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前、召還されたい世界人、魔王と対峙する

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魔物と魔族が住まう領域に建つ堅牢な城。
その玉座の間で対峙する二人の人物。

『ふむ。まさか、この魔王の前にたった独りで乗りこんでくるとはな……』

玉座に座る男の頭には角が生えている。

整った顔立ちに引き締まった無駄な肉のない身体。腰まで伸びた白銀の髪と病的に白い肌、血のように紅い瞳。

人間から魔王と呼ばれる美しい男と対峙している若者は……痩せても筋肉質でもない肉体に短い黒髪。糸目にメガネをかけている以外特徴のない、平凡を絵に描いたような男。

『確認だが……本当に独りでここまできたのか? 迷子? 仲間は? 本当にそんな装備でここまできたのか? そんな装備で大丈夫か? 主に頭大丈夫? 俺、魔王……はっ、実は油断させるために装備を隠しているのか!?』

若者の装備はボロボロの片手剣、紐を腕に巻き付けて固定した鍋のふた。ボロボロの布服。頭はむき出しで防具らしいものは盾以外見当たらない。

剣なんて、最弱魔物のゴブリンが使っていそうな耐久値も切れ味も底辺な粗悪品。魔物が蔓延る魔の領域どころか、人族の領域にある魔物にも挑むような装備ではない。戦闘奴隷に与えられる支給品の方が質が良い可能性すらある。

「ちっ……御一人様ですが、なにか? こんな装備でも問題ないけどなにか? むしろ、こんな装備しか用意できなかったし、させてもらえなかったのですが?」

若者から発せられる怒気が魔王を襲う。

『え、今舌打ちした? 気のせい? 気のせいだよね? 気を取り直して……ソロでも別に、悪くはないし、嘘はなさそうだが……本当に? させてもらえなかったとか、そのあたり詳しく聞きたいのだが……ま、まぁ良い。よくここまで来たな、異世界より招かれた人族の勇者よ。そのような貧相な装備で、よくぞ魔王の玉座まで来ることができた。誉めてやろう。その実力、俺を前にして怯まず、にらみつけてくる胆力を見込んで問おう……世界の半分をお前にやる。我が僕となれ!』

魔王は若者に引いていたが、配下を失った今は少しでも戦力がほしい。定番の勧誘を行うが、

「こんな世界なんているか!」

若者は激怒した。

『え? いや、え? ふ、ふむ、そうか……異世界人とは言え、やはり人の子。魔族である俺たちとは相容れぬか……残念だが、戦って雌雄を決するしかないか。我が下僕の敵、とらせて「なに勝手に話を進めてるんだ? アイツらのためとか、反吐が出る」……え、ちょっ、今俺が決め台詞言ってる最中なんだけど!?』

きっと魔王が支配する世界なんていらないと言うのを聞き間違えたんだろうと言い聞かせ、若者の激怒を戦いの意志ありと判断した魔王は台詞に割り込まれて困惑していた。

「お前さ、俺が人族にされたこと知らないの?  ちゃんと敵になるであろう相手の調査した? 勧誘するならちゃんと相手の素性調べて魅力的な提案しろよ? これ、常識な? だいたい、あんな屑ばかりで自分勝手な人族のためになんで俺が戦わなきゃならん。絶対無理。俺にメリット無さすぎ。救う価値なし。むしろ滅べ」

『なん、だと? 人族であるお前がそれ言う? 言っちゃう? だ、だが、実際お前は我が下僕たちを「お前たちが襲いかかってきたからだろうが! こっちからは仕掛けたことないし、正当防衛だ!!」だから台詞最後まで言わせて! はぁ……正当防衛だと? 誰も帰ってこないのに……お前が殺したんだろ? 皆殺しにしておいて、よくもそんなことを……明らかに過剰防衛だろうが!!』

若者の言葉に魔王が反論するが、若者は呆れたような顔をする。

「俺は殺してないぞ。まぁ、もう闘えない身体にはしたけどな」

『闘えない身体に、だと? 貴様、殺さず生かして辱め続けるつもりか!!』

「話を聞けって」
『話を聞かないお前の言うことなんて聞けるか! 俺の大切な下僕を返せ!!』

玉座から魔王が立ち上がり、若者を威圧する。

「だーかーら、話を聞け! 俺は魔族も人族も心底どうでも良い。こんな異世界人に優しくない連中の世界を牛耳ったところで、俺になんの得もない。しかも一方的に呼び出しといて元の場所に帰れないし。王族でも美醜反転してて気持ち悪いし。あんなの抱くぐらいなら魔族の男抱くわ。道中の魔族の方が優しかったぞ。美人だったし。特に四天王とかなにあれ。反則級だろ。お前もさ、俺が女だったらもうその場で卒倒するレベルで美形だし。男だからイケメンは滅ぼしたくなるけど。世界の半分よりも魔族領がほしいわ。そんな俺がお前たち魔族と戦う必要がある……ないだろ?」

若者は真顔で淡々と答える。
これには思わず魔王も唖然。

『う、うむ……あれ、俺が知ってる異世界人と違う……異世界人はみんな神から反則級スキルを授かって、召還した国の姫と結ばれて王になって、その種を優秀な女にばらまくのが定番のはず……もしくは人族に騙されて底辺から成り上がって、そこから魔族を討伐するって……あれ?』

「それ、どこの知識だよ。ラノベか? 俺は急にこんなクソ世界に拉致されて、偉そうな態度の王族に世界を救えって命令されて、スキルを確認させられたら『拡大解釈』なんてよくわからないスキルで『なんだ、これ。ハズレか』ってめちゃくちゃ落胆した感じで言われて、装備も餞別もなしで街の外にポイだぞ? しかも通りかかったギトギトに脂ぎった贅肉の塊……たぶん商人が『異世界人の品は高く売れる』とか言って護衛のムキムキで不細工なおっさんに命じて俺の服と持ち物を全部剥ぎ取って、代わりに残していったのがこの捨てる予定の布服に、ボロボロの剣と鍋のふただ。紐もその辺に落ちてた紐だし。街に入ったら冒険者になって……とか定番だと思ってたら、身分証明できないと街に入れられないとかスキルの『拡大解釈』が信用できないとか入場料払えとか言われてな……金がないと解れば入れてももらえなかったんだぞ! そんなんで仲間探しができるかーー!!」

冒険者は誰でもなれる……が、大前提としてか「街にあるギルドで登録したら」である。

街に入れなければギルドで登録ができない。
身分証明できない人間は盗賊や犯罪者のみ。
奴隷は主が身分証明できれば物として入場が可能である。

『拡大解釈……魔王である俺でも聞いたことがないスキルだ……』

拡大解釈[名](スル)

言葉や文章の意味を、自分に都合のいいように広げて解釈すること。例文「契約書を勝手に拡大解釈する」

言葉や文章・文脈、また物事や人の言動に対しても使われ、それらの意味を拡大して自分の都合の良いように受け取ることをいう。

本来の事実や主旨を飛び越えた自分勝手な理解であるともいえる。

「使い方がなんとなくわかったときにはもう手遅れでな……見た目が胡散臭いとか身体が臭いとか言って誰も信じてくれない。泥水を『これは味噌汁に違いない』と拡大解釈して啜り、紫色したキノコも『きっと無毒で栄養価の高い身体に良い生で食えるキノコ』とか自分勝手に認識して生き延びた。魔法とか使えないから火が起こせなくて、動物の生肉を刺身だと思いこんで食べたり……俺のスキルは自分がそうだと拡大解釈したものはそうなるっていう反則級なスキルだったんだよ。認識したりそう思い続けないと効果が発揮されないから『それはない』と否定したり、イメージがぐらつくとすぐに効果が切れるけどな……例えば、このボロボロの剣は神の剣、鍋のふたはなんでも防ぐ最強の盾、服は重さを感じない至高の鎧、布袋は容量無限で重さ無視できる魔法の袋って感じでな……ふっ!」

若者が剣を軽く振ると、ヒュンという軽い音がして、衝撃波が生まれる。

その波が魔王の髪を揺らしたと思うと、天井にかけられている旗がばっさりと切れ、床に落ちた。

「今のも『剣で生じた衝撃波は布だけを切る』って解釈して放った。だから、これを応用したら『肉体だけを斬る』も可能だ」

遅れて窓のカーテン、床の絨毯が切断されて布切れと化す……そして、魔王が身に纏う服も布製だったため無惨にも切り裂かれてパサリと床に落ちる……当然、下着もばっさりである。

『お、俺の服が!?』

驚きのあまり大事なところを隠せずボロンとしたまま、魔王は叫んだ。

「……男の裸とか誰得だよ。せめて前を隠せ。息子さんのご立派自慢とか、男の俺からしたら気持ち悪いだけだ……ちっ、アルビノイケメン細マッチョなだけじゃなく巨根とか……処すか? そのご立派な竿の半分だけ斬ったらどうなるかな。縦か横か……どっちにしようか」

『お前のせいだろうが! そしてお前も男なら、男のシンボルを斬るとか言うんじゃない!! し、しかし、なんと恐ろしいスキルか……ますます、我が下僕にほしくなった。半分と言わず、3分の2くれてやる! どうだ、共に世界を「いらん」最後まで言わせて……』

服を裂かれた全裸魔王が陰部を布切れで隠しながら、空いた方の手を差し出すが、若者はそれもばっさりと断った。
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