いつかの僕らのために

水城雪見

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新たな出逢い

秘密基地

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「ここ、どこ?」


 辿り着いた先は、広い庭のような場所だった。
 周囲を見渡してみると、張り巡らされた土壁と、その向こうの鬱蒼とした森が目についた。
 どうやらここは、森に囲まれた別荘?のようだ。


「シュリングとクリスプを繋ぐ街道の南にある森の中だ。結界が張ってあるから、魔物は入ってこないが、一歩結界の外に出ると、ランクの高い魔物がうろついてるから、外には出るなよ?」


 つまり、シュリングに向かう旅の途中で、強い魔物がたくさんいると説明された森の奥ということか。
 結界があるとはいえ、随分な場所に家を建てたものだ。
 オートマッピングのスキルで位置を確認すると、大陸の南の端、海に近い森の中にいた。
 街道からはかなり離れていて、街道よりも海の方がずっと近い。


「何でこんな場所に家を建てたの?」


 広い庭は、あまり余計なものを植えてないからか、そんなに荒れた感じはしない。
 けれど、こちらでは見たことのない建築様式の3階建ての建物の方は、窓ガラスが汚れているのが遠目にもわかる。
 あまり掃除をしていないようだ。
 屋上とルーフバルコニーもある家は、日本の街中にあっても違和感がない豪邸で、窓も大きくて、透明なガラスが使われていた。
 それだけに、薄汚れているのがもったいないと感じる。


「定期的に森の奥の魔物を間引く依頼を受けてるんだが、一日じゃすまないから、拠点が欲しくてな。どこでも好きなだけ切り開いていいっていうから、適当な場所を切り開いて、職人を転移で連れてきて、家を建ててもらったんだが、さすがにこんな場所で働いてくれる人はいなくて、荒れ放題だ」


 仕事用の拠点だったのか。
 結界があるから害意のあるものは入ってこれないとわかっていても、こんな陸の孤島で働くのは怖くて嫌だよなぁ。
 誰も働いてくれないのは当たり前だ。


「俺をここに連れてきた理由は?」


 リューガの行動の意味が分からなくて、首を傾げる。
 従魔を出すなら街の外がいいけど、いくらドラゴンがいるとはいえ、ここでなくてもいいはずだ。


「いざという時の避難場所になるかと思った。ここなら、レイが転移で逃げれば、誰も追いかけてこられない。もし、俺がいないときに、何かまずいことが起きたら、ここに逃げ込めばいい。他にも似たような拠点をいくつか持っているから、近いところから少しずつ案内する」


 いざという時のシェルター替わりか。
 何だか、秘密基地みたいでわくわくする。
 確かに、余程の実力者じゃないと、森を抜けてこの場所に辿り着くことはできないだろうし、辿り着けたとしても、害意があるのなら結界に阻まれて敷地内に入ることすらできないはずだ。
 何もないのが一番だけど、備えはあった方がいいから、俺のためにと考えてくれるリューガの気持ちが嬉しかった。


「ありがとう、リューガ。避難場所があるのは、凄く心強いよ」


 まだ俺のことを抱き上げたまま下ろそうとしないリューガの頬に軽くお礼のキスをして、腕をたたいて下におろすように促した。


「先にご飯を食べてから、居心地よくなるように整えてもいい?」


 地面におろされてすぐに、俺は空間庫から馬車を取り出した。
 家があるけれど、とても食事ができる環境じゃなさそうだから、最初の予定通りに馬車の中にリューガを招待することにした。


「レイの好きなように使ってくれ。建物も、掃除さえすれば、建てたときに状態維持の魔法をかけてるから、劣化してる場所はないはずだ。窓ガラスも割れないようになっている」


 状態維持をかけていれば、綺麗な状態を保ってくれて掃除はいらないかと思ったけれど、そこまで便利じゃないのか。
 掃除は多分、浄化の魔核を家の周囲に埋めておけば、その範囲内は自動的に浄化してくれるから、必要なくなるはず。
 魔物が多い森の中だから、より強く浄化できるように念のために光属性の方の魔核を使って、一日に一度浄化が発動するような魔法陣を作ってみよう。
 光属性の魔核は貴重だけど、そこそこの数を持っているし、足りないことはないだろう。
 魔核の加工は、魔力が有り余っていそうなリューガに、後でお手伝いをお願いしてみよう。
 まずは、馬車の中でお昼ごはんだ。
 さすがにお腹が空いた。


「リューガ、入って。馬車の中は土足でいいけど、こっちでは靴を脱いでね」


 リューガを馬車の中に案内して、隠し部屋に繋がる引き戸を引く。
 まだルイスたちにも教えていない隠し部屋に、先にリューガを招待するのは少しだけ悩んだけれど、でも、こっちの部屋の方がゆっくりご飯を食べられるから、隠さないことにした。
 次にルイスたちに逢ったときには、俺が転移者であることも含めてきちんと話をして、相手の負担になるからなんて理由をつけずに正面から向き合いたいと思う。
 俺がこんな風に考えられるようになったのは、リューガのおかげだ。
 だから、リューガに秘密を明かすことについて、躊躇いはない。
 隠蔽されていた引き戸に気づかなかったのか、新たに表れた空間にリューガは驚いたようだ。
 リューガをびっくりさせるのは、悪戯が成功したみたいでちょっと楽しい。


「隠し部屋か? 秘密基地みたいだな」


 俺がさっき思ったのと同じ感想をもらって、思わず笑ってしまう。
 秘密基地って、やっぱりワクワクするよね。リューガもなんだかちょっとそわそわしてるし。


「俺も。さっきここに来た時、秘密基地みたいって思った。早く、入って。作り置きばかりだけど、ご飯食べようよ」


 リューガを急かして、入り口で靴を脱いでから、部屋の奥に足を進めた。
 ダイニングテーブルの上を一度軽く浄化して、今日はイタリアンにしようと、作り置きの料理を出して並べていく。
 作りたてを保管庫に入れてあるから、まだ熱々のままだ。
 パスタがクリームソースだから、ピザはシンプルなマルゲリータと生野菜とツナを使ったサラダ風のピザにしよう。
 サラダのドレッシングは柑橘の果汁も使ったさっぱり系で。
 サラダはレタスときゅうりとトマトに、少しボリュームを出すためこんがりと焼いたチキンも添えてみた。
 チキンと呼んでいるけど、鶏ではなくて鳥系魔物の肉で、旨味があって柔らかいので料理にも使いやすいし、俺のお気に入りだ。
 後はコーンポタージュと、食後に苺アイスとコーヒーを出せばいいだろう。
 コーヒーは深煎りしたちょっと苦めなものだから、食後には多分ちょうどいいはず。


「すごいな。もしかして、レイの手作りか?」


 ダイニングの椅子に座りながら、リューガが目を輝かす。
 リューガは世界各地で色々と作らせてるみたいだけど、この中にまだ再現できてない料理でもあったのかな?
 とりあえずは俺も椅子に座って、リュミにはカットフルーツを出しておく。
 テーブルの端の方にリュミ専用の座布団みたいなクッションがあるので、そこがリュミの食事場所だ。
 

「うん。この前纏めて作っておいたんだ。ピザは他のが食べたいなら、焼いてないのもあるし、ソースや生地も何種類か作ってるから、日本のピザ屋とまではいかないけど、そこそこリクエストに応えられるよ」


 ソースや生地は纏めて作るのが楽なので、いい材料が手に入った時に大量作成してある。
 お皿や器もたくさん作ってあるから、一食分ずつ盛りつけてそのまま空間庫にしまっているので、取り出すのも楽でいい。
 食べ終わったら食器を浄化して片付けるだけでいいので、本当に魔法は便利だと思う。


「いや、今日はこれで十分だ。ありがとう、レイ」


 いただきますと手を合わせてから、リューガがパスタに手を付ける。
 リューガはパスタを食べるときに、スプーンを使わない派みたいだ。
 まぁ、俺も使わないんだけど。
 フォークとスプーンを使ってパスタを食べるのって、何だか女子っぽいよね?
 俺もちゃんといただきますしてから、ポタージュを一口飲んだ。
 まだ寒い時期だから、温かいスープを飲むとホッとする。
 特にポタージュは好きだから、ジャガイモやカボチャも使って、数種類のポタージュを作ってあった。
 魔法があるから、面倒な裏ごしも楽にできるし、魔法万歳だ。

 リューガは何だか口数が少なくて、何やら感動した面持ちで、一つ一つの料理を味わっていた。
 邪魔をしないように、俺もあまり話しかけずに、のんびりとご飯を食べるのだった。


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