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王城にて さらなる出会いと不機嫌なリンリー

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 僕は会食の後にケガ人が運び込まれてる部屋に行って治療を始めた。騎士の人達にしろ獣人達にしろ、元々体力があって治療にも協力してくれるから楽だね。例え口にする薬草がものすごく苦くても、呻き声を上げながら飲んでくれるから治療する側としてはありがたいよ。うん、これでこの人も問題ない。気になるところがあるとすれば……。

「よし、治療完了と。あとは任せるね」
「「「「「…………」」」」」

 なんで僕は王城勤務の薬師や医務官の人達に囲まてるんだろう? 初めは僕が治療に参加するのに嫌な顔をする人もいたのに、僕が治療してたらいつの間にか周りを囲まれてた。

「お前らヤートから離れろ」
「離れなさい」
「離れてください」

 兄さんが低い声で言って姉さんとリンリーが威圧すると僕の周りから離れていく。……離れていく時の顔が気になるけど、まあ良いか。

「ヤート、治療が済んだんならラカムタのおっさんのところに行くぞ」
「うん、早く終わって良かった」
「そうね」
「……あの子が来ない内に終わって良かったです」
「リンリー、何か言った?」
「何でもないです」

 そう言えば治療してるとリンリーが妙に周りを警戒してた。兄さんと姉さんはしてなかったのになんでだろ? これも気になると言えば気になるけど、兄さんと姉さんが何も言ってこないなら大丈夫かな。

「あの、少しお聞きしたい事があるんですが……」

 僕達がラカムタさんのところに向かおうとしたら薬師の一人が話しかけてきた。

「何?」
「ヤート殿が使用している薬草は、どのようなものでしょうか?」
大神林だいしんりんで採れた薬草」
大神林だいしんりん産の物は、全て治癒魔法と同じような効果があるのですか?」
「使い方次第だね」
「使い方ですか……?」
「例えば使う薬草の順番や組み合わせの配分なんかで、かなり効果は違いがあるよ。一番良い組み合わせだったら中位の治癒魔法よりも効果は上かな」
「確かにヤート殿は私達がやらない方法をしてました。竜人族りゅうじんぞくの方々は昔からあのような方法をおこなってるんですね」
竜人族りゅうじんぞくは薬草に詳しくないよ」

 僕が言うと薬師の人はわけがわからないっていう顔になった。

「は?」
「僕以外の竜人族りゅうじんぞくは老若男女問わず、みんな身体が頑丈だし病気もしない。例え重傷や病気になっても死なない限りは、栄養をとってじっくり休んでれば身体の持ってる回復力だけで完治する」
「そういや前に腕がちぎれたけど、腕を固定してガッツリ食べて寝て起きたら元に戻ってたな」
「私も魔獣の突進を受けて血を吐いた事があったけど寝て起きたら特に問題なかったわね」
「私はそこまで強くはないですけど、複雑骨折程度だったら二日あれば元に戻ります」
「聞いた通り竜人族りゅうじんぞく自体が常識外れで、大神林だいしんりんの薬草も特に精製とか加工しなくても薬草の元々効果が高いから、ただ揉んだりすり潰したりするくらいで薬草術は発展してない」
「で、では、ヤート殿がおこなっている方法は、いったいどなたから伝授されたのですか?」
「僕が同調で見つけた奴だよ」
「「「「「えっ」」」」」

 僕に話しかけてきた薬師と周りで作業している薬師がそろって驚いた。技術の蓄積を僕みたいな子供がやったって言ったんだから、まあ当然か。

大神林だいしんりんの中を散歩してる時に見つけた植物に同調してたら、効果の高い組み合わせを見つけたっていうだけ」
「そ、その組み合わせは記録に残したりしてるんでしょうか?」
「うん、僕がコツコツと薬草それぞれの効能とか効果の高い組み合わせとかをまとめた辞典みたいなのを作ってる」
「それは私でも見る事は可能ですか? あと私達に何か教えてもらえませんか」
「黒の村に来て村長むらおさの許可があれば見れると思う。あと教えるのはちょっと無理かな」
「ダメですか……」
「ここに運び込まれてるケガ人の治療が終わったら、王様にあいさつして帰る事になってるから単純に時間がない」
「なるほど」
「ごめん」
「い、いえ、無理を言っているのは私なので気にしないでください」
「うん、わかった」
「ヤート、話が終わったんなら行くぞ」
「今行く」

 部屋を出てラカムタさんのところに向かっていると、兄さん達と大神林だいしんりんに帰ったら何をしたいかを話してたのに、なぜかリンリーはムスッとして会話に加わらない。兄さんと姉さんは何も言わないけど、何かあったのかな? しばらく歩いていると、リンリーが立ち止まって僕を話しかけてくる。

「あの、ヤート君」
「何?」
「あの薬師の人の事は、どう思ってるんですか?」
「最後に僕に話しかけてきた人の事?」
「そうです」
「真面目で勉強熱心な人かな。あと焦ってる」
「焦ってる?」
「たぶん、薬師として伸び悩んでるから、僕の薬草の使い方みたいな新しい事を取り入れようとしてるんだと思う」
「私も勉強してます……」
「リンリー?」
「あ、えっと、何でもないです」
「そう? なら良いけど……」

 なんか王城に来てからリンリーが変だ。お姫様と妙にピリピリしたり、さっきの薬師の人の事でもムスッとしてるしどうしたのかな?

「ほら立ち止まってないで、ラカムタさんのところに行くわよ」

 姉さんに促されて、また歩き出す。僕がリンリーの事を考えてると兄さんが肩を組んできた。

「リンリーの事、考えてるだろ?」
「うん、僕は何かしたのかな?」
「前にも言ったろ。お前は何もしてねえよ。ただリンリーは、さっきの薬師と同じでちょっと焦ってるだけだ。すぐに落ち着く。だから今は気にするな」
「……そうなの?」
「おう、リンリーとマイネの方を見てみろ」

 兄さんに言われてチラッとリンリーの方を見てみると、姉さんが何かリンリーに話しかけてる。

「リンリーはマイネが話してるから大丈夫だ」
「……よくわからないけど、わかった」
「ぷはっ、なんだその言い方は」

 兄さんに笑われた。確かにわからないけどわかったって言い方は変か。それにしても兄さんは、リンリーの事がわかってるんだ。…………あれ? ちょっとだけモヤッとする。なんだろ?

「どうした?」
「何でもない。兄さんはリンリーが変な理由をわかってるの?」
「俺は何となくだ。はっきりわかってるのはマイネだな」
「やっぱり兄さんと姉さんはすごいね」
「いきなりだな」
「僕にはよくわからない事がわかってるからすごいなって」
「別に俺達がすごいわけじゃねえよ。ヤートが鈍いだけだ。まあでも、お前ならその内わかるだろ。だからさっきも言ったが気にするな」
「わかった」

 兄さんと姉さんのおかけで、僕とリンリーの微妙にギクシャクした感じは無くなった。同調でもわからない事もあるんだなって改めて思い知る。兄さんには気にするなって言われてるけど、ちょっとモヤッとした自分が気になるから帰ったら父さん達に聞いてみよう。



 僕が黒の村に帰った後の事を考えてると、ラカムタさんとの合流場所になってる大広間に着いた。……様子が変だ。広間に入ると王様を始めとした王城の人達が二つの集団に別れて対面していて、ラカムタさんがその二つの集団をにらみつけていた。兄さん達もラカムタさんの様子に気付いたのか、一気にピリピリした空気をまとい始める。……また、なんか面倒くさい事が起きたっぽいけど見なかった事にしよう。

「ラカムタさん、王様、ケガ人の治療が終わったよ」
「うむ、改めて感謝する」
「問題なかったか?」
「骨折とか内蔵の損傷とかだから大丈夫だった。それでこれからどうするの? すぐに出発する?」
「そうだな。昼は過ぎてるが休憩を挟みながら全力で走れば明後日には着くだろ。お前達もそれで良いか?」
「僕は特に問題ない」
「俺もそれで良い」
「私もよ」
「私も大丈夫です」
「よし、それなら村に帰るぞ。バーゲル王、そういうわけだ」
「そうか、名残惜しいが引きとめるわけにもいかんな。旅の無事を祈ろう」
「それでは」

 庭で寝ていた鬼熊オーガベア破壊猪ハンマーボアの二体と合流したら城門に向かって歩き出す。やっと村に帰れる。帰りか……どうかな? 僕がちょっとウキウキしてるのがわかったのか、姉さんが笑いながら聞いてくる。

「ヤート、足取りが軽くなってるけど村に帰るのがよっぽど楽しみなのね。早く散歩がしたいのかしら?」
「それもある」
「あら、他に楽しみがあるの?」
「うん、帰りの途中で影結かげゆいさんに会えないかなって思ってさ」

 僕が影結かげゆいさんの名前を出した途端にビシッと空気が止まりみんなが立ち止まった。僕が不思議に思って、どうしたのと聞くとラカムタさんから始まって鬼熊オーガベア破壊猪ハンマーボアにも説教された。影結かげゆいさん良い人なんだけど、そんなに変かな? こう言うとまた怒られそうだから、余計な事を言わないように歩き出す。すると、後ろから走って近づいてくる足音が聞こえて振り向けば僕に話しかけてきた薬師の人だった。

「どうしたの?」
「上司に相談したら、黒の村に行ける事になりました。そのご報告です」
「そうなんだ。鬼熊オーガベア破壊猪ハンマーボアに乗れば、かなり早く着くから一緒に行く?」
「いえ、引き継ぎや荷物の整理などがあるので、あとから伺います」
「それじゃあ、村長むらおさには話しておくね」
「ありがとうございます。ああ、すいません。まだ自己紹介してませんでしたね。私は薬師のヨナと言います」
「僕は黒の竜人族りゅうじんぞくのヤーウェルト、周りからはヤートって呼ばれてる。よろしく」
「よろしくお願いします。みなさんも、いずれ黒の村に伺いますのでよろしくお願いします。それでは今日のところはこれで失礼します」

 ヨナさんが来た時と同じように走って戻っていく。……ヨナさんが村に来るのか、面白い事になりそうだって思っていると、ガシッと肩をつかまれる。最近、肩をつかまれる事が多いな。振り向くとリンリーだった。

「どうかした?」
「……ヤート君、村に帰ったら薬草の事をもっと教えてください」
「わかった」
「ありがとうございます」

 また村に帰るため歩き出す。ただ王様達と別れた時と違い、僕がリンリーの事で首をかしげていてリンリーがムスッとした空気を発していてラカムタさん達が僕を見てため息をついている。…………なんでだろ?



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。

 感想や評価もお待ちしています。

 2020/05/19 薬師のレッカを薬師のヨナに修正しました。
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