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第一部
第四話 一人舞台(4)
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食卓に並べられた七面鳥の丸焼きを几帳面に切り分けてヴィルヘルミーネは慎重に辺りを見回しながら口に運んだ。
「うっ、うまー!」
と叫んで顔を赤らめ、口元を押さえる。
「す、すみません。こんな美味しいもの、近頃食べたことなくて!」
「お口に合ったならよかったです」
ルナは微笑んだ。
「ここのホテルの飯は高いんだぜ」
耳元で囁くズデンカ。
「お金のことばかり気にしてるね君は」
「お前が気にしなさ過ぎなんだよ」
「村を出てホフマンスタールで一人暮らしを始めてからずっと倹約生活でした。お仕事が忙しくて!」
「何をやってるんだ?」
ズデンカは聞いた。
「お店の売り子とかです。お客さんからきついこと言われちゃうけど毎日頑張ってます!」
「客には横柄なやつも多いからな」
「少しぐらいのことでめげてちゃいけませんから!」
ヴィルヘルミーネは胸を張った。
「そこまでして舞台に出たいんですね」
ルナがそら豆にフォークを刺しながら言った。
「はい! お芝居の力って、すごいんですよ」
「どう凄いんですか?」
「バラバラになったみんなの心を繋ぎ止めるんです。故郷の学校は結構荒れてて、クラスの雰囲気は最悪でした。そんな時、わたしが思いきって発表会でお芝居をやらないかって提案したんです」
「なかなか大変だったでしょう?」
「はい! 色んなことありましたよ。怒ったり泣いたり。でも、わたしが脚本も演出もやって、たくさんの人たちに拍手を貰えて。クラスの皆も結束力が強まりました」
「へえ、青春ですね。共感力の低いわたしではなかなか出来そうもないことです」
ルナは素直に感心していた。
「いえいえ、ペルッツさまに比べたらわたしなんか……」
「では、一つヴィルヘルミーネさんに伺います。ずばり、舞台の魅力って何でしょうか?」
ルナのモノクルがぴかりと光った。
「うーん、そうですね。お芝居って一人だけじゃだめなんです。みんなで力を合わせて初めて完成されるものなんです。わたしの作ったお芝居もみんながいてこそですから。今度はプロの方々とも作っていけるようになれたらなって」
「それは凄い。わたしはぜひあなたの演技を見てみたいな。やって見せてください」
ルナは興味津々な様子でせかした。
「えっ! えっ! はっ、恥ずかしいです」
「役者の卵が恥ずかしがってちゃだめですよ。さあさあ」
息を飲んでヴィルヘルミーネは立ち上がり、
「あの虹の向こうに、輝く未来があるんだよ、さあ行こう!」
そう言った顔は少年の凜々しいものになっていた。
「いや、凄いですよ。ほんとに、別人になってる。ぜひ舞台の上で見てみたいな」
ルナは拍手した。
「ほんと、恥ずかしい。ペルッツ……ルナさまの真似をちょっとさせてもらったんです! こんなカッコイイ人、今まで初めて見るんですもん!」
「ぷ。カッコイイだってよ」
ズデンカが珍しく吹き出した。
ルナは微笑みながらもぐもぐとそら豆を咀嚼していた。
「ほんとですってば! ルナさまみたいな方、他には見たことないですよ。こんなに賢くて世界各地を見て回っている人なんて」
「それじゃあ、ヴィルヘルミーネさんの成功を祈って!」
照れ隠しのつもりか、ビールがなみなみと注がれたジョッキを高々と掲げるルナ。
「ルナの酒癖は悪りぃぞぉ!」
ズデンカはヴィルヘルミーネに忠告した。
「うふふふふふ」
ヴィルヘルミーネは朗らかに笑った。
「うっ、うまー!」
と叫んで顔を赤らめ、口元を押さえる。
「す、すみません。こんな美味しいもの、近頃食べたことなくて!」
「お口に合ったならよかったです」
ルナは微笑んだ。
「ここのホテルの飯は高いんだぜ」
耳元で囁くズデンカ。
「お金のことばかり気にしてるね君は」
「お前が気にしなさ過ぎなんだよ」
「村を出てホフマンスタールで一人暮らしを始めてからずっと倹約生活でした。お仕事が忙しくて!」
「何をやってるんだ?」
ズデンカは聞いた。
「お店の売り子とかです。お客さんからきついこと言われちゃうけど毎日頑張ってます!」
「客には横柄なやつも多いからな」
「少しぐらいのことでめげてちゃいけませんから!」
ヴィルヘルミーネは胸を張った。
「そこまでして舞台に出たいんですね」
ルナがそら豆にフォークを刺しながら言った。
「はい! お芝居の力って、すごいんですよ」
「どう凄いんですか?」
「バラバラになったみんなの心を繋ぎ止めるんです。故郷の学校は結構荒れてて、クラスの雰囲気は最悪でした。そんな時、わたしが思いきって発表会でお芝居をやらないかって提案したんです」
「なかなか大変だったでしょう?」
「はい! 色んなことありましたよ。怒ったり泣いたり。でも、わたしが脚本も演出もやって、たくさんの人たちに拍手を貰えて。クラスの皆も結束力が強まりました」
「へえ、青春ですね。共感力の低いわたしではなかなか出来そうもないことです」
ルナは素直に感心していた。
「いえいえ、ペルッツさまに比べたらわたしなんか……」
「では、一つヴィルヘルミーネさんに伺います。ずばり、舞台の魅力って何でしょうか?」
ルナのモノクルがぴかりと光った。
「うーん、そうですね。お芝居って一人だけじゃだめなんです。みんなで力を合わせて初めて完成されるものなんです。わたしの作ったお芝居もみんながいてこそですから。今度はプロの方々とも作っていけるようになれたらなって」
「それは凄い。わたしはぜひあなたの演技を見てみたいな。やって見せてください」
ルナは興味津々な様子でせかした。
「えっ! えっ! はっ、恥ずかしいです」
「役者の卵が恥ずかしがってちゃだめですよ。さあさあ」
息を飲んでヴィルヘルミーネは立ち上がり、
「あの虹の向こうに、輝く未来があるんだよ、さあ行こう!」
そう言った顔は少年の凜々しいものになっていた。
「いや、凄いですよ。ほんとに、別人になってる。ぜひ舞台の上で見てみたいな」
ルナは拍手した。
「ほんと、恥ずかしい。ペルッツ……ルナさまの真似をちょっとさせてもらったんです! こんなカッコイイ人、今まで初めて見るんですもん!」
「ぷ。カッコイイだってよ」
ズデンカが珍しく吹き出した。
ルナは微笑みながらもぐもぐとそら豆を咀嚼していた。
「ほんとですってば! ルナさまみたいな方、他には見たことないですよ。こんなに賢くて世界各地を見て回っている人なんて」
「それじゃあ、ヴィルヘルミーネさんの成功を祈って!」
照れ隠しのつもりか、ビールがなみなみと注がれたジョッキを高々と掲げるルナ。
「ルナの酒癖は悪りぃぞぉ!」
ズデンカはヴィルヘルミーネに忠告した。
「うふふふふふ」
ヴィルヘルミーネは朗らかに笑った。
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