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第4章
お城祭り 第三話
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ご家老は廊下を歩きながら
中庭に目を向ける。
そこには光成と一葉が居た。
以前に比べれば一葉も
母として正妻として
良くやっているように思う。
それはやはり
若君の力添えが大きい事は
目に見えて分かっていた。
(殿は此度の城祭りで
若君の婚儀を決めるおつもりだろうに...
あまりにも酷ではなかろうか...)
ご家老は深いため息を吐く。
(姫でありながらも皇子として
この国の未来の為に
御心を揉まれておられるのも
全て 長兄の義政様が無能ゆえ。
姫として嫁ぐ事が一番なのか...
それとも仲睦まじい優様と隠居して
過ごして貰うことが...一番か...
そんな大義を決める場にそもそも
優様が居られたとしても
傷つけるだけではなかろうか...)
ご家老は言えぬ思いを
考えあぐねて立ち止まってしまった。
「じぃさん?」
そんなご家老に藍が声をかけた。
ビクッと肩を竦ませたご家老は
ゆっくり振り返る。
「其方は...」
「こんな所で何してる?」
「少し考え事をしておったのじゃ」
「ふーん...」
藍は表情一つ変えずに
ご家老を見つめる。
「まぁ...じぃさんが
勝手に暴走したら止めるまでか」
藍は小さく呟くと
踵を返して去っていく。
ご家老はそんな藍を
不思議な面持ちで見送った。
「で?紅、優は何だって?」
部屋に戻った若君は
不躾に紅に話を切り出した。
「優さまも母上さまも
身を隠さず城下での祭りに参加するって...」
「そうか...」
紅の言葉に若君は少し落胆する。
そんな若君を見た紅は
比香の国の城付き侍が訪れたことを
言うべきかどうか迷ってしまう。
「他に何か変わったことは?」
そんな紅の様子を察した若君は
自ら紅が報告しやすいように
声をかける。
紅はあからさまに
ほっとした顔をして姿勢を正す。
「比香の国の城付き侍が
優さまを訪ねてきたんだ。
若様と優さまの事は
あっちまで届いてるみたいで...
たぶん、旭飛様の耳にも
入ってるんじゃないかって...
姉上が帰り際言ってたよ」
「そうか...
めんどくさいことに
なりそうだな。」
若君はガシガシと頭をかいた。
「はぁ...優に会いたいぞ...」
若君はそう嘆くと
ゴロンっと畳の上に寝転がる。
けれど前の一件以来
義光だけでは目が届かない事が
露呈したため
若君は尚更 城を離れられなくなった。
「若様...」
紅は疲弊している若君が
心配になる。
そんな紅の頭を撫でた若君は
そのまま寝入ってしまった。
そっと紅は部屋を後にした。
「母さん、机 拭いておいたよ?」
優は台布巾を片手に
座敷に上がる。
「そうかい。じゃぁ
そろそろ
晩御飯食べようかいね」
ちゃぶ台の上にはお静の
手料理が並ぶ。
「うん」
豪華な とまではいかないが
二人だけの夕餉を取りながら
優はふと箸を止める。
トントン
店の入口を叩く音がする。
「こんな遅くに...」
お静は怪訝な顔をした。
昼間の侍の事もある。
迂闊に開けても良いのか悩む二人は
顔を見合せる。
扉を叩く音と共に
小さく人が呼びかける声もする。
優は恐る恐る入口に近づいて
耳を澄ませた。
「優...」
小さな聞き覚えのある声に
優は慌てて扉を開ける。
「雪様?」
開けた先には
若君が立っていた。
「どうしたんだい?
こんな遅い時間に?」
お静が近寄りながら聞くが
若君は返事をしない。
優は心配になり
手を差し伸べようとすると
グラッと若君の身体が傾く。
「きゃぁっ!!」
優は驚き声を上げながら
なんとか若君を支えると
やっと顔が見えた。
「雪様!?雪様!!」
息苦しそうに呼吸をしている
若君の顔色は物凄く悪かった。
「こりゃぁ、熱があるよ」
お静は若君の額に触れて驚く。
「とりあえず布団を敷くから
若君、優に掴まって歩けるかい?」
お静がそう聞くと
なんとか頷く。
それを見たお静は
先に座敷に上がり
優の部屋に布団を敷きに行く。
その後を追うように
優に掴まり若君はなんとか歩いて
部屋に上がっていく。
ゆっくりと布団へ
若君を横にした優は
心配そうな顔で若君の顔を覗き込む。
「すまぬ...」
若君は弱々しく謝る。
そんな若君に涙を堪えながら
首を横に振って答えるしか
優は出来なかった。
桶に水を張り手縫いを
持ってきたお静は
それを置くとそっと
部屋を出る。
「...会いたくなって...
城を出たすぐは...良かったんだ...
城下近くになって...目が...回って...
心配をかける...つもりでは...」
「わかっ...ています。
今は、ゆっく...り眠ってください...
そばに...いますから」
たどたどしく話す若君に
涙を見せまいとしながら
優はそっと濡らした手縫いを
若君の額に乗せる。
「...ゅぅ...てを」
濡れた手縫いの冷たさが
心地よいのか若君は目を瞑る。
そして、そっと優に向かって手を差し出した。
その手をぎゅっと両手で
握りしめた優に安心したのか
若君はそのまま眠りに落ちていった。
しばらくすると
若君の呼吸も落ち着いてきたことに
優も安心しそのまま若君の横で
すやすやと眠りについた。
チュンチュン
チュンチュン
雀の鳴き声で目が覚めた優。
「優...おはよう」
そう声が聞こえて優は
はっと瞼を開ける。
そこには肘枕をしながら
優の頭を撫でている若君がいた。
「えっ.../////あっ.../////」
驚きと寝顔を見られていた恥ずかしさで
優はしどろもどろになる。
「ふふっ。心配かけたな。
優とお静殿のおかげで
熱も下がったようだ」
「本当ですか!?」
優はまた、若君が痩せ我慢で
そう言っているのではないかと思い
ばっと身を起こすと
若君の額に触れる。
昨日の夜のは
とても高かった熱は
平熱に近いほどには
下がっているようだった。
それに優はほっとした顔を見せる。
若君はゆっくりと身体を起こすと
ぎゅぅぅっと優を抱きしめた。
「雪様...」
「ん...しばらくこのまま」
そう若君は呟くと
優の温もりを覚え込もうと
しているかのように
強く抱きしめた。
「しばらく...忙しくなる故
会いに来れない...」
「昨日 紅くんが
言いに来てましたよ…?」
「そうだったな...
寂しい思いをさせるやも知れぬが
待っていてはくれないか?」
「はい。私はいつまででも
雪様を待っております」
優はそう答えて若君を抱きしめ返す。
若君はそんな優の首筋に顔を埋めた。
そして日が高くなる前にと
若君は城へ帰っていく。
その姿を優はじっと
見えなくなるまで
見送った。
昼間際になり
店を開けた優は
軒先を竹箒で掃きながら
馬の駆けてくる蹄の音が聞こえ
そちらに目を向けると
ご家老と二人の侍が向かってきていた。
「...??」
優はご家老の表情が
いつもよりも固い事を
不思議に思いながらも
頭を下げる。
ご家老は団子屋の前に馬を止めると
ゆっくりと下りて来た。
「優殿。お静殿は?」
ご家老はキリッとした
顔つきのままそう聞く。
「母は...中に」
「そうか...しばらく
人払いをお願いできるかな?」
ご家老の言葉に優は頷くしか
できなかった。
(ご家老様...あんなに神妙な面持ちで...
きっと...人に聞かれたら困る事なのね...)
ご家老が店の中に入るのを見届けたあと
優はしばらく店を閉める。
そして中に入ろうとして
二人の侍に止められた。
「今しばらく お待ちください」
優はそれに少しだけ
不安を覚えた。
中庭に目を向ける。
そこには光成と一葉が居た。
以前に比べれば一葉も
母として正妻として
良くやっているように思う。
それはやはり
若君の力添えが大きい事は
目に見えて分かっていた。
(殿は此度の城祭りで
若君の婚儀を決めるおつもりだろうに...
あまりにも酷ではなかろうか...)
ご家老は深いため息を吐く。
(姫でありながらも皇子として
この国の未来の為に
御心を揉まれておられるのも
全て 長兄の義政様が無能ゆえ。
姫として嫁ぐ事が一番なのか...
それとも仲睦まじい優様と隠居して
過ごして貰うことが...一番か...
そんな大義を決める場にそもそも
優様が居られたとしても
傷つけるだけではなかろうか...)
ご家老は言えぬ思いを
考えあぐねて立ち止まってしまった。
「じぃさん?」
そんなご家老に藍が声をかけた。
ビクッと肩を竦ませたご家老は
ゆっくり振り返る。
「其方は...」
「こんな所で何してる?」
「少し考え事をしておったのじゃ」
「ふーん...」
藍は表情一つ変えずに
ご家老を見つめる。
「まぁ...じぃさんが
勝手に暴走したら止めるまでか」
藍は小さく呟くと
踵を返して去っていく。
ご家老はそんな藍を
不思議な面持ちで見送った。
「で?紅、優は何だって?」
部屋に戻った若君は
不躾に紅に話を切り出した。
「優さまも母上さまも
身を隠さず城下での祭りに参加するって...」
「そうか...」
紅の言葉に若君は少し落胆する。
そんな若君を見た紅は
比香の国の城付き侍が訪れたことを
言うべきかどうか迷ってしまう。
「他に何か変わったことは?」
そんな紅の様子を察した若君は
自ら紅が報告しやすいように
声をかける。
紅はあからさまに
ほっとした顔をして姿勢を正す。
「比香の国の城付き侍が
優さまを訪ねてきたんだ。
若様と優さまの事は
あっちまで届いてるみたいで...
たぶん、旭飛様の耳にも
入ってるんじゃないかって...
姉上が帰り際言ってたよ」
「そうか...
めんどくさいことに
なりそうだな。」
若君はガシガシと頭をかいた。
「はぁ...優に会いたいぞ...」
若君はそう嘆くと
ゴロンっと畳の上に寝転がる。
けれど前の一件以来
義光だけでは目が届かない事が
露呈したため
若君は尚更 城を離れられなくなった。
「若様...」
紅は疲弊している若君が
心配になる。
そんな紅の頭を撫でた若君は
そのまま寝入ってしまった。
そっと紅は部屋を後にした。
「母さん、机 拭いておいたよ?」
優は台布巾を片手に
座敷に上がる。
「そうかい。じゃぁ
そろそろ
晩御飯食べようかいね」
ちゃぶ台の上にはお静の
手料理が並ぶ。
「うん」
豪華な とまではいかないが
二人だけの夕餉を取りながら
優はふと箸を止める。
トントン
店の入口を叩く音がする。
「こんな遅くに...」
お静は怪訝な顔をした。
昼間の侍の事もある。
迂闊に開けても良いのか悩む二人は
顔を見合せる。
扉を叩く音と共に
小さく人が呼びかける声もする。
優は恐る恐る入口に近づいて
耳を澄ませた。
「優...」
小さな聞き覚えのある声に
優は慌てて扉を開ける。
「雪様?」
開けた先には
若君が立っていた。
「どうしたんだい?
こんな遅い時間に?」
お静が近寄りながら聞くが
若君は返事をしない。
優は心配になり
手を差し伸べようとすると
グラッと若君の身体が傾く。
「きゃぁっ!!」
優は驚き声を上げながら
なんとか若君を支えると
やっと顔が見えた。
「雪様!?雪様!!」
息苦しそうに呼吸をしている
若君の顔色は物凄く悪かった。
「こりゃぁ、熱があるよ」
お静は若君の額に触れて驚く。
「とりあえず布団を敷くから
若君、優に掴まって歩けるかい?」
お静がそう聞くと
なんとか頷く。
それを見たお静は
先に座敷に上がり
優の部屋に布団を敷きに行く。
その後を追うように
優に掴まり若君はなんとか歩いて
部屋に上がっていく。
ゆっくりと布団へ
若君を横にした優は
心配そうな顔で若君の顔を覗き込む。
「すまぬ...」
若君は弱々しく謝る。
そんな若君に涙を堪えながら
首を横に振って答えるしか
優は出来なかった。
桶に水を張り手縫いを
持ってきたお静は
それを置くとそっと
部屋を出る。
「...会いたくなって...
城を出たすぐは...良かったんだ...
城下近くになって...目が...回って...
心配をかける...つもりでは...」
「わかっ...ています。
今は、ゆっく...り眠ってください...
そばに...いますから」
たどたどしく話す若君に
涙を見せまいとしながら
優はそっと濡らした手縫いを
若君の額に乗せる。
「...ゅぅ...てを」
濡れた手縫いの冷たさが
心地よいのか若君は目を瞑る。
そして、そっと優に向かって手を差し出した。
その手をぎゅっと両手で
握りしめた優に安心したのか
若君はそのまま眠りに落ちていった。
しばらくすると
若君の呼吸も落ち着いてきたことに
優も安心しそのまま若君の横で
すやすやと眠りについた。
チュンチュン
チュンチュン
雀の鳴き声で目が覚めた優。
「優...おはよう」
そう声が聞こえて優は
はっと瞼を開ける。
そこには肘枕をしながら
優の頭を撫でている若君がいた。
「えっ.../////あっ.../////」
驚きと寝顔を見られていた恥ずかしさで
優はしどろもどろになる。
「ふふっ。心配かけたな。
優とお静殿のおかげで
熱も下がったようだ」
「本当ですか!?」
優はまた、若君が痩せ我慢で
そう言っているのではないかと思い
ばっと身を起こすと
若君の額に触れる。
昨日の夜のは
とても高かった熱は
平熱に近いほどには
下がっているようだった。
それに優はほっとした顔を見せる。
若君はゆっくりと身体を起こすと
ぎゅぅぅっと優を抱きしめた。
「雪様...」
「ん...しばらくこのまま」
そう若君は呟くと
優の温もりを覚え込もうと
しているかのように
強く抱きしめた。
「しばらく...忙しくなる故
会いに来れない...」
「昨日 紅くんが
言いに来てましたよ…?」
「そうだったな...
寂しい思いをさせるやも知れぬが
待っていてはくれないか?」
「はい。私はいつまででも
雪様を待っております」
優はそう答えて若君を抱きしめ返す。
若君はそんな優の首筋に顔を埋めた。
そして日が高くなる前にと
若君は城へ帰っていく。
その姿を優はじっと
見えなくなるまで
見送った。
昼間際になり
店を開けた優は
軒先を竹箒で掃きながら
馬の駆けてくる蹄の音が聞こえ
そちらに目を向けると
ご家老と二人の侍が向かってきていた。
「...??」
優はご家老の表情が
いつもよりも固い事を
不思議に思いながらも
頭を下げる。
ご家老は団子屋の前に馬を止めると
ゆっくりと下りて来た。
「優殿。お静殿は?」
ご家老はキリッとした
顔つきのままそう聞く。
「母は...中に」
「そうか...しばらく
人払いをお願いできるかな?」
ご家老の言葉に優は頷くしか
できなかった。
(ご家老様...あんなに神妙な面持ちで...
きっと...人に聞かれたら困る事なのね...)
ご家老が店の中に入るのを見届けたあと
優はしばらく店を閉める。
そして中に入ろうとして
二人の侍に止められた。
「今しばらく お待ちください」
優はそれに少しだけ
不安を覚えた。
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