近く眠っていたらしい。

 よほど疲れていたのか、自分が起こした奇跡的な力にはそれほどの代償が必要なのか。わたしは色々考えてみたけど、その時は答えがでなかった。

 相変わらずお腹は減った。どんな時でも空いちゃうよね。

 どっさりとはいかなかったけど、ステラが集めてくれたパンや作ってくれたスープをたくさんお腹の中に放り込んださ。

 だけど、また実験室の鎧戸がノックされた。

 ハウザーがやってきたんだ。

 有無を言わず扉は開かれる。

 わたしは即座に視線を逸らした。もうなにも話したくない。

「ビビッシェがどうなったか知りたいんだろう」

 ハウザーはわたしが思っていることを先回りしてきた。

「だって君の双子の妹だもんね。つい最近まで『繋がって』いた」

 わたしは何も答えなかった。

「用済みになった。だから、切り離した。君はある種の力を持っていたが、彼女には欠片もなかった。不要だ」

 黙っていたが、わたしは手を握りしめていた。そこになぜか力が籠もった。

「繋いでみて思ったがやっぱり、別々の人間を双子にするのは無理がある。いかさまの類いだ。処分するしかないね」

「……」
「十日間、じっくり君の身体を調べさせて貰った。それで分かったんだが」

 思わずわたしは寝台から身を起こしていた。

 逃げだそうとしたんだ。

 でも、出来る訳がなかった。

 弱い力で肩を押さえられていた。身を振りほどけばすぐにでも離れられそうなくらい。

 でも。

 冷たいものを首筋に感じた。

「話はまだ終わってない」

 頸動脈へメスが突き出されていたのだ。少しでも動けば切れてしまう。

 わたしは唾を飲むことすら出来なかった。

 「君には幻想を実体化させる、不思議な力があるらしい。幻想って言ってもぼんやりしてるな。頭の中に思い付いたことを出現させられるって訳だ。ほんとうに、大した能力だ」

「……」

「調べなくちゃいけないことは、たくさん残っている」

 メスがおろされた。

 わたしはほっと息を吐いた。

「俺は、この能力を他の人間に移植できないかと考えているんだ。思念を武器に出来る。こんなに強いことがあるかい? 既に親衛部に特殊工作部隊を作っている。彼らにこの力を与えられたら、こんなに素晴らしいことはないだろう」

 ハウザーはなお後ろに振り向けないわたしの耳元で恍惚と言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...