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第一部

第十一話 詐欺師の楽園(3)

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「こんな街来て間違いだったぜ。連合軍側だったのにこんな扱いなのか。エルキュールの方がまだマシだ」

 ランドルフィ王国は戦争末期まで執権府が統治しており、スワスティカの同盟国だった。大執権《ドゥーチェ》ジャコモ・パストレッリが治めていたのだが、終戦の前年に王政復古が起こり、北部をカルロ六世率いる王国軍が占領、内戦状態になった。

 スワスティカ崩壊後、王国軍が執権府領へ雪崩れ込み、パストレッリは公開処刑された。

 北部は早くから連合軍に恭順していたのだが、それでもなおシエラフィータ族は差別される存在なのだった。

「戦争に勝ったから、差別がなくなるわけじゃないよ。でも、収容所に送られるよりは今の方がずっといい」

 ルナは笑った。

 ズデンカは何も言えなかった。ルナが収容所にいたことは初めて知らされたが、そこから詳しく話を聞き出すことは出来ない。ルナが傷付くかもしれないからだ。

――あたしは黙っておこう。 

 ズデンカも肌の色から色々言われる。だがそもそも吸血鬼なので、人と違っても何とも思わない。

 宿を探すのもなかなか大変だった。ルナはシエラフィータ族であるということが知れ渡ってしまっているからだ。

――姿形は何も変わらないのにな。

 ズデンカと比べてもルナは周りの人と人種が違うようには思えない。だが、にも関わらず戦争中は何十万人ものシエラフィータ族が虐殺されたのだ。

――わずかに違いを感じるほど、人間は差別したがるのかもな。

 とズデンカは思った。

 結局場末のボロ宿が何も言わずに受け入れてくれた。

 ズデンカはシーツの蚤取りという苦行を思い出してため息を吐いた。


 鼾《いびき》をかいてルナは眠っていた。

 隣の椅子に坐って、ズデンカは眠らないので夜中はボーとしている。

 時には暗中で読書をすることもあったが、今はそんな気にもならない。

 最近ルナは色々危ないことばかりやっている。結果としてズデンカもそれに手を貸してすことが増えた。

――何でもかんでも引き受けやがって。 

 今は穏やかに眠っているルナだが、辛い過去を背負っていることはズデンカにはよく分かっていた。

――理由は一度も訊いたことがなくても。

 寝ている時だけは幸せでいて欲しいと願っていた。

 それでも、ルナが悪夢に目覚めることは度々ある。

 汗まみれになって胸を押さえてうずくまるのだ。息は荒く、髪は乱れていた。

「どうした?」

「なんでもない。嫌な夢を見ただけ」

 ルナはいつもそうやって誤魔化す。教えてくれない。 

 ズデンカはその手を押さえる。

 何か言いたい気持ちをこらえて。

 闇の中だと、つい昔のことが色々浮かんできてしまう。

――嫌になるな。

 思い出すのを止めて、ズデンカは立ち上がった。

 眠っているルナの顔を見おろす。

 寝顔は穏やかだった。
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