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決戦前にて 広がる悪影響と合流完了

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 僕の体調回復とみんなの休憩が終わり再び移動を開始した。ただ今からの移動はこれまでの速度重視ではなく、より安全を確かめるものとなっている。もともと爆走に次ぐ爆走をして進んできて合流期限日まで余裕があるので、ここから早足程度でも間に合うらしい。まあ、僕の界気化かいきかによる索敵でも気持ち悪い奴を感じ取れたから近いのも当たり前か。

「ヤート君、これくらいの速さなら大丈夫かしら?」
「爆進してた時でも界気化かいきかでの探知に問題はなかったんだけど、今くらいならじっくり探れるよ」
「そう、それなら良いわ。でも、少しでも異常があったらすぐに言ってね」
「うん、そこら辺はわかってるから大丈夫」

 ナイルさんと会話をしながらでも、僕の頭の中には界気化かいきかした魔力を通じて情報が流れてくる。鬼熊オーガベアはできるだけ揺れないように歩いてくれるしリンリーも僕の身体を優しく支えてくれるから、目を閉じて力を抜いても振り落とされないから界気化かいきかにより集中できるな。やっぱり落ち着ける体勢って大事だね。



 さらにしばらく進んだ時、僕はある動きを感知した。

「ナイルさん」
「何かしら?」
「僕達以外に集団で動いてる人達がいた」

 僕が言うと、みんなは立ち止まりすばやく僕とリンリーが乗る鬼熊オーガベアを中心に円陣を組んだ。…………僕が知る限り陣形を作る練習はしてなかったと思うんだけど、この無駄のない動きは何だろ? いや、気になる事は置いておいて、今は索敵の役目を全うしよう。僕は集団を感知した方向を指さして説明する。

「集団はあっちにいて、構成は騎馬隊だね。…………少なくとも向こうの人達は僕達の事を認識してないよ」
「ヤート君、その騎馬隊は私達の方に近づいてきてる?」
「うーん……、僕達と同じ方向に進んでるね。ラカムタさん、ナイルさん、界気化かいきかで記憶を読んでみて良い?」
「……俺は賛成だ。ナイル殿」
「そうね……。今は安全を確かめないとダメね。ヤート君、お願い」
「わかった。少し待って」

 二人の許可が出たから僕は正体のわからない集団の先頭にいる大柄な人の頭の中へ界気化かいきかした魔力を送り込む。……特に魔法とかで精神や思考を守ってるわけじゃないね。これなら思考や記憶の読み取りに何の問題はないというわけで、必要な情報を読み取った結果……。

「あの人達は敵じゃなくてナイルさんの知り合いだよ」
「という事は教団を、いっしょに攻める子達ね。私達と似たような進路を取る国といったらあの子かしら? 何にしても現地で合流できるのが楽しみだわ。みんな、私達も進むわよ」
「ナイル殿、先を行くもの達がいるなら合流までの間はできるだけ短い方が良いはずだ。俺達も少し速度を上げるか?」
「…………そうね。少し上げて駆け足くらいで行きましょう」

 僕達は円陣を解いて再び進んでいく。後ろから見てもわかるナイルさんの嬉しそうな様子で今回協力して戦う人達への興味が強くなった。



 あれからそれなりの速さで進んでるけど、教団の本拠地へ向かっていると実感してる。なぜなら、界気化かいきかした魔力で受け取る気持ち悪い奴の情報が少しずつ増えてきているせいだ。たぶん僕が吐いた辺りが境界線だったと思う。感知能力のないみんなも口数が少なくなってるくらいだから筋金入りの気持ち悪さだね。

「みんな、大丈夫? 気分が悪いなら言ってよ」
「正直に言って、少しきてるわ。さっきヤート君が吐いた理由が、よくわかるわね」
「そうだな。気持ち悪いと同じくらい胸糞悪くなってくる。この先にいる奴は間違いなく敵だ」
「だけど、マルディ。心配なのは先に合流地点に到着してるかもしれない人達ね。この嫌な感覚を長時間感じるのはまずいわ。私達にはヤートがいるから最悪の事態にならないけど、他のところに対応できる人がいるとは思えないのよ」
「……ヤート君、今から急いで良いかしら?」
「うん、僕もその方が良いと思う。万が一、合流地点で厄介な事が起こってたら僕が治すから」
「お願いね」



 安全を考慮しながら最大限の速さで合流地点に着くと、さっき僕らを追い抜いて行った人達を含めた多くの人達がいた。ただ、僕達を追い抜いて行った人達以外は、顔色が青白くなっていて明らかにぐったりしている。騎馬用の魔獣達も同じような感じで母さんの予想が当たったね。僕はすぐに合流地点全体を界気化かいきかした魔力で状況確認して、ナイルさんに報告した。

「ナイルさん、ほとんどの人が体調を崩してる。今から治療を始めて良い?」
「ヤート君、任せるわ。何か手伝える事はある?」
「それじゃあ動ける人達への状況説明と周囲の警戒をお願い」
「わかったわ。あなた達、行くわよ」

 ナイルさんが部下の人達を連れて行くのを見ながら、僕は魔法の準備に入る。

「シール、まずは守りを強化するよ」
『わかりました』
「『緑盛魔法グリーンカーペット純粋なる緑を纏うグリーンインパクトフレーム遮断膜ブロッキングメンブレン』」

 僕とシールは同時に詠唱して効果を倍増させた深緑色の光の膜が合流地点全体に広がり、気持ち悪い奴の気配というか存在感を遮断した。次に純粋なる緑を纏うグリーンインパクトフレーム遮断膜ブロッキングメンブレンの深緑色の光の膜の内側を一周しながら一定間隔ごとに種を埋めシールと魔法を発動させる。

「『緑盛魔法グリーンカーペット超育成ハイグロウ純粋なる緑を纏うグリーンインパクトフレーム聖月草ムーングラス』」

 すぐに聖月草ムーングラスが成長して花を咲かせると、全ての聖月草ムーングラスは静かな夜の満月みたいな優しい光を放ち純粋なる緑を纏うグリーンインパクトフレーム遮断膜ブロッキングメンブレンの膜の中を満たしていく。これで僕達の身体を侵食してる良くないものは消えて、みんなの体調も元に戻るはず。

「ラカムタさん、どう? 少しずつ気持ち悪さは取れてると思うけど……」
「ああ、かなりマシになった」
「良かった」
「あと鈍ってた感覚もはっきりしてきたな。…………ヤート、気配だけでここまで悪影響がある奴だ。厄介だぞ」
「それは魔石、死教って言ってたリザッバ、王都にいたゼビリランとかの親玉だから当然といえば当然だね」
「そうだったな」
「うん。それじゃあ僕は他の国の人達の様子を見てくるから、ラカムタさん達も何か気づいたり変化があったら教えて」
「わかった。他の奴らにも言っておく」

 ラカムタさんと別れて僕は一人一人の体調を確認していく。もともとの病状の深刻さや個人の精神力の差で治り方にバラ付きがあるものの、全体として見たら確実に回復してきていた。そうして見回りを続けているとナイルさんが、ナイルさんと同じくらいの巨漢の人達と情報交換しているのが目に入る。

「ナイルさん、みんな良くなってきてるよ」
「あら、良い知らせね。ありがとう。ヤート君」
「治すのも僕の役目だから気にしないで。ところで一つ確認したいんだけど、今この場にいる人達で全員?」
「あと一国が合流すれば全員そろうわ」
「それなら、その最後の一国の人達も体調が崩してるはずだから、どんな状態でも対応できるように準備しておくね」
「最低でも私達と同じくらいには体調を崩してる可能性が高いかしら?」
「たぶん、そうだと思う」
「ヤート君、その子達もお願い。治してあげて」
「うん、任せて」

 その後、みんなの回復を見守りながら最後の一国を待っていたんだけど、そう時間をあけずに合流した最後の一国の人達も、やっぱり体調を崩していた。だから、すぐに純粋なる緑を纏うグリーンインパクトフレーム遮断膜ブロッキングメンブレンの中に入ってもらい聖月草ムーングラスの光を浴びてもらう。

 よし、これで待つだけ。そして、みんなの体調が回復したら決戦だ。やれるだけの事をやって早く帰ろう。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。

 感想や評価もお待ちしています。
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