301 / 318
決戦にて スッキリしない感じと不意に聞こえた声
しおりを挟む
間違いなく、間違いなく世界樹の杖砲があの芋虫を飲み込んでる。声も聞こえなくなってるし、何か反撃の準備を整えてるような気配もない。全力で勝つために放った魔法だから、このまま消滅してくれれば良いな……。
世界樹の杖砲を撃ち終わり空を貫く深緑色の光線はなくなった。芋虫の姿は…………ない。界気化した魔力で周りを感知しても、植物達へ確認しても本当にどこにもない。ちょっと信じられなくてさらに広く詳しく探そうとしたら、身体から力が抜け世界樹の杖に寄りかかってしまう。
「ヤート‼︎」
「ふー……、ふー……」
『主人、大丈夫ですか?』
「……シールに協力してもらったとは言え、さすがに間をあけずに大規模魔法を連発するのはやりすぎだったね」
『いえ、必要な事だったと思います』
「攻める時は一気にっていう考えには賛成だが、ヤートの場合は消耗が大きすぎるぞ……」
みんなに心配されるのは今さらだからしょうがないとして、今はそれよりも確かめたい事がある。
「ラカムタさん、父さん、母さん」
「どうした?」
「あの台地へ戻りたいんだけど良い?」
「……なぜだ?」
「あの芋虫がいた場所を調べたいんだ」
「…………わかった。だが、先に休め。疲れていたら何が起こっても動けないからな」
「うん」
ラカムタさんからナイルさんへ話が伝わり、僕達は警戒を続けながら休憩をとった。でも、みんなの表情に喜びはなく、どことなくスッキリしてない。近づいてくる兄さんも同じみたい。
「ヤート……」
「兄さん、どうしたの?」
「ヤートは、どう思ってる?」
「ものすごくフワッとした言い方だけど、言いたい事はわかるよ」
「どうなんだ?」
「はっきり言って納得できない。確かに僕はシールと協力して勝ち切ろうと思ってたけど魔石の親玉って言って良い奴が、あんなにあっさりやられるかな?」
僕の疑問を聞いたラカムタさん達も重々しくうなずく。
「今はヤートでも見つけられないけど、どこかにいるって事か?」
「魔石やリザッバは大神林の奥でも大霊湖でも大霊穴でも、倒したかもしれないっていう目の前の状況を素直に喜んでたら痛い目に会う、そんな面倒くささというか耐久力があったからね。僕や植物達のわからないところに隠れてると考えた方が安全」
「まあ……そうだよな」
しっかり休憩をとったおかげで動けるようになった。念のため界気化でも自分の体調を確かめてみるけど問題はない。これなら僕の役割である探知を十分こなせるね。
「ヤート、いけるか?」
「うん、大丈夫」
「よし、それじゃあ出発だ」
僕達は、あの芋虫の気持ち悪い声のせいで上半分が消し飛んでいる台地へ歩き出す。休憩中の話し合いによって、まず一度台地の頂上へ登ったもの達が先行し別の芋虫がいるという最悪の可能性の有無を確かめる事になっている。今のところ芋虫と似たものは感知できてないけど、まったく油断はできないからこれくらいの用心は当たり前だ。
「しかし……、すっかり形が変わってるな」
「ラカムタ殿、あの台地の形だけじゃないわよ。あちこちに大きなヒビ割れ、えぐれがあって歩きにくい事この上ないわ」
「まあ、歩きにくいで済んでる分、マシなはずだぞ。汚泥が湧き出てるとかもありえる」
「本っ、当に気持ち悪いわね。それにあの芋虫は何なのかしら? 少なくとも私はあんなのがいたなんて今まで聞いた事がないわ……」
「それは俺達、黒も同じだ。数えきれない種類の生き物がいる大神林でも、あんな奴は知らない。ヤートは何かわかった事はあるか?」
「あいつの記憶とか考えを界気化で読み取ってないから何とも言えない」
「それはそうだな。ヤート、重ねていうが、あいつに界気化はしなくて良いからな」
「うん」
「ヤート、気をつけるのよ」
「大丈夫だよ。母さん」
本気でまずい事態の時はやるつもりだけど、わざわざみんなの心配を増やす必要はないから黙っていよう。…………たぶん母さんには僕のこの考えはバレてるね。
特に問題らしい問題は起きずに上半分が消し飛んだ台地……長いな、元台地で良いや。元台地に登ってこれた。高さが半減した頂上は、がれきが散らばっている殺風景なところだけど、目を引く場所もある。それは不自然に大きく空いてる穴。どう考えても、あの芋虫がいた痕跡だね。
『…………な…………だ』
「うん?」
「ヤート君、どうかした?」
「今、何か聞こえなかった?」
「え? 私は何も聞いてないわ。みんなは?」
ナイルさんが聞いてけれたけど、みんなは首を横に振ってくる。僕の空耳かな?
『……だ……な……う……だ』
「空耳じゃない。何かいる」
「ヤート、そいつはどこにいる⁉︎」
異常を察知したみんなが僕を中心に円陣を組み、背中越しにラカムタさんが聞いてくる。
『……だん……な……うえ……だ』
「弱々しくてはっきりとはわからない。でも、上? ……え?」
辛うじて聞き取れた上と単語が気になり上を向くと、今まさに光線が放たれようとしていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
世界樹の杖砲を撃ち終わり空を貫く深緑色の光線はなくなった。芋虫の姿は…………ない。界気化した魔力で周りを感知しても、植物達へ確認しても本当にどこにもない。ちょっと信じられなくてさらに広く詳しく探そうとしたら、身体から力が抜け世界樹の杖に寄りかかってしまう。
「ヤート‼︎」
「ふー……、ふー……」
『主人、大丈夫ですか?』
「……シールに協力してもらったとは言え、さすがに間をあけずに大規模魔法を連発するのはやりすぎだったね」
『いえ、必要な事だったと思います』
「攻める時は一気にっていう考えには賛成だが、ヤートの場合は消耗が大きすぎるぞ……」
みんなに心配されるのは今さらだからしょうがないとして、今はそれよりも確かめたい事がある。
「ラカムタさん、父さん、母さん」
「どうした?」
「あの台地へ戻りたいんだけど良い?」
「……なぜだ?」
「あの芋虫がいた場所を調べたいんだ」
「…………わかった。だが、先に休め。疲れていたら何が起こっても動けないからな」
「うん」
ラカムタさんからナイルさんへ話が伝わり、僕達は警戒を続けながら休憩をとった。でも、みんなの表情に喜びはなく、どことなくスッキリしてない。近づいてくる兄さんも同じみたい。
「ヤート……」
「兄さん、どうしたの?」
「ヤートは、どう思ってる?」
「ものすごくフワッとした言い方だけど、言いたい事はわかるよ」
「どうなんだ?」
「はっきり言って納得できない。確かに僕はシールと協力して勝ち切ろうと思ってたけど魔石の親玉って言って良い奴が、あんなにあっさりやられるかな?」
僕の疑問を聞いたラカムタさん達も重々しくうなずく。
「今はヤートでも見つけられないけど、どこかにいるって事か?」
「魔石やリザッバは大神林の奥でも大霊湖でも大霊穴でも、倒したかもしれないっていう目の前の状況を素直に喜んでたら痛い目に会う、そんな面倒くささというか耐久力があったからね。僕や植物達のわからないところに隠れてると考えた方が安全」
「まあ……そうだよな」
しっかり休憩をとったおかげで動けるようになった。念のため界気化でも自分の体調を確かめてみるけど問題はない。これなら僕の役割である探知を十分こなせるね。
「ヤート、いけるか?」
「うん、大丈夫」
「よし、それじゃあ出発だ」
僕達は、あの芋虫の気持ち悪い声のせいで上半分が消し飛んでいる台地へ歩き出す。休憩中の話し合いによって、まず一度台地の頂上へ登ったもの達が先行し別の芋虫がいるという最悪の可能性の有無を確かめる事になっている。今のところ芋虫と似たものは感知できてないけど、まったく油断はできないからこれくらいの用心は当たり前だ。
「しかし……、すっかり形が変わってるな」
「ラカムタ殿、あの台地の形だけじゃないわよ。あちこちに大きなヒビ割れ、えぐれがあって歩きにくい事この上ないわ」
「まあ、歩きにくいで済んでる分、マシなはずだぞ。汚泥が湧き出てるとかもありえる」
「本っ、当に気持ち悪いわね。それにあの芋虫は何なのかしら? 少なくとも私はあんなのがいたなんて今まで聞いた事がないわ……」
「それは俺達、黒も同じだ。数えきれない種類の生き物がいる大神林でも、あんな奴は知らない。ヤートは何かわかった事はあるか?」
「あいつの記憶とか考えを界気化で読み取ってないから何とも言えない」
「それはそうだな。ヤート、重ねていうが、あいつに界気化はしなくて良いからな」
「うん」
「ヤート、気をつけるのよ」
「大丈夫だよ。母さん」
本気でまずい事態の時はやるつもりだけど、わざわざみんなの心配を増やす必要はないから黙っていよう。…………たぶん母さんには僕のこの考えはバレてるね。
特に問題らしい問題は起きずに上半分が消し飛んだ台地……長いな、元台地で良いや。元台地に登ってこれた。高さが半減した頂上は、がれきが散らばっている殺風景なところだけど、目を引く場所もある。それは不自然に大きく空いてる穴。どう考えても、あの芋虫がいた痕跡だね。
『…………な…………だ』
「うん?」
「ヤート君、どうかした?」
「今、何か聞こえなかった?」
「え? 私は何も聞いてないわ。みんなは?」
ナイルさんが聞いてけれたけど、みんなは首を横に振ってくる。僕の空耳かな?
『……だ……な……う……だ』
「空耳じゃない。何かいる」
「ヤート、そいつはどこにいる⁉︎」
異常を察知したみんなが僕を中心に円陣を組み、背中越しにラカムタさんが聞いてくる。
『……だん……な……うえ……だ』
「弱々しくてはっきりとはわからない。でも、上? ……え?」
辛うじて聞き取れた上と単語が気になり上を向くと、今まさに光線が放たれようとしていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
2
お気に入りに追加
876
あなたにおすすめの小説
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる