いつかの僕らのために

水城雪見

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新たな出逢い

じゃれあい

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「さて、話は大体まとまったな。クリームチーズのレシピを登録に行くのなら、その時ついでにチーズケーキのレシピの契約も商業ギルドを通してやっておくぞ。レイは目立ちたくないって言ってたが、功績はレイを守る盾にもなる。それに、リューガを一緒に連れていけば、レイはリューガの連れだと思われるだろうから、目立たずに済むぞ」


 なるほど。俺よりずっと目立つリューガが同行していれば、目眩ましになるのか。
 さすが特級冒険者。


「好きなだけ利用されてやるよ。レイのためならな」


 一緒に行ってくれるのかな?と、窺うようにリューガを見ると、ぐりぐりと頭を撫でられた。
 リューガはどこに行っても目立つから、目立ちたくないとか考えもしないんだろうなぁ。


「ありがとう、リューガ、助かるよ。今の俺は、まだ見た目だけで侮られるから」


 幼く見えるというのは、それだけで不利だ。
 今、悪目立ちすると、簡単に付け入ることができると俺を甘く見た奴に集られるから、自衛はできるだけしておきたい。


「すぐにそんなこともなくなるさ。特級冒険者の俺にすらできないことを、レイはいくつもできるんだからな。そのうち、お前を侮るのは、見る目のない馬鹿だと知れ渡るようになる」


 リューガは俺に甘すぎじゃないかな?
 励ましてくれて、すっごく嬉しかったけど。
 仕方がない、そう思いながらも、見た目だけで侮られるのは悔しい。
 だから、リューガが俺のことを子ども扱いしないのも、本当はとても嬉しいんだ。


「知り合ったばかりで、リューガをそこまで骨抜きにしてるレイを侮るなんて、そんな恐ろしいことができるのは、間違いなく見る目のない馬鹿だな」


 うんうんと、アレンさんが頷いているけれど、その言い様だとまるで俺がリューガを誘惑したみたいじゃないか。


「言っとくけど、口説かれてるのは俺の方だからね!?」


 俺がむくれてると、リューガは何だか嬉しそうに俺のことを抱きしめてくる。


「ぷんすかむくれてるレイが滅茶苦茶可愛いんだが、どうしたらいい?」


 俺を抱きしめたまま、真顔で変なことを言い出すから、正気に戻すために額をぺちっと叩いておいた。


「もう、リューガがそういうことばっかり言うから、熱い風評被害が発生するんだ」

「でも、俺がレイに骨抜きなのは事実だからなぁ」


 リューガがしれっと恥ずかしいことを言うから、もう意味のある言葉が何も出てこなくて、絶句したまま俺を抱きしめたままのリューガの腕を抗議するみたいにペシペシと叩く。
 すると、ずっとおとなしくしていたリュミが、ここぞとばかりにリューガの頭に飛び乗って、脳天にチョップをくらわすみたいに何度も飛び跳ね始めた。
 リューガの頭がトランポリン扱いされてる。


「いてっ! こら、リュミ! 飛び跳ねてもいいから、爪を立てるな。髪に引っかかっていてぇ」


 痛いと言いつつ、リューガはリュミの暴挙に怒ることもなく笑っている。
 リューガの髪は、少しだけ癖があるから縺れやすいのだろう。爪が引っかかったら、きっとすごく痛いに違いない。


「リュミ、多分反省してるから、もう許していいよ。爪を痛めるといけないから、こっちにおいで」


 俺が手を差し出すと、リュミはリューガの頭の上に後ろ足で立ったまま、可愛らしく首を傾げる。


<レイ、もっといじめる? 遠慮いらないの>


 リュミにとってリューガは、気安く接することができる相手のようだ。
 リュミの反応が面白くて、つい噴き出してしまった。


「リューガが、禿げると可哀そうだから、苛めなくていいよ」


 笑い交じりに言いながらもう一度手を差し出すと、リュミが飛び移ってくる。


「こら、俺はまだふさふさだぞ? 従魔と、そういう心を抉るような会話をするのは止めようか?」


 真顔でぎゅーっと腕に閉じ込めるみたいに抱きしめられて、リューガの思いがけない反応に笑ってしまう。
 禿げても全然気にしなさそうなタイプに見えるのに、意外過ぎておかしい。


「若いって、残酷だな。レイだっていつか、年食ったら俺の気持ちがわかるようになるさ」


 ふっと、世の無常を儚むかのような表情をしているけれど、話しているのは頭髪のことである。
 かっこつけたって意味ないよね。


「大丈夫。俺の父さんはふさふさだったから! 年食っても渋くて滅茶苦茶かっこよかったし、父さんは絶対に禿げない!」


 だから、父さんの子供である俺も禿げないはず。
 子供っぽく言い返すと、横から、呆れたようなため息が聞こえた。


「お前らの仲がいいのは、よーくわかった。続きは帰ってからやれ。商業ギルドの面会予約が取れたら、また連絡を入れるから、じゃれてるだけなら、帰れ」


 呆れ顔のアレンさんに、犬を追い払うみたいに手を振られる。
 アレンさんそっちのけでじゃれてたからなぁ。
 今も、リューガは俺を腕に抱きこんだままだし、呆れられるのも仕方がない。
 これじゃ、ただのバカップルだ。
 こっちにバカップルなんて言葉があるのかは知らないけど。


「大体の予定は決まったし、帰るか。レイの従魔を紹介してもらう予定だったしな」


 リューガが俺を腕に抱えたまま立ち上がる。
 思わずぎゅっと首にしがみつくと、甘やかすように背中を撫でられた。


「アレンさん、お邪魔しました」


 リューガに抱っこされたまま、一応挨拶だけはしておく。
 片腕で子供みたいに抱き上げられてるのは恥ずかしいけど、外に出るまでならいいかなぁと思って甘えることにした。
 リューガに抱きしめられたり撫でられたりするのは、何だかすごく心地いい。


「従魔の紹介をするなら、街の外に出て、お昼ご飯は外で食べようよ。俺の作った馬車に招待するから」


 お昼を少し過ぎた時間だから、ちょっとお腹が空いてきた。
 街の中でご飯を食べてもいいけど、リューガといると目立ちそうだし、ご飯くらい人目を気にせずにのんびりと食べたい。


「外か。それなら、ちょうど案内したいところがあるから、しっかり捕まってろ」


 ミール商会を出てすぐ、下ろしてもらおうとしたけれど、その前にリューガがどこかに転移する。
 人に転移させられるのは初めてで、一瞬身構えてしまったけれど、リューガは転移になれているからか、自分自身で転移した時と変わらないくらい何の違和感も感じなかった。



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