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第一部
第十一話 詐欺師の楽園(7)
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急いで立ち上がり、体勢を整え直すズデンカ。
粉塵が流れ去ると、紫の長い髪の少女が進んできた。
どうもズデンカはこの少女に蹴りを入れられたらしい。
「初めまして。私はルツィドール・バッソンピエール。新特殊工作部隊『詐欺師の楽園』席次二。よろしくね」
スワスティカの制服だが、スカート付きに仕立て直されている。その両端をちょんと摘まんで、膝を屈めてお辞儀をした。
「どうやってそんな怪力を出した?」
ズデンカは相手の目を見た。
「教えない」
ルツィドールは即座に距離を縮め、懐へ潜り込もうとしてくる。
拳が繰り出された。
ズデンカは避けるので精一杯だった。
ルナと離れてしまったことが気がかりで、急いで戻ろうとするが、その度に立ちふさがられる。
「あなたの相手は私だよ?」
「あたしはお前に用はないんだよ!」
尋常ではない力を持っているズデンカと互角に対抗出来るほどだ。ルツィドールもなにか能力を持っているのかも知れない。
「ハウザーさまはルナ・ペルッツに用があるんだよ。あなたじゃない」
「ルナは喋れる状態じゃねえんだぞ」
と、ルナの方へ視線を送る。既にハウザーに連れ去れてしまったのではないかと心配だったが、そうではなかった。
小さな影が、呆然としているルナの前に立ってハウザーが近寄るのを許さないのだ。
大蟻喰だった。
「尾けてきて正解だった。ハウザー、貴様には指一本たりとも、ルナの身体に触らせはしないよ」
「これはこれはステラ・ベンヤミン。久しぶり。随分変わったね」
「気安くその名前で呼ぶな! もう捨てたんだ」
珍しく顔に怒りを滲ませて、大蟻喰は言った。
「じゃあ、なんと呼べばいいのかな?」
オーバーに手を広げ、薄ら笑みを浮かべながらハウザーは言った。
大蟻喰は答えず手を大きく振り払ってハウザーの腹を抉った。
かに見えた。
眼にも止まらぬ早さでハウザーは身を引いていた。
「危ない危ない。殺されてしまうとこだった」
とはいいながら、笑みを崩さないハウザー。
「死ねよ!」
大蟻喰はまたハウザーを攻撃した。その度にびょんびょんと動いて躱される。
「君の怒りはどこから来るのかな? やはり近い個体を殺されたことからだろうか?」
「お前が鬱陶しいからだよ」
本心を隠しながら、大蟻喰はハウザーを攻撃し続けた。
「ハウザーさま!」
ズデンカと向かい合っていたルツィドールが、それを見て大蟻喰に駆け寄ろうとしたが、逆にハウザーに後ろから蹴倒された。
「俺はヴルダラクの相手をしろって言ったよな」
笑顔のまま、ハウザーはルツィドールの頭を踏みつけた。
「は……い」
地面に生えている青草を口の中では見ながらルツィドールは答えた。
「せっかく、廃棄物の中から見付けてやったんだから、言うことは聞け」
足を退けると、ルツィドールは立ち上がった。
その間にズデンカは大蟻喰と左右からルナを抱きかかえ逃げ出していた。事前に口裏を合わせられる訳もないが、二人は自然とそうに動いていたのだ。
「やつは嗜虐心を覚えると我を忘れるらしい、そこが弱点だな」
ズデンカは走りながら言った。短い会話だけで相手の性格を見切り、とっさに行動したのだった。
粉塵が流れ去ると、紫の長い髪の少女が進んできた。
どうもズデンカはこの少女に蹴りを入れられたらしい。
「初めまして。私はルツィドール・バッソンピエール。新特殊工作部隊『詐欺師の楽園』席次二。よろしくね」
スワスティカの制服だが、スカート付きに仕立て直されている。その両端をちょんと摘まんで、膝を屈めてお辞儀をした。
「どうやってそんな怪力を出した?」
ズデンカは相手の目を見た。
「教えない」
ルツィドールは即座に距離を縮め、懐へ潜り込もうとしてくる。
拳が繰り出された。
ズデンカは避けるので精一杯だった。
ルナと離れてしまったことが気がかりで、急いで戻ろうとするが、その度に立ちふさがられる。
「あなたの相手は私だよ?」
「あたしはお前に用はないんだよ!」
尋常ではない力を持っているズデンカと互角に対抗出来るほどだ。ルツィドールもなにか能力を持っているのかも知れない。
「ハウザーさまはルナ・ペルッツに用があるんだよ。あなたじゃない」
「ルナは喋れる状態じゃねえんだぞ」
と、ルナの方へ視線を送る。既にハウザーに連れ去れてしまったのではないかと心配だったが、そうではなかった。
小さな影が、呆然としているルナの前に立ってハウザーが近寄るのを許さないのだ。
大蟻喰だった。
「尾けてきて正解だった。ハウザー、貴様には指一本たりとも、ルナの身体に触らせはしないよ」
「これはこれはステラ・ベンヤミン。久しぶり。随分変わったね」
「気安くその名前で呼ぶな! もう捨てたんだ」
珍しく顔に怒りを滲ませて、大蟻喰は言った。
「じゃあ、なんと呼べばいいのかな?」
オーバーに手を広げ、薄ら笑みを浮かべながらハウザーは言った。
大蟻喰は答えず手を大きく振り払ってハウザーの腹を抉った。
かに見えた。
眼にも止まらぬ早さでハウザーは身を引いていた。
「危ない危ない。殺されてしまうとこだった」
とはいいながら、笑みを崩さないハウザー。
「死ねよ!」
大蟻喰はまたハウザーを攻撃した。その度にびょんびょんと動いて躱される。
「君の怒りはどこから来るのかな? やはり近い個体を殺されたことからだろうか?」
「お前が鬱陶しいからだよ」
本心を隠しながら、大蟻喰はハウザーを攻撃し続けた。
「ハウザーさま!」
ズデンカと向かい合っていたルツィドールが、それを見て大蟻喰に駆け寄ろうとしたが、逆にハウザーに後ろから蹴倒された。
「俺はヴルダラクの相手をしろって言ったよな」
笑顔のまま、ハウザーはルツィドールの頭を踏みつけた。
「は……い」
地面に生えている青草を口の中では見ながらルツィドールは答えた。
「せっかく、廃棄物の中から見付けてやったんだから、言うことは聞け」
足を退けると、ルツィドールは立ち上がった。
その間にズデンカは大蟻喰と左右からルナを抱きかかえ逃げ出していた。事前に口裏を合わせられる訳もないが、二人は自然とそうに動いていたのだ。
「やつは嗜虐心を覚えると我を忘れるらしい、そこが弱点だな」
ズデンカは走りながら言った。短い会話だけで相手の性格を見切り、とっさに行動したのだった。
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