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5、※菖視点
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最初は、おかしなところは感じなかった。
ただ、上司であり恋人である紡の仕事量が少し増えたかなと思う程度。
そのせいで一緒にいられる時間が減って、紡が疲れた顔をしていたとしても「仕事だから仕方ない」と思っていたし、彼もそういっていたから鵜呑みにした……このときの自分を殴り飛ばしたい。
違和感を感じたのは、そのあと。
男たちの行動が段々露骨になってきて、上司が理不尽で意味不明なことで恋人を追い込んで、自分の仕事を押しつけているのに気づいたが、もうどうしようもなかった。
周りの人も同調し、止めようとしない。
紡のことを気遣ってくれる人も居たけど、それも自分が攻撃の対象にされるのを恐れて、最終的になにもしようとしなかった。
私が声をかけようとすると男達の邪魔が入る。
こちらはあんた達なんてどうでも良いというのに……でもそれを言うと、紡の立場がもっと悪くなる。
仕方なく、場を乱さないために私は我慢した。
陰口を言ったところで状況は変わらない。むしろ悪化するだけ。紡の負担が増えるだけ。
自分一人じゃ、どうしようもできなかった。
彼の荷物にしかなっていない。力不足な自分がいやになる。
それでも、動かなきゃ、事態は変わらない。
そんな意気込みも虚しく、私が解決策を探している間にも紡は追い詰められ、事件が起きた。
追い詰められた紡が、上司達の暴言と態度にキレて、職場で大暴れした。
どんな理由あったとしても、暴力を振るった方が負け。責任を取る形で、紡は退職させられた。
私が弱いから。役に立てなかったから。紡を好きになったから。同じ職場の上司と部下なのに付き合ったから。外で会ったときに甘えて、付き合っていることがばれるような行動をしたから。
私が紡を追い詰めた。
私が好きにならなければ、付き合っていなければ、甘えていなければ……いろんないものが頭を埋め尽くす。
独りにしてほしいと彼は言い、傍にいることも許されない。
ぽっかりと穴が開いたよう虚無感。
紡がいない職場。
頼りになる人が居なくなった穴は大きかった。
それでも、仕事はなくならない。
あの上司が押しつけていたせいで、紡が担っていた仕事量が多かった。
その仕事を補佐していた私に声がかかったが、大好きな彼を辞めさせた元凶と一緒に仕事をするのは正直苦痛でしかない。
でも、仕事だと割り切って。笑顔の仮面を張り付けて。彼の役に立てなかった罪滅ぼしに、彼の穴を必死に埋めようと働いた。
実際に自分が携わってみると、彼はこんなにもたくさんの仕事を、独りで捌いていたのかと驚いた。
それを、あいつらは……感謝もせず……。
その瞬間、自分の中で何かが弾ける音がした。
理性が、ブレーキが壊れる音が。
ああ、そうだ。あの男は、紡から私を奪いとりたくて、私の最愛を傷つけたんだ。
そこまでして、私を欲しがるのなら、ちゃーんと気持ちに応えてあげないと……。
「ふふ、ふふふ……」
「アヤメちゃん、どうしたの? 急に笑い出して」
「あ、ごめんなさい……こうして頼りにされるのって、嬉しいなーって思ったんです。そしたら、なんだか楽しくなっちゃって」
「そうなんだ? 頼もしいね~」
本当は、この男にどうやったら苦痛を与えてやれるか考えていた。
このニヤケ面を、恐怖と苦痛で歪ませてやりたい。
ツムが苦しんだ分、私が苦しんだ分、まとめて倍にして叩きつけてやる。
ほかの男達もだ。
一緒になってツムをいじめた。
その罰を、その身に刻みつけてやる。
生温い制裁なんてしない。
見せしめにして、次はお前だぞって……ずーっと怖がればいい。
「そんな頼もしい君を労うために、今夜は飲みにいかないかい? 奢っちゃうよ?」
「本当ですか? 奢りなら、行っちゃおうかなー……でも、男性と二人だけはちょっと……」
「そうだね……んー、何人か声をかけてみよっか!」
「男ばかりなら行きませんからね?」
「大丈夫だよ。そこはちゃんとするから」
ちゃんと、ね……。
その言葉が信用できると思うの?
今までの責任転嫁してきたあなたのちゃんとなんて、信じられない。
「はい。それじゃあ、お仕事の続きしましょうか」
「そう、だね……手強いな、なかなか」
あんたなんかに靡くつもりはない。
アヤメはツムの恋人なんだから。
恋人の敵は、私の敵。絶対に、許さない。
露骨なアピールをしてくる上司をいなしながら、日々業務に明け暮れる。
休日も、いつもならツムと一緒に過ごしていたのに……いま、何しているのだろうか。きっと情け無いところを見せたくないとか言って、ハローワークや求人情報を集めていることだろう。
ツムのことはいつも気になっていた。
いつもがんばりすぎるツム。
連絡がないのは、まだダメと言うことなのかな……。
こちらから連絡を取ろうと、なんどもメッセージアプリを起動しては閉じてを繰り返す。
彼だって戦っているのに……甘えたい。寂しい。心配。苦しい。会いたい。抱きつきたい。離れたくない。縛り付けておきたい。私無しでは生きられない体にして、それでずっとずーーっと、一緒に、
「それで、アヤメちゃん。次のお休みとか、」
「すみません。先約があるので」
上司の不快な雑音……声で思考が中断される。
あまりの不快さに、ばっさりと切り捨ててしまったが、存在自体が不快なんだから仕方がない。
「あ、ああ……」
「失礼します」
「……疲れてるのかな。それか、月のもの? クールなアヤメちゃんもいいな……」
雑音が聞こえたが無視する。私の頭の中はツムのことでいっぱい。
なんとか仕事に集中することで押し込めてきたけど、もう無理。限界。耐えられない。
彼が離れていく気がする。
そんなの、許さない。だから、準備しないと。
彼を、逃がさない準備を。
ただ、上司であり恋人である紡の仕事量が少し増えたかなと思う程度。
そのせいで一緒にいられる時間が減って、紡が疲れた顔をしていたとしても「仕事だから仕方ない」と思っていたし、彼もそういっていたから鵜呑みにした……このときの自分を殴り飛ばしたい。
違和感を感じたのは、そのあと。
男たちの行動が段々露骨になってきて、上司が理不尽で意味不明なことで恋人を追い込んで、自分の仕事を押しつけているのに気づいたが、もうどうしようもなかった。
周りの人も同調し、止めようとしない。
紡のことを気遣ってくれる人も居たけど、それも自分が攻撃の対象にされるのを恐れて、最終的になにもしようとしなかった。
私が声をかけようとすると男達の邪魔が入る。
こちらはあんた達なんてどうでも良いというのに……でもそれを言うと、紡の立場がもっと悪くなる。
仕方なく、場を乱さないために私は我慢した。
陰口を言ったところで状況は変わらない。むしろ悪化するだけ。紡の負担が増えるだけ。
自分一人じゃ、どうしようもできなかった。
彼の荷物にしかなっていない。力不足な自分がいやになる。
それでも、動かなきゃ、事態は変わらない。
そんな意気込みも虚しく、私が解決策を探している間にも紡は追い詰められ、事件が起きた。
追い詰められた紡が、上司達の暴言と態度にキレて、職場で大暴れした。
どんな理由あったとしても、暴力を振るった方が負け。責任を取る形で、紡は退職させられた。
私が弱いから。役に立てなかったから。紡を好きになったから。同じ職場の上司と部下なのに付き合ったから。外で会ったときに甘えて、付き合っていることがばれるような行動をしたから。
私が紡を追い詰めた。
私が好きにならなければ、付き合っていなければ、甘えていなければ……いろんないものが頭を埋め尽くす。
独りにしてほしいと彼は言い、傍にいることも許されない。
ぽっかりと穴が開いたよう虚無感。
紡がいない職場。
頼りになる人が居なくなった穴は大きかった。
それでも、仕事はなくならない。
あの上司が押しつけていたせいで、紡が担っていた仕事量が多かった。
その仕事を補佐していた私に声がかかったが、大好きな彼を辞めさせた元凶と一緒に仕事をするのは正直苦痛でしかない。
でも、仕事だと割り切って。笑顔の仮面を張り付けて。彼の役に立てなかった罪滅ぼしに、彼の穴を必死に埋めようと働いた。
実際に自分が携わってみると、彼はこんなにもたくさんの仕事を、独りで捌いていたのかと驚いた。
それを、あいつらは……感謝もせず……。
その瞬間、自分の中で何かが弾ける音がした。
理性が、ブレーキが壊れる音が。
ああ、そうだ。あの男は、紡から私を奪いとりたくて、私の最愛を傷つけたんだ。
そこまでして、私を欲しがるのなら、ちゃーんと気持ちに応えてあげないと……。
「ふふ、ふふふ……」
「アヤメちゃん、どうしたの? 急に笑い出して」
「あ、ごめんなさい……こうして頼りにされるのって、嬉しいなーって思ったんです。そしたら、なんだか楽しくなっちゃって」
「そうなんだ? 頼もしいね~」
本当は、この男にどうやったら苦痛を与えてやれるか考えていた。
このニヤケ面を、恐怖と苦痛で歪ませてやりたい。
ツムが苦しんだ分、私が苦しんだ分、まとめて倍にして叩きつけてやる。
ほかの男達もだ。
一緒になってツムをいじめた。
その罰を、その身に刻みつけてやる。
生温い制裁なんてしない。
見せしめにして、次はお前だぞって……ずーっと怖がればいい。
「そんな頼もしい君を労うために、今夜は飲みにいかないかい? 奢っちゃうよ?」
「本当ですか? 奢りなら、行っちゃおうかなー……でも、男性と二人だけはちょっと……」
「そうだね……んー、何人か声をかけてみよっか!」
「男ばかりなら行きませんからね?」
「大丈夫だよ。そこはちゃんとするから」
ちゃんと、ね……。
その言葉が信用できると思うの?
今までの責任転嫁してきたあなたのちゃんとなんて、信じられない。
「はい。それじゃあ、お仕事の続きしましょうか」
「そう、だね……手強いな、なかなか」
あんたなんかに靡くつもりはない。
アヤメはツムの恋人なんだから。
恋人の敵は、私の敵。絶対に、許さない。
露骨なアピールをしてくる上司をいなしながら、日々業務に明け暮れる。
休日も、いつもならツムと一緒に過ごしていたのに……いま、何しているのだろうか。きっと情け無いところを見せたくないとか言って、ハローワークや求人情報を集めていることだろう。
ツムのことはいつも気になっていた。
いつもがんばりすぎるツム。
連絡がないのは、まだダメと言うことなのかな……。
こちらから連絡を取ろうと、なんどもメッセージアプリを起動しては閉じてを繰り返す。
彼だって戦っているのに……甘えたい。寂しい。心配。苦しい。会いたい。抱きつきたい。離れたくない。縛り付けておきたい。私無しでは生きられない体にして、それでずっとずーーっと、一緒に、
「それで、アヤメちゃん。次のお休みとか、」
「すみません。先約があるので」
上司の不快な雑音……声で思考が中断される。
あまりの不快さに、ばっさりと切り捨ててしまったが、存在自体が不快なんだから仕方がない。
「あ、ああ……」
「失礼します」
「……疲れてるのかな。それか、月のもの? クールなアヤメちゃんもいいな……」
雑音が聞こえたが無視する。私の頭の中はツムのことでいっぱい。
なんとか仕事に集中することで押し込めてきたけど、もう無理。限界。耐えられない。
彼が離れていく気がする。
そんなの、許さない。だから、準備しないと。
彼を、逃がさない準備を。
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