いつかの僕らのために

水城雪見

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新世界にて

リュミはライバル?

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「これで依頼は完了だ。レイを連れてきてくれたおかげで、実りの多い旅だったよ、ありがとう。今日のうちに商業ギルドのマスターに面会依頼を出しておくから、明日にはギルドマスターに紹介できると思う。日時がはっきりしたら、ルイス達の泊まる宿に連絡するから、商業ギルドには一緒に行こう」


 最短記録となる3日半でシュリングの街に辿り着いて、ミール商会までアレンさんを送り届けたところで、依頼完了となった。
 早く帰れたこともだけど、氷を使わなくても荷物を冷やせるようになったことで、アレンさんはご機嫌だ。
 他の馬車も冷蔵馬車にしたいそうで、加工した魔核を5セットも買い取ってくれたので、俺もすごく助かっていた。
 適正価格がわからなかったので、魔道具を扱うプロのアレンさんに値付けしてもらったのだけど、まだ他に出回っていないということで、かなり高く買い取ってくれた。
 その代わりに、シュリングで商業ギルド以外に物を売るときには、アレンさんの店で売るという約束もしたので、アレンさんは商売上手だと思う。
 先行投資の大切さをよく知っているとも言えるだろうか。
 誰だって、最初にいい縁ができたら、それを大切にするものだ。
 それは俺も例外ではなく、シュリングで魔道具などを売るときは、まずアレンさんを頼るつもりだ。


「商業ギルドの件、よろしくお願いします。私達も一緒についていきますが、私は冒険者のフランツではなく、ベルトワーズ侯爵家の一員として同席しますので、ギルドマスターによろしくお伝えください」


 貴族が家名を出すときは、後ろ盾になるという意味合いがあるのだと、この世界のことを学んでいるときにバトラーが教えてくれた。
 それらしいことは口にしていたけれど、フランツさんが俺の予想以上に親身になってくれているのがわかって、さすがに驚いてしまう。
 気に入られているのはわかっていたし、ランクの高い冒険者として、俺を守ろうとしてくれてるのはわかっていたけれど、家名を出すほどだとは思ってなかった。
 

「入れ込んでいるのは知っていたけど、そこまでか。……畏まりました、フランツ様。ギルドマスターへは確と申し伝えておきますので、ご安心ください」


 急にアレンさんの対応が恭しいものに変わり、丁寧な所作で頭を下げる。
 魔道具も扱うという商売柄、貴族と接することもあるのか、とても様になっていた。


「じゃあ、行くか。予定より早く着いたから、先に宿に行こう。ギルドへの報告は、その後でいいだろ?」


 ルイスが仕切って、馬車へ向かって歩き出す。
 アレンさんに挨拶するべきかと思ったけれど、ルイスに歩くように促されたので、明日もまた会えるんだしいいかと、軽く手を振ってからその場を離れた。


「ねぇ、ルイス。何でそんなに急いでるの?」


 何となく不自然な感じがして、こそっと尋ねると、やっぱり何か理由があったのか、ルイスが苦い顔をする。


「アレンはいいんだけど、アレンの妻達が苦手なんだ。妻っていっても、一緒に住んでるだけで、まだ正式な結婚はしてないらしいけどな。だからって、アレン以外の男に色目使うとか、許せないだろ? アレンもさ、本命に振られて自棄になってたところを付け込まれたらしいけど、もう少しマシな女を選べばいいのに」


 色目を使われたことがあるのか、ルイスが不機嫌顔だ。
 それにしても、妻達ってことは、アレンさんはハーレムの主なのか。
 かっこいいやり手の商人ともなれば、すごくもてるんだろうけど、それでも本命には振られちゃうって、人生は侭ならないものだ。
 ルイスは色恋沙汰のトラブルでパーティを解散した経験があるから、浮気とか横恋慕とか苦手なんだろうなぁ。
 

「思ったんだけどさ、3人とも、もしかして凄くもてる?」


 今更だけど、高ランクで見目も性格も稼ぎもいい冒険者ともなれば、相当もてるんじゃないだろうか?
 馬車に乗り込んで、御者席に座るルイスの隣に腰を落ち着けながら聞いてみると、ルイスが不貞腐れた。


「贅沢させてもらうのと養ってもらうのを前提に口説かれるのを、もてるって言うんなら、俺らは大人気だぞ、レイ」


 稼ぎがいいとなると、それに付随する問題も発生するということか。
 ルイスの機嫌が直るように頭を撫でていると、大きな体で懐かれたので、ぐりぐりと頭を撫で回した。
 街の中なので、馬車のスピードはほとんど出てないし、じゃれていても危なくはないだろう。
 この馬車にもずいぶん馴染んだのに、いつもと違って六花と雪花が一緒に走っていないというのが寂しく感じる。
 シュリングの街に入るときに、仕方なく二匹とも送還してあった。


「私は近寄りがたい雰囲気を出すのが得意なので、口説かれることはあまりありません。たまに空気の読めない馬鹿がやってきますが、馬鹿も男も嫌いなので、返り討ちにしています。女性は、余程自分の容貌に自信のある方でないと、近づいてきませんね」


 フランツさんの笑顔がちょっと怖い。
 空気が読めないせいで、儚く散ったチャレンジャーなお馬鹿さんのために、心の中で合掌しておこう。
 女の人の気持ちは、何となくわかるかな。
 自分よりも綺麗な人を口説くのは、余程自分に自信がなきゃできないよね。


「俺は二人ほど目立たないから、平和に過ごしている。持つべきものは自分より遥かに目立つパーティメンバーだな。レイは、どう考えてもレイ自身が目立つ方だから、まぁ、頑張れ? レイほどの美形だと、口説いてくる奴らを適当にあしらう技術も身に着けておかないと、後々苦労するぞ」


 クラウスさんから、あまりありがたくない忠告をいただいてしまった。
 ナンパを適当に断った時の感じでいいのなら問題ないけど、この世界の実際の恋愛事情って謎だからなぁ。
 バトラーに与えられた知識だけじゃ全然足りないってことに気づいたから、少しずつ覚えていくしかない。


「今のレイ君は、まだ幼く見えますからね。外見だけ見て熱心に口説いてくるのは、同世代か特殊性癖の持ち主でしょう。あと2~3年もすれば、求婚者が列をなしそうですが」


 この世界では成人とみなされる15歳になったのに、フランツさんの口から特殊性癖なんて言葉が出てくるんだから、やっぱり俺は、年齢よりも幼く見えるようだ。
 2年も経てば元の姿と同じくらいに成長するはずだから、あれくらい背が伸びれば、子供には見えないかな?
 口説かれたいわけじゃないけど、あまり幼く見えると侮られやすくなるから、早く成長したい。


「どうやったら、求婚されなくなるかな?」


 結婚どころか恋愛も考えられない状態なので、いろいろ想像するだけで憂鬱だ。
 俺が余程嫌そうな顔をしていたのか、今度はルイスが俺の頭を撫で始めた。


「一番手っ取り早いのは、求婚しても無駄なように結婚することだろうが、生半可な相手じゃ、レイの伴侶は務まらないだろうな」


 ルイスが解決策を口にするけど、その方法じゃ解決には程遠い。
 求婚されたくないから結婚するって、本末転倒だと思うんだ。


「レイ君が結婚したくなったら、いつでも相手に名乗りを上げますよ?」


 冗談なのか本気なのか、まったくこちらに真意を伺わせない表情で、フランツさんが悪ノリしてくる。
 もしかして、解決策になってないって思ってるのは、俺だけ?


「抜け駆けするな、フランツ。フランツがレイの伴侶になるなら、俺もなりたい」


 クラウスさんも混ざってくると、ルイスまでもが、「俺もっ!」と、馬車を操りながらじゃれついてくる。
 3人とも仲良過ぎだろう。


「きゅ! きゅきゅっ!」


 俺の肩にいたリュミが、混ぜろとばかりに鳴いて、右前脚を上げる。
 

「どうやら、リュミもライバルのようですね。愛されてますね、レイ君」


 フランツさんにからかわれて、拗ねるのも忘れてちょっと笑ってしまった。
 だって、自己主張するリュミが、あまりにも可愛すぎたから。


「リュミは俺の相棒ですから。な、リュミ?」


 手のひらの上にリュミを乗せて話しかけると、後ろ足で立ちながら、返事をするように一声鳴かれた。
 それが可愛くて、柔らかな毛に頬で擦り寄ってしまう。
 手乗りうさぎのリュミも見慣れてきたけど、本来の姿のリュミも見たいなぁ。
 リュミが実はカーバンクルだって、この3人になら知られてもいいんだけど、今はまだ秘密にしておくつもりだ。
 それに、リュミがカーバンクルだって教えてしまうと、心配の材料を増やすだけの気がする。
 大好きな人達に、あまり心配を掛けたくない。
 

 アレンさんの店からルイス達がいつも使っている宿は近くて、すぐに辿り着いた。
 一人部屋が2つしか空いてなかったので、結局は宿で一番高い部屋に4人で泊まることになったけど、離れずにいられるからこっちのほうが嬉しい。
 貴族も利用することがあるという特別室は、ベッドルームが二つあったので、4人で使ってもまだ余裕があった。
 嬉しかったのは、この部屋にはお風呂がついていたことだ。
 久しぶりのお風呂でテンションが上がって、昼間から長風呂してしまうのだった。


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