上 下
104 / 318

黒の村にて 二人の関係と父の助言

しおりを挟む
「ヤート君、こっちに来ていっしょに話しませんか?」
「わかった」

 僕がリンリーとイリュキンの言動に混乱しているとリンリーが僕に呼びかけてきた。すごく当たり前に呼びかけられたけど、僕がここにいるのはいつからバレてたんだろ? いや、それよりもさっきまでのピリピリしてた時とは真逆のこの和やかな雰囲気は何? そんな疑問が僕の顔に出てたのか、僕が二人の近くに行くとイリュキンが聞いてくる。

「ヤート君、ずいぶんと困惑してるような顔だけど、どうかしたのかい?」
「二人のやり取りが、すごく真剣だったから驚いてただけ」
「その様子だと私とリンリーの会話も全部聞かれてたみたいだね」
「うん」
「「…………」」

 僕がはっきりうなずくと二人は顔を触って恥ずかしそうにしていた。あのすごく真剣な戦いのどこが恥ずかしいんだろ? 本当に色んな意味で二人の事がよくわからない。僕の困惑で二人の恥ずかしさで会話が途切れたけど、この場の雰囲気を切り替えるようにリンリーが大きめの声で聞いてきた。

「そ、そういえば、なんで私達の近くにいたんですか!?」
「ああ、それは私も聞きたかった」
「二人が戦ってまずい事になるかもしれないって思ったから追って来た」

 僕がここにいる理由を言うと二人は顔を見合わせた後に笑い出す。

「なんで笑うの?」
「あっ、ごめんなさい。でも、私達の様子はそんなにおかしかったですか?」
「うん、黒のみんなは困惑してたし、水守みずもりの人達はイリュキンを森に行かせて良かったのかって言い合いになってた」
「そんな事になってたのか。戻ったらみんなに謝らないといけないな」
「私もいっしょに謝ります」
「それじゃあ村に戻るって事で良い?」
「はい」
「私もそれで構わない」
「うん、それじゃあ村へ帰ろう」

 僕が歩き出すと二人は僕の両隣に並ぶように歩き出した。……さりげなく軽く同調しても二人の身体に目立ったケガは無い。本当に二人が無事で良かったよ。僕がホッとしていたらリンリーが話しかけてきた。

「ヤート君は、私達が戦うのを見守ってくれたんですよね?」
「うん」
「ありがとうございます」
「何が?」
「私達の戦いを止めずに見ていてくれたお礼です」
「その事については確かに私も礼を言うべきだね。見守っていてくれて感謝する」
「お礼を言われるような事なの?」
「ああ、今の私とリンリーにとっては、きちんと戦えた事が重要なんだ」
「よくわからないけど、二人にケガがなくて良かった」



 三人で村に戻るとリンリーとイリュキンはみんなに謝った。それからというもの二人は初めて顔を合わせた時のピリピリした雰囲気が嘘のようにリンリーが村の周辺をイリュキンに案内したり、イリュキンがリンリーの家を訪問したりと親しげに接している。

 ……今も二人が並んで話しながら歩いてるのが窓から見える。それにしてもリンリーとイリュキンはどういう関係なんだろ? ちょうど父さんと兄さんが居間にいたから、二人の事を聞いてみるか。

「父さん、兄さん、聞きたい事があるんだけど、ちょっと良い?」
「珍しいな。何が聞きたいんだ?」
「リンリーとイリュキンみたいな、出会った時の雰囲気が悪くて戦ったのに、その戦った後には親しい関係になるっていうのは普通の事?」
「あー、そういうのもあるな」
「父さん、そうなの?」
「お互いの実力を認め合った戦友という奴だ。……いや、どちらかと言えばライバル関係か?」
「ライバル関係って兄さんと姉さんみたいな何かとケンカする奴かと思ってたけど、リンリーとイリュキンみたいな穏やかなライバル関係もあるんだね」

 父さんが何かこらえるように額に手を当てた後、兄さんの方を向いた。

「……ガル、後でマイネにも言っておくが、お前達はもっと落ち着くように」
「それはマイネに言ってくれ。だいたい切っ掛けはマイネだ」
「非常時にまでやるようなら問答無用で性根を叩き直すんだがな」
「俺もマイネもそこまでバカじゃねえ」
「そこまで自覚できてるなら、もう少し何とかならないのか?」
「マイネには負けたくねえ」
「……はあ、まったく」

 なんかリンリーとイリュキンの話から兄さんと姉さんの話に変わった。もう少し聞きたい事があるんだけど、どうしよう。僕がどうしようか悩んでたら父さんが顔を僕の方に向け直してくれた。

「おっと、悪い。今はヤートの話を聞いてるんだったな。まだ聞きたい事はあるか?」
「あ、うん。リンリーとイリュキンは、この先ライバル関係がこじれて決定的に仲が悪くなったりしないよね?」
「それは……まあ、絶対に無いとは言えんが、あの二人なら大丈夫だろう」
「そうか、ピリピリしてる二人は見たくないし良かった。……二人が何でライバル関係になったかわからないけど、何かしらわかりやすい形で早く決着がつくと良いのにね」
「……時間はかかるかもしれんな」
「あー……」

 あれ? なんか父さんと兄さんが僕から目をそらした。父さんは天井を見上げて何か考え一つうなずくと、また僕を見た。

「ヤート」
「何?」
「とりあえず人生の先輩として言えるのは、ヤートはヤートのままでいれば良いって事だ」
「……姉さんにも同じような事を言われた」
「そうか」
「うん。でも、僕って何かとズレてるけど、それでも良いの?」
「自覚できてるなら大丈夫だ。それに変わろうと思っても、すぐに変われるわけじゃないし、目の前の相手が変に気を使ったり精神的に構えてたりしたら誰だって嫌だろ?」
「確かにそうだね」
「だからヤートはヤートのまま自然体でリンリーとイリュキンと関わっていけば良い」
「わかった」

 うん、父さんに相談して良かった。今度は母さんにも相談してみよう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。

 感想や評価もお待ちしています。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

もういらないと言われたので隣国で聖女やります。

ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。 しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。 しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~

石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。 しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。 冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。 自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。 ※小説家になろうにも掲載しています。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

処理中です...