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新たな出逢い
似たもの同士
しおりを挟む「早かったな、レイ。夕方まで待たないといけないかと思っていたよ」
リューガと連れ立ってミール商会に行くと、すぐにアレンさんの執務室に案内された。
今日は街にいたけれど、冒険者ギルドのクエストで街の外に出ていたら、アレンさんの言う通り早くても夕方くらいにしか来られなかった。
待たせずに済んでよかったというべきだろうか?
そういえば、昨日のクエストの報告をしてなかったな。
まだ定められた期日には余裕があるけれど、後で行けそうなら行って、さっさと片付けておこう。
「今日は、たまたま宿にいたんだ。リューガもアレンさんに逢いたいっていうから、ついでに連れてきたよ」
「よう、久しぶりだな、アレン」
俺の後ろからアレンさんの執務室に入ったリューガが、軽く手を上げて挨拶する。
「二人は知り合いだったのか? 意外な組み合わせ……でもないか。お前ら、同類の匂いがする」
アレンさんは勘がいいなぁ。
何にも知らないはずなのに、リューガと俺の共通点を感じ取っているみたいだ。
「リューガと同類なんて嫌だよ。俺、ここまで自由じゃない」
憎まれ口をたたくと、背後からぐりぐりと頭を撫でられた。
「あんまり可愛いことばっかり言ってると、その口ふさぐぞ?」
笑い交じりに俺をからかいながら、リューガはどかっと偉そうにソファに座る。
きっといつもアレンさんと会う時の定位置なのだろう。
口をふさがれたら困るので、俺はおとなしくリューガの隣に座った。
「随分仲がいいんだな」
常に笑顔で、あまりそれ以外の感情を表に出さない商人らしい商人のアレンさんが、驚きを隠せないようだ。
いや、でも、少しずつ素の顔を見せてくれるようにもなってるかな?
俺はアレンさんを驚かせることが多いみたいだから、取り繕っていられないみたいだし。
リューガに関しては、フレンドリーで誰とでも仲良くしてそうだし、仲が良くても驚くほどのことじゃないと思うんだけどなぁ。
「俺の運命だからな」
「バカ、運命じゃなくてストーカーだろ?」
リューガが恥ずかしいことを言い出したから、思わず照れ隠しで茶化してしまった。
俺たちのやり取りを見ていたアレンさんは、ぽかんと口を開けたままの間抜け顔で、せっかくのイケメンが台無しになってる。
「すとーかーが何かは知らんが、ほんの数日の間に何があったんだ!? いつも飄々としてて、美姫と有名な王女に誘われてもあっさり袖にしてたリューガにそこまで言わすとは、相当なことだぞ?」
驚きすぎて混乱しているアレンさんに突っ込みを入れられて、思わずリューガを見てしまう。
「お姫様を誑かしてたの?」
「勝手に惚れられただけだ。俺にその気はないから、それ以来、そこの王族には一切近寄らないようにしてる」
からかったつもりだったのに、リューガがあっさりと返すから、からかいにもなりはしない。
この顔、そういえばそんなこともあったような気がするなぁって顔だ。
多分アレンさんに言われるまでそのお姫様のことを忘れていたか、似たようなことが何度もあったに違いない。
箱入りのお姫様が惚れ込んじゃう気持ちはわかるかなぁ。
リューガは見た目だけなら、凄くかっこいいから。
中身は、ちょっと雑だったり下品だったりするけど、でも優しいし、やっぱり中身もかっこいいかも。
「心配するな。俺は一途だから、レイしか見ねーよ」
流し目で俺を見ながら、俺には絶対できない男らしい色気満載の笑みを浮かべるのはやめてほしい。
うっかりときめくじゃないか。
「心配なんかしてない!」
むきになって言い返すのは子供っぽいと思うけど、照れくさくて素直に頷いたりなんかできない。
リューガといると調子が狂う。
中身は200歳を超えている爺だから、人生経験が違うんだし仕方がないという気持ちもあるけど、二十歳過ぎにしか見えない外見に惑わされてつい突っかかってしまう。
そのたびに余裕でいなされてるけど。
俺に翻弄されるルイスの可愛げを見習え!って言いたくなる。
「お前らの仲がいいのは理解した。めんどくさいから、俺は何も見なかったことにする。――そうじゃないと、ルイスはともかくフランツが怖すぎる……」
アレンさんが最後の方は、呪文のように何事か呟いている。
よく聞こえなかったけど、厄除けのおまじないでも唱えたんだろうか?
まぁ、いいか。
俺の方もあまり突っ込んで聞かれても困るし。
ノックの音がして、アレンさんが返事をすると、今日もニーナさんがお茶をいれに来てくれた。
ニーナさんは今日も控えめで、お茶をいれると、ケーキのお礼だけ言ってすぐに下がっていった。
「とりあえず、レイを呼び出した本題に入るぞ。アマーリアの宿に対する嫌がらせの件だが、家で預かってる女の一部とアマーリアの喧嘩の延長だった。俺が留守にしてる間に、俺に求婚されたと勘違いしていたアマーリアと、アマーリアと俺が結婚するとなれば、家を追い出されると勘違いした女たちが、外で派手に言い争いをしたらしくてな」
説明するアレンさんが沈痛な面持ちだ。
外で派手にやらかされたのなら、多分、一部では噂にもなっていたのだろう。
噂っていうのは、本人には一番最後に伝わったりするから、なかなか気が付かなかったんだろうなぁ。
「店の評判を下げるような女を妻にするわけにはいかないから、ニーナ以外は全員家に帰した。元々、行儀見習いの名目で預かってただけで、婚約していたわけでもないし、これ以上粘ってうちの商会との関係を悪化するよりはと、どこも引いてくれた。それで、ニーナとは、レイの助言に従ってちゃんと話し合った結果、――結婚することにした」
結婚の報告が照れくさいのか、アレンさんの視線が微妙にそらされている。
ほんの数日でちゃんと問題解決できたようでよかった。
「若い嫁を貰うのか、よかったな!」
「お前だって、若い嫁(男)をもらう予定だろうが!」
リューガの祝福の言葉に照れているのか、アレンさんが即座に言い返す。
ちょっと待て、その若い嫁(男)って俺のこと?
「おう、さっさと嫁にできるように頑張るさ」
リューガがご機嫌な笑顔のまま俺の肩を抱き寄せようとしたから、とりあえず、その手をぺしっと叩いておいた。
昨日出逢ったばかりって、リューガはちゃんと覚えてるのかな?
待つっていったくせに、せっかち過ぎ。
大体、今の俺じゃ、リューガには釣り合わない。
今リューガとくっついたら、顔と体で取り入ったとか言われるのが目に見えてるから、絶対に嫌だ。
俺にだってプライドがあるんだから、もうちょっと足元固めて、自信もって生きていけるようになってからリューガのことは考えたい。
守られるだけっていうのは性に合わないし、生まれ持った外見以外も、ちゃんとリューガに釣り合うって思われたい。
それに、とりあえず付き合ってみるとかならまだしも、いきなり結婚とか言われても戸惑うよなぁ。
こっちじゃそれが当たり前みたいだけど、そういった価値観はなかなか変えられるものじゃない。
こっちでは成人したばかりだし、寿命も長くなったみたいだから、結婚なんて、まだ10年以上は先の話だと思ってたし。
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