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黄土の森にて 過保護と物騒
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ようやく僕への決闘の申し込みがひと段落して時間ができた。そんな時にやるのは一つ。そう散歩だ。でも、僕が黄土の村の外へ行こうとしたらラカムタさん達に囲まれた。
「ラカムタさん、僕に何か用?」
「ヤート……、どこに行く気だ?」
「どこって散歩だから、特に目的地はないよ。新しく生まれた森の様子を見ながら歩こうかなって思ってる。何かあったの?」
「いや、何もないぞ。ヤートが黄土の村の外へ歩き出したから気になっただけだ」
「それなら散歩に行って良い?」
「ああ、暗くなる前には戻れよ」
「うん、それじゃあ行ってきます」
…………僕が散歩って言った時の、みんなのホッとした表情は何だろ? 確認のため界気化した魔力を周りに放ってみても異常はないから、本当に僕の事が気になったんだと思う。……いや、それだけにしては妙にみんなの真剣さがすごかったな。歩きながら考えてみても結論を出せず、そのまま四体と合流した。ちょっとモヤモヤするけど、久しぶりの散歩だから楽しもう。
うん、やっぱり散歩は良いね。特に今散歩してる生まれたばかりの森は面白い。全ての植物達が生き生きしてて、少しでも成長しようと貪欲に日光と土中の栄養水分を吸収している。ここまで森の成長が速いと、大神林の規模に追いつくのも時間の問題かもね。僕はそんな事を思いながらチラッと後ろを見た。
「「「…………」」」
「「「…………」」」
なぜか兄さん・姉さん・リンリー・イリュキン・クトー・チムサが、僕と四体の散歩を少し離れた場所で見ている。ちなみにいつからと言えば、六人は森に入った辺りからずっと同じ距離を保ってついてきていた。別に姿を隠してるわけじゃないから尾行とは違うはずだけど、理由がわからない。
あれ? そういえば四体も何か変だね。散歩を始めてすぐにディグリが僕を持ち上げて鬼熊の背に下ろしたし、ミックがそんな僕の後ろに座りガッチリ僕を支えてくれる。…………もしかして? 僕は一つの結論が出たので、確かめるために強化魔法を発動させ頭上の枝に跳んで樹の天辺へ登っていく。あー……、下で兄さん達と四体が慌ててるから間違いなさそうだね。確信した僕は枝を伝いながら地面まで降りた。
「ヤート‼︎」
「何? 兄さん」
「何じゃねえ‼︎ いきなり上に跳んでどうした⁉︎ また別の異常か⁉︎」
「異常と言えば異常かな」
僕が異常と言った瞬間、兄さん達と四体は僕を中心に円陣をつくる。
「ヤート、何の異常があった⁉︎」
「兄さん達と四体が僕に対して過保護になってる事だね」
「「「「ゔっ……」」」」
「勘違いすんなよ‼︎ 俺はヤートの強さの理由が散歩にあるかもしれないと思っただけだ‼︎」
「私はヤート君を、じっくり見たかっただけよ‼︎」
兄さん・姉さん・リンリー・イリュキンは僕の予想通りか。クトーとチムサにはきちんと言っておこう。
「これはただの散歩だから特に強くなる理由はないと思うけど、気が済むまで見たら良いよ」
「助かる」
「それと僕の事を見たいなら周りに迷惑をかけないようにして」
「もちろんよ‼︎」
この二人はこれで良いか。あとは兄さん達と四体だね。
「しっかり治療して食べて寝たから、僕は大丈夫だよ?」
「ヤートの場合、まあ良いかで異常に飛び込みそうだから心配なの」
「あと、異常はお前に寄ってくるから、ヤートに近づく前にぶっ潰すつもりだ」
「ガル君と同じで異常がいたら消すつもりでした」
「私はへし折るつもりだよ」
「あ、私も殴り飛ばすわ」
…………過保護というより物騒だ。なんとなく四体の答えも予想がつくけど、一応聞こうと思い四体の方を見た。
「ガア」
「ブオ」
「私ハ酸デ溶カシマス」
「…………マルノミ」
僕の予想より、もっと物騒だった。鬼熊の引き裂きも、破壊猪の押し潰しも、ディグリの酸も、ミックの丸呑みも、どれもひどい。凶悪すぎてクトーとチムサが引いてるよ。
「今のところ異常はないから僕の事は気にしないで、兄さん達も自由に歩くと良いよ。生まれたての森を歩くなんて、滅多にできないからね」
「……ヤート、一つ良いか?」
「何? クトー」
「ヤートは嘘つく奴じゃないのはわかってるんだが……、本当にこの森はヤートの魔法で生まれたのか? 俺から見たら普通の森なんだよな……」
「ああ、なるほど。うーん……、証明になるかわからないけど感じる事はできると思う。ちょっと静かにしてて」
「おう……」
「みんな、元気?」
僕が植物達に問いかけると、森の全ての植物達の意識が僕のへ向いた。うん、これだけはっきりした意思なら同調や界気化が使えなくても感じられるね。
「どう? 森の植物達の意思を感じた?」
「…………植物はこんなにはっきりとした意思を持ってるのか?」
「今はまだ僕の魔法の影響が残ってるからだよ。落ち着いたら他の森と同じ静かになる」
兄さん達や鬼熊と破壊猪が少し気まずげにしている中、僕は同調や界気化した魔力を放ち森の状態を探っていると、一つ気になる場所を感知したので兄さん達と四体に断りを入れて歩き出す。
気になった場所に到着し目にしたのは、樹々の根が無数に絡んで地表まで露出している光景だった。
「ヤート君、これは……?」
「前に植物達へ良い感じに広がってほしいって言ったんだけど、その時は良かった間隔が日々の急速な成長で手狭になったんだね」
「そんな事が……」
「もちろん普通の森では、そんなに起きない。たださっきも言ったみたいに、この森は成長途中だから」
僕は樹々や土中の状態を同調で調べていく。
「…………ふー、早く見つけられて良かった」
「ヤート、すぐに治せるのか?」
「治すわけじゃなくて、また森に動いてもらうだけだよ。兄さん達と四体は、もう少し僕の近くに集まって」
みんなは特に質問もしてこずに僕の指示に従ってくれたからありがたいね。さて、やるか。
「森のみんな、また良い感じに広がって。あ、できれば黄土の村とは反対の方へお願い」
僕がお願いすると植物達は動き始めた。まずは樹々達のからまった根が解けていき、根の自由を取り戻した樹々達は地表を泳ぐように移動していく。…………よしよし、それぞれが良い具合の間隔を取れてるね。あとは根の絡まりが特にひどかった樹々達の状態を確認しておくつもりだけど、その前に聞きたい事がある。僕は樹々達の様子を見ている最中の僕の身体をペタペタ触るチムサに顔を向けた。
「チムサ、僕の身体がどうかした?」
「ヤート君が森を動かせるのは身体に何か秘密があるのかと思って」
「僕の身体は欠色だから、みんなよりひ弱っていうぐらいしか変わったところはないよ。一度徹底的に自分で調べてるから間違いない」
「確かに強いっていう身体じゃないわね」
「納得したなら、そろそろ離れてくれない? さすがに気が散る」
「私は私の興味に正直なの」
「僕から離れないと怖い目に会うかもしれないよ?」
「えー、そんな事は起きな、へ?」
僕の身体を触っているチムサの両肩を後ろからリンリーとイリュキンが、それぞれつかんだ。…………二人の放っている雰囲気に四体も後ずさってるから、どれぐらいの圧なのか察してほしいね。
「チムサさん、お話があります」
「偶然だね。私もチムサに話があるんだ」
「それではいっしょにチムサさんとお話をしましょう」
「良い考えだね。ぜひ、そうしよう」
「え? ちょ、あの……」
「遠慮しなくて良いですよ」
「そうさ、話をするだけだからね。それじゃあ行こう。あ、ヤート君達は先に黄土の村に戻ってくれて構わないから」
チムサは必死に抵抗していたけど、リンリーとイリュキンに両脇を下から持ち上げられ森の奥へ引きずられていく。…………頑張れ、チムサ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
「ラカムタさん、僕に何か用?」
「ヤート……、どこに行く気だ?」
「どこって散歩だから、特に目的地はないよ。新しく生まれた森の様子を見ながら歩こうかなって思ってる。何かあったの?」
「いや、何もないぞ。ヤートが黄土の村の外へ歩き出したから気になっただけだ」
「それなら散歩に行って良い?」
「ああ、暗くなる前には戻れよ」
「うん、それじゃあ行ってきます」
…………僕が散歩って言った時の、みんなのホッとした表情は何だろ? 確認のため界気化した魔力を周りに放ってみても異常はないから、本当に僕の事が気になったんだと思う。……いや、それだけにしては妙にみんなの真剣さがすごかったな。歩きながら考えてみても結論を出せず、そのまま四体と合流した。ちょっとモヤモヤするけど、久しぶりの散歩だから楽しもう。
うん、やっぱり散歩は良いね。特に今散歩してる生まれたばかりの森は面白い。全ての植物達が生き生きしてて、少しでも成長しようと貪欲に日光と土中の栄養水分を吸収している。ここまで森の成長が速いと、大神林の規模に追いつくのも時間の問題かもね。僕はそんな事を思いながらチラッと後ろを見た。
「「「…………」」」
「「「…………」」」
なぜか兄さん・姉さん・リンリー・イリュキン・クトー・チムサが、僕と四体の散歩を少し離れた場所で見ている。ちなみにいつからと言えば、六人は森に入った辺りからずっと同じ距離を保ってついてきていた。別に姿を隠してるわけじゃないから尾行とは違うはずだけど、理由がわからない。
あれ? そういえば四体も何か変だね。散歩を始めてすぐにディグリが僕を持ち上げて鬼熊の背に下ろしたし、ミックがそんな僕の後ろに座りガッチリ僕を支えてくれる。…………もしかして? 僕は一つの結論が出たので、確かめるために強化魔法を発動させ頭上の枝に跳んで樹の天辺へ登っていく。あー……、下で兄さん達と四体が慌ててるから間違いなさそうだね。確信した僕は枝を伝いながら地面まで降りた。
「ヤート‼︎」
「何? 兄さん」
「何じゃねえ‼︎ いきなり上に跳んでどうした⁉︎ また別の異常か⁉︎」
「異常と言えば異常かな」
僕が異常と言った瞬間、兄さん達と四体は僕を中心に円陣をつくる。
「ヤート、何の異常があった⁉︎」
「兄さん達と四体が僕に対して過保護になってる事だね」
「「「「ゔっ……」」」」
「勘違いすんなよ‼︎ 俺はヤートの強さの理由が散歩にあるかもしれないと思っただけだ‼︎」
「私はヤート君を、じっくり見たかっただけよ‼︎」
兄さん・姉さん・リンリー・イリュキンは僕の予想通りか。クトーとチムサにはきちんと言っておこう。
「これはただの散歩だから特に強くなる理由はないと思うけど、気が済むまで見たら良いよ」
「助かる」
「それと僕の事を見たいなら周りに迷惑をかけないようにして」
「もちろんよ‼︎」
この二人はこれで良いか。あとは兄さん達と四体だね。
「しっかり治療して食べて寝たから、僕は大丈夫だよ?」
「ヤートの場合、まあ良いかで異常に飛び込みそうだから心配なの」
「あと、異常はお前に寄ってくるから、ヤートに近づく前にぶっ潰すつもりだ」
「ガル君と同じで異常がいたら消すつもりでした」
「私はへし折るつもりだよ」
「あ、私も殴り飛ばすわ」
…………過保護というより物騒だ。なんとなく四体の答えも予想がつくけど、一応聞こうと思い四体の方を見た。
「ガア」
「ブオ」
「私ハ酸デ溶カシマス」
「…………マルノミ」
僕の予想より、もっと物騒だった。鬼熊の引き裂きも、破壊猪の押し潰しも、ディグリの酸も、ミックの丸呑みも、どれもひどい。凶悪すぎてクトーとチムサが引いてるよ。
「今のところ異常はないから僕の事は気にしないで、兄さん達も自由に歩くと良いよ。生まれたての森を歩くなんて、滅多にできないからね」
「……ヤート、一つ良いか?」
「何? クトー」
「ヤートは嘘つく奴じゃないのはわかってるんだが……、本当にこの森はヤートの魔法で生まれたのか? 俺から見たら普通の森なんだよな……」
「ああ、なるほど。うーん……、証明になるかわからないけど感じる事はできると思う。ちょっと静かにしてて」
「おう……」
「みんな、元気?」
僕が植物達に問いかけると、森の全ての植物達の意識が僕のへ向いた。うん、これだけはっきりした意思なら同調や界気化が使えなくても感じられるね。
「どう? 森の植物達の意思を感じた?」
「…………植物はこんなにはっきりとした意思を持ってるのか?」
「今はまだ僕の魔法の影響が残ってるからだよ。落ち着いたら他の森と同じ静かになる」
兄さん達や鬼熊と破壊猪が少し気まずげにしている中、僕は同調や界気化した魔力を放ち森の状態を探っていると、一つ気になる場所を感知したので兄さん達と四体に断りを入れて歩き出す。
気になった場所に到着し目にしたのは、樹々の根が無数に絡んで地表まで露出している光景だった。
「ヤート君、これは……?」
「前に植物達へ良い感じに広がってほしいって言ったんだけど、その時は良かった間隔が日々の急速な成長で手狭になったんだね」
「そんな事が……」
「もちろん普通の森では、そんなに起きない。たださっきも言ったみたいに、この森は成長途中だから」
僕は樹々や土中の状態を同調で調べていく。
「…………ふー、早く見つけられて良かった」
「ヤート、すぐに治せるのか?」
「治すわけじゃなくて、また森に動いてもらうだけだよ。兄さん達と四体は、もう少し僕の近くに集まって」
みんなは特に質問もしてこずに僕の指示に従ってくれたからありがたいね。さて、やるか。
「森のみんな、また良い感じに広がって。あ、できれば黄土の村とは反対の方へお願い」
僕がお願いすると植物達は動き始めた。まずは樹々達のからまった根が解けていき、根の自由を取り戻した樹々達は地表を泳ぐように移動していく。…………よしよし、それぞれが良い具合の間隔を取れてるね。あとは根の絡まりが特にひどかった樹々達の状態を確認しておくつもりだけど、その前に聞きたい事がある。僕は樹々達の様子を見ている最中の僕の身体をペタペタ触るチムサに顔を向けた。
「チムサ、僕の身体がどうかした?」
「ヤート君が森を動かせるのは身体に何か秘密があるのかと思って」
「僕の身体は欠色だから、みんなよりひ弱っていうぐらいしか変わったところはないよ。一度徹底的に自分で調べてるから間違いない」
「確かに強いっていう身体じゃないわね」
「納得したなら、そろそろ離れてくれない? さすがに気が散る」
「私は私の興味に正直なの」
「僕から離れないと怖い目に会うかもしれないよ?」
「えー、そんな事は起きな、へ?」
僕の身体を触っているチムサの両肩を後ろからリンリーとイリュキンが、それぞれつかんだ。…………二人の放っている雰囲気に四体も後ずさってるから、どれぐらいの圧なのか察してほしいね。
「チムサさん、お話があります」
「偶然だね。私もチムサに話があるんだ」
「それではいっしょにチムサさんとお話をしましょう」
「良い考えだね。ぜひ、そうしよう」
「え? ちょ、あの……」
「遠慮しなくて良いですよ」
「そうさ、話をするだけだからね。それじゃあ行こう。あ、ヤート君達は先に黄土の村に戻ってくれて構わないから」
チムサは必死に抵抗していたけど、リンリーとイリュキンに両脇を下から持ち上げられ森の奥へ引きずられていく。…………頑張れ、チムサ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
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