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幕間にて 黒の少年の内心と変化
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◎前書き
黒のポポ視点です。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
いつの間にか差ができていた。今思い返すと差がつき始めていたのは、ヤートと共に青の村に行くものを選抜した時の勝ち抜き戦の頃だろう。その前までは狩りもどきでもケンカでもガルやマイネと互角だったのが、勝ち抜き戦でははっきりと負けた。
村を旅立つヤート達を見送った後に残ったのは、焦りと悔しさ。俺は絶対に強くなると心に決め、ロロ達に呼びかける。
「鍛えたいから相手になってくれ」
どうやらロロ達も俺と同じ気持ちだったようで、すぐに広場で乱戦を始めた。広場で戦って、食べて、休んで、また戦う。食べる時と休む時と寝る時以外は、全部広場で戦う。
あまりに俺達が乱戦に没頭しているのを心配して村長や大人達が止めるように言ってきたけど、俺達がガルとマイネに負けた悔しさ、昔は同じくらいだったのに今は差がついている焦り、絶対に強くなりたいという思いを話した。すると村長達は、何か懐かしいものを見るみたいな目を俺達に向けてくる。
「お前達の思いはよくわかった。そういう事なら好きなだけ己を鍛えてみよ。ただし、鍛錬の結果身体が壊れたら意味を無さん。しっかりと留意しておくんじゃぞ」
村長から乱戦を続けて良いと許可をもらえ、俺達はより乱戦に没頭した。
こうして俺達が乱戦を続けていたら、ある日ヤート達が帰ってきた。乱戦の成果を見せようとガル達と戦ったが負けてしまう。当然悔しさはあるが、それ以上にヤートが気になった。ヤートは青の村で鍛錬して、相手の考えや記憶を読めるようになったらしい。
「勝負ありだね」
五対一で模擬戦をして、最後に残った俺の後頭部を触りながらヤートは冷静に告げる。殴りかかっても、蹴っても、つかもうとしても全て避けられた。しかも避けるだけじゃなく、少しでも俺達の気がそれたり呆けたら的確に体勢を崩してくる。
ヤート自身は考えを読みながら戦う事をズルじゃないかと気にしていたが、俺達にとっては新たな刺激だ。ヤートが帰ってきてから何度も挑戦しているのに一度も勝てないのは悔しいけど、今まで知らなかった戦い方を体験できるのは素直に嬉しい。
それにしてもヤートは、どうしてここまで無自覚なんだ? 何で自分が注目されていると思わない? 俺達と同じで大人達もお前と戦いたがっている事に気付け。お前の戦い方をジッと見ているみんなに気付け。いくらマルディさんの頼みで大人達がヤートへの挑戦を控えているのと、ヤート自身が周りの考えを読みすぎないようにしているとはいえ鈍感にもほどがあるぞ。
そんな風に俺が考えていたら、ガルを背負ったマルディさんとマイネを抱えているエステアさんとラカムタさんがやってきた。ヤートとエステアさんの話を横から聞いていると、どうやらガルとマイネはエステアさんと戦ったらしい。それにエステアさんの喜び方から、二人はエステアさんを満足させる今の実力をきっちり出し切った事がわかる。…………クソッ、数日で埋められる差じゃないってわかってたはずなのに焦りが強くなる。
俺が内心で唇を噛んでると、ヤートはラカムタさんに戦えるかと聞かれてやれると答えた。……ついさっきまで俺を含めた五人と戦ってたのに、すぐにラカムタさんとやれるという事はヤートは俺達との模擬戦の疲れはないって事か。身体能力と人数の差を覆すヤートを見て、このまま負けて終わってたまるかと改めて心に決めた。
ヤートとマルディさんの模擬戦は、マルディさんの戦い方も、ヤートの不利な状況でも慌てない冷静さも初めて目にして驚きの連続だった。そして何より驚いたのは、ヤートが強化魔法を発動させた後の動きだ。あの速さは何だ? どうしてあの速さが出せる? ヤートは欠色で身体も魔力も弱いはずなのに……。
「ヤートめ、また無茶をしやがって……」
俺も俺の周りもざわついてるな中、ラカムタさんのつぶやきが耳に入る。すぐにラカムタさんのつぶやきの意味を聞こうとしたけど周りがどよめいたから意識をヤート達に向けると、マルディさんがヤートの後ろに回り込んだ時にはヤートが振り向きマルディさんと対面するというのが何度も繰り返されていた。…………ヤートが、大人のマルディさんと同等の動きをしている? 何で、そんな事が……? 周りのみんなも話し合ってるけど答えは出ない。いったいヤートは何をしてるんだ……?
バタンッ‼︎
大きな音がしてハッと気づいたらヤートは地面に倒れていた。突然の事態に緊張感が高まったものの、マルディさんが近寄り声をかけるとヤートは顔を上げる。チラッと見えたヤートの顔は鼻血と土で汚れて痛々しい。すぐにエステアさんやラカムタさんが急いで駆け寄った。
ラカムタさんからヤートが倒れた理由を聞かされる。そうか、あのヤートの動きは現状で難しい事をやっていたからなのか。……強化魔法を集中させるっていうのは考えた事も無かったな。周りのみんなも感心していると、ヤートが不思議そうに聞いてきた。
「鍛錬とか模擬戦で自分の限界を出せない人が、実戦で限界を出せるの?」
誰もヤートの疑問に答えられなかった。すぐにヤートは気にしないでと言ってきたけど、ヤートの疑問は俺を揺さぶって消えない。…………俺は今まで限界を出した事があったのか? いや、それよりヤートみたいに強くなるため何かを改良したり試した事はあったか?
…………ああ、何だ。こんな簡単な事が俺はわからなかったのか。格上と戦おうとしない俺が、今の自分の限界を出せない俺が強くなれるはずなかったな。……よし。よしよしっ‼︎ 焦りは消えた。やるべき事も見えた。俺は戦意がみなぎる自分に笑いつつ、近くの大人に模擬戦を申し込む。あ、ロロ達も他の大人達に挑んでるな。負けねえぞ。強くなるのは俺だ‼︎
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
黒のポポ視点です。
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いつの間にか差ができていた。今思い返すと差がつき始めていたのは、ヤートと共に青の村に行くものを選抜した時の勝ち抜き戦の頃だろう。その前までは狩りもどきでもケンカでもガルやマイネと互角だったのが、勝ち抜き戦でははっきりと負けた。
村を旅立つヤート達を見送った後に残ったのは、焦りと悔しさ。俺は絶対に強くなると心に決め、ロロ達に呼びかける。
「鍛えたいから相手になってくれ」
どうやらロロ達も俺と同じ気持ちだったようで、すぐに広場で乱戦を始めた。広場で戦って、食べて、休んで、また戦う。食べる時と休む時と寝る時以外は、全部広場で戦う。
あまりに俺達が乱戦に没頭しているのを心配して村長や大人達が止めるように言ってきたけど、俺達がガルとマイネに負けた悔しさ、昔は同じくらいだったのに今は差がついている焦り、絶対に強くなりたいという思いを話した。すると村長達は、何か懐かしいものを見るみたいな目を俺達に向けてくる。
「お前達の思いはよくわかった。そういう事なら好きなだけ己を鍛えてみよ。ただし、鍛錬の結果身体が壊れたら意味を無さん。しっかりと留意しておくんじゃぞ」
村長から乱戦を続けて良いと許可をもらえ、俺達はより乱戦に没頭した。
こうして俺達が乱戦を続けていたら、ある日ヤート達が帰ってきた。乱戦の成果を見せようとガル達と戦ったが負けてしまう。当然悔しさはあるが、それ以上にヤートが気になった。ヤートは青の村で鍛錬して、相手の考えや記憶を読めるようになったらしい。
「勝負ありだね」
五対一で模擬戦をして、最後に残った俺の後頭部を触りながらヤートは冷静に告げる。殴りかかっても、蹴っても、つかもうとしても全て避けられた。しかも避けるだけじゃなく、少しでも俺達の気がそれたり呆けたら的確に体勢を崩してくる。
ヤート自身は考えを読みながら戦う事をズルじゃないかと気にしていたが、俺達にとっては新たな刺激だ。ヤートが帰ってきてから何度も挑戦しているのに一度も勝てないのは悔しいけど、今まで知らなかった戦い方を体験できるのは素直に嬉しい。
それにしてもヤートは、どうしてここまで無自覚なんだ? 何で自分が注目されていると思わない? 俺達と同じで大人達もお前と戦いたがっている事に気付け。お前の戦い方をジッと見ているみんなに気付け。いくらマルディさんの頼みで大人達がヤートへの挑戦を控えているのと、ヤート自身が周りの考えを読みすぎないようにしているとはいえ鈍感にもほどがあるぞ。
そんな風に俺が考えていたら、ガルを背負ったマルディさんとマイネを抱えているエステアさんとラカムタさんがやってきた。ヤートとエステアさんの話を横から聞いていると、どうやらガルとマイネはエステアさんと戦ったらしい。それにエステアさんの喜び方から、二人はエステアさんを満足させる今の実力をきっちり出し切った事がわかる。…………クソッ、数日で埋められる差じゃないってわかってたはずなのに焦りが強くなる。
俺が内心で唇を噛んでると、ヤートはラカムタさんに戦えるかと聞かれてやれると答えた。……ついさっきまで俺を含めた五人と戦ってたのに、すぐにラカムタさんとやれるという事はヤートは俺達との模擬戦の疲れはないって事か。身体能力と人数の差を覆すヤートを見て、このまま負けて終わってたまるかと改めて心に決めた。
ヤートとマルディさんの模擬戦は、マルディさんの戦い方も、ヤートの不利な状況でも慌てない冷静さも初めて目にして驚きの連続だった。そして何より驚いたのは、ヤートが強化魔法を発動させた後の動きだ。あの速さは何だ? どうしてあの速さが出せる? ヤートは欠色で身体も魔力も弱いはずなのに……。
「ヤートめ、また無茶をしやがって……」
俺も俺の周りもざわついてるな中、ラカムタさんのつぶやきが耳に入る。すぐにラカムタさんのつぶやきの意味を聞こうとしたけど周りがどよめいたから意識をヤート達に向けると、マルディさんがヤートの後ろに回り込んだ時にはヤートが振り向きマルディさんと対面するというのが何度も繰り返されていた。…………ヤートが、大人のマルディさんと同等の動きをしている? 何で、そんな事が……? 周りのみんなも話し合ってるけど答えは出ない。いったいヤートは何をしてるんだ……?
バタンッ‼︎
大きな音がしてハッと気づいたらヤートは地面に倒れていた。突然の事態に緊張感が高まったものの、マルディさんが近寄り声をかけるとヤートは顔を上げる。チラッと見えたヤートの顔は鼻血と土で汚れて痛々しい。すぐにエステアさんやラカムタさんが急いで駆け寄った。
ラカムタさんからヤートが倒れた理由を聞かされる。そうか、あのヤートの動きは現状で難しい事をやっていたからなのか。……強化魔法を集中させるっていうのは考えた事も無かったな。周りのみんなも感心していると、ヤートが不思議そうに聞いてきた。
「鍛錬とか模擬戦で自分の限界を出せない人が、実戦で限界を出せるの?」
誰もヤートの疑問に答えられなかった。すぐにヤートは気にしないでと言ってきたけど、ヤートの疑問は俺を揺さぶって消えない。…………俺は今まで限界を出した事があったのか? いや、それよりヤートみたいに強くなるため何かを改良したり試した事はあったか?
…………ああ、何だ。こんな簡単な事が俺はわからなかったのか。格上と戦おうとしない俺が、今の自分の限界を出せない俺が強くなれるはずなかったな。……よし。よしよしっ‼︎ 焦りは消えた。やるべき事も見えた。俺は戦意がみなぎる自分に笑いつつ、近くの大人に模擬戦を申し込む。あ、ロロ達も他の大人達に挑んでるな。負けねえぞ。強くなるのは俺だ‼︎
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