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異常を見つけ出す旅にて 実と新たな森
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僕は純粋なる緑の光線と同時に準備していた魔法を実行するため目を閉じ深く深く集中していく。もう一度、必要な条件を再確認していこう。
解決するべき課題は、泥人形達の材料となっている汚染された地面をどうするかだね。一番手っ取り早いのは汚染された地面を除去する事だけど、泥人形達が大霊穴から来た事を考えると選択肢から除去は外すべきだと思う。なぜなら現状だと大霊穴がどこまで侵食されるかがはっきりとわかっておらず、不用意に全てを除去すると最悪大霊穴の崩壊を招きかねない。そうかと言って部分的に除去するのも効率が悪いし、また汚染が広がる可能性を残すのも違う。可能性を残すという意味では汚染された地面を結界で包むとかで封印するというのもダメだね。
つまり、やるなら一気に、そして周りの地形に影響を与えないようにだ。自分の目的を明確に描き出した僕は目を開けて魔法を唱えるし。さあ、嫌な現実を塗り替えよう。
「緑よ。緑よ。繋がりをここに」
頭の中に今まで見た大神林の植物達を思い浮かべる。すると、大神林の植物達の意識が僕に向いているのに気づく。大神林から離れてもなお植物達は僕の事を考えてくれる。本当に心の底から何度も思ったけど、何で植物達は僕を気にかけてくれるんだろ? …………いつか大神林の奥にいる世界樹に聞いてみれば良いか。
「緑よ。緑よ。力をここに」
大神林から膨大な緑の魔力が世界樹の杖に流れ込んでくる。…………うん、すごく大きいけどやさしいな。嫌な気配や泥人形達に感じたものとは正反対だ。
「緑よ。緑よ。実をここに」
僕の望みを汲み取ってくれた植物達の魔力が世界樹の杖の枝先に集まり結実していく様は、まさに命の結晶ができていくという感じで、これだけのものなら逆に浄化できないものを探す方は難しいね。
集中を解き目を開けると世界樹の杖の枝先に鮮やかな深緑色の光を放つ前世でいうリンゴに似た実が一つなっていた。僕が世界樹の杖から手を離し実へと伸ばすと、実の方から僕の掌に落ちてくる。大きさは僕の両掌に納まるくらいだけど、同調や界気化した魔力を放つまでもなく実の内側に莫大な魔力がゆっくりと渦巻いているのがわかった。
「ヤ、ヤート……」
「うん?」
呼びかけられてラカムタさんの方を見たら、ラカムタさんが僕の掌にある実を凝視しながら微かに震えていた。…………様子がおかしいのはラカムタさんだけじゃないな。父さんや狩人達は顔が引きつっていて、兄さん達は少しずつ離れてる。三体は三体で実を全力で警戒してるし、黄土の三人は呆然としたまま動かない。
「……みんな、どうしたの?」
「どうしたも何も、ヤートが手にしている馬鹿げた魔力を感じるものは何なんだ⁉︎」
「これ? これは大神林の植物達から魔力を分けてもらって作ったもので、これから発動させる魔法の触媒」
「それほどのものを使う魔法……、大丈夫なのか? 前に大神林の一部を吹き飛ばした時のような事は起きないだろうな?」
ラカムタさんの発言を聞いて、黄土の三人はビクッと身体を緊張させた後に僕から離れていく。
「ラカムタさん、大神林の一部を吹き飛ばしたのは僕だけが原因じゃないよ」
「まあ、そうなんだが……、いや、それは良い。とにかく大規模な破壊はないんだな?」
「あの時以上の事はやろうと思えばできるけど、今はやらない。ちゃんと大霊穴にできるだけ影響を与えないように考えたから、この魔法を選んだ」
「……そうか」
「うん、だから行ってくるね」
「お、おい……」
「あとは発動させるだけだから、気にしないで」
僕は掌に実を乗せたまま歩き出す。もちろん目的地は泥人形達の材料となっている汚染された地面。…………臭い。もともと離れていても精神的にも気持ち悪かったけど、近づく事で泥人形達に汚染された地面からひどい臭いを感じた。こいつら本当に最悪だ。でも、あと少しの我慢だと思いながら数歩分まで近づく。
ゴボンッ‼︎
そばまで来たせいか、泥人形達を生み出しつつあった汚染された地面が大きく波打ち僕を飲み込もうとしてきた。後ろから僕の名前を呼ぶみんなの声が聞こえてくるけど、それには返答せず掌にのっている実に向けて意思を伝える。
「お願い。力を貸して」
僕が言い終わると実が深緑色に強く発光した。当然、僕を包もうとしていた汚染された地面は光を浴びて端からサラサラと崩れていく。確認のため身体にかかったもの手に取り同調したら間違いなく普通の土だった。僕は想定通り浄化できるとわかったから準備していた魔法を発動させる。
「緑盛魔法・純粋なる緑の祓い」
実が深緑色に強く発光したまま僕の掌から浮いた。そして汚染された地面へと高速で飛んでいく。汚染された地面も輝く実を脅威と見たのか、端を伸ばし押しつぶそうとしたり串刺しにしようとしたが、さっきと同じで至近距離で実の光を浴びた部分から浄化され砂となる。さらに実は飛び続け、とうとう汚染された地面そのものに到達して汚染された地面の中へ沈んだ。
そして次の瞬間、輝く実が沈んだ場所を起点に汚染された地面が深緑色に光った。…………予想より強烈な光で目がチカチカする。ラカムタさん達は大丈夫かな? まあ、あとで謝れば良いか。僕は気を取り直して汚染された地面に目を向けると、そこはごく普通の平原に戻っていた。うん、地中からの浄化が上手くいったみたいだね。
その証拠に汚染された地面から戻った平原のあちこちで、平原の地表を覆っていた植物達が歓喜の意思を放ちながら急速に成長・繁殖した。そして丈の低い植物達が落ち着くと、今度は樹々が天を突く勢いで成長していった。もし今、上空で一連の出来事を見た存在がいたら、僕達と大霊穴の間にあった汚染された地面が、ごく短時間で緑色に変わって驚いたかもね。
僕は汚染された地面の問題が解決したためラカムタさん達のところへ戻ろうと振り向いたら、すでにラカムタさん達がいた。そしてラカムタさんが森になった元平原を指差して叫ぶ。
「ヤート‼︎ いったい何をしたんだ⁉︎」
「何って、泥人形達を生み出してた汚染された地面を浄化しただけだよ」
「それなら何で、いきなり平原が森になる⁉︎」
「原因は僕が大神林の植物達に力を貸してもらって作った実のせいだね」
「だから、どうしっ」
ラカムタさんが荒ぶり混乱しそうになった時、父さんがラカムタさんの肩に腕を回して押さえ込んだ。そして静かに聞いてくる。
「ヤート、一通り説明してくれるか?」
「わかった」
僕は汚染された地面の対応策として浄化を選んだ事、その浄化を実行するために大神林の植物達に力を借りた事、大神林の植物達の魔力の結晶である深緑色に輝く実が汚染された地面を地中から浄化した事、浄化は僕達のいる平原から大霊穴まで一気におこなった事、そして浸透した莫大な大神林の植物達の魔力を受けて平原の植物達が急激に成長・繁殖した事を全部説明した。……説明が進むごとにラカムタさん達の顔が引きつっていくのは何で? 特に黄土の三人が僕を見る目が変だ。
「バカな……。個人の魔法で、これほど大規模な変化を起こせるはずが……」
「僕の説明を聞いてた? 僕の魔法は単なるきっかけで、大神林の植物達が力を貸してくれたからできた事だよ」
「「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」」
ラカムタさん達は驚いた表情のまま動かなくなった。まあ、少し休みたいし、みんなが落ち着くまで待てば良いか。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
解決するべき課題は、泥人形達の材料となっている汚染された地面をどうするかだね。一番手っ取り早いのは汚染された地面を除去する事だけど、泥人形達が大霊穴から来た事を考えると選択肢から除去は外すべきだと思う。なぜなら現状だと大霊穴がどこまで侵食されるかがはっきりとわかっておらず、不用意に全てを除去すると最悪大霊穴の崩壊を招きかねない。そうかと言って部分的に除去するのも効率が悪いし、また汚染が広がる可能性を残すのも違う。可能性を残すという意味では汚染された地面を結界で包むとかで封印するというのもダメだね。
つまり、やるなら一気に、そして周りの地形に影響を与えないようにだ。自分の目的を明確に描き出した僕は目を開けて魔法を唱えるし。さあ、嫌な現実を塗り替えよう。
「緑よ。緑よ。繋がりをここに」
頭の中に今まで見た大神林の植物達を思い浮かべる。すると、大神林の植物達の意識が僕に向いているのに気づく。大神林から離れてもなお植物達は僕の事を考えてくれる。本当に心の底から何度も思ったけど、何で植物達は僕を気にかけてくれるんだろ? …………いつか大神林の奥にいる世界樹に聞いてみれば良いか。
「緑よ。緑よ。力をここに」
大神林から膨大な緑の魔力が世界樹の杖に流れ込んでくる。…………うん、すごく大きいけどやさしいな。嫌な気配や泥人形達に感じたものとは正反対だ。
「緑よ。緑よ。実をここに」
僕の望みを汲み取ってくれた植物達の魔力が世界樹の杖の枝先に集まり結実していく様は、まさに命の結晶ができていくという感じで、これだけのものなら逆に浄化できないものを探す方は難しいね。
集中を解き目を開けると世界樹の杖の枝先に鮮やかな深緑色の光を放つ前世でいうリンゴに似た実が一つなっていた。僕が世界樹の杖から手を離し実へと伸ばすと、実の方から僕の掌に落ちてくる。大きさは僕の両掌に納まるくらいだけど、同調や界気化した魔力を放つまでもなく実の内側に莫大な魔力がゆっくりと渦巻いているのがわかった。
「ヤ、ヤート……」
「うん?」
呼びかけられてラカムタさんの方を見たら、ラカムタさんが僕の掌にある実を凝視しながら微かに震えていた。…………様子がおかしいのはラカムタさんだけじゃないな。父さんや狩人達は顔が引きつっていて、兄さん達は少しずつ離れてる。三体は三体で実を全力で警戒してるし、黄土の三人は呆然としたまま動かない。
「……みんな、どうしたの?」
「どうしたも何も、ヤートが手にしている馬鹿げた魔力を感じるものは何なんだ⁉︎」
「これ? これは大神林の植物達から魔力を分けてもらって作ったもので、これから発動させる魔法の触媒」
「それほどのものを使う魔法……、大丈夫なのか? 前に大神林の一部を吹き飛ばした時のような事は起きないだろうな?」
ラカムタさんの発言を聞いて、黄土の三人はビクッと身体を緊張させた後に僕から離れていく。
「ラカムタさん、大神林の一部を吹き飛ばしたのは僕だけが原因じゃないよ」
「まあ、そうなんだが……、いや、それは良い。とにかく大規模な破壊はないんだな?」
「あの時以上の事はやろうと思えばできるけど、今はやらない。ちゃんと大霊穴にできるだけ影響を与えないように考えたから、この魔法を選んだ」
「……そうか」
「うん、だから行ってくるね」
「お、おい……」
「あとは発動させるだけだから、気にしないで」
僕は掌に実を乗せたまま歩き出す。もちろん目的地は泥人形達の材料となっている汚染された地面。…………臭い。もともと離れていても精神的にも気持ち悪かったけど、近づく事で泥人形達に汚染された地面からひどい臭いを感じた。こいつら本当に最悪だ。でも、あと少しの我慢だと思いながら数歩分まで近づく。
ゴボンッ‼︎
そばまで来たせいか、泥人形達を生み出しつつあった汚染された地面が大きく波打ち僕を飲み込もうとしてきた。後ろから僕の名前を呼ぶみんなの声が聞こえてくるけど、それには返答せず掌にのっている実に向けて意思を伝える。
「お願い。力を貸して」
僕が言い終わると実が深緑色に強く発光した。当然、僕を包もうとしていた汚染された地面は光を浴びて端からサラサラと崩れていく。確認のため身体にかかったもの手に取り同調したら間違いなく普通の土だった。僕は想定通り浄化できるとわかったから準備していた魔法を発動させる。
「緑盛魔法・純粋なる緑の祓い」
実が深緑色に強く発光したまま僕の掌から浮いた。そして汚染された地面へと高速で飛んでいく。汚染された地面も輝く実を脅威と見たのか、端を伸ばし押しつぶそうとしたり串刺しにしようとしたが、さっきと同じで至近距離で実の光を浴びた部分から浄化され砂となる。さらに実は飛び続け、とうとう汚染された地面そのものに到達して汚染された地面の中へ沈んだ。
そして次の瞬間、輝く実が沈んだ場所を起点に汚染された地面が深緑色に光った。…………予想より強烈な光で目がチカチカする。ラカムタさん達は大丈夫かな? まあ、あとで謝れば良いか。僕は気を取り直して汚染された地面に目を向けると、そこはごく普通の平原に戻っていた。うん、地中からの浄化が上手くいったみたいだね。
その証拠に汚染された地面から戻った平原のあちこちで、平原の地表を覆っていた植物達が歓喜の意思を放ちながら急速に成長・繁殖した。そして丈の低い植物達が落ち着くと、今度は樹々が天を突く勢いで成長していった。もし今、上空で一連の出来事を見た存在がいたら、僕達と大霊穴の間にあった汚染された地面が、ごく短時間で緑色に変わって驚いたかもね。
僕は汚染された地面の問題が解決したためラカムタさん達のところへ戻ろうと振り向いたら、すでにラカムタさん達がいた。そしてラカムタさんが森になった元平原を指差して叫ぶ。
「ヤート‼︎ いったい何をしたんだ⁉︎」
「何って、泥人形達を生み出してた汚染された地面を浄化しただけだよ」
「それなら何で、いきなり平原が森になる⁉︎」
「原因は僕が大神林の植物達に力を貸してもらって作った実のせいだね」
「だから、どうしっ」
ラカムタさんが荒ぶり混乱しそうになった時、父さんがラカムタさんの肩に腕を回して押さえ込んだ。そして静かに聞いてくる。
「ヤート、一通り説明してくれるか?」
「わかった」
僕は汚染された地面の対応策として浄化を選んだ事、その浄化を実行するために大神林の植物達に力を借りた事、大神林の植物達の魔力の結晶である深緑色に輝く実が汚染された地面を地中から浄化した事、浄化は僕達のいる平原から大霊穴まで一気におこなった事、そして浸透した莫大な大神林の植物達の魔力を受けて平原の植物達が急激に成長・繁殖した事を全部説明した。……説明が進むごとにラカムタさん達の顔が引きつっていくのは何で? 特に黄土の三人が僕を見る目が変だ。
「バカな……。個人の魔法で、これほど大規模な変化を起こせるはずが……」
「僕の説明を聞いてた? 僕の魔法は単なるきっかけで、大神林の植物達が力を貸してくれたからできた事だよ」
「「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」」
ラカムタさん達は驚いた表情のまま動かなくなった。まあ、少し休みたいし、みんなが落ち着くまで待てば良いか。
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◎後書き
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