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新たな出逢い
捕まったのはどっち?
しおりを挟む「そういえば、リューガは何か用があってシュリングに来たの? 宿に滞在してるくらいだから、この街に住んでるわけじゃないよね?」
コーヒーのお代わりを出してから、リューガに寄り添ってくっつくみたいにソファに座った。
右手でカップを持てるように、俺が座っているのはリューガの左側だ。
すっかり甘えん坊になってるのが恥ずかしいけど、リューガが許してくれるから安心して体を預けてた。
「俺がシュリングに来たのは、マジックバッグのレシピがシュリングで登録されたって聞いたからだ。こういうときは、大抵転生者が絡んでいるからな。来てみると、他にも面白いものが見つかったりすることが多いんだ」
リューガも空間庫が使えるみたいだから、マジックバッグ自体はどうでもよさそうだな。
面白いものって、何を探してるんだろ?
俺の疑問が分かったのか、コーヒーカップを軽く掲げて、笑みを零す。
「この通り、滅多に手に入らない美味いコーヒーが飲めただろ? 依頼でアーシェルドの方にいたから移動が面倒だったが、レイにも逢えたから、無駄足じゃなかったな」
「え? アーシェルドって隣の大陸でしょ? もうそっちまでレシピが伝わってるの?」
商業ギルドに登録したのは10日くらい前だ。
リューガが移動した距離も考えると、隣の大陸に情報が伝わったのも同じくらいの頃のはず。
まさか、そんなに情報伝達速度が速いとは思わなくて、物凄く驚いてしまった。
「冒険者ギルドも商業ギルドも、独自の情報網があるからな。それを利用して商人や冒険者同士で手紙のやり取りもできる。結構な金額を吹っ掛けられるけどな? レシピに関しては、登録された土地とそれ以外で格差がでないように、登録されたものは、登録後すぐに、どこのギルドでも閲覧できるようになってる」
思っていたよりもずっと、ちゃんとしたシステムが構築されているんだなぁ。
冒険者ギルドを作った転生者って、転生特典みたいなのもらってたのかな?
どんなスキルを持っていれば、ギルドを作ることが可能だったのか想像もつかない。
只人にはあり得ない能力の持ち主だと思うけど、俺も全部のスキルを知っているわけじゃないからなぁ。
「ギルドって、凄いんだね。情報が広まるの、もっと時間がかかるかと思ってたよ。それに、リューガの移動速度も凄すぎじゃない? 俺は、リューガが来てくれて、助かったけどさ」
リューガに拾われてなかったら、寂しさを紛らわすために馬鹿なことを仕出かしていたかもしれない。
そんなことになってたら、物凄く後悔してただろうし、ルイスたちのことも悲しませることになっただろうな。
ルイスたちがどれだけ俺のことを心配して大事にしてくれているのか、ちゃんと理解してるのに、昨日の俺は本当に愚かだった。
「俺は転移が使えるからな。魔力も人族とは比べ物にならないくらい多いし、一度にかなりの長距離を転移できる。だから、シュリングに行こうと思い立ったのは、一昨日だ。さっさと行動したのは正解だったな。おかげでレイを捕まえられた」
リューガが左腕で俺を抱き寄せて、子供にするみたいに頭をぐしゃぐしゃと撫でてくる。
俺のこと撫でるの、好きすぎじゃないかなぁ?
「俺、捕まったの?」
体重を掛けて凭れ掛かりながら伺うような視線を向けると、俺を抱く腕に力がこもった。
「どっちかっていうと、捕まったのは俺の方って気もするけどな?」
冗談っぽく言われて、そうかなぁ?と首を傾げてしまう。
だって、俺から見たリューガは、誰にも捕まらない自由な孤高の王って雰囲気があるんだ。
今は俺と一緒にいてくれるけど、すぐにふらっと姿を消してしまいそうな気がする。
思い立ってすぐに隣の大陸まで移動してしまう行動力があることを考えると、俺が捕まえられるような人じゃないと思う。
「信じてねーだろ? お前が俺を呼ぶのなら、地の果てからでも駆けつけてやるよ」
「――どこのヒーローだよ」
リューガがあまりにも恥ずかしいことを言うから、ふいっと横を向いて突っ込みを入れてみた。
父さんを筆頭に俺の周りの大人は甘かったから、甘やかされるのは慣れてるけど、ここまでストレートな言葉を告げられると、ちょっと照れくさい。
素直じゃないガキっぽい俺が表に出てきてしまう。
それに、とりあえず一人で頑張るって決めて、ルイスたちと離れたのに、リューガから離れられなくなりそうで怖い。
なんかもう、既に手遅れの気がしないでもないけど、依存みたいになるのは嫌だから気を付けよう。
転移者であるという秘密を打ち明けたことで、心はがっつりと支えられているから、それだけで十分なんだ。
「レイが望むなら、ヒーローにでも何にでもなってやるよ。ちなみに俺の一番のおすすめは、人生の伴侶だ」
伴侶って、何でいきなりプロポーズしてるんだ、リューガは。
呆れたって言いたいのに、妙に照れくさくて頬に血が上っていく。
一人で頑張らないと、そう思うのに誘惑される。
「―――もう、先約があるから、無理」
ふとルイスたちのことが頭を過って、そんな憎まれ口を返すと、ぐいっとコーヒーを飲みほしたリューガが俺の体を軽々と抱き上げて、向かい合わせで膝に座らせる。
これ、普通に座ってるより顔の位置が近いから、俯く以外に視線を逸らす方法がなくて、今は何か恥ずかしいから嫌だ。
「レイ? 顔、上げろ」
俯いていると、額を軽く合わせて、顔を上げるように促される。
できるだけ直視しないようにと、伏し目がちに顔を上げると、ふっとリューガが笑みを漏らす。
「この先、レイに関わっていけるのなら、俺は夫の内の一人でいい。返事はいくらでも待つから、考えておけ」
殊勝なのか偉そうなのか、わけがわかんないリューガの言葉に、照れてしまいながら頷く。
正直なところ、伴侶とか結婚とか今は考えられないけど、リューガみたいに凄い大人が俺に深く関わろうとしてくれてるのが嬉しかった。
「約束、だからな? 破ったら、針千本だぞ?」
くすくすと笑みを漏らし、からかうように言いながら、リューガがちゅっと俺の唇を軽く啄む。
この程度のキス、慣れてるのに恥ずかしくて堪らなくて、リューガの肩に顔を埋めてぐりぐりと擦りついた。
指切りしてないのにって突っ込みたいけど、今は顔を上げられない。
「俺に逢えたから、リューガの用事はもう終わり? また、どこか遠くに行くの?」
肩に顔を埋めて、くっついて甘えたまま、今後のリューガの予定を聞いてみる。
なんかあちこち行ってるみたいだし、転移のせいで行動力も桁違いみたいだから、リューガは気が付くといなくなってそうだ。
「シュリングに来た時には、アレンっていう商人と会うことになってる。クリスプに乳製品を買いに行くなら、一言、断っておいた方がいいからな」
思いがけない名前が出てきて、勢いよく顔を上げた。
「アレンさんと知り合いなの?」
「その様子じゃレイも知り合いのようだな。俺は、クリスプの酪農の共同出資者だ。クリスプだけじゃなく、あちこちで欲しいものを作らせてる」
共同出資者って、なんか会社の社長みたいだなぁ。
もしかして、リューガも商会を持っているんだろうか?
「リューガって、何してる人? 商人?」
転移であちこち移動して、珍しいものを仕入れて売るのかな?と思って尋ねたら、何故かリューガに大爆笑された。
膝に抱かれた俺の体にもろに振動が伝わってくるくらい、体を震わせて笑ってる。
「俺も冒険者だよ、レイ。お前の大先輩ってやつだな。冒険者歴は200年以上だから」
笑い過ぎて滲んだ涙を拭いながら、リューガが正解を教えてくれる。
冒険者歴200年を超えてるって、相当な古株?
ランクが高そうだなぁ。
「俺の場合、働かなくても食っていけるくらい稼いでるから、今はもう、気が向いた時しか仕事してないけどな。これでも特級冒険者だから、あちこちからご指名がかかって大変なんだ」
「えっ? 特級!? 世界に5人しかいない特級冒険者が、駆け出しの俺にプロポーズとか、何やってるんだよ、バカか」
想像以上にリューガのランクが高くて驚いたせいで、酷い毒を吐いてしまった。
リューガは気にした様子もなく、膝に抱いたままの俺の体をあやすみたいに軽く揺らす。
「仕方がないだろ? お前に運命を感じたんだから。俺は、エルフの血がかなり濃いから、惚れた相手じゃなきゃ欲情できない。面倒な血筋だから、子孫を残すことにはこだわってないが、まだまだ先の長い人生なんだ、愛したいし愛されたいさ。エルフって種族は、千年は生きる。その長い生の間で、愛する人はただ一人ってことも珍しくないんだ。だから、運命だと感じた相手はとことん大事にするし、一途に想い続ける。言い換えりゃ、ストーカー気質ってことだよなぁ」
途中までは純愛みたいないいエピソードっぽかったのに、最後の一言でリューガが台無しにした。
自分で言うな!って、突っ込むべき?
「というわけで、もう、逃がす気はねぇから。早々に諦めて、俺のことも伴侶にした方がいいぞ?」
執着されるのは嫌いだ、母さんを思い出すから。
けど、リューガは冗談交じりに脅すようなことを言いながらも、俺の意志を最優先してくれるんだろうって伝わってくるから嫌じゃない。
「変な奴に執着される前に、俺にしとけ。これでも特級冒険者だから、あちこちの王族にも脅しが効く。レイを連れて逃げるのも、転移があるから余裕だしな」
「返事……いくらでも待つっていったくせに」
口説かれ過ぎて恥ずかしいから、拗ねた口調で突っ込みを入れた。
リューガと世界中を逃避行って楽しそうだなぁって思ってしまったから、ほだされる前に止めてしまいたかったというのもある。
「口説かないとは言ってないだろ? それに、蒸し返したのはお前だからな?」
俺の頬を突いて遊ぶリューガは、完全に開き直っている。
リューガを止めるのは無理そうだ。
「レアどころか伝説クラスなのに、何で俺に捕まるかな?」
某ポケットなモンスターを思い浮かべながら軽口をたたくと、俺が思い浮かべたものが伝わったのか、軽く額を小突かれる。
「俺はポ〇モンじゃねーから。どっちかっていうと、トレーナー側じゃないか? 俺の従魔、ドラゴンもいるし。前世の名前に龍の文字が入っていたからか、ドラゴン系の魔物には好かれやすいみたいでな、狩りに行ったはずが、従魔にして帰ってきたこともある」
「ドラゴン!? 俺、まだ見たことない! ドラゴンって知性のある魔物だから、ダンジョンにいるドラゴン以外は、むやみに攻撃しちゃダメって聞いたけど、狩りに行ったことがあるの?」
バトラーの知識が古過ぎてずれているんだろうか?
そんな失礼なことを考えながら、ワクワクする気持ちを抑えきれずにリューガを見る。
ドラゴンがいるって知った時から、いつか見てみたいと思っていた。
神様の家の地下のダンジョンにドラゴンが出てくることはなかったから、俺はまだドラゴンを遠目に見たことすらない。
「ドラゴンは種類が多いんだ。だから、討伐対象になるドラゴンも結構いるぞ? ワイバーンとかが有名だな。それとは別に、人と共存してるドラゴンもいるんだが、地竜なんかは、温厚で馬の代わりに使われたりもするから、たまに街の中でも見かけることがある。あれは羽がないから飛べないし、見た目はドラゴンっていうより、トカゲに近い」
もしかしたら、気づかないだけで地竜を見かけたことがあったのかなぁ?
俺の馬車を引くのは、六花たちがやってくれるけど、地竜みたいなのもいると便利なのかもしれない。
六花たちは狩りもできるおりこうさんだから、馬車は他の従魔に任せてもいいし。
まだ、従魔にしたいような魔物に出会ってないけど、六花たちに仲間を増やしてやるのもいいのかもなぁ。
そこから先は、なし崩しに従魔自慢が始まった。
といっても、お互いにそんなにたくさんテイムしてるわけじゃなかったけど。
リューガの従魔は移動用のお手伝い系従魔ばかりだった。
宿の中で召喚するわけにはいかないので、お互いの従魔を見せるために外に出かけようとしていたら、アレンさんからの使いが宿にやってきたので、急遽、行き先をミール商会に変更することになるのだった。
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