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大神林の奥にて 大神森の中心と贈り物
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どう見ても僕の目の前にあるのは登るのも回り込むのも無理な崖なのに、触って感じたのは莫大な生命力と確かな意思だった。…………僕は今は同調してないのに感じるんだから、想像出来ないくらい大きい存在って事か。例えるなら普通の樹は一口分の水で、この目の前の存在は海かな。
『我がお前さんの目の前にいるというのは理解できたようじゃの』
「はい。……一つ聞いても良いですか?」
『話し方は普段通りでかまわんよ』
「それじゃあお言葉に甘えて、普段通りでいくね。なんで見た目が崖なの?」
『ふむ、当然の質問じゃな。答えはお主の友の魔獣達じゃな』
「三体?」
振り返って三体を見ると、僕が鬼熊の背から降りた時と変わらずガチガチに固まっていて心なしか顔も引きつってる。……あの三体の様子は見た事がある。鬼熊と破壊猪を見張ってた王城の騎士達にそっくりだ。なるほど自分よりも強力な存在を目の前にしたら、こうなるのもしかたないよね。
「三体は離れてて。さすがにその状態が続いたら身体に悪い」
「ガァ……」
「ブォ……」
「ソ、ソレハ……」
「僕の事は良いよ。というか、ここで危険な事は起こりようがないでしょ?」
「「「…………」」」
「話が終わったら戻るから」
僕が言うと三体はしばらく葛藤した後に、僕の方をチラチラ見ながら離れていく。心配してくれるのは嬉しいけど、それで三体が調子崩したら嫌だよ。その後、僕が三体が離れていくのを見ていて、十分離れたのを確認してから崖の方に向くと再び話かけられた。
『良き関係を築いてるようじゃな』
「うん、すごく頼りにしてる。にらみ合ってる時はヒヤヒヤするけどね。それで見た目が崖の理由は教えてくれるの?」
『そうじゃったな。理由は単純での、我の力を抑え誤魔化すためじゃ』
「そういう事か」
『あのお主の相棒たる高位の魔獣三体でも、我の力は本能的に怯えさせてしまう。力を抑えねば他のもの達にも悪影響が出るじゃろうな』
「もしかして大神林の中心ってここ?」
『大神林ができたのは我が一因でもあるしのう。そう考えて良いぞ。ところでじゃ』
「何?」
『これからどうするつもりなんじゃ?』
「旅は楽しいけど、そろそろ黒の村に帰っても良いかなって思ってる」
僕が答えると目の前の存在から、何か考えてる感じが伝わってくる。なんか変な事言ったかな? とりあえず待ってたら、ふいに僕の身体を見えない壁みたいのが通り抜けた気がした。周りを見ても何も変化はな……、いやなんかはっきりとは言えないけど違和感がある。
「何したの?」
『一時的にお主と我の周りを結界で包んだだけじゃよ』
「何のために?」
『こうするためじゃな』
崖の僕が触っていた部分がボコンって動いたから、とっさに後ろに跳んだ。何が起こっても良いように注意して見ていると、僕が触っていた部分だけじゃなくて崖全体がドクンドクンって拍動していた。どうしようか悩んでいたら、拍動が止まり崖がサラサラと光りながら崩れ出し空間を満たしていく。そしてその光が一際強く光ってから無くなると、僕の目の前の景色が変わっていた。
「……これが本当の姿って事?」
『そうじゃな。この姿になるのは久方ぶりじゃよ』
「はは……」
僕の身体よりはるかに太い根・どうやっても傷つきそうに無い樹皮・僕が全力で走っても一周するのに何分もかかるだろう幹・天を衝くって言うのがふさわしい樹高・空を覆う無数の枝と葉・むせ返るような緑の匂い・そして何より放たれる莫大な緑の魔力。乾いた笑いしか出来ない。頭に浮かぶのは一つの単語。
「世界……樹?」
『ふむ、世界を支える樹か。そこまで高位の存在では無いのう。ただ遥か昔から今まで存在しておるだけじゃよ』
「僕らからすると十分に世界樹だよ」
『では世界樹という事にしておくとしよう。さて、我がこの姿になったわけじゃが……』
世界樹の上の方からパキンって音が聞こえたから見ると、何か光ってるものが僕の方にゆっくり落ちてくる。じっと待っていると僕の目の前で浮かんで止まった。光る枝か。……手に取るのもためらうような力を感じる。
「これは?」
『我の枝の中で一番若い枝じゃ。異物から森を守ってくれた礼とお主とわしの出会いの記念じゃな』
「僕は欠色で肉体的にも魔力的にも弱いんだけど、この枝を手に取って大丈夫?」
『我と会話できるお主なら大丈夫じゃよ』
言われて浮かんでいる枝を手に取ると、手にズッシリとした重さを感じた。長さは子供の僕の背丈くらいで太さは僕の指三本分だね。
『今のお主には過剰な力は必要ないかもしれんが、いずれ必要になるじゃろう』
「また魔石みたいな奴に遭遇した時のためって事?」
『そういう事じゃ』
「夢で話したのって……」
『我ではないのう』
「でも似てる気がする」
『確かに我と似た存在じゃな。いずれお主はそのものとも出会うよ』
「わかった。楽しみにしておく」
『さて、誰かと話すのは楽しいものじゃが、そろそろ行くんじゃ。この結界も閉じねばならん』
「結界はこのままにしたら良いのに」
『結界があるのは自然ではない。自然でない物は何かしらの歪みを生むんじゃ』
「……そっか、また来ても良い?」
『いつでも歓迎しよう。それまで息災でな』
「ありがとう。それじゃあまたね」
世界樹が作った結界を抜けて振り返ると世界樹は元の崖になっていた。それにしても大神林の最奥を目指して、まさか大神林の中心に来れると思わなかった。しかも、このもらった枝が、どう考えても国宝以上の物だ。どうしよう。強力すぎて魔法の触媒とかには使えないし、そうかと言ってどこかに封じておくのも違う気がする。
…………とりあえず身体に巻きつけておくか。僕がそう考えると枝がひとりでに動いて服の中に入り僕の腰に巻き付いた。しかも光も魔力も無くなり普通の木の枝になった。どうやらこの枝にもある程度の意志が残っていて、僕に協力してくれるみたいだ。これなら村のみんなや三体にもバレずに済みそうだ。
その後、三体と合流して村を目指して旅を再開した。ちなみに三体は村の近くまで緊張してガチガチのままだったから、にらみ合いも起きなくて行きの何倍もの速さで帰って来れた。やっぱりにらみ合いで時間とってたんだね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
『我がお前さんの目の前にいるというのは理解できたようじゃの』
「はい。……一つ聞いても良いですか?」
『話し方は普段通りでかまわんよ』
「それじゃあお言葉に甘えて、普段通りでいくね。なんで見た目が崖なの?」
『ふむ、当然の質問じゃな。答えはお主の友の魔獣達じゃな』
「三体?」
振り返って三体を見ると、僕が鬼熊の背から降りた時と変わらずガチガチに固まっていて心なしか顔も引きつってる。……あの三体の様子は見た事がある。鬼熊と破壊猪を見張ってた王城の騎士達にそっくりだ。なるほど自分よりも強力な存在を目の前にしたら、こうなるのもしかたないよね。
「三体は離れてて。さすがにその状態が続いたら身体に悪い」
「ガァ……」
「ブォ……」
「ソ、ソレハ……」
「僕の事は良いよ。というか、ここで危険な事は起こりようがないでしょ?」
「「「…………」」」
「話が終わったら戻るから」
僕が言うと三体はしばらく葛藤した後に、僕の方をチラチラ見ながら離れていく。心配してくれるのは嬉しいけど、それで三体が調子崩したら嫌だよ。その後、僕が三体が離れていくのを見ていて、十分離れたのを確認してから崖の方に向くと再び話かけられた。
『良き関係を築いてるようじゃな』
「うん、すごく頼りにしてる。にらみ合ってる時はヒヤヒヤするけどね。それで見た目が崖の理由は教えてくれるの?」
『そうじゃったな。理由は単純での、我の力を抑え誤魔化すためじゃ』
「そういう事か」
『あのお主の相棒たる高位の魔獣三体でも、我の力は本能的に怯えさせてしまう。力を抑えねば他のもの達にも悪影響が出るじゃろうな』
「もしかして大神林の中心ってここ?」
『大神林ができたのは我が一因でもあるしのう。そう考えて良いぞ。ところでじゃ』
「何?」
『これからどうするつもりなんじゃ?』
「旅は楽しいけど、そろそろ黒の村に帰っても良いかなって思ってる」
僕が答えると目の前の存在から、何か考えてる感じが伝わってくる。なんか変な事言ったかな? とりあえず待ってたら、ふいに僕の身体を見えない壁みたいのが通り抜けた気がした。周りを見ても何も変化はな……、いやなんかはっきりとは言えないけど違和感がある。
「何したの?」
『一時的にお主と我の周りを結界で包んだだけじゃよ』
「何のために?」
『こうするためじゃな』
崖の僕が触っていた部分がボコンって動いたから、とっさに後ろに跳んだ。何が起こっても良いように注意して見ていると、僕が触っていた部分だけじゃなくて崖全体がドクンドクンって拍動していた。どうしようか悩んでいたら、拍動が止まり崖がサラサラと光りながら崩れ出し空間を満たしていく。そしてその光が一際強く光ってから無くなると、僕の目の前の景色が変わっていた。
「……これが本当の姿って事?」
『そうじゃな。この姿になるのは久方ぶりじゃよ』
「はは……」
僕の身体よりはるかに太い根・どうやっても傷つきそうに無い樹皮・僕が全力で走っても一周するのに何分もかかるだろう幹・天を衝くって言うのがふさわしい樹高・空を覆う無数の枝と葉・むせ返るような緑の匂い・そして何より放たれる莫大な緑の魔力。乾いた笑いしか出来ない。頭に浮かぶのは一つの単語。
「世界……樹?」
『ふむ、世界を支える樹か。そこまで高位の存在では無いのう。ただ遥か昔から今まで存在しておるだけじゃよ』
「僕らからすると十分に世界樹だよ」
『では世界樹という事にしておくとしよう。さて、我がこの姿になったわけじゃが……』
世界樹の上の方からパキンって音が聞こえたから見ると、何か光ってるものが僕の方にゆっくり落ちてくる。じっと待っていると僕の目の前で浮かんで止まった。光る枝か。……手に取るのもためらうような力を感じる。
「これは?」
『我の枝の中で一番若い枝じゃ。異物から森を守ってくれた礼とお主とわしの出会いの記念じゃな』
「僕は欠色で肉体的にも魔力的にも弱いんだけど、この枝を手に取って大丈夫?」
『我と会話できるお主なら大丈夫じゃよ』
言われて浮かんでいる枝を手に取ると、手にズッシリとした重さを感じた。長さは子供の僕の背丈くらいで太さは僕の指三本分だね。
『今のお主には過剰な力は必要ないかもしれんが、いずれ必要になるじゃろう』
「また魔石みたいな奴に遭遇した時のためって事?」
『そういう事じゃ』
「夢で話したのって……」
『我ではないのう』
「でも似てる気がする」
『確かに我と似た存在じゃな。いずれお主はそのものとも出会うよ』
「わかった。楽しみにしておく」
『さて、誰かと話すのは楽しいものじゃが、そろそろ行くんじゃ。この結界も閉じねばならん』
「結界はこのままにしたら良いのに」
『結界があるのは自然ではない。自然でない物は何かしらの歪みを生むんじゃ』
「……そっか、また来ても良い?」
『いつでも歓迎しよう。それまで息災でな』
「ありがとう。それじゃあまたね」
世界樹が作った結界を抜けて振り返ると世界樹は元の崖になっていた。それにしても大神林の最奥を目指して、まさか大神林の中心に来れると思わなかった。しかも、このもらった枝が、どう考えても国宝以上の物だ。どうしよう。強力すぎて魔法の触媒とかには使えないし、そうかと言ってどこかに封じておくのも違う気がする。
…………とりあえず身体に巻きつけておくか。僕がそう考えると枝がひとりでに動いて服の中に入り僕の腰に巻き付いた。しかも光も魔力も無くなり普通の木の枝になった。どうやらこの枝にもある程度の意志が残っていて、僕に協力してくれるみたいだ。これなら村のみんなや三体にもバレずに済みそうだ。
その後、三体と合流して村を目指して旅を再開した。ちなみに三体は村の近くまで緊張してガチガチのままだったから、にらみ合いも起きなくて行きの何倍もの速さで帰って来れた。やっぱりにらみ合いで時間とってたんだね。
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