いつかの僕らのために

水城雪見

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新世界にて

ルイスの仲間達

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 買い物がしたいからと、ほどほどでアサリ獲りを切り上げて、ルイスと一緒に市場に行った。
 新鮮な野菜や果物、魚なんかが欲しかったら、市場が一番だそうだ。
 だけどもう夕方に近いので、残っているのは売れ残りばかりで、店じまいしているところも多かった。
 明日の朝、もう一度来ようと計画を立てながら歩いていると、魚屋さんが店じまいするところに行き当たる。
 小さめのアジが山ほど残っていたけれど、廃棄処分にするみたいで、扱いがすごく雑だ。


「おじさん、そのアジ、売らないの?」


 思わず声をかけると、無精ひげを生やした中年のおじさんが苦笑した。


「小さすぎて売れねぇんだよ。食いでがないから、仕方ないんだが、どうしても小さいのも網に混じるからな。たまに売れることもあるから店に出してるが、ほとんどは売れ残って肥料行きだ」


 どうやらこの世界の人は大きい魚を好んで食べるようだ。
 それだけ簡単に大きな魚が獲れるんだろうし、大きい魚が手に入るのに、小さい魚をちまちま下拵えするのも面倒なんだろう。
 小さいなら小さいで料理方法はいくらでもあるんだけどなぁ。
 それにこのアジ、小さいとは言っても俺の知る小アジよりもずっと大きい。


「じゃあ、俺が買うよ。全部でいくら?」


 俺の言葉を聞いて、おじさんが驚く。
 まさか全部売れるとは思わなかったらしい。
 朝の方が新鮮な魚だとわかっているけど、今買わないと、この魚は肥料になってしまう。
 魚だって殺されたからには、きちんと食べてほしいだろう。


「そりゃ、肥料にしてもたいした金にはならないから、売れればありがたいけどよ。こんなにたくさん食えるのか?」


 どう見ても100匹を越えていそうな数のアジを見て、心配そうに尋ねられる。
 商売人なのに良心的なおじさんだ。


「大丈夫だよ、後ろの大きな兄ちゃんが、いっぱい食べるから」


 ルイスを目で示しながら言うと、大柄な人が多い中でも一際立派な体格のルイスを見て、おじさんが納得したように頷いた。


「どうせ売れ残りだ、バケツも込みで全部で銅貨2枚でいい。重たいだろうから、後ろの兄ちゃんに運んでもらいな」


 アジを手際よくバケツに入れるおじさんを見ながら、銅貨を2枚取り出して支払った。
 アジフライの魅力、呆れたように俺を見てるルイスに知らしめてくれよう。
 銅貨二枚でというよりは、2千円でアジがたくさん買えたと感じて、かなり得をした気分でご機嫌になってしまう。
 呆れながらも、ルイスはアジ入りのバケツを4つ、空間庫にしまってくれた。
 ひょいっと軽く持ち上げたバケツが目の前で消えるのを見て、驚きで硬直するおじさんに手を振って、また市場を歩き出す。
 付け合わせのキャベツとかレモンとか、ちょこちょこと買い足してから向かったルイスの泊まる宿は、俺が部屋を取ったのと同じゴーシュの宿だった。


「なんだ、同じ宿だったのか?」


 俺と同じようにルイスも驚いたようで、思わず顔を見合わせて笑ってしまう。
 どれだけ宿があるのかわからないけど、同じ場所を選んでいるなんて、面白い偶然だ。
 でも、冒険者ギルドに近い宿だから、ある程度は必然なのかな。


「おかえり。なんだ、知り合いだったのか?」


 宿に入ると、スキンヘッドのおじさんが、俺とルイスを見比べる。
 俺とルイスは違いすぎるから、どういう共通点があるかわからなかったのだろう。


「さっき知り合って、意気投合したんだ。それより、オヤジ、悪いけど厨房を貸してくれよ。使用料は払うからさ。レイがアサリの料理を作れるらしいから、食ってみたいんだ」


 ルイスが手を合わせて頼むと、スキンヘッドのおじさんに興味津々といった様子で見られる。


「ほぅ。ありゃ、海が時化続きで、よほど食う物がないときじゃないと食わないような、ちいせぇ貝なんだが、食えるのか? 前に食ったことがあるが、砂でざりざりするわ、食いではないわで、そう美味いものじゃなかったんだが」


 この街のアサリの扱いがひど過ぎる。
 これは何が何でもアサリは美味しいって認めてもらわなければ。
 変な使命感を感じながら、おじさんをまっすぐ見て頷いた。


「下処理で砂抜きをすれば、ちゃんと食べられます。味噌汁にすると美味しいんだよ」


 何とか厨房を貸してもらおうと意気込んでいると、少し困ったようにおじさんが俺とルイスを見た。


「貸すのはいいんだが、うちに味噌はないぞ? 市場に行けば、置いてるところもあるかもしれんが、もう遅いから閉まってるだろ? 醤油ならあるんだけどな」


 こちらでは味噌はあまり日常的に口にする調味料じゃないみたいだ。
 多分、醤油は刺身を食べるのに使うから置いてあるんだろう。
 生魚を食べる文化があるか心配だったけれど、転生者がいるからか、海辺の町では普通に食べられていた。
 そのせいか、さっきの市場には、ワサビや生姜などの薬味になるものも売っていた。


「味噌なら、俺が持ってるから大丈夫。厨房を貸してもらえるだけでいいです」


 調理器具も調味料も一通り持っているから、場所さえあればなんとかなる。
 携帯コンロすら魔道具で作ったから、本当に料理をする場所だけあればいい。


「それなら好きに使いな。夜の仕込みは終わってるが、しばらくすると飯を食いに来る客もいるから、俺の邪魔にならない範囲で頼む。ルイスはでかくて邪魔だから、食堂にいろよ? どうせ料理なんぞできねぇだろ?」


 厨房が借りられるとわかってホッとする。
 店の忙しい時間帯に邪魔をしたくないから、さっさと作り始めることにした。


「ありがとうございます、オヤジさん。ルイスは、さっきの魚、置いてってね? 美味しいの作ってあげるから、着替えてきたら? 砂まみれでしょ? あ、あと、リュミを預かってて」


 宿にお風呂はないだろうから、着替えだけ勧めて、魚を受け取った後は、リュミを預けてさっさと厨房から追い出した。
 あれだけ大きいルイスがうろうろしてると、広い厨房でも邪魔にしかならない。
 食べ物を扱う場所に動物を入れるのもよくないだろうから、リュミのことも任せてしまった。
 リュミもすっかりルイスに懐いていたので、問題はないだろう。


「そりゃ、アジの小さいのか。下拵えに手間がかかるだろ?」


 取り出したエプロンをつけて、手を洗っていると、オヤジさんが不思議そうに尋ねてくる。
 たしかに開いて骨を取ってとなると手間だけど、小さいからすぐ終わるという利点もある。


「手間がかかるけど、美味しいんですよ。アジフライにするつもりなんです」


 南蛮漬けもいいけれど、多分、ルイスはアジフライの方が喜びそうな気がする。
 サーモンとエビも見つけたので、ミックスフライ定食みたいにしてもいいかと思ったけど、今日のメインはアサリだから、揚げるのはアジフライだけにした。


「あじふらい? 聞いたことのない料理だな。まぁ、作ってみろ。手伝いがいるなら、手の空いてる時なら手伝ってやる。ここにあるものは、好きに使え」


 ありがたい申し出にお礼を言って、まずはアジの下処理をしていった。
 頭を落として、開いて骨を取ってと、確かに手間はかかるけど、小さめの包丁を使って次々に処理していく。
 アサリ料理はすぐにできるから、アジフライを揚げている間に作ればいい。
 オヤジさんが物珍し気に見ているのは気づいていたけれど、気にせずにアジの処理を続けて、かなり大きなボウルに開いたアジの山を作っていく。
 干物にしてもおいしいけど、作ってないのかなぁ?
 明日、市場で探してみようと決意しつつ、アジの下処理を終えて、ゴミを一纏めにした。
 半分でも十分すぎるほどに量があるとわかっていたけれど、途中から手順を覚えたオヤジさんが下処理を手伝ってくれたので、調子に乗って全部処理してしまったので、ゴミはかなり多かった。


「ゴミはこっちだ。俺が片付けるから、続きをやれ」


 オヤジさんの言葉に甘えて、水気を拭いたアジに小麦粉をまぶしていく。
 量が量なので、とても手間がかかるけれど、作業自体は単純なものなので、オヤジさんの手伝いのおかげもあって、割と早く済んだ。
 続けて、溶き卵、パン粉と衣をつけていき、半分以上のアジに衣がついたところで、油を大鍋に熱し始めた。
 揚げ物をするのにちょうど良さそうな鍋がなかったので、手持ちの鍋を使うことにしたけど、油の量が多いから、適温になるまでにかなり時間がかかる。
 油も大量に必要だから、空間庫から取り出したものを使う。


「フライって、揚げるのか。そういった料理があるのは聞いたことがあるが、作り方までは知らなかった」


 感心したように言いながらも、オヤジさんの手はとまらない。
 時々、違う作業をしながらも、アジに衣をつけていく。
 さすが宿の主人だけあって、とても手際がいい。


「鳥の胸肉とか、豚肉でも、衣をつけて揚げると違う料理になりますよ。豚肉は、ソテーにするような肉に塩コショウで味をつけて、それから衣をつけて揚げるといいです。鳥がチキンカツ、豚はトンカツという料理になります」


 油が温まるまでと、衣つけを再開しながら説明すると、感心したように頷かれた。
 ついでだから、エビフライや鮭フライの作り方も説明しておく。
 海辺だから、魚介の方が手に入りやすいし、安いだろう。
 油が熱くなったら次々にアジを投入して、アジフライを作っていく。
 新鮮なアジなので、きつね色になったらすぐに取り出した。
 油切りに紙が使えないので、バットとそれに油切りの網を合わせたものを作ってあった。
 それを使って油をきり、油が切れたところで、保存用の容器に入れて、容器ごと熱々のまま空間庫にしまう。
 木工や細工の練習をするときに、使えそうなものは色々と作っておいたけれど、それが早速役に立っている。

 何といっても量が多いので、計算して動かないと時間だけが過ぎてしまう。
 使ったものを片づけたり、キャベツを千切りにしたりした後は、バケツ一杯分のアサリを取り出して、味噌汁とバター焼き、酒蒸しをさっと作ってしまった。
 途中途中、オヤジさんに質問されたことに答えながら作り、合間にアジフライも揚げていたので、手際の良さに驚かれて、まだ若いのにと、盛大に感心された。
 

「できたー。オヤジさん、食べてから全部片付けますから、油はそのまま置いててください。これは炊いた米があいますから、オヤジさんの分も、ここに置いておきますね」


 次にすぐ使えるように、熱くなった油をそのまま空間庫にしまおうかと思ったけど、取り出すときにうっかり火傷をするかもしれないので、結局冷ますことにした。
 油での火傷は、洒落にならない重度の火傷になる可能性が高いから、手間よりも安全を取ろう。

 ご飯にキャベツと一緒に盛り付けたアジフライ、それからアサリの味噌汁をセットにしてトレイに乗せて、食堂に運んでいく。
 バター焼きと酒蒸しも、俺の持っていた小鉢に盛り付けて、一緒にトレイに乗せてある。
 アジフライはおかわりできるように、大皿にも山盛りにして運んだ。
 アサリご飯って手もあったなぁと、今頃思い出したけど、まだアサリは残っているから、今度作ろう。
 鍋なんかはバトラーと一緒に作ったので、一人用の小さなものから、炊き出しで使えそうな大きなものまで取り揃えてある。
 こちらの食器は割れ難い木製のものが多いので、もしかしたら小鉢には驚かれるかもしれない。
 破損しないようになっているので、気安く使ったけど、この宿で使っている食器は木製のものばかりだった。


「ルイス、お待たせ。リュミを見ててくれて、ありがとう」


 テーブルにトレイを運ぶと、すぐにルイスが受け取ってくれた。
 オヤジさんの話では、ルイスの仲間も二人泊まっているということだったから、彼らの分も用意しておいたけれど、正解だったようだ。
 4人掛けのテーブルには、ルイスだけでなく、金髪に青い目の貴公子といった雰囲気の人と、黒髪で細い落ち着いた雰囲気の男の人も一緒にいた。


「リュミは可愛いからいいんだが、それより、すまん。こいつら、俺の仲間なんだ。レイのことを話したら、逢いたがってついてきたから、こいつらにも食わしてやってほしい」


 人数が増えたことが申し訳ないのか、ルイスが頭を下げる。
 律儀だなぁと思いながら、ルイスが気にしないようにと笑いかける。


「大丈夫だよ、オヤジさんに仲間も一緒に泊まってるって聞いてたから、用意しておいた。それより、オヤジさんがかなり手伝ってくれたから、後でお礼を言っておいてね」


 一人でやっていたら、最低でも後1時間は待たせないといけなかったはずだ。
 オヤジさんがいてくれて、本当に助かった。
 4人分のトレイを並べてから、俺も空いていたルイスの隣に腰掛けた。
 リュミがすぐに肩に乗ってきて、甘えるように擦り寄ってくる。
 可愛さに蕩けてしまいながら、俺も頬を摺り寄せた。

 ルイスの仲間は、正面から改めてみると、二人とも独特の雰囲気を持つ人だった。
 金髪の人は物凄い美形で、知性が滲み出ている感じだ。
 着ている服も雰囲気も貴族的で、こんな安宿では思いっきり浮いている。
 こういう人と比べると、俺なんていくら育ちがよく見えたって、一般人レベルじゃないかなって思ってしまう。
 もう一人の黒髪の人は、老成しているといえばいいんだろうか、体格は細くてまったく威圧感とかないのに、物凄く落ち着いた雰囲気をもっていた。
 ルイスとは違う意味で頼りがいのありそうな人だ。


「初めまして。私はフランツ。ルイスの仲間で、学者と冒険者をしている。よろしく、レイ君。今日はうちの駄熊がわがままを言って申し訳なかった」


 駄熊って……。
 思わず笑ってしまうと、隣のルイスに軽く頭を小突かれた。


「俺はクラウス。ルイスは暴走することもあるが、悪い奴ではないので許してやってほしい。よろしく、レイ」


 クラウスさんは、苦労人という雰囲気もある。
 ルイスの暴走を止めるのは、きっとこの人なんだろう。
 浮世離れした感じのフランツさんを止めるのも、結構大変なんじゃないだろうか?
 説明されなくても、クラウスさんがストッパー役だとわかってしまった。


「初めまして、フランツさん、クラウスさん。俺はレイと言います。今日冒険者になったばかりです。それで、こっちは俺の従魔のリュミです」


 俺が頭を下げる横で、リュミが小さく鳴く。
 その様子に癒されるようで、フランツさんもクラウスさんも笑顔だった。


「じゃあ、冷めないうちに食うか。話は後からでもできるからな」


 お腹が空いているのか、俺達が紹介をし終えると同時にルイスが仕切る。
 みんな箸は使えるようで、フォークも用意してあったけど、箸を手に取っていた。
 

「どうぞ、召し上がってください。口にあうといいんですが」


 俺も箸をとって、まずは味噌汁の味を見る。
 味噌になれていない人には味が濃すぎない方がいいかと思って、普段より心持ち薄味に仕上げてみた。


「……美味っ……これが、レイの言ってた出汁ってやつか」


 同じように味噌汁を飲んだルイスが、感心したように呟く。
 手の大きいルイスが持つと、お椀が小さく見えた。


「こっちの魚の料理も、サクサクして美味しいですよ。かかっているソースとよく合います」


 フランツさんはアジフライを堪能しているようだ。
 その横で、クラウスさんがアサリの殻と格闘していた。


「クラウスさん、食べづらかったら、こうして身のついてない方を持って、固定してから身を取ると食べやすいかもしれないです」


 俺がアサリの殻を持って、見本を見せると、クラウスさんだけでなくルイスとフランツさんも真似をする。
 それに和みながらバター焼きを食べると、懐かしい味がした。


「酒が欲しくなる味です」


 落ち着いた静かな口調でクラウスさんが感想を口にすると、フランツさんも頷いている。
 周囲のテーブルの人達は、ほとんどがお酒を飲んでいるけれど、ルイス達は飲まないようだ。


「レイの言ってた通り、どれも美味いな。バケツいっぱい集めた甲斐があった。アジも、魚屋のオヤジは肥料にするしかないっていってたのが、こんなに美味くなるなんて、レイはすごいな。料理人としてもやっていけるんじゃないか?」


 豪快に料理を平らげながら、ルイスが手放しで褒めてくれる。
 アサリの美味しさを認めてもらうミッションはクリアできたようだ。


「料理は趣味でいいよ。たまに作りたいときだけ作るから楽しいんだって」


 仕事にするほど好きじゃないから、仕事にしたらきっと飽きるだろうなと思う。
 俺の言い分に納得したように頷きながら、ルイスはアジフライを齧った。
 

「教師も向いてるのではないですか? そこの呑み込みの悪い駄熊に魔法を教えられるくらいですから。今までせっかくの才能を使いこなせないルイスを見て、その素養が私にあったならと、どれだけ悔しい思いをしたことか。無事に能力が開花して、ホッとしましたよ」


 空間庫のことをルイスは既に報告済みらしい。
 フランツさんはちょっと辛辣なことを言いながらも、ルイスが空間庫を使えるようになったのが嬉しそうだ。
 周囲の客に聞こえても意味が分からないようにか、遠回しに話しているので、やっぱり空間庫に関しては取り扱い注意のようだ。
 さっき、オヤジさんの前で使いまくってしまったけど、セーフだろうか。
 今更どうしようもないので、気にしないことにしよう。


「うまくいったのは、ルイスが素直だからですよ。俺みたいな子供に教えを乞うのに必死で、ちゃんと真剣に向き合ってくれたから」


 俺がそういうと、フランツさんもクラウスさんも嬉しそうに微笑んだ。


「レイ君は、この短時間でルイスの良さを理解しているようだ。聡い子ですね。私はあなたがとても気に入りました」


 にっこりと満面の笑みで伝えられて、照れくさくなる。
 辛辣なことを言いながら、フランツさんもルイスのことが好きなんだなと伝わってくる。


「困ったことがあったら、いつでも訪ねてきてほしい。俺たちの本拠地は辺境伯領の領都にある。レイなら、いつでも歓迎する」


 クラウスさんの言葉に、フランツさんもルイスも頷いている。


「それ、俺が言おうと思ってたのに、先に言うし」

「むしろ、まだ言ってなかったのですか? わがままより先に言うべきでしょう」


 ルイスがぶつぶつ文句を言うのに、フランツさんが突っ込みを入れる。
 領都か。
 いつかは行くだろうけど、困って訪ねるようなことにならないといいなぁ。


「もちろん、困ったことがなくても、いつでも歓迎します。今日のお礼に、私のお気に入りの店に食事に行きましょう。観光をしたいのなら、案内もしますよ。あの辺りの遺跡は特に、私の得意分野です」


 フランツさんは学者って言っていたけど、遺跡が専門のようだ。
 遺跡のことを語る表情が生き生きとしている。
 観光とか、楽しそうだな。
 せっかくだから、あちこち見て回りたい。


「いつか必ず領都に行くと思うので、その時はお願いします。楽しみにしてます」


 社交辞令ではなさそうなので、いつか訪ねていこう。
 この世界で初めての楽しい約束が、嬉しくて仕方ない。
 自然に顔が笑ってしまう。
 俺の嬉しくて楽しい気持ちが伝わったのか、リュミが落ち着きなく肩から膝に移った。


「リュミも食べようか?」


 空間庫からリュミサイズのカットフルーツを取り出すと、リュミは器用に前脚で持って、美味しそうに齧り始めた。
 小動物のご飯を食べる姿って、どうしてこんなに癒されるんだろう?


「あ、そうだ。氷はそのままだったぞ。まだもう少し入れっぱなしで様子を見るが、問題はなさそうだ」


 俺がフルーツを取り出すのを見て思い出したのか、ルイスが報告してくれる。
 どうやら、実験は成功したらしい。
 ルイスがご機嫌といった笑顔だった。

 他の人達もいる場所なので、当たり障りのないことを話して、楽しく時間を過ごした。
 食後、片づけをするときにクラウスさんも手伝ってくれて、一緒に並んで食器を洗ったりした。
 陶器はやっぱり高いようで、小鉢を洗う時に真剣な顔つきになっていたので、クラウスさんは最初の印象通りに真面目な人のようだ。



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