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黄土の村にて ヘドロ+赤黒と深緑色+銀色
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久しぶりに夢の空間に来れた。…………いや、呼び込まれたという方が正確なのかもしれないという考えが、見るからに変わり果てたこの空間に身を置く僕の頭に浮かんだ。
前に来た時の空は流星が途切れる事なく降り注いでいた夜空だったのに、今は淀んだ赤黒い色の液体になっている。白く輝く果てのない地面だったのが、ヘドロの泡立つ水面へと変わっていた。僕の足もとの地面だけは弱々しくも白く光ってるからギリギリ汚染されきってないようだ。
「ギャバババババババッ‼︎」
不快な気分にしかならない笑い声が空間に響く。何がそんなにおかしいんだろ? 僕から少し離れた場所のヘドロが盛り上がり人型になっていった。
僕の足もとにもヘドロが侵食してきて、僕に触れ僕を飲み込もうと徐々にヘドロの高さが上がってくる。そんな僕を見て人型のヘドロが黒い穴が三つあるだけの顔でニチャアと嬉しそうに笑ってるね。………まあ、僕を笑う理由はわからないけど、他にはっきりとしてる事があるか。
「どう考えてもケンカを売られてるみたいだから買ってあげるよ」
「ギ?」
「緑盛魔法・世界樹の杖、純粋なる緑」
夢の世界でも僕の腰に巻かれている世界樹の杖が僕の魔法とともにその力を発揮する。深緑色の光の柱が出現して僕の足もとから迫り上がってくるヘドロや僕の頭上の赤黒い液体を消しとばした。
「ギッ⁉︎」
「何で驚いてるの? これぐらいの事は植物達に力を貸して貰えばできるし、まだまだやれる事もある」
僕は腰の小袋から種を手に取り深緑色の光を注ぎ込み次の魔法を発動させる。
「緑盛魔法・超育成・純粋なる緑を纏う聖月草」
僕の掌で聖月草が成長して花を咲かせた。すると深緑色の光に聖月草の銀色の光が混ざる。生命の緑に浄化の銀……きれいだな。
「ギギ……」
「へえ、この光がお前にとって最悪なものだってわかるんだ。もう遅いけどね」
光の範囲を僕の足もとから広げていき、地面を覆うヘドロと空を染める赤黒い液体を浄化する。空の赤黒い液体も地面のヘドロもボコボコと活発化して浄化に抵抗しようとしたけど、何の問題もなく深緑色と銀の混ざった光が勢力を広げていった。
「…………ギギ」
「反撃をされた程度で怯むなら始めからケンカを売るな」
人型のヘドロが地面を覆うヘドロに沈む。僕は界気化した魔力を放ち動きを確認する。……普通に何の迷いもなく逃げてるね。本当に何でケンカを売ってきたんだろ? …………今は他にも重要な事があるから考えるのはやめよう。僕は腰の小袋から別の種を取り出し深緑色と銀色の光を込めた後、全力で投げた。
「逃すつもりはないよ。緑盛魔法・超育成・純粋なる緑を纏う宿り木の矢」
種は形を変え矢になり突き進む。そして僕からかなり離れた場所の地面のヘドロに突き刺さり深緑と銀の光が炸裂した。
「ギ、ギャーーーー‼︎」
宿り木の矢に貫かれた人型のヘドロが地面を覆うヘドロの中から飛び出てきてのたうち回る。
「問題なく命中したと。それじゃあ宿り木にお願い。相手の力を奪い、縛って」
僕のお願いを聞いてくれた宿り木からニヤッと笑う好戦的な意思が伝わってきてその力を解き放つ。まず人型のヘドロから水気がどんどん失われ干からびていく。そしてすぐさま宿り木の矢から蔓や根が伸びていき人型のヘドロをグルグル巻きにした。
「ギ、ギ……?」
「宿り木を侵食できないのが不思議?」
「ギギッ!?」
僕が聞くと人型のヘドロは顔だけ向けて憎しみのこもった目で見てくる。笑ったり逃げたり憎んだりと反応豊かな奴だな。言葉は理解してるみたいだし一応説明しておくか。
「その宿り木は僕が聖月草の力を込めたものだから特別なんだ。元々相手の力を奪える力に加えて聖月草の浄化の性質も併せ持つ。つまり相手の力を吸収しながら相手を浄化するっていう正しくお前にとって最悪な存在だよ」
「ギギャーーーー‼︎」
「無駄だよ。そのまま何もできずに朽ち果てろ」
「ギ……、ギギ……、ギ……」
人型のヘドロは大きく叫んだ後、ボロボロと崩れていった。そう時間はかからず地面のヘドロと空の赤黒い液体も浄化できるし、ここはこれで良さそうだね。僕は深緑色と銀色の光によって元の星降る夜空と果てのない白く輝く大地に戻ったのを確認して目を閉じた。
次に目を開けると明るくなった朝の空が見えた。…………あれ? 昨日は黄土の村の建物の一つを貸してもらい、黒の僕達はその建物の中で寝たのに何で空が見えてるんだろ?
「…………そういう事か」
起き上がり周りを見回すと僕達が寝ていた建物の天井が吹き飛んでいた。どうやら寝ながら使った魔法の余波で消し飛ばしたみたいだね。あとでカイエリキサさんに謝ろう。建物を出たら黒と黄土のみんなが建物を囲んでいた。僕はカイエリキサさんのもとへ歩いていく。
「カイエリキサさん、おはようございます。それと建物を壊してしまいました。すみません」
「…………ヤート殿、おはようございます。早速で申し訳ないのですが、ヤート殿の身に何があったのか聞かせてもらえますか?」
「夢の中でケンカを売られたので戦ってました」
「それではヤート殿の身体から発せられた強烈な波動というのは……?」
「僕のというよりは、僕の腰に巻き付いている世界樹の杖からものです」
「そうですか……」
カイエリキサさんを始めとした黄土のみんなは、どう反応して良いかわからないっていう感じだね。だけど、すでにラカムタさん達は戦闘状態なっていた。
「ヤート、その夢の中で戦った奴はどうなった?」
「夢の中にいた奴は倒した。本体は近くにいるよ」
「何?」
「見た方が早いから行こう」
「お、おい……」
みんなの間を抜けて門まで歩き村の外に出ると、ラカムタさん達と同じく戦闘状態になっている三体に迎えられる。
「鬼熊、破壊猪、ディグリ、おはよう。お前らも感じた?」
「ガア」
「ブオ」
「ハイ」
「それじゃあ行こう」
しばらく歩き新しく生まれた森を進んでいると、みんなの雰囲気がピリピリと張り詰めてきた。まあ、これだけ気持ち悪い気配を感じるようになったら当然だよね。そしてさらに歩き森を抜けた時、そいつが見えた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
前に来た時の空は流星が途切れる事なく降り注いでいた夜空だったのに、今は淀んだ赤黒い色の液体になっている。白く輝く果てのない地面だったのが、ヘドロの泡立つ水面へと変わっていた。僕の足もとの地面だけは弱々しくも白く光ってるからギリギリ汚染されきってないようだ。
「ギャバババババババッ‼︎」
不快な気分にしかならない笑い声が空間に響く。何がそんなにおかしいんだろ? 僕から少し離れた場所のヘドロが盛り上がり人型になっていった。
僕の足もとにもヘドロが侵食してきて、僕に触れ僕を飲み込もうと徐々にヘドロの高さが上がってくる。そんな僕を見て人型のヘドロが黒い穴が三つあるだけの顔でニチャアと嬉しそうに笑ってるね。………まあ、僕を笑う理由はわからないけど、他にはっきりとしてる事があるか。
「どう考えてもケンカを売られてるみたいだから買ってあげるよ」
「ギ?」
「緑盛魔法・世界樹の杖、純粋なる緑」
夢の世界でも僕の腰に巻かれている世界樹の杖が僕の魔法とともにその力を発揮する。深緑色の光の柱が出現して僕の足もとから迫り上がってくるヘドロや僕の頭上の赤黒い液体を消しとばした。
「ギッ⁉︎」
「何で驚いてるの? これぐらいの事は植物達に力を貸して貰えばできるし、まだまだやれる事もある」
僕は腰の小袋から種を手に取り深緑色の光を注ぎ込み次の魔法を発動させる。
「緑盛魔法・超育成・純粋なる緑を纏う聖月草」
僕の掌で聖月草が成長して花を咲かせた。すると深緑色の光に聖月草の銀色の光が混ざる。生命の緑に浄化の銀……きれいだな。
「ギギ……」
「へえ、この光がお前にとって最悪なものだってわかるんだ。もう遅いけどね」
光の範囲を僕の足もとから広げていき、地面を覆うヘドロと空を染める赤黒い液体を浄化する。空の赤黒い液体も地面のヘドロもボコボコと活発化して浄化に抵抗しようとしたけど、何の問題もなく深緑色と銀の混ざった光が勢力を広げていった。
「…………ギギ」
「反撃をされた程度で怯むなら始めからケンカを売るな」
人型のヘドロが地面を覆うヘドロに沈む。僕は界気化した魔力を放ち動きを確認する。……普通に何の迷いもなく逃げてるね。本当に何でケンカを売ってきたんだろ? …………今は他にも重要な事があるから考えるのはやめよう。僕は腰の小袋から別の種を取り出し深緑色と銀色の光を込めた後、全力で投げた。
「逃すつもりはないよ。緑盛魔法・超育成・純粋なる緑を纏う宿り木の矢」
種は形を変え矢になり突き進む。そして僕からかなり離れた場所の地面のヘドロに突き刺さり深緑と銀の光が炸裂した。
「ギ、ギャーーーー‼︎」
宿り木の矢に貫かれた人型のヘドロが地面を覆うヘドロの中から飛び出てきてのたうち回る。
「問題なく命中したと。それじゃあ宿り木にお願い。相手の力を奪い、縛って」
僕のお願いを聞いてくれた宿り木からニヤッと笑う好戦的な意思が伝わってきてその力を解き放つ。まず人型のヘドロから水気がどんどん失われ干からびていく。そしてすぐさま宿り木の矢から蔓や根が伸びていき人型のヘドロをグルグル巻きにした。
「ギ、ギ……?」
「宿り木を侵食できないのが不思議?」
「ギギッ!?」
僕が聞くと人型のヘドロは顔だけ向けて憎しみのこもった目で見てくる。笑ったり逃げたり憎んだりと反応豊かな奴だな。言葉は理解してるみたいだし一応説明しておくか。
「その宿り木は僕が聖月草の力を込めたものだから特別なんだ。元々相手の力を奪える力に加えて聖月草の浄化の性質も併せ持つ。つまり相手の力を吸収しながら相手を浄化するっていう正しくお前にとって最悪な存在だよ」
「ギギャーーーー‼︎」
「無駄だよ。そのまま何もできずに朽ち果てろ」
「ギ……、ギギ……、ギ……」
人型のヘドロは大きく叫んだ後、ボロボロと崩れていった。そう時間はかからず地面のヘドロと空の赤黒い液体も浄化できるし、ここはこれで良さそうだね。僕は深緑色と銀色の光によって元の星降る夜空と果てのない白く輝く大地に戻ったのを確認して目を閉じた。
次に目を開けると明るくなった朝の空が見えた。…………あれ? 昨日は黄土の村の建物の一つを貸してもらい、黒の僕達はその建物の中で寝たのに何で空が見えてるんだろ?
「…………そういう事か」
起き上がり周りを見回すと僕達が寝ていた建物の天井が吹き飛んでいた。どうやら寝ながら使った魔法の余波で消し飛ばしたみたいだね。あとでカイエリキサさんに謝ろう。建物を出たら黒と黄土のみんなが建物を囲んでいた。僕はカイエリキサさんのもとへ歩いていく。
「カイエリキサさん、おはようございます。それと建物を壊してしまいました。すみません」
「…………ヤート殿、おはようございます。早速で申し訳ないのですが、ヤート殿の身に何があったのか聞かせてもらえますか?」
「夢の中でケンカを売られたので戦ってました」
「それではヤート殿の身体から発せられた強烈な波動というのは……?」
「僕のというよりは、僕の腰に巻き付いている世界樹の杖からものです」
「そうですか……」
カイエリキサさんを始めとした黄土のみんなは、どう反応して良いかわからないっていう感じだね。だけど、すでにラカムタさん達は戦闘状態なっていた。
「ヤート、その夢の中で戦った奴はどうなった?」
「夢の中にいた奴は倒した。本体は近くにいるよ」
「何?」
「見た方が早いから行こう」
「お、おい……」
みんなの間を抜けて門まで歩き村の外に出ると、ラカムタさん達と同じく戦闘状態になっている三体に迎えられる。
「鬼熊、破壊猪、ディグリ、おはよう。お前らも感じた?」
「ガア」
「ブオ」
「ハイ」
「それじゃあ行こう」
しばらく歩き新しく生まれた森を進んでいると、みんなの雰囲気がピリピリと張り詰めてきた。まあ、これだけ気持ち悪い気配を感じるようになったら当然だよね。そしてさらに歩き森を抜けた時、そいつが見えた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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