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嫌な場所にて 気の毒な一般の人達と被害者達の解放
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僕達がゼビリランの教会に正面の入口から入ったら、ちょうど説法の時間だったのか多くの信者や神官達がいた。特に関係ないからズンズン進んでいくと、ゼビリランの犯罪行為を何も知らない神官達や一般信者が止めてくる。でも、ジーンアリスさんが歩き出すと悲鳴をあげて波が引くように壁際に下がって震え出した。まあ、本当に一度も殺気を感じた事のない人達に、今の殺気立ってるジーンアリスさんを止めろっていう方が無理な話だね。
「私の……私達の邪魔をしないなら何もしない。良いな?」
ジーンアリスさんが立ち止まり目に付いた責任者っぽい人に爆発寸前のような声で伝えると、その責任者は首が取れるんじゃないかって心配になる速さで首を縦に振り答えていた。これ以上ここにいると無関係の人達が気絶しそうでまずい。教会の構造は教会に入る前に壁に触れ同調で確認してるから、ゼビリランの専用区画まで案内しよう。
「ジーンアリスさん、あそこの奥の扉を抜けて左に行ったら階段があるよ」
「…………わかった」
教会内部の構造に詳しい僕に驚きの視線が集まるけど、ラカムタさんと父さんが威圧したら全員が壁に向かってうずくまったり白目をむいて倒れたり祭壇へ一心不乱に祈り始めたりと、なかなか混乱してきている。
「ここの人達は何も関係ないから放っておいて、とりあえず上を目指そう」
ジーンアリスさんがうなずいてくれて歩き出したから僕はジーンアリスさんの後ろに続き、ラカムタさんが僕の右後ろで父さんは僕の左後ろという位置関係で進んでいく。始めは僕達の位置関係に何も思ってなかったんだけど、ふと教会の構造をわかってる僕が先に行くべきかって思い直しジーンアリスさんの右側から前に出ようとしたら、ラカムタさんと父さんに肩をつかまれジーンアリスさんは僕が前に行けないよう右腕を伸ばして進路を塞いだ。
「えっと、案内できる僕が先頭に出た方が良いなって思ったんだけど……?」
「ヤートがいるべきなのは俺達三人の間だ」
「俺達が守りやすい位置にいてくれ」
「ヤート殿、王城に帰還するまで決して前には出ないように」
「でも、一番感知範囲が広いのは僕だよ?」
「それなら前に出ず俺達に囲まれていてもわかるだろ」
「ラカムタの言う通りだな」
「私も同意見だ」
「わかったよ……」
なんかモヤっとするけど、まあラカムタさんの言ってる事は当たってるからこのままで良いか。
僕が周りを警戒しつつ三人に守られて階段を上り教会上層のゼビリランの専用区画とそれ以外を区切る扉の前までやってきた。当然、すでに僕は同調や界気化した魔力で中の様子がわかっている。だけど、これは……。
「ラカムタさん達は、ここで待ってて」
「いや、ヤート、さっきも言っただろ……。お前が前に出る必要はない」
「あるから言ってる。今の状態を見られたくない人もいるから三人はここにいて。それとも三人は中に入っても何もできないって、はっきり言わないとダメ?」
「「「…………」」」
三人は複雑な表情で黙り込む。でも、グッと歯を食い縛るジーンアリスが道を譲ってくれてラカムタさんと父さんも何も言わないから良いみたいだ。僕は扉の少し開けて間を置かずに中に入る。中はいくつもの部屋に分かれており壁・天井・床が石造りになっていて照明はロウソクや魔力灯のみで窓はない。空気が澱んでいて腐臭や血臭など、およそ平穏から最も遠く離れたものが満ちていた。僕は腰の小袋から苔玉を出し腰の世界樹の杖に触れて魔法を発動させる。
「緑盛魔法・世界樹の杖、純粋なる緑を纏う浄化苔」
杖状になった世界樹の杖から苔玉へ魔力が流れ極限まで強化された浄化苔が誕生する。
「ここの掃除をお願い。生きてる人達の汚れは優しく落としてあげて。それと遺体や骨もできるだけ優しくきれいにしてあげて」
浄化苔は僕のお願いに震えて答えると、僕の膝下ぐらいの大きさだったのがゴボゴボと体積を急激に増していきゼビリランの専用区画を埋め尽くしていく。僕を含めて生きてる人の呼吸ができるように空間は残してくれてるから大丈夫か。このままもう少し待てば、ここの汚れはほとんどなくなるね。
少しして浄化苔が元の大きさにに戻った。…………うん、ここに染み付いていた汚れや臭いはなくなってる。あとは生きてる人をできるだけ助けよう。僕は水生魔法でできる限り大きい水球を作りそこに薬草団子が入ってる小袋を入れたものと、青い実を触媒に魔法を発動させた。
「緑盛魔法・薬水霧、鎮める青」
緑と青の霧が広がっていく。これで傷の治療と精神的な負荷の軽減が同時にできる。匂いもさわやかなものになってるから、少しは落ち着けるはず。よし、一人一人の体調と身体の状態を確認していこう。
時間かけて監禁されていた人達の状態確認を終え、鎖や革帯での拘束を解く。比較的体調の良い人達には水蜜桃をあげて食事をしてもらい、衰弱などで食べるのが難しい人達には薬水霧を集めた強薬水液に浸かってもらう。こうして一通り治療が終わったので、一つ相談するために扉から外に出てラカムタさん達と合流する。
「ヤート、中の人達はどうだ?」
「助けられる人達にはできるだけの事をしたよ」
「そうか、よくやった」
「それで相談なんだけど、あの人達の服とかどうしよう。あと、衰弱が激しくてすぐには動けない人もいて、お世話をしてくれる人がほしいんだ」
「一度、王城に戻り報告するべきか……」
ジーンアリスさんのつぶやきにラカムタさんも父さんもうなずく。
「それじゃあ、報告はジーンアリスさんに任せて良い?」
「ああ、大丈夫だ。できるだけ早く戻ってくるから待っていてくれ」
「ジーンアリスさん、待って」
「ヤート殿、どうした?」
「王城に戻る前に不安を解消しておいた方が良い。二人とも生きてるよ」
「…………本当か?」
「うん、ケガは完治していて、そこまで衰弱してないから会話もできる」
「そうか……、そうか……、良かった」
僕がジーンアリスさんに家族の状態を告げると、ジーンアリスさんの目から涙がこぼれてきた。ずっと心配して張り詰めてたから当然だね。ラカムタさんと父さんも中へ入るよう促したが、ジーンアリスさんは涙をぬぐって顔を横に振る。
「ここで私だけが家族に会うわけにはいかない。今は公人としての義務を果たすのが先だ。ヤート殿は、このまま監禁されていた人達の治療や世話を頼む。ラカムタ殿とマルディ殿はヤート殿と監禁されていた人達の護衛をお願いする」
「わかった」
「邪魔する奴らは必ず叩き潰すから安心してくれ」
「それでは、いったん失礼する」
僕達に頭を下げて走り出したジーンアリスさんの後ろ姿は、すごく強さを感じた。王様達やサムゼンさんもそうだし、こういう人達がいるならこの国は大丈夫そうだね。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
「私の……私達の邪魔をしないなら何もしない。良いな?」
ジーンアリスさんが立ち止まり目に付いた責任者っぽい人に爆発寸前のような声で伝えると、その責任者は首が取れるんじゃないかって心配になる速さで首を縦に振り答えていた。これ以上ここにいると無関係の人達が気絶しそうでまずい。教会の構造は教会に入る前に壁に触れ同調で確認してるから、ゼビリランの専用区画まで案内しよう。
「ジーンアリスさん、あそこの奥の扉を抜けて左に行ったら階段があるよ」
「…………わかった」
教会内部の構造に詳しい僕に驚きの視線が集まるけど、ラカムタさんと父さんが威圧したら全員が壁に向かってうずくまったり白目をむいて倒れたり祭壇へ一心不乱に祈り始めたりと、なかなか混乱してきている。
「ここの人達は何も関係ないから放っておいて、とりあえず上を目指そう」
ジーンアリスさんがうなずいてくれて歩き出したから僕はジーンアリスさんの後ろに続き、ラカムタさんが僕の右後ろで父さんは僕の左後ろという位置関係で進んでいく。始めは僕達の位置関係に何も思ってなかったんだけど、ふと教会の構造をわかってる僕が先に行くべきかって思い直しジーンアリスさんの右側から前に出ようとしたら、ラカムタさんと父さんに肩をつかまれジーンアリスさんは僕が前に行けないよう右腕を伸ばして進路を塞いだ。
「えっと、案内できる僕が先頭に出た方が良いなって思ったんだけど……?」
「ヤートがいるべきなのは俺達三人の間だ」
「俺達が守りやすい位置にいてくれ」
「ヤート殿、王城に帰還するまで決して前には出ないように」
「でも、一番感知範囲が広いのは僕だよ?」
「それなら前に出ず俺達に囲まれていてもわかるだろ」
「ラカムタの言う通りだな」
「私も同意見だ」
「わかったよ……」
なんかモヤっとするけど、まあラカムタさんの言ってる事は当たってるからこのままで良いか。
僕が周りを警戒しつつ三人に守られて階段を上り教会上層のゼビリランの専用区画とそれ以外を区切る扉の前までやってきた。当然、すでに僕は同調や界気化した魔力で中の様子がわかっている。だけど、これは……。
「ラカムタさん達は、ここで待ってて」
「いや、ヤート、さっきも言っただろ……。お前が前に出る必要はない」
「あるから言ってる。今の状態を見られたくない人もいるから三人はここにいて。それとも三人は中に入っても何もできないって、はっきり言わないとダメ?」
「「「…………」」」
三人は複雑な表情で黙り込む。でも、グッと歯を食い縛るジーンアリスが道を譲ってくれてラカムタさんと父さんも何も言わないから良いみたいだ。僕は扉の少し開けて間を置かずに中に入る。中はいくつもの部屋に分かれており壁・天井・床が石造りになっていて照明はロウソクや魔力灯のみで窓はない。空気が澱んでいて腐臭や血臭など、およそ平穏から最も遠く離れたものが満ちていた。僕は腰の小袋から苔玉を出し腰の世界樹の杖に触れて魔法を発動させる。
「緑盛魔法・世界樹の杖、純粋なる緑を纏う浄化苔」
杖状になった世界樹の杖から苔玉へ魔力が流れ極限まで強化された浄化苔が誕生する。
「ここの掃除をお願い。生きてる人達の汚れは優しく落としてあげて。それと遺体や骨もできるだけ優しくきれいにしてあげて」
浄化苔は僕のお願いに震えて答えると、僕の膝下ぐらいの大きさだったのがゴボゴボと体積を急激に増していきゼビリランの専用区画を埋め尽くしていく。僕を含めて生きてる人の呼吸ができるように空間は残してくれてるから大丈夫か。このままもう少し待てば、ここの汚れはほとんどなくなるね。
少しして浄化苔が元の大きさにに戻った。…………うん、ここに染み付いていた汚れや臭いはなくなってる。あとは生きてる人をできるだけ助けよう。僕は水生魔法でできる限り大きい水球を作りそこに薬草団子が入ってる小袋を入れたものと、青い実を触媒に魔法を発動させた。
「緑盛魔法・薬水霧、鎮める青」
緑と青の霧が広がっていく。これで傷の治療と精神的な負荷の軽減が同時にできる。匂いもさわやかなものになってるから、少しは落ち着けるはず。よし、一人一人の体調と身体の状態を確認していこう。
時間かけて監禁されていた人達の状態確認を終え、鎖や革帯での拘束を解く。比較的体調の良い人達には水蜜桃をあげて食事をしてもらい、衰弱などで食べるのが難しい人達には薬水霧を集めた強薬水液に浸かってもらう。こうして一通り治療が終わったので、一つ相談するために扉から外に出てラカムタさん達と合流する。
「ヤート、中の人達はどうだ?」
「助けられる人達にはできるだけの事をしたよ」
「そうか、よくやった」
「それで相談なんだけど、あの人達の服とかどうしよう。あと、衰弱が激しくてすぐには動けない人もいて、お世話をしてくれる人がほしいんだ」
「一度、王城に戻り報告するべきか……」
ジーンアリスさんのつぶやきにラカムタさんも父さんもうなずく。
「それじゃあ、報告はジーンアリスさんに任せて良い?」
「ああ、大丈夫だ。できるだけ早く戻ってくるから待っていてくれ」
「ジーンアリスさん、待って」
「ヤート殿、どうした?」
「王城に戻る前に不安を解消しておいた方が良い。二人とも生きてるよ」
「…………本当か?」
「うん、ケガは完治していて、そこまで衰弱してないから会話もできる」
「そうか……、そうか……、良かった」
僕がジーンアリスさんに家族の状態を告げると、ジーンアリスさんの目から涙がこぼれてきた。ずっと心配して張り詰めてたから当然だね。ラカムタさんと父さんも中へ入るよう促したが、ジーンアリスさんは涙をぬぐって顔を横に振る。
「ここで私だけが家族に会うわけにはいかない。今は公人としての義務を果たすのが先だ。ヤート殿は、このまま監禁されていた人達の治療や世話を頼む。ラカムタ殿とマルディ殿はヤート殿と監禁されていた人達の護衛をお願いする」
「わかった」
「邪魔する奴らは必ず叩き潰すから安心してくれ」
「それでは、いったん失礼する」
僕達に頭を下げて走り出したジーンアリスさんの後ろ姿は、すごく強さを感じた。王様達やサムゼンさんもそうだし、こういう人達がいるならこの国は大丈夫そうだね。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
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