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神の森でチュートリアル
創作欲の赴くままに
しおりを挟むここ数日、ダンジョンにもいかず、外にもほとんど出ずに、午後は馬車にかかりっきりだ。
計画書を先に作ったけれど、あれもこれもと願望を盛り込んでいたら、馬車じゃなくて動く家みたいになってしまった。
はっきり言って、計画書通りに馬車ができたら、どこかに泊まるよりもよほど快適に過ごせると思う。
サンプル代わりによく使われている馬車を見せてもらったので、細部まで確認して、バトラーの従魔を繋いで、馬車を動かしてもらって、乗り心地なんかも確認してみた。
ライトノベルで、馬車の乗り心地が悪くてお尻が痛くなるとか悪酔いするなんてエピソードはよくあるから、先に一般的な物を知っておきたかった。
幸いなことに魔法のある世界なので、軽量化の風魔法の魔法陣が書きこまれた馬車はありふれていて、揺れはかなり軽減されていた。
道は舗装されていないところも多いそうだけど、車輪などが工夫されていて、揺れを感じにくい設計になっているらしい。
そして、ゴムがあるといいなと思っていたけれど、馬車の車輪にタイヤとして使われていた。
しかもこのタイヤ、魔法で加工してあるのでパンクしたりしないらしい。
転生者が発案したらしく、タイヤには溝もちゃんとあって、その上、溝が擦り減らないように加工してあるので、半永久的に使えるそうだ。
劣化しやすいゴムが半永久的に使えるなんて、魔法が便利過ぎる。
ただ、ゴムは手に入れ辛い高級品みたいで、衣服などに使うという発想はないみたいだ。
服に使われていないにしても、ゴムはあるとわかったので、そのうちに手に入れられるといいなと思う。
ちなみに、ゴムを発見したのは勇者とも呼ばれた転生者で、馬車の改良をしたのもその人らしい。
味噌も醤油もお米も日本酒もあるし、梅干しやお茶もあるなんて、過去の転生者達には、感謝が尽きない。
日本でも、昔の人は自宅で味噌や梅干しやお茶を作っていたらしいので、そういった生活に根差したものは、あらかた開発済みらしい。
その人たちのおかげで、俺はホームシックにもならず、和食を堪能することができる。
といっても、梅干しは食べられないんだけど。
レモンとかの酸っぱさは好きだけど、梅干しはなんでか苦手だ。
もしかしたら、父さんが梅干しは苦手だったから、そのせいかもしれない。
我が家の食卓に、父さんの苦手な食べ物は一切並ばなかったから、その影響もあるのだろう。
生活に根差した魔法の使い方も色々と考えられていて、それらはすべてバトラーに教えてもらった。
おばあちゃんの知恵袋的な、知っているとちょっと便利な魔法の使い方は、細々と残っていても、一部の地域でしか使われていないそうなので、バトラーに教えてもらわなかったら、一生知らないままだったかもしれない。
どんなに隠そうとしても、俺のつけたい機能を全部つけると普通の馬車じゃなくなるので、まずはよくあるタイプの馬車を作って、カモフラージュすることにした。
隠蔽や結界は、発動させたいときだけ魔核を嵌めこむことにして、見られたらまずいものを隠すために、馬車の中に異空間に入る扉をつけた。
お風呂はともかく、トイレは何とかしたいと思っていたけれど、トイレ付きの馬車ですらないそうなので、空間魔法で部屋を別に作って隠すのなら、欲しいものは全部つけてしまえばいいと開き直ってしまった。
まずは別空間を作るための魔法陣を、持っている中で一番大きい魔核に刻み込んで、馬車の中に隠し部屋を作る。
馬車の中から扉で行き来できるようになるけれど、隠蔽の魔法陣をあらかじめ扉に組み込んであるので、扉自体が目につかなくなった。
扉もドアノブがあると邪魔なので、こちらの世界では珍しい引き戸にしたのが功を奏して、隠蔽なしでもあまり目立たなくなっている。
別に作った空間は、それだけだとただの広い部屋なので、自分で作った家具を置いたり、お風呂やトイレになる異空間を繋げたりもした。
家具なども作り出したら楽しくなってしまって、材料が豊富にあるのをいいことに、思いつく限りに作ってしまった。
日本ではよくあるワンルームの部屋のように作ったので、同じ部屋の端にキッチンがあって、反対側にはベッドも置いてある。
壁に向かって料理するように作ったので、大きめのダイニングテーブルを置いて、仕切りにした。
こちらでは床にカーペットを敷くのが普通みたいだけど、床はフローリングにして、部屋の一部にだけラグが敷いてある。
壁際に置かれたベッドのサイズはセミダブルで、シーツや布団なんかは、家の中にあるものをバトラーに譲ってもらった。
ふかふかのクッションを作って、リュミ専用の寝床も作ったし、隠し空間だけで十分に生活できるスペースが出来上がっている。
キッチンにはコンロや冷蔵庫やオーブンの魔道具も置いたし、こっちの部屋は安易に人に見せられないような作りになってしまった。
でも、道をそれて穴を掘ってトイレ替わりにするとか耐えられないし、お風呂もできれば毎日入りたいから、ばれなきゃ問題ないだろう。
一応、同行者ができた時のために、外で野営に使える道具も一通り作って馬車に積んだし、それに、魔核を使わず、馬車に魔法陣を組み込む一般的な方法で、馬車の内部の空間も拡張しておいた。
見た目の数倍の広さがある馬車だから、数人で雑魚寝することもできるだろう。
同行者がいても使えるトイレを、隠し部屋とは別にもう一つ作って、馬車の中から行けるようにした。
これはあえて異空間にせず、馬車の後部の一部を壁で区切って、洋式の便器を設置した。
一般的なトイレにいるスライムは使わず、浄化の魔法陣を組み込んだ魔核を使って便器を魔道具化しているので、使用後にボタンを押すだけで浄化の魔法が発動する。
ついでに周囲に浄化の魔法を使えば、掃除もいらなくて便利だ。
最初は掃除道具を作ろうかと思ったけど、バトラーに浄化で掃除ができると教えられて、作るのはやめた。
こちらでの掃除は浄化を使うのが一般的で、どの家も清潔に保たれているそうだ。
ただ当然ながら、浄化したところで物は片付かないので、片付けの苦手な人の部屋が魔窟になることはあるらしい。
天幕と呼んだ方がいいサイズの大きな結界付きのテントとか、野外で料理するためのコンロを作るときには、キャンプの経験がとても役に立った。
鉄板焼きのための大きな鉄板とか、10人分くらい一度に作れそうなパエリア鍋とか、嬉々として作ってしまったけど、作ってからこれを一人で使うのは侘しいと気づいて、2~3人で使えるサイズのものも作り直した。
武器を作る鍛冶はあまり興味を持てなかったけど、生活雑貨を作るための鍛冶は楽しかった。
バトラーも生活雑貨を作るのは面白かったみたいで、手の空いた時に手伝ってくれたので、二人で調子に乗って色々と試作して、陶芸にまで手を出してしまった。
知識があっても、俺一人だったら陶器を作るのは絶対無理だったけど、バトラーが魔法窯を取り寄せてくれたので、それなりにいい物を作ることができた。
魔法窯自体は、特に珍しい物でなく、それなりに普及しているそうだ。
どんなに小さな村でも共同で一つは持っていて、日常生活で使う大きな水瓶や壺などを作ったりするらしい。
ただ色のついた陶器は高級品だそうで、調子に乗って作った桜色の小鉢とか、白磁に絵を描いたティーセットなんかは、王族や上級貴族が使うレベルの品に仕上がっているようだ。
お絵かき感覚で、元の世界の植物を思い出しながら描いただけなので、高値が付くならと、ティーポットとシュガーポット、ミルクピッチャー、カップとソーサーのセットで作れるだけ作ってしまった。
興が乗ったので、木製のトランクケースみたいなのも作って、内側に衝撃吸収のための布を張り、ティーセット一式を収納できるようにした。
バトラーに裏技を教えてもらって、ティーセットを収納した状態でトランクケースに軽量化と破損防止の魔法陣を組み込むと、トランクケースだけでなく、中身のティーセットにも魔法をかけることができた。
陶器一つ一つに破損防止を組み込むのは、魔皮紙の消耗が激しくて無駄が多いのであきらめていたけど、この方法なら纏めて掛けられるから無駄がない。
調子に乗って、作った陶器をすべて一つの箱に収めて破損防止の魔法陣を組み込んだのはいいけど、消費した魔力が半端なく多くて、魔力切れでダウンするという失敗もした。
体験して学ぶべきだからと、バトラーは基本的に俺が失敗しそうなときでも黙って見守ってるだけだ。
これ以降、俺は魔力の消費量に注意するようになったのだった。
旅に使えそうなものだけでなく、日常生活に使えそうなものも含めて、思いつくままに試作してみた。
これらは、需要がありそうならば売り出そうかと思っているので、サイズを変えたりしてたくさん作ってみた。
どれだけたくさん物を作っても、俺の空間庫は最初に大きな体育館をイメージしたせいか、かなり容量が多いので、何の問題もない。
空間拡張の魔法陣を使えば、割と簡単にマジックバッグは作れるので、程々の容量の物を試しに一つ作っておいた。
今の俺の魔力量だと、ほどほどの容量の物しか作れなかったとも言う。
マジックバッグは簡単に作れるけれど、一回の製作で、かなりの魔力を消費する。
空間魔法の持ち主で、きちんとしたイメージで空間庫を使え、それ相応の魔力を持っていなければ作成できないとなれば、ダンジョン産の物しか出回っていないというのも当然なのかもしれない。
今の俺の魔力を最大まで注いで作っても、マジックバッグの容量は馬車2台分くらいしかない。
今作っても魔皮紙の無駄遣いになるので、職について魔力が増えたら、また作り直してみるつもりだ。
その頃には布や革を使ってバッグを作成する能力も、もう少し上がっているだろうから、見栄えのいいものが作れるだろう。
空間庫と同じ機能を持つマジックバッグは、一部の貴族や冒険者の間でしか出回っていないらしいけど、空間魔法が使える人はそれなりにいるらしい。
ただ、空間魔法というのはイメージがし辛いらしく、他の魔法と違って教えてもらうのが難しいので、空間庫を使えても、容量が限られていたり、中の物が劣化したりするそうだ。
それでも、空間庫から道具を取り出したりするのは特別変わったことではないので、人前で隠さずに使えるのは便利でいいなと思う。
俺が隠さないといけないのは、鑑定スキルの方らしい。
特に俺の鑑定は制限がないから、鑑定できることは知られないようにと、バトラーに何度も注意された。
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