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第4話

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 次の日、私は屋敷の広間で昨日のグレスオリオ様との出会いがきっかけになった強烈な体験を思い出しながら朝食を食べていた。

 はっきり言って昨日の私の対応は良かったのかはわからないけれど、今私の目の前にお父様とお母様がごく自然ないつもの様子でこの場にいる事を考えるとギリギリ及第点くらいにはなっていた…………と考えてもバチは当たらないはず。

「リリス」

 あまり食事中に話すのを好まないお父様に呼びかけられた。

「何でしょうか?」
「お前のこれからの事だが……」
「あなた、エンリエッタが婚約したばかりなのに何も今話さなくても」

 我が家が公私共にエンリエッタを中心になっているのはわかっているので、こういう私を後に回すような発言には何も思わない。

 ただ、あとあと無茶な方向に話を進められないように自分の意思は示しておく。

「もう、この国内で私は結婚できないでしょう。なので、国外に出る事を考えています」
「…………そうか」
「はい」
「それでは具体的な事を……」
「ふあ……、おは、よう~」

 お父様が話を続けようとしたら広間の扉が開きエンリエッタが入ってきた。

 寝ぼけていて全く頭が回ってないエンリエッタを見て、これで王妃教育は無事に修了できるのかっていう疑問が浮かぶけれど、もう私には関係ないわね。

「エンリエッタ、みっともないわよ。きちんとしなさい」
「昨日の殿下と踊ってから興奮が鎮まらなくて眠れなかったの。リリス、うらやましいでしょ」

 ボーッとしていたと思えば、お母様へ返答をしないでパッと私を見下してくる。

 ……正直にうらやましくないと言ってもエンリエッタは納得せずに、さらに文句をつけてくるからそうねと軽く肯定しておいた。

「そうでしょ、そうでしょ」

 私の返事で満足したのかエンリエッタは朝食を食べ始める。

 まあ、この子の事はどうでも良いわ。

 そろそろ長期休暇の終わりが近いから、いざ学園へ戻った後に講義が始まっても苦戦しないよう予習復習をしておかないと。

 そんなふうに私が今日の予定を考えていたら屋敷の呼び鈴が鳴った。

「お父様、今日はどなたかと会うお約束をされていたんですか?」
「いや、そんな約束はしていない。その言い方からするとリリスでもないんだな?」
「そうです」

 お父様がお母様とエンリエッタをそれぞれ見ても、二人は首を横に振り不定する。

 私達が不思議に思っていると訪問者を応対したセバスチャンが戻ってきて、お父様に封筒を渡す。

 すぐにお父様はセバスチャンから小刀を受け取り封蝋を破り手紙を確認すると、お父様は困惑気味に私の方を見た。

「リリス」
「はい」
「これから王城へ向かう。準備があるならすぐに取り掛かれ」
「は……? エンリエッタではなく私がですか?」
「そうだ」
「……わかりました」

 お父様からのこれ以上の説明はなさそうなので私は席を立つ。

 広間を出る時に一瞬グレスオリオ様の顔が浮かんだけど、まさかねと思い直し自分の部屋へと戻る。



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◎後書き
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