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彼と同棲を始めてから、ものすごく調子がいい。
気力が溢れ、嫌いな人との接触や会話も苦じゃなくなった。
どうしても疲れたときは彼の様子をカメラで確認すれば即座に回復できる。
だが、ちょっと気になるのは、時折紡がアパートのある方角をぼんやり眺めている。帰りたいのかな? 私から離れて、一人になりたい?
そう言えば、彼の家は私の家なんだから、もうあのアパートはいらないよね。
解約とか、委任状があればいいよね?
契約書とか、貴重品、アパートに置いたままだっけ。
ライフラインも解約しなきゃ。
人がいないのに契約しっぱなしじゃ、お金がもったいない。
ツムの預金は多くないんだから、私がちゃんと管理しないと。
彼の家を片付けつつ、自分に与えられた仕事をこなす。もちろん、ツムのお世話も手は抜かない。
各種手続きで男の人と電話を繰り返し、上司とメッセージのやり取りをするのは正直苦痛だったが、これも必要なこと。我慢我慢。
「ねぇ、アヤメちゃん。いつも頑張ってくれてるから、飲みに行かない? 奢るからさ」
「えぇっと……奢りなら」
「良いの!? やった、嬉しいなぁ♪」
はしゃぐ汚物の嬉しそうな笑みに吐きそうになるが、ツムを追い詰めて私のモノにする機会をくれた人だ。ご褒美と思って付き合ってあげよう。二人きりというわけじゃないから、ギリギリ耐えられる。
接待と割り切って飲んで帰ると、ツムはどこか辛そうな表情をする……それが嫉妬なのか、仕事を押しつけた申し訳なさなのか……まぁ、どちらにせよ可愛いので、私からしたら嬉しい誤算だ。
仕事を定時で切り上げて片づけを少しずつ進めていく。
毎日コツコツと片づけ、ツムの部屋からきれいサッパリ物が無くなった。
部屋にあった物は貸倉庫に保管している。
ここにあった物も愛しい彼の一部なのだから、無断で捨てたりはしない……私以外の女の痕跡と夜のお供は容赦なく処分したけど。私がいるのだから、そんな汚物を残しておく理由も必要性もないのでそこは容赦しない。
解約手続きの方も「ここに住んでる者の妻になる者」ですと言ったらなんとかなったし、一度キレイになったこの部屋をツムに見せてあげなきゃね。
いつ見せてあげようか。どんな反応をするだろうか……ふふ、楽しみだ。
そしてまた、休日前の仕事中。
「やぁ、お疲れ様」
「ああ……お疲れさまです。どうかされましたか?」
「今週も飲みにいかないかい? もちろん、奢るから」
汚物上司が飲みに行こうと誘ってきた。
もはや毎週末、いつもの流れのようになってきたが、今日はどこかソワソワしたような、いつもと違う気配を感じる。
「そんな……いつも奢ってもらうばかりじゃ……」
気持ち悪いからイヤだと言えず、遠回しにお断りだと伝えてみた。
「いやいや、あの無能に変わって頑張ってくれる大事な部下を労うのも、上司の勤めだよ。それに、私生活も大変なんだろ?」
「そうですけど……」
「遠慮しないで。俺と君の仲だろ?」
だが、効果は無かった。
まぁ、飲み会で毎回ツムの愚痴を言ってどうしようか悩んでいると言い、頼りになる人いないかなと酔ったふりして見つめ、意識するように仕向けたんだけど……なにが俺と君の仲だ……視線が私の身体に向いている。息遣いも荒くて気持ち悪い。
おそらく今日、私を犯そうと仕掛けてくる。
もちろんただでヤられる気はないし、潰すつもりだから仕掛けてくるのは好都合。最悪、玉を蹴り潰してでも逃げる。この身体を好きにして良いのはツムだけだ。
「じゃあ、今日は残業しないようにしてね?」
「はぁ……」
そう言って、上司は話を切り上げて仕事に戻っていった。こちらも、あれを潰すための準備をしないと。
仕事が終わるまでの間、スマホの使用を抑えつつ充電する。写真や動画を外部メディアに移動させて、容量を空けるのも忘れない。
ついでに、会議議事録を作るときに使うボイスレコーダーも鞄にしまって、すぐに録音できるようにしておく。容量の確認も怠らない。
仕事が終わると待ち合わせの店に向かう。
ラブホテル近くの酒屋とは、隠す気がないのか、馬鹿なのか……。
「あれ、他の人は?」
「えっと、今日はみんな都合が悪いらしいんだ」
「そうですか……それなら、また別の日でも」
「たまには二人で飲むのも悪くないんじゃないかな? 仕事のことで相談もしたいし。ね?」
「仕事の……それなら、最初はソフトドリンクにしますね」
適当に料理と飲み物を注文し、飲み始める。
まじめな話をしつつ飲み食いし、一段落した頃。そろそろ流れを変えることにしよう。
「仕事の話も落ち着きましたし、アルコール、いっちゃおうかな……」
「スクリュードライバーとかどう? 柑橘系で飲みやすくておすすめだよ?」
「そうなんですか? じゃあ、それで」
上司がニヤリと笑う。
それ、女を酔い潰すのに使う常套手段だろ。
「あ、飲みやすくておいしい」
「でしょ? おかわりする?」
誘いに乗って適度に飲み、酔ったふりをする。
そして上司の肩を借りながら店を出るときに録音と、胸ポケットに入れたスマホの録画を開始した。
気力が溢れ、嫌いな人との接触や会話も苦じゃなくなった。
どうしても疲れたときは彼の様子をカメラで確認すれば即座に回復できる。
だが、ちょっと気になるのは、時折紡がアパートのある方角をぼんやり眺めている。帰りたいのかな? 私から離れて、一人になりたい?
そう言えば、彼の家は私の家なんだから、もうあのアパートはいらないよね。
解約とか、委任状があればいいよね?
契約書とか、貴重品、アパートに置いたままだっけ。
ライフラインも解約しなきゃ。
人がいないのに契約しっぱなしじゃ、お金がもったいない。
ツムの預金は多くないんだから、私がちゃんと管理しないと。
彼の家を片付けつつ、自分に与えられた仕事をこなす。もちろん、ツムのお世話も手は抜かない。
各種手続きで男の人と電話を繰り返し、上司とメッセージのやり取りをするのは正直苦痛だったが、これも必要なこと。我慢我慢。
「ねぇ、アヤメちゃん。いつも頑張ってくれてるから、飲みに行かない? 奢るからさ」
「えぇっと……奢りなら」
「良いの!? やった、嬉しいなぁ♪」
はしゃぐ汚物の嬉しそうな笑みに吐きそうになるが、ツムを追い詰めて私のモノにする機会をくれた人だ。ご褒美と思って付き合ってあげよう。二人きりというわけじゃないから、ギリギリ耐えられる。
接待と割り切って飲んで帰ると、ツムはどこか辛そうな表情をする……それが嫉妬なのか、仕事を押しつけた申し訳なさなのか……まぁ、どちらにせよ可愛いので、私からしたら嬉しい誤算だ。
仕事を定時で切り上げて片づけを少しずつ進めていく。
毎日コツコツと片づけ、ツムの部屋からきれいサッパリ物が無くなった。
部屋にあった物は貸倉庫に保管している。
ここにあった物も愛しい彼の一部なのだから、無断で捨てたりはしない……私以外の女の痕跡と夜のお供は容赦なく処分したけど。私がいるのだから、そんな汚物を残しておく理由も必要性もないのでそこは容赦しない。
解約手続きの方も「ここに住んでる者の妻になる者」ですと言ったらなんとかなったし、一度キレイになったこの部屋をツムに見せてあげなきゃね。
いつ見せてあげようか。どんな反応をするだろうか……ふふ、楽しみだ。
そしてまた、休日前の仕事中。
「やぁ、お疲れ様」
「ああ……お疲れさまです。どうかされましたか?」
「今週も飲みにいかないかい? もちろん、奢るから」
汚物上司が飲みに行こうと誘ってきた。
もはや毎週末、いつもの流れのようになってきたが、今日はどこかソワソワしたような、いつもと違う気配を感じる。
「そんな……いつも奢ってもらうばかりじゃ……」
気持ち悪いからイヤだと言えず、遠回しにお断りだと伝えてみた。
「いやいや、あの無能に変わって頑張ってくれる大事な部下を労うのも、上司の勤めだよ。それに、私生活も大変なんだろ?」
「そうですけど……」
「遠慮しないで。俺と君の仲だろ?」
だが、効果は無かった。
まぁ、飲み会で毎回ツムの愚痴を言ってどうしようか悩んでいると言い、頼りになる人いないかなと酔ったふりして見つめ、意識するように仕向けたんだけど……なにが俺と君の仲だ……視線が私の身体に向いている。息遣いも荒くて気持ち悪い。
おそらく今日、私を犯そうと仕掛けてくる。
もちろんただでヤられる気はないし、潰すつもりだから仕掛けてくるのは好都合。最悪、玉を蹴り潰してでも逃げる。この身体を好きにして良いのはツムだけだ。
「じゃあ、今日は残業しないようにしてね?」
「はぁ……」
そう言って、上司は話を切り上げて仕事に戻っていった。こちらも、あれを潰すための準備をしないと。
仕事が終わるまでの間、スマホの使用を抑えつつ充電する。写真や動画を外部メディアに移動させて、容量を空けるのも忘れない。
ついでに、会議議事録を作るときに使うボイスレコーダーも鞄にしまって、すぐに録音できるようにしておく。容量の確認も怠らない。
仕事が終わると待ち合わせの店に向かう。
ラブホテル近くの酒屋とは、隠す気がないのか、馬鹿なのか……。
「あれ、他の人は?」
「えっと、今日はみんな都合が悪いらしいんだ」
「そうですか……それなら、また別の日でも」
「たまには二人で飲むのも悪くないんじゃないかな? 仕事のことで相談もしたいし。ね?」
「仕事の……それなら、最初はソフトドリンクにしますね」
適当に料理と飲み物を注文し、飲み始める。
まじめな話をしつつ飲み食いし、一段落した頃。そろそろ流れを変えることにしよう。
「仕事の話も落ち着きましたし、アルコール、いっちゃおうかな……」
「スクリュードライバーとかどう? 柑橘系で飲みやすくておすすめだよ?」
「そうなんですか? じゃあ、それで」
上司がニヤリと笑う。
それ、女を酔い潰すのに使う常套手段だろ。
「あ、飲みやすくておいしい」
「でしょ? おかわりする?」
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