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王城にて 拳圧の威力と忘れてた事
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僕達が部屋の前に来ると部屋の住人がガチガチに拘束されて動けないのに、飛びかかろうと身体を震わせる。僕に対して呪い殺さんとばかりの鋭い目とうめき声を向けてくる。どうやら恨まれてるのは僕だけみたいだね。恨みや敵意は集まってくれた方が楽に対処できるなって考えてたら、いきなり兄さんが右腕をゼビリランへ突き出した。するとゼビリランの腹部がボコンッとへこみ、ゼビリランの固定されている金属製の椅子から鈍い金属音が響く。
「おい、てめえ、ヤートをにらんでんじゃねえぞ‼︎」
「ゴボッ‼︎」
どうやら兄さんの突きから生まれた拳圧がゼビリランに命中したらしいね。ゼビリランは僕に意識を向けている無防備な状態で受けて内臓が破裂し口枷の隙間から血が流れて出ている。一応、兄さんは殺さないよう手加減はしてくれたみたいだけど完全に重体だよね。僕は王城の奥庭で育てて乾燥させた薬草を取り出す。
「兄さん、やりすぎだよ。水生魔法。緑盛魔法・薬水霧」
僕の魔法により生まれた緑の霧がゼビリランの鼻から体内へ入り内臓や骨なんかのケガを癒していく。
「ヤート、何でこんな奴のケガを治すの? 放っておけば良いじゃない」
「姉さん、ゼビリランをどうにかするのは王国の人達じゃないとダメだよ。僕達はあくまでも巻き込まれただけ。それにこの場でゼビリランに何かあればサムゼンさんの責任問題になる」
「あ……、そうね」
「…………サムゼンのおっさん、悪い。反射で手を出しちまった」
「いや、黒の方々には、その権利がある。気にしないで良い」
「おう……」
兄さんはサムゼンさんに言われて気まずそうにしていたから話を逸らす事にした。
「兄さんは、もっと手加減を覚えないとね。普人族に当てて良い打撃の強さを超えてたよ」
「…………かなり弱く殴ったぞ?」
「それは竜人族基準でしょ? 欠色の僕を殴る時を考えて」
「あー、そういう事か……って、俺はヤートを殴るわけないだろ」
「あくまで想像の話」
「ヤート殿……」
僕と兄さんの会話を聞いたサムゼンさんが話しかけてくる。
「何? サムゼンさん」
「先程のガル殿の打撃は手加減していたのか……?」
「うん、してるよ。兄さんが本気でやってたら確実にゼビリランの身体と金属製の椅子と壁に大きな穴ができてたね」
「そ、そうか……」
「それと、もしラカムタさんや父さんが本気でやってたら、ゼビリランと椅子は衝撃で粉々になって形も残らないだろうし、最悪地下は崩壊するよ」
サムゼンさんや部下の人達が顔を引きつらせる中、ラカムタさんと父さんは地下の壁や床を軽く叩いて感触を確かめた。
「…………まあ、五発も打ち込めば確実に壊せるだろうな」
「なんだ。ずいぶんと情けないことを言うな、マルディ。これぐらいなら二、三発で十分だろ?」
「ラカムタ……、俺の言った事を聞いてないのか? 五発で確実と言ったんだ。別に一発でもできるに決まってる。ラカムタ、お前には無理かもしれんがな」
「ああ?」
「ラカムタが先に言ったんだぞ?」
…………何で、この状況でラカムタさんと父さんのにらみ合いになるの? しかも二人の発する魔力と威圧も増してきて、ディグリとミック以外の全員がちょっとずつ離れていってる。このまま地下でケンカになるのはまずいから、僕はにらみ合ってる二人の間に入った。
「ラカムタさん、父さん、さすがにシャレにならないからやめて」
「「…………」」
「やめてくれないと、僕も全力でいろいろやるけど良い?」
「悪かった‼︎」
「すまん‼︎ 大人気なかった‼︎」
「ヤート、落ち着け‼︎」
「そうよ‼︎ ヤートの方がシャレにならないから‼︎」
「ヤート君、いったん深呼吸をしましょう‼︎」
「アナタノ植物ハ私デモ止メラレナイデスガ、全力デ抗ッテミセマス」
「…………イノチガケ」
ラカムタさんと父さんが謝ってくれたのは良いとして、兄さん達が僕の肩や腕をつかんで、ディグリとミックは覚悟を決めた戦闘態勢になるのは何で?
「えっと……、やらないよ?」
「…………ヤート、本当だな?」
「うん、ラカムタさんと父さんがケンカをしないなら僕の騒ぐ意味はないからね」
「「「「「ふー……」」」」」
…………ラカムタさん達の反応が納得できないけど、ちょうどゼビリランの治療が終わったから無視しよう。みんなに言ってから同調と界気化を併用してゼビリランの身体を調べ尽くす。その結果、兄さんの拳圧を受ける前と同じくらいには回復してた。これでサムゼンさんの責任問題にはならないね。僕はついでにゼビリランの記憶を総ざらいして何か重要な事を見逃してないか調べたら、ものすごく大変なものの対処をしてなかった事に気づいた。
「…………しまった」
「ヤート殿、何かゼビリランに問題が?」
「ゼビリランは完治したんだけど、ゼビリランの仕掛けた魔法の事を忘れてた」
「ゼビリランの魔法?」
「そう。王都を巻き込んで自爆するための魔法があるんだけど」
「なっ⁉︎ そのようなものがっ⁉︎ いかん‼︎ おい、王に知らせろ‼︎」
サムゼンさん達が慌てて走り出そうとしたから、その前に僕は話を続ける。
「完全に無力化されてても残ってるのは気持ち悪いよね」
「「「「「は?」」」」」
「ラカムタさん、ちょっと城下町に出て回収してくるよ」
身体は入り口を向いてるのに顔は僕を見ているっていう器用な体勢のサムゼンさん達の横を抜けて入り口へ歩いていると、ラカムタさんと父さんに肩をつかまれた。
「……ヤート、何で今まで言わなかったんだ?」
「広間でゼビリランを倒した時にゼビリランの自爆魔法も完全に壊した。ゼビリランの記憶からわかった危険な状態の被害者の保護を優先した。この二つの理由で忘れてたよ。ごめんなさい」
「ヤート、確認するぞ。緊急性はないんだな?」
「ないよ」
「そうか……。よし」
父さんが僕を抱き上げた。
「父さん?」
「王都中を回るなら、こうした方が速いだろ。道案内を頼む」
「わかった」
「それと俺達が目立たないよう王城に来る時に使った魔法も頼むな」
「任せて」
「それじゃあ、さっさと済ますぞ‼︎」
僕達は兄さん達とサムゼンさん達の静止の声を背中越しに聞きながら走り出した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
「おい、てめえ、ヤートをにらんでんじゃねえぞ‼︎」
「ゴボッ‼︎」
どうやら兄さんの突きから生まれた拳圧がゼビリランに命中したらしいね。ゼビリランは僕に意識を向けている無防備な状態で受けて内臓が破裂し口枷の隙間から血が流れて出ている。一応、兄さんは殺さないよう手加減はしてくれたみたいだけど完全に重体だよね。僕は王城の奥庭で育てて乾燥させた薬草を取り出す。
「兄さん、やりすぎだよ。水生魔法。緑盛魔法・薬水霧」
僕の魔法により生まれた緑の霧がゼビリランの鼻から体内へ入り内臓や骨なんかのケガを癒していく。
「ヤート、何でこんな奴のケガを治すの? 放っておけば良いじゃない」
「姉さん、ゼビリランをどうにかするのは王国の人達じゃないとダメだよ。僕達はあくまでも巻き込まれただけ。それにこの場でゼビリランに何かあればサムゼンさんの責任問題になる」
「あ……、そうね」
「…………サムゼンのおっさん、悪い。反射で手を出しちまった」
「いや、黒の方々には、その権利がある。気にしないで良い」
「おう……」
兄さんはサムゼンさんに言われて気まずそうにしていたから話を逸らす事にした。
「兄さんは、もっと手加減を覚えないとね。普人族に当てて良い打撃の強さを超えてたよ」
「…………かなり弱く殴ったぞ?」
「それは竜人族基準でしょ? 欠色の僕を殴る時を考えて」
「あー、そういう事か……って、俺はヤートを殴るわけないだろ」
「あくまで想像の話」
「ヤート殿……」
僕と兄さんの会話を聞いたサムゼンさんが話しかけてくる。
「何? サムゼンさん」
「先程のガル殿の打撃は手加減していたのか……?」
「うん、してるよ。兄さんが本気でやってたら確実にゼビリランの身体と金属製の椅子と壁に大きな穴ができてたね」
「そ、そうか……」
「それと、もしラカムタさんや父さんが本気でやってたら、ゼビリランと椅子は衝撃で粉々になって形も残らないだろうし、最悪地下は崩壊するよ」
サムゼンさんや部下の人達が顔を引きつらせる中、ラカムタさんと父さんは地下の壁や床を軽く叩いて感触を確かめた。
「…………まあ、五発も打ち込めば確実に壊せるだろうな」
「なんだ。ずいぶんと情けないことを言うな、マルディ。これぐらいなら二、三発で十分だろ?」
「ラカムタ……、俺の言った事を聞いてないのか? 五発で確実と言ったんだ。別に一発でもできるに決まってる。ラカムタ、お前には無理かもしれんがな」
「ああ?」
「ラカムタが先に言ったんだぞ?」
…………何で、この状況でラカムタさんと父さんのにらみ合いになるの? しかも二人の発する魔力と威圧も増してきて、ディグリとミック以外の全員がちょっとずつ離れていってる。このまま地下でケンカになるのはまずいから、僕はにらみ合ってる二人の間に入った。
「ラカムタさん、父さん、さすがにシャレにならないからやめて」
「「…………」」
「やめてくれないと、僕も全力でいろいろやるけど良い?」
「悪かった‼︎」
「すまん‼︎ 大人気なかった‼︎」
「ヤート、落ち着け‼︎」
「そうよ‼︎ ヤートの方がシャレにならないから‼︎」
「ヤート君、いったん深呼吸をしましょう‼︎」
「アナタノ植物ハ私デモ止メラレナイデスガ、全力デ抗ッテミセマス」
「…………イノチガケ」
ラカムタさんと父さんが謝ってくれたのは良いとして、兄さん達が僕の肩や腕をつかんで、ディグリとミックは覚悟を決めた戦闘態勢になるのは何で?
「えっと……、やらないよ?」
「…………ヤート、本当だな?」
「うん、ラカムタさんと父さんがケンカをしないなら僕の騒ぐ意味はないからね」
「「「「「ふー……」」」」」
…………ラカムタさん達の反応が納得できないけど、ちょうどゼビリランの治療が終わったから無視しよう。みんなに言ってから同調と界気化を併用してゼビリランの身体を調べ尽くす。その結果、兄さんの拳圧を受ける前と同じくらいには回復してた。これでサムゼンさんの責任問題にはならないね。僕はついでにゼビリランの記憶を総ざらいして何か重要な事を見逃してないか調べたら、ものすごく大変なものの対処をしてなかった事に気づいた。
「…………しまった」
「ヤート殿、何かゼビリランに問題が?」
「ゼビリランは完治したんだけど、ゼビリランの仕掛けた魔法の事を忘れてた」
「ゼビリランの魔法?」
「そう。王都を巻き込んで自爆するための魔法があるんだけど」
「なっ⁉︎ そのようなものがっ⁉︎ いかん‼︎ おい、王に知らせろ‼︎」
サムゼンさん達が慌てて走り出そうとしたから、その前に僕は話を続ける。
「完全に無力化されてても残ってるのは気持ち悪いよね」
「「「「「は?」」」」」
「ラカムタさん、ちょっと城下町に出て回収してくるよ」
身体は入り口を向いてるのに顔は僕を見ているっていう器用な体勢のサムゼンさん達の横を抜けて入り口へ歩いていると、ラカムタさんと父さんに肩をつかまれた。
「……ヤート、何で今まで言わなかったんだ?」
「広間でゼビリランを倒した時にゼビリランの自爆魔法も完全に壊した。ゼビリランの記憶からわかった危険な状態の被害者の保護を優先した。この二つの理由で忘れてたよ。ごめんなさい」
「ヤート、確認するぞ。緊急性はないんだな?」
「ないよ」
「そうか……。よし」
父さんが僕を抱き上げた。
「父さん?」
「王都中を回るなら、こうした方が速いだろ。道案内を頼む」
「わかった」
「それと俺達が目立たないよう王城に来る時に使った魔法も頼むな」
「任せて」
「それじゃあ、さっさと済ますぞ‼︎」
僕達は兄さん達とサムゼンさん達の静止の声を背中越しに聞きながら走り出した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
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