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第一部

第七話 美男薄情(4)

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 昼食を摂った(もちろんズデンカは食べない)後、ルナたちはホテルに帰った。

 ルナがベッドに寝転んで本を読んでいると、ドアを軽くノックする音が聞こえた。

「誰だ?」

 ズデンカが素早く走りよって開けずに訊いた。

「高名なルナ・ペルッツさまがいらっしゃるとうかがって」

 女の声だった。

「そうですけどー」

 ルナがズデンカの後ろで間の抜けた声をあげた。

「後ろから付けてきたんだろ。分かってるぞ」

 ズデンカは刺々しく言った。

「はい……でも、そうしないとどこに住んでおられるか分からなくて」
「ごちゃごちゃうるさい。要件はなんだ?」

 ズデンカは尋問するようだった。

「さっきアルチュールとペルッツさまたちが歩いているのを目にしてしまって……」

「うん。軽くお話しただけで、何もなかったですけどね」

 ルナが言った。

「そうだったんですか……」

 女はほっとしたようだった。

「はぁー、仕方ねえな」

 ズデンカは溜息を吐きながらドアを開け、女を中に入れた。

 赤い服で真珠のイヤリングを付けた女だった。

「酒場勤めか」

 ズデンカは即座に察した。

「はい。ファビエンヌって言います。源氏名ですが」
「アルチュールさんとは親しいのでしょう?」

 ルナはベッドに寝転んだまま含み笑いをしていった。

「正式に付き合って、みたいな感じじゃないんですけど……」
「アルチュールさんは色んな女性と遊んでいるそうだからね」

 ルナは言った。

 ファビエンヌは黙って頷いた。

「嫉妬か」

 ズデンカは言った。

「いえ、そう言うわけでもないんです。あたし自身、アルチュールとの関係を終わりにしようって思っていて。思い切りがつかないんです。それで、ペルッツさまは願いを一つだけ叶えてくれるって評判だから」

 ファビエンヌは必死に言い募った。

「人間の気持ちを変えるのは難しいですよ。もっとも、わたしに軍隊と人里離れた隔離施設を与えてくれるのなら、あなたをそこへ拘引していって洗脳することは容易いでしょう。でも、あなたはそんなこと望んでいないわけだ」

 ルナのモノクルが光った。

 答えるのにとまどったファビエンヌは周りを見た。

「ルナが願いを叶えられるのは面白い話を持ってるやつだけだ。さあ、帰った帰った」
 と手で払うふりをするズデンカは、実は助け船を出したつもりなのだ。

「待ってください。あたしもお話があります。と言ってもアルチュールとの間のことですけど」

「じゃあ話してください。こちらに掛けて」

 ルナは椅子を指差した。

「分かりました」

 ファビエンヌは坐り、静かに話し始めた。
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