いつかの僕らのために

水城雪見

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新たな出逢い

きのこたけのこ

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「やっぱり、いい香りだ。髪も凄く手触りがいい」


 リューガが伸びてきた俺の髪を掬い取って、気障な仕草でキスを落とす。
 どこの王子様だって突っ込みを入れたくなるくらい様になっててかっこいいけど、やられてるのが俺だから恥ずかしい。


「そーゆーことやるから、お姫様に惚れられるんだ」


 ふいっと横を向きながら憎まれ口をたたくと、優しく腕に抱きこまれた。


「妬くな、麗にしかしねぇよ」

「妬いてない!」


 からかうように耳元で囁かれて、艶のある甘い声にどきっとさせられたのが悔しくて、即座に言い返した。
 もう、俺をからかうリューガは、おやつ抜きだ。
 でもやっぱり、一人で食べるのは嫌だから、おやつ抜きじゃなくて、おやつのランクを下げてやる。
 予定していたチョコレートじゃなくて、チョコレート菓子にしちゃうけど、自業自得なんだからな!


「おい、ちょっと待て。『きのこの森』じゃねぇか! 何でこんなところにあるんだ!?」


 きのこたけのこ戦争が起きる有名なチョコレート菓子を空間庫から取り出すと、パッケージを見たリューガが大騒ぎする。
 バトラーと包装は外に持ち出さないと約束したけど、ここには俺の事情を知るリューガしかいないからセーフだろう。
 中身だけだとインパクトが弱いから、今回だけはルールを曲げることに目を瞑ってほしい。


「俺をからかって遊ぶ意地悪リューガには内緒!」


 リューガの慌てようが面白くて笑顔で言い切ると、一瞬きょとんとしたリューガが、苦笑を浮かべる。


「バカ麗。からかってねーよ。全部本音だ」


 額に軽く額をぶつけられて、至近距離で綺麗なリューガの瞳を見つめた。
 言葉通り、そこにからかうような色はなくて、あれが全部本音だと思えばそれはそれで恥ずかしくていたたまれなくて、リューガを直視できなくなる。


「からかってないのなら、リューガにも分けてあげる」


 恥ずかしくなったのを誤魔化すように、勢いよくパッケージを開けた。
 中から出てきたきのこを模したチョコレート菓子は、小さい頃からなじみがあるものだけど、口にするのは久しぶりだ。


「……美味いな。懐かしい味がする」


 一つ摘まんでリューガに食べさせると、もぐもぐと咀嚼した後に、リューガが柔らかな笑みを零した。
 何かを懐かしむような優しい顔のまま、口を開いてもう一つねだってくる。


「きのこたけのこ戦争って、リューガの時もあった?」


 リューガにもう一つ食べさせた後、俺も懐かしいお菓子を一つ食べてみる。
 遠足の時とか、友達とテスト勉強してるときとか、よく食べてたなぁ。
 俺はどっちでもいい派だったけど、友達はきのこ派もいればたけのこ派もいて、つまらないことで騒いで笑いあってた。


「あったな。今思うと、つまんねぇことで大騒ぎしてたな。きのこもたけのこも、どっちも美味いのにな」


 俺と似たような思い出がリューガにもあるのだろう。くすくすと笑みを零すリューガの顔が懐かしげで、ずっと見ていたいと思うくらいに優しくて温かい。


「神様はきのこ派なのかも。まだたけのこは、見たことがないから」


 初めて見たときは、どうせならきのことたけのこがどっちも楽しめるファミリーパックを送ってくれたらいいのにと思った。
 箱の大きさを考えると、入らないわけじゃないだろうし。


「ん? ってことは、これは神様からもらったのか?」


 首を傾げて不思議そうにしているリューガに、出所を内緒にしていたことをすっかり忘れて、異世界のお菓子箱のことを話した。
 リューガもダンジョンの宝箱に入っている箱に気づいてなかったようで、定期的に中身はランダムでポーションや素材が手に入る箱があると知って、興味津々といった様子だ。
 この分だと、近々ダンジョンに籠るんじゃないだろうか。
 神様は早急に、宝箱に入れてる素材箱の見た目を、持って帰りたくなるくらい綺麗なものに変えるべきだと思う。


「ここの神様、麗に甘過ぎじゃねぇ? 甘やかしたくなる気持ちはわかるんだがなぁ」


 もう一つと、口を開けてねだるリューガにお菓子を食べさせながら、空間庫から果実水を取り出した。
 空気は少し冷たいけど、今日は風がなくて天気がいいから、ずっと外にいると少し暑くて喉が渇いてしまう。


「神様には神様なりのルールがあって、その範囲内だからいいんじゃない? ご褒美があれば、やる気にもなるしね」


 多分、俺にバースデーケーキを届けるために作った箱だと思うけど、今は言わずにおく。
 ケーキのことを説明すると、また泣いてしまいそうだから。
 普段とは違う、泣いて弱い俺ばかりリューガに見せてしまっているから、あまりリューガの前で泣きたくない。
 俺、甘ったれだけど、そこまで弱くないし、結構ポジティブだ。
 か弱いイメージがつくのは、絶対に避けたい。


「確かに、やる気は出るなぁ。麗には、次々にガソリン投下されてるから、精力的に働けそうだ」

「こき使ってあげるから、覚悟してね?」


 冗談めかして返すと、「任せろ!」と、笑顔で頷かれた。
 頼もしいなぁと思いながら、束の間、リューガとのんびりとした時間を過ごすのだった。



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