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第一部

第十話 女と人形(4)

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「たわわなまでの××を×みしだき、ダニエルは接吻《くちづけ》た。

『先生、止めてください、私……』アンは吐息した。だが、その言葉とは裏腹に、瞳は潤みを帯びてダニエルを見つめていた。

『何をして欲しいか、言いなさい』

 いつもの授業のように、ダニエルはアンに問いかけた。

『先生の×××××を』

『それだけじゃ足りないよ』

『先生の×××××を私の……××、××××の中に入れてください』

『もっと言葉を費やして』

 ダニエルは笑いながら言った。

『先生の×く××した×××××を私の×れ×れで××××××になった××な××××に突っ込んでください!』

『よし』

 ダニエルはアンを押し倒し……」

 
 とここまで読んだところで、ズデンカはロランが自分の胸へ手を伸ばしてくるのを目の端で捉えた。

 ズデンカにとってはとてもゆっくりとした動きに見えたが、瞬時に起こったことなのだ。

 ズデンカはその手をひょいと軽く掴んで、ロランの身体ごと背中に抱え、前へと投げ落とした。

「ぎゃあ! ……いでででっ!」

 床でのたうち回りながらロランは呻いた。

「いきなり何しやがるんだ」

 ズデンカは両手を打ち合わせてパンパンと払った。

「召使いの女はだいたいこうすれば何もしてこないものなのだが……恥じらう様子すら」

「あのな、それはお前が怖くて何も出来ないだけだろ。主人という立場を笠に着やがって。まさか興奮しているとでも思ってんのか?」

 ズデンカは腰に手を当てて呆れながら言った。

「口答えしてくる女も良いものだな」

 ロランはゆっくり立ち上がった。

「お待たせしました。もう朗読も終わりですかね?」

 ルナが微笑みながらこちらに歩いてきた。

 確かに、中央で鎖に縛られながら立っていたメリザンドはもう声を上げていなかった。

 代わりにその周りには座席から歩いてきた男どもが群れをなしており、メリザンドの身体を触りまくっていた。

「あのままにしておいても良いんですか?」

「いいですよ。実際に裸の女に触れて頂いて、楽しんで貰おうって趣向です。実際ペンチやライターなども置いて何でもやってくださいとお願いしたこともありましたよ」

「そしたら、どうなったんです?」

 ルナは興味深そうに訊いた。

「皆さん羽目を外し過ぎましてね。メリザンドが血だらけになりそうだったので止めさせました。流石に愛娘を失いたくないですからな。ハッハッハ!」

 偉そうにロランは笑った。 

「なるほど、まるで人形なんですね。しかし、その所業。創作の中だけに収まっていませんね」

 ルナはロランを見つめた。

「創作を出来る限り現実に近づける方法なのですよ。実際、高額なカメラを買って、映画にしようとも考えております。将来的に映像の技術が進めば、安い値段で皆が手軽にポルノグラフィを楽しむことが出来るような社会になると考えています」

「そうなるともう地下出版で済む市場じゃなくなりますね」

「最終的にポルノは商業としてなり立つと思いますよ。私のような少人数だけで楽しみたい者からすれば内心忸怩たるものはありますけどね。でも、どんな凄い官能作品が作られるかと楽しみでなりません。異端を愛する者からすればね」

「まあ、その時代にはわたしもあなたも生きてないでしょうけど」

 ルナは笑った。

「仕方ないですよ。次の時代を担う若者たちに任せましょう」

 そういってロランはメリザンドへ歩いていき、鍵を外してルナとズデンカの元へ連れてきた。

「『綺譚集』を出されたペルッツさまだ。挨拶せよ」

「初めまして、メリザンド・ジョンキーユです。母の夫の姓を名乗らせて頂いています。よろしくお願いします。ペルッツさまのまとめられたものを朗読したことがありますよ」

 メリザンドはにっこり笑って一礼した。

「へえ、そうなんですか。そんな綺譚《おはなし》まとめたかな? 艶笑譚風のものは幾つかありますけどね」

「なかなか好評でしたよ!」

「ありがたいですね! わたし自身は朗読会とかさっぱり行かないもので。人が読むのを聞いたこともないし、聞く気もない」

「お読みしましょうか」

 メリザンドは微笑みを崩さず言った。

「いえ、遠慮しておきます。それより新しい綺譚《おはなし》が集めたくてうずうずしてるんです。最近書く機会がなくってね」

 と言ってルナは懐から手帳を取り出した。
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