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第一部
第十一話 詐欺師の楽園(4)
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ほっと安心した刹那。
大きく地面が揺れた。
最初は地震かと思った。この地方で起こることは珍しいが、大きく揺れる時もある。だが、普通はあまり揺れることもないし被害も少なかった。
ズデンカが起こそうとすると、ルナはぱっちりと眼を開けた。
「なんだろうね」
まだ揺れが続く中、静かに机へ近づいて、ランプの明かりを付ける。
窓を引き開けた。
月明かりに照らされて、街の北方に鬱蒼と繁る樹々が見えた。
それだけならいつもと変わりない風景だろう。
しかし、同じく月に照らされて、奇妙なかたちのものがこちらに進んできているのだった。
それは、鳥だった。
だが鳥なら空を飛ぶはずだ。しかし、この鳥は地面を歩いている。
「あれはドードーだよ」
ルナが言った。
「絶滅しただろ」
ズデンカも知っていた。図鑑でしか見たことがなかったが。
巨大なドードー鳥がこちらへ向けて近づいてきていたのだ。
しかも、その全身は黄金で作られていた。鍍金ではなく、純金を溶かして固めたもののようだった。足の代わりにその下半部には蒸気機関車のような幾つもの動輪が設置され、主連棒に繋がれながら回転していた。
翼はそもそも羽ばたきもせず、そういうかたちに似せて作られているだけだった。真に迫るように彫られ、宝石などが象嵌されている。
いわば偽物の鳥なのだ。
車輪は樹々を踏み倒し、幹を砕いてもなお平気なようだった。
「街に迫ってるよ」
ルナは言った。
あの勢いなら、瞬く間にパピーニを占拠してしまうだろう。
轟音が響いた。
ドードー鳥の翼の部分が開いて、大砲が現れ、街に向けて発射したのだ。
街一番の大聖堂の穹窿が崩れ落ち、燃え上がっていた。
騒ぎの声は広がり、二人が泊まっている宿屋の周辺まで人で溢れ始めた。
「出るぞ」
ズデンカは立ち上がり、ランプを吹き消した。
ルナの手を取って走り出す。
「ふわぁー。まあ逃げるしかないか」
ルナはあくびをしながら言った。
押し寄せる人混みにぶつかりながら、ズデンカは先へ進んだ。
出来るだけ人が少なく、街の外へ出られそうな道を選ぶ。
「他のやつを守ってやろうなんてしないよな」
走りながらズデンカは念押しをした。
「もちろん」
ルナはあっけらかんと答えた。
だが、人気のない道を選んだはずなのに、目の前に少し森が見えてきたかと思うと、ドードーは車輪を駆動させて回り込んできた。
「チッ!」
ズデンカは舌打ちした。
ズデンカ一人だけなら何とかなりそうだったが、ルナを連れているのでとても撒くことはできなかった。
「なんであたしらを追い回してくるんだよ!」
ズデンカはがなった。
最初は街を襲うことが目的かと思っていたが、どうもそうではないようだ。
「それは俺が、君たちに会いたいからだよ」
冷たい声が、夜の闇の中で大きく響いた。
どうも拡声器を使っているらしい。
「フロイライン・ペルッツ。俺を覚えてるよね」
妙に馴れ馴れしい口調で話し掛けてきた。
握っている手が震えていることにズデンカは気付いた。
大きく地面が揺れた。
最初は地震かと思った。この地方で起こることは珍しいが、大きく揺れる時もある。だが、普通はあまり揺れることもないし被害も少なかった。
ズデンカが起こそうとすると、ルナはぱっちりと眼を開けた。
「なんだろうね」
まだ揺れが続く中、静かに机へ近づいて、ランプの明かりを付ける。
窓を引き開けた。
月明かりに照らされて、街の北方に鬱蒼と繁る樹々が見えた。
それだけならいつもと変わりない風景だろう。
しかし、同じく月に照らされて、奇妙なかたちのものがこちらに進んできているのだった。
それは、鳥だった。
だが鳥なら空を飛ぶはずだ。しかし、この鳥は地面を歩いている。
「あれはドードーだよ」
ルナが言った。
「絶滅しただろ」
ズデンカも知っていた。図鑑でしか見たことがなかったが。
巨大なドードー鳥がこちらへ向けて近づいてきていたのだ。
しかも、その全身は黄金で作られていた。鍍金ではなく、純金を溶かして固めたもののようだった。足の代わりにその下半部には蒸気機関車のような幾つもの動輪が設置され、主連棒に繋がれながら回転していた。
翼はそもそも羽ばたきもせず、そういうかたちに似せて作られているだけだった。真に迫るように彫られ、宝石などが象嵌されている。
いわば偽物の鳥なのだ。
車輪は樹々を踏み倒し、幹を砕いてもなお平気なようだった。
「街に迫ってるよ」
ルナは言った。
あの勢いなら、瞬く間にパピーニを占拠してしまうだろう。
轟音が響いた。
ドードー鳥の翼の部分が開いて、大砲が現れ、街に向けて発射したのだ。
街一番の大聖堂の穹窿が崩れ落ち、燃え上がっていた。
騒ぎの声は広がり、二人が泊まっている宿屋の周辺まで人で溢れ始めた。
「出るぞ」
ズデンカは立ち上がり、ランプを吹き消した。
ルナの手を取って走り出す。
「ふわぁー。まあ逃げるしかないか」
ルナはあくびをしながら言った。
押し寄せる人混みにぶつかりながら、ズデンカは先へ進んだ。
出来るだけ人が少なく、街の外へ出られそうな道を選ぶ。
「他のやつを守ってやろうなんてしないよな」
走りながらズデンカは念押しをした。
「もちろん」
ルナはあっけらかんと答えた。
だが、人気のない道を選んだはずなのに、目の前に少し森が見えてきたかと思うと、ドードーは車輪を駆動させて回り込んできた。
「チッ!」
ズデンカは舌打ちした。
ズデンカ一人だけなら何とかなりそうだったが、ルナを連れているのでとても撒くことはできなかった。
「なんであたしらを追い回してくるんだよ!」
ズデンカはがなった。
最初は街を襲うことが目的かと思っていたが、どうもそうではないようだ。
「それは俺が、君たちに会いたいからだよ」
冷たい声が、夜の闇の中で大きく響いた。
どうも拡声器を使っているらしい。
「フロイライン・ペルッツ。俺を覚えてるよね」
妙に馴れ馴れしい口調で話し掛けてきた。
握っている手が震えていることにズデンカは気付いた。
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