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街の散策

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―――時は夕刻、フェイに別れを告げた俺は商業区域に向かっていた。


家に帰るとは言ったものの、よくよく考えれば食べ物の類が家にないことに気付いたため夕食を買いに来たわけだ。それとは別に異世界での初給料祝いに何かうまいものでも買おうかと思ったというのもある。

……昼と比べて屋台の数も少なくなり、客もまばらになっている。相変わらず辺りから良い匂いが漂ってくるが、昼間と比べて匂いが薄い。

"薄い"と言うと分かりにくいかもしれないが……複雑さが無いという感じか? うまく言い表す言葉が出てこないが何となくそんな気がした。


その中をのんびりと見て回っていると一つの店が目に入った。見る限り野菜と果物が売られているが、食材に関しては元の世界と大差ないみたいだ。名称に関してもほとんど同じで気をつける程のことはない。


少し店内を見て回っていると、店員らしき男が話しかけてきた。

「おう、いらっしゃい! 何が欲しいんだ?」

「いや、これといって決めてないんですよ。夕食に何を食べようか考えてたらたまたまここを見つけたので色々見てました。果物とかを食いたいと思いまして」

「なるほど。外にある屋台の匂いにつられて肉ばっか
 食ってる奴が多いから、アンタみたいな客は大歓迎だ!」


そう言うと男は 「ゆっくり見ていってくれ」 と言いながら店の奥の方へと歩いて行った。こういった類の店は防犯はどうしてるんだろうと思ったが、俺が気にすることではないなと思って考えるのをやめた。


……取り敢えず目に入った林檎みたいな果物を手に取る。

と言っても見た目や匂いからして完璧に林檎なんだがな。もし名前が違った場合に備えて俺は名前を出さないことにしよう。ちょうど店員が奥から出て来たため、林檎を持ったまま話しかける。


「すみません、コレを2つ買いたいんですけど」

「おう、リゴの実か。ならニつで半銅貨二枚だな」

「それじゃあこれで」


そう言って銅貨を差し出し、半銅貨八枚を受け取った。見た目は同じでも名前が違うってのはやっぱあるんだな、慣れるまで暫く混乱しそうだ。

「確かに。では失礼します」

「おう。また来てくれや!」


取り敢えずこれといって買いたいものもないし、店をあとにする。野菜は金に余裕ができたら買いに来よう。あとは肉かな?


これといって行く場所を決めていないため、昼間にフェイと来た屋台に足を運ぶ。
奢ってもらった時は確認していなかったが、一本あたり半銅貨三枚だったようだ。取り敢えず二本買っておこう。

一応買い物はこれで終了だな。家に帰ってのんびり食事にしようか。



――家に帰る道を歩んでいると、男の子が蹲っているのを見かけた。元の世界の時と同じように優しく話しかける。


「こんなとこで蹲ってどうしたの?」
「えへへ。おなかすいちゃって……」
「……これ食べる?」
「いいの?! やったぁ!」


そう言って串焼きを差し出すと、目を輝かせて貪るように食べ始めた。警戒心というものが無いのだろうか? まぁ話しかけた俺が言うのもアレだがな。

「ありがとうお兄ちゃん!」

「どういたしまして。それにしても何でこんな所にいたの?」

「えっとね、お父さんが怪我しちゃったからぼくのお金で薬草を買いに来たんだ! だから薬草に全部使っちゃって食べ物が買えなかったの」

「怪我? ……どのくらい酷いの?」

「よくわかんない。見ようとするとおかあさんが隠すんだ。でもいつも辛そうにしてるからぼくが治してあげたいなって」


……この子めちゃくちゃいい子じゃないか! なんとかしてあげたいな。

でも治療院ってのがあったよな。そんなに大きな怪我なら行くのが筋じゃないか? 取り敢えずこの子に聞いてみようか。


「……治療院とかには行かないの?」

「うん。治療院で見てもらったんだけど、全部治すとお金がたくさんかかるんだって。あまりぼくの家お金ないから……」

「そうか……」


ここまで聞いたのにさよならは出来ないな。俺には治せる力があるし、治療院の代わりに治してあげよう。ヒール以上は使ったことが無いけど俺には出来るはずだ。

「……よし! よかったらお父さんの怪我を見せてくれないかな? お兄ちゃんは回復魔法が使えるからお父さんを治せるかもしれない」

「ほんと?! じゃあこっちだよ!!」

そう言うと男の子は俺の手を掴んで走り始めた。回復魔法の実験みたいで少し後ろめたいが、いい機会だし全力で治してみよう。

人助けは気持ちが良いことだしな!
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