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第一部
第六話 童貞(5)
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トゥールーズ人民共和国首都エルキュール――
「へー、大学で女子学生を学ばせるのか!」
ルナは驚いていた。
「うむ。それで珍しく女で軍医として成功した予に視察のお声が掛かったのだ。同じ性と言うだけで、なんで予がって思うがな」
アデーレは鼻の下を掻いた。
「いいじゃないか。君が皆から尊敬を集めているって証拠だよ。ね、わたしも連れてって。ちーん!」
ルナは鼻をかみつつ、アデーレの袖を引いた。
「ルナァ! もちろん一緒に来い! 寧ろ来て欲しい!」
ズデンカは呆れてそれを見つめていた。
「大学なんか通って何の役に立つんだ」
「人間が当たり前にこの世で生きていくためにはまず学ばないといけない」
「世間さまが大学の代わりになってくれるさ」
ズデンカはあっさり答えた。
「君みたいに長く生きているとそうなのかもしれないけど、わたしたち普通の人間は寿命があるんだ。その限られた中でやっていくしかないからね。若いうちに学問を身に付けておくのは悪いことじゃない。ちーん!」
「そういえば、大学行くのは男ばっかだよな」
ズデンカは考え込んだ。
「女は大学には行かない方がいいって訳だろう。かく言うわたしも行ってないしね」
「お前もかよ」
「だから、どんなとこか興味あるんだ。さあ、出発! ちーん!」
三人はのろのろと歩き出した。ルナの豪快な使いっぷりに、そろそろちり紙が尽きてくるのではないかとズデンカは気が気でなかった。
さほど歩くことなく目的の場所に辿りついた。
聳える大学の門塀が威圧するかのように目の前に立ちはだかっている。
中に入ると一列にずらりと並んだ身嗜みの良い男たちに迎えられた。いずれも大学職員のようだ。
「これはこれはシュニッツラーさま。それに著名なペルッツさまもいらっしゃるではありませんか」
理事長と思われる人物が挨拶した。アデーレは無言で握手する。
「オルランド公国名代として参った。ペルッツ殿は予の視察の随行員となっている。よろしく頼む!」
アデーレは硬い口調で述べた。
「はあ、何分私どもの大学も初めての試みでして、シュニッツラーさまに満足して頂けるかどうか……」
「やあやあ、前置きはいいから、女子学生たちに会わせて貰いましょうか」
ルナはいつになくウキウキして職員たちと握手していった。職員たちにまで挨拶《ビズ》をしようとするのではないかとズデンカは注意して見ていた。
広々とした構内で迷ってしまいそうなルナの手を握りしめてズデンカは先導した。
「メイド、貴様いい加減分をわきまえてはどうかね」
鎖付き眼鏡の柄を人差し指でカチャリと上げ、アデーレは注意した。
「なぜわきまえないといけない?」
「普通、主人と親しく並んで歩くメイドなどいない。家にいるのが普通だ」
「あたしはメイド専業って訳じゃないんでね」
「じゃあ、その服は何だぁ!」
アデーレではズデンカの纏うメイド服を指差した。
「好きだから着てるんだよ。何か文句あっか?」
「ねえねえ。そんなことよりさぁ。ちーん!」
子供みたいな声を上げてルナが遠くを指差した。
確かに講義室を繋ぐ長い廊下をこちらに向かって女子学生たちが歩いてきている。
「おーい!」
ルナは手を大仰に振った。
遠目からでもルナの姿に気付いたのか、学生たちは急ぎ足で周りに集まってくる。
「へー、大学で女子学生を学ばせるのか!」
ルナは驚いていた。
「うむ。それで珍しく女で軍医として成功した予に視察のお声が掛かったのだ。同じ性と言うだけで、なんで予がって思うがな」
アデーレは鼻の下を掻いた。
「いいじゃないか。君が皆から尊敬を集めているって証拠だよ。ね、わたしも連れてって。ちーん!」
ルナは鼻をかみつつ、アデーレの袖を引いた。
「ルナァ! もちろん一緒に来い! 寧ろ来て欲しい!」
ズデンカは呆れてそれを見つめていた。
「大学なんか通って何の役に立つんだ」
「人間が当たり前にこの世で生きていくためにはまず学ばないといけない」
「世間さまが大学の代わりになってくれるさ」
ズデンカはあっさり答えた。
「君みたいに長く生きているとそうなのかもしれないけど、わたしたち普通の人間は寿命があるんだ。その限られた中でやっていくしかないからね。若いうちに学問を身に付けておくのは悪いことじゃない。ちーん!」
「そういえば、大学行くのは男ばっかだよな」
ズデンカは考え込んだ。
「女は大学には行かない方がいいって訳だろう。かく言うわたしも行ってないしね」
「お前もかよ」
「だから、どんなとこか興味あるんだ。さあ、出発! ちーん!」
三人はのろのろと歩き出した。ルナの豪快な使いっぷりに、そろそろちり紙が尽きてくるのではないかとズデンカは気が気でなかった。
さほど歩くことなく目的の場所に辿りついた。
聳える大学の門塀が威圧するかのように目の前に立ちはだかっている。
中に入ると一列にずらりと並んだ身嗜みの良い男たちに迎えられた。いずれも大学職員のようだ。
「これはこれはシュニッツラーさま。それに著名なペルッツさまもいらっしゃるではありませんか」
理事長と思われる人物が挨拶した。アデーレは無言で握手する。
「オルランド公国名代として参った。ペルッツ殿は予の視察の随行員となっている。よろしく頼む!」
アデーレは硬い口調で述べた。
「はあ、何分私どもの大学も初めての試みでして、シュニッツラーさまに満足して頂けるかどうか……」
「やあやあ、前置きはいいから、女子学生たちに会わせて貰いましょうか」
ルナはいつになくウキウキして職員たちと握手していった。職員たちにまで挨拶《ビズ》をしようとするのではないかとズデンカは注意して見ていた。
広々とした構内で迷ってしまいそうなルナの手を握りしめてズデンカは先導した。
「メイド、貴様いい加減分をわきまえてはどうかね」
鎖付き眼鏡の柄を人差し指でカチャリと上げ、アデーレは注意した。
「なぜわきまえないといけない?」
「普通、主人と親しく並んで歩くメイドなどいない。家にいるのが普通だ」
「あたしはメイド専業って訳じゃないんでね」
「じゃあ、その服は何だぁ!」
アデーレではズデンカの纏うメイド服を指差した。
「好きだから着てるんだよ。何か文句あっか?」
「ねえねえ。そんなことよりさぁ。ちーん!」
子供みたいな声を上げてルナが遠くを指差した。
確かに講義室を繋ぐ長い廊下をこちらに向かって女子学生たちが歩いてきている。
「おーい!」
ルナは手を大仰に振った。
遠目からでもルナの姿に気付いたのか、学生たちは急ぎ足で周りに集まってくる。
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