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新たな出逢い
神様が出逢わせてくれた
しおりを挟む食後、食器を片付けてもらってから、リューガの希望でコーヒーを出した。
リューガは世界中を旅しているそうだけど、コーヒーを出してくれる喫茶店があるのは知らなかったらしい。
美味いコーヒーを飲むのは久しぶりだと、とても喜んでくれた。
遮音の魔法をリューガが使った後、俺はこの世界に来た経緯を話し始めた。
「やっぱり転移者だったんだな……。昨夜、写真でしか知らない祖母に似ていると言っていたから、もしかしたらとは思っていたが」
母さんに殺されたところから、こっちに来た経緯までを俺が話す間、リューガはコーヒーを飲みながら黙って聞いていた。
俺の話を聞く前から、リューガは俺が転移者じゃないかと疑っていたとわかって、リューガの洞察力に驚かされたけど、理由を聞いて愕然とした。
気を抜きすぎだろう、俺。
自分でぼろを出していたとは思わなかった。
そうだよなぁ、ここには写真とかないよな。
今後、家族の話とかする時は、気を付けないと。
「昨日はあり得ない贈り物が届いて、父さんのことを思い出したら逢いたくて仕方なくて、凄く寂しくなって、わけがわからないくらい情緒不安定だったんだ」
言い訳するわけじゃないけど、いつもあんな状態だと思われるのは嫌だから、ちゃんと弁解しておく。
父さんに贈られたバースデーケーキで、俺があんなにも情緒不安定になるとは、神様だって想像できなかっただろうなぁ。
今はリューガのおかげで少し落ち着いたから、俺の誕生日を父さんがいつもと同じように祝ってくれたことを、素直に喜べるけど、昨日は喜びよりも寂しさの方が大きくて、感情が乱されてしまった。
落ち着いたおかげで、せっかくのケーキだから、お祝いの料理を作って、大事な人と食べようと思えるようになった。
「転生しても逢いたいくらいファザコンなんだから、仕方がないよな。称号までついているとなると、相当だぞ、それ」
からかわれて、さすがに頬が熱くなっていく。
ファザコンは俺には誉め言葉だけど、寂しくて泣いてしまうくらい父親に逢いたくて仕方がないって、客観的に見れば変だろうなぁってことくらい理解してる。
「神様が用意した家で暮らしてた頃は、こんなことなかったんだよ。こっちに来てからも、数日前まではこっちに来てから知り合った人達と一緒にいたから、寂しいなんて感じる暇もなかったんだ」
変な意地を張らないで、ルイスたちについていけばよかったのかな?
冒険者ランクを上げるのは、ルイスたちが住んでいる領都でもできたわけだし。
領都の近くにはダンジョンもあるみたいだから、レベル上げにもちょうどよかったはずだ。
だけど、あの時残る選択をしなかったら、リューガと出逢えなかったんだよなぁ。
「初っ端からいい出逢いがあったんだな。――あのな、レイが寂しくなるのは、当然のことだぞ? 家族も知人も友達も、誰一人逢えない場所で、一人で生きていくって、余程のひねくれものでなきゃ、寂しいものだ。レイは、友達とか多そうだしな。いつだって賑やかに過ごしていたんじゃないか?」
日本にいた頃のことはほとんど話していないのに、ぴたりと言い当てられたからびっくりしてしまった。
やっぱりリューガって、洞察力が優れてる。
「母親の分を補って余りあるくらい、周囲の人には凄く恵まれてたよ。一人になるのって、家に帰って寝る時くらいだった」
風呂ですら、みんなで銭湯に行ったりすることもあった。
家に帰っても、自分の分の食事は作らないといけなかったから、外で誰かと食べて帰ることが多かった。
寝る時しか家に帰らないというのは外聞が悪くて父さんに迷惑をかけてしまうから、母さんがいない隙を狙ったり、友達を連れて帰ったりもしていた。
俺の友達が来ているとき、母さんは関わりたくないとばかりに部屋に籠っていたから、そうすると割と平和に過ごせた。
「そんな生活から一転して、大きな秘密を抱えたまま一人で生きていかなきゃならなくなったんだ、ストレスもたまるし、寂しさだって感じるさ。ほら、こっちに来い」
コーヒーカップを置いて、リューガが両手を差し伸べる。
素直にその手に掴まると、膝の上に抱き寄せられた。
「安心して甘えてろ。俺には何も隠さなくていいし、不安に思うこともない。レイの全部、受け止めてやる。これでも、そこそこ頼りがいはあると思うぞ? 伊達に長生きしてないからな」
背中をリューガに預けると、しっかりと抱きしめられた。
体に回された腕に抱きついて、甘えかかると、頭に頬で擦り寄られる。
こんな風に抱きしめられるのは久しぶりだ。
ルイスたちも抱きしめたり頭を撫でたりしてくれたけど、甘え過ぎじゃないかと不安になって、ここまで甘えることはできなかった。
でもリューガが相手だと、不思議なくらい不安になったりしない。
それは、ルイスたちに不足があるんじゃなくて、俺の最大の秘密をリューガが知っているからだろう。
「リューガって、何歳?」
ふと気になって聞いてみた。
どう見ても二十歳過ぎなのに、最低でも数十年は生きてるみたいだし。
「確か、今年で220歳だったか? 俺はエルフの血が濃いみたいだから、普通のハーフエルフよりも長生きするだろうな。レイが死ぬときは、看取ってやるよ」
ハーフエルフがどれだけ生きるのかわからないけど、多分寿命が長いとバトラーのお墨付きをもらっている俺よりも、リューガの方が長生きするようだ。
でも俺は、もう、できれば誰も残して逝きたくない。
「いちにのさんで一緒に死ねたら、残してく寂しさも、残される辛さも感じなくて済むのにね。俺、たった17年しか父さんのそばにいられなかった。親孝行なんて何にもできないまま死んで、父さんを一人にした」
親より先に死ぬ、これ以上の親不孝はない。
普通は死後にこんな風に悔やむことはないだろうけど、俺は生きてるから、何度も何度も大好きな父さんにした酷い仕打ちを悔やむことになる。
「バカだな、ちゃんと気づけよ。死ぬまで一緒にいてやる、お前を一人にしないって言ってんだよ。それに、お前が死んだのは、お前のせいじゃないだろ? 俺がお前の父親の立場だとしたら、お前に泣いてほしくない」
落ち込む俺の額を軽く指で弾きながら、ほんの少しぶっきらぼうな、それでいて温かみのある声で、リューガが泣いてしまいそうなくらいに優しい言葉をくれた。
「俺たち、昨日出逢ったばかりだよ?」
俺の何がリューガにそこまで言わせるのかわからなくて、軽口をたたくと、頭をくしゃくしゃと撫でられた。
「過保護なカミサマが出逢わせてくれたんだろ。レイがボロボロだったタイミングで、一人きりにならねぇように。それなら俺は、カミサマがレイのために選んだ相手なんだろうよ。それなのに、出逢ったばかりとか、そんなの気にする必要があるか?」
リューガがあまりにも自信たっぷりに言い切るから、リューガが言うことが正しいような気がしてくる。
何にせよ、あのタイミングでリューガと出逢えた俺は幸運だった。
「それに、泣いてる暇あるのか? いつか、また親子として暮らすときのために、この世界の環境を整えるんだろ? 時間は、いくらあったって足りないぞ?」
ぐりぐりと俺の頭を撫でながら、リューガが励ましてくれる。
確かに泣いて後悔してばかりよりも、ずっと未来の幸せのために頑張るほうが俺らしい。
一生かけてやり遂げられることなんて、きっとそんなに多くはないのだろうから。
「ありがとう、リューガ。俺、できることから少しずつ頑張ってみる。それから、話も聞いてくれて、一緒にいてくれて、ありがと」
リューガの膝を降りて、頬に軽くお礼のキスをした。
「どうしたしまして」と微笑むリューガはとても嬉しそうで、思いがけないリューガとの出逢いに、心から感謝した。
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