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青の村にて 充実した手合わせと良い一日

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 僕は兄さんと姉さんに近づいていく。二人の様子を見る限り気合十分で、なんというか最初より振り切れてる感じがした。ハインネルフさん、タキタさん、リンリー、イリュキンに話を聞いてもらい意見をもらえたのが、よっぽどためになったみたいだね。一方の僕はというと不確定な事が多くて、どうしたものかなっていう感じだ。

 まず問題なのは、イーリリスさんから勧められた「さばく」や「そらす」と呼ばれる技術の習得難易度の高い事だ。イーリリスさんがラカムタさん相手に使っているのを見せてもらったけど、なんで一回も練習をせずにそのままぶっつけ本番に臨まなきゃいけないのかは心底疑問だよ。

 それに今の僕は相手の事を探るための界気化かいきかした魔力を、両掌からしか放てないのもまずい。接近戦になったら常に掌を相手に向けれるわけじゃないし、やっぱり何かしらの対策なり変化が必要か。……よし、試してみよう。

「ふう……」

 僕は兄さんと姉さんの方へ歩きながら目を閉じ、深呼吸をして気持ちを落ち着ける。次に意図的に全身から出る魔力量を増やし、最後に全ての魔力を界気化かいきかした。

「ウブッ」
「ヤート⁉︎」
「どうしたの⁉︎」

 感じる情報量が急激に増えて気持ち悪くなり、僕は界気化かいきかを解除して魔力を鎮めると、急いで広場の隅に走っていき吐く。後ろから兄さんと姉さんが走ってくる音が聞こえたけど、とりあえず吐き切る事を優先する。



 少しして落ち着いたので水生魔法ワータの水でうがいをしてから浄化苔ダーティーイーターに僕の吐いたものを分解してもらう。

「……はあ、これは慣れるまで大変だな」
「ヤート、説明しろ」
「いきなり吐くなんて、何があったの?」
「それに何でラカムタのおっさんやリンリーは、ヤートが突然吐いたのに慌ててないんだ?」
「ああ、そうか。兄さんと姉さんは知らないんだっけ」

 僕は界気化かいきかを習得するまでを簡単に説明して、僕が前にも吐いてる事を二人に話した。

「「…………」」
浄化苔ダーティーイーター、綺麗にしてくれてありがとう。それと兄さん、姉さん、手合わせ中断してごめん。落ち着いたから仕切り直させて」
「……大丈夫なのか?」
「うん、特に問題ないから行こう」
「ヤートが良いなら構わないけど……」



 改めて二人と広場の中央辺りで向かい合う。僕はさっきの失敗を踏まえ、まずは身体から出る魔力量を増やさずに素の状態で魔力を界気化かいきかした。……うん、これなら皮膚からごく近い距離に限定された情報量だから気持ち悪くならずに済む。次に魔力の界気化かいきかを保ったまま、少しずつ魔力の放出量を増やして今の僕の限界を探る。

「……これくらいか。兄さん、姉さん、おまたせ。準備が整ったよ」
「本当に良いのか?」
「うん」
「それじゃあ、いくわよ‼︎」

 姉さんが一瞬で僕の懐に飛び込んできて構えていた。なるほど顎を狙った右の突き上げか。僕は姉さんの腕が動き出す前に姉さんの左側に踏み込み、右の突き上げを出しても当たらない位置に移動する。

 すぐに姉さんは僕の意図を察して左の裏拳を繰り出してこようとしたので、僕は姉さんの左腕を受け止めれるように掌を裏拳の軌道上で構えた。その結果……。

「おお……っと。ふう、危ない」
 
 僕は姉さんの裏拳を確かに掌で受け止めたけど、衝撃で身体ごと数歩分吹き飛ばされる。きちんと踏ん張ってなかったとはいえ、軽々と吹き飛ばされて僕が少し内心で凹んでたら姉さんが笑った。

「すごいわ。本当にヤートには私の動きがわかってるのね」
「うん、今のところ一歩分くらいの距離が限界だけどね。あ、掌から界気化かいきかした魔力を放つ場合は別だよ。兄さん」

 僕が言いながら首を傾けると、僕の頭があった場所を兄さんの拳が突き抜ける。基本的に正面からの戦いを好む兄さんが僕の死角から攻撃してくるのは、それだけ本気という証拠だね。さりげなく兄さんの動きを知るために、掌を向けて界気化かいきかした魔力を放っておいて良かった。

「マイネ‼︎」
「わかってるわ‼︎」

 兄さんは僕に避けられたとみるや姉さんに呼びかけ、姉さんも兄さんの呼びかけに応えて僕を挟んだ兄さんとは真反対に位置取る。

「オラオラオラオラ‼︎」
「ハアッ‼︎ フンッ‼︎ セイッ‼︎」

 兄さんと姉さんが弾幕を張るように打ち込んできて、その打ち込み方の違いが中々にタチが悪い。兄さんはとにかく手数が多くて、姉さんは当てる事を意識して兄さんの打撃に対応してる僕の隙をつくように打ち込んでくる。とはいえ二人の打撃は、どちらもまともに当たれば僕は耐えれないから必死に避ける。

 ……これ界気化かいきかした魔力を通じて二人の次の動きがわかってるから避けられてるけど、このままで僕の体力と界気化かいきかを保てるのかな? 最悪の場合はラカムタさん達が止めてくれるとは思うけど、それでもそんな事態になる事は自分でも防ぐように努力しないとダメだ……ね‼︎

「何⁉︎」

 僕は数多く打ち込んでくる兄さんの打撃の中から比較的大振りで僕の顔に向かってくる突きを一つ選び、それをしゃがんで避けた後、体勢を戻すと同時に左肘を振り上げて兄さんの突きを下から跳ね上げた。

 思いのほか上手くいき兄さんの体勢を崩して動きを止めれたから、そのまま兄さんに殴りかかる。

「ヤート、甘いわよ‼︎」

 当然姉さんは動いてくるよね。でも、これで僕の狙い通りの展開だ。僕は姉さんが僕に突きを放ってくるのを感じた時に、振り向き攻撃対象を姉さんに変えた。

「えっ⁉︎」

 姉さんは僕の行動が意外だったのか驚いて動きがブレたので、姉さんの突きをかいくぐり姉さんの懐に入って顎を突き上げる。

 ガッ‼︎

 姉さんの顎に良い一撃を打ち込めたけど、姉さんは微動だにせず僕の拳から鈍い音がして痛みが走ったので、僕はとっさに姉さんから離れる。

「受ける体勢がギリギリ間に合って良かった」

 そう言いながら姉さんは、首と顎をさすった。……たぶん、僕の打撃が当たる瞬間に首を固めて歯を食いしばったんだと思う。すごい力技だ。

「……僕が言う事でもないけど無茶したね。姉さん」
「ヤートとの手合わせを続けられるんだから、何も問題ないわ」
「ヤートもマイネも、二人だけで盛り上がるな‼︎ 俺も混ぜろ‼︎」

 兄さんの戦意が高まり、すでに姉さんは構えている。手の状態を同調で確認したら、多少痛みは残ってるもののどこにも異常はないしラカムタさん達から止められる様子もない。よし、手合わせの続行だね。



 しばらくして兄さんと姉さんとの手合わせが終わった。……なんか最後の方は、どうやって兄さんと姉さんに対応しようとか考えずに反射だけで行動してたな。まあ、ちょっと楽しかったし、ところどころで狙い通りの動きができたから鍛錬初日としては良かったはず。

 あとは一連の流れを思い出して反省と確認をするため落ち着ける日陰に移動しようとしたら、リンリーとイリュキンが近づいてくる。何かあったのかなって聞こうとしたけど、それよりも二人の目のギラギラしてる感じで用件に予想がついた。

「ヤート君、次は私達の番という事で良いかな?」
「私もヤート君と手合わせしたいです」

 断れる様子でもないし何というか断るのも違うなって思い、リンリーとイリュキンとも手合わせをした。すると兄さんと姉さんとの手合わせの疲れが残ってた事で、逆により冷静で、より小さく無駄のない動きができたのは意外だったね。

 それとリンリーとイリュキンとの手合わせが終わった後に、ラカムタさんを始めとした大人達から「よくやった。ヤートも男だな」って言われたのはどういう事なんだろう? ……まあ、それはそれとして、いろいろと収穫のある一日になったから良しとしよう。



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◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。

 感想や評価もお待ちしています。
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